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遺してくれた物

 老人と出会ってから数時間経った。

 俺、エレインはリーリアとともに剣神トレドゲーテのところへと向かった。


「エレインか。今日も訓練と行くか?」

「それもいいのだがな。いつになったら攻撃を開始するつもりなんだ?」


 ここに来てずっと思っていたことがあった。

 それは剣神や他の神々の行動を見ているとこれから大きな戦いが起きると思っていないように見えたのだ。

 もちろん神の考えていることを人間である俺が把握できるというわけではないが、それでも違和感を覚えた。


「気になるのか?」

「そうだな。本当に魔族を全滅させたいのか疑問に思っていたところだ」

「ここの城壁は非常に強固で強力だ。魔族を決して立ち入らせることはない。正直なところ、このまま現状維持という方向も悪くはないという判断があってだな」


 確かに彼の言うようにこの城壁内で暮らす分には全く問題ないだろう。魔族に脅かされることもなく、戦うよりかは平和的に過ごすことだってできるはずだ。

 なにせ神の力で作られた壁だ。そんな強力な壁が崩れるとは俺も想像できない。

 何百年魔族の攻撃に耐えているのかはわからないが、白い城壁の美しさを維持している。普通であれば、風化していってもおかしくはないだろう。


「だがな。俺の予感ではそろそろ壁が崩れる頃合いだ。だから、お前たちを呼んだ」

「欠けているわけでもヒビが入っている様子もないが?」

「壁を維持しているのは全ての力を出し切った神の力だ。神の力は膨大で強力、だがいくら膨大といえど、いつか尽きるものだ」


 邪神から湧いて出た負の力で産生され続ける無限の魔族と有限の神の力とではどちらが優勢かは目に見えている。

 あの壁は物体として維持しているわけではなく、神の力で維持しているのだそうだ。

 もし宿っている神の力がなくなったとなれば崩壊が始まるのも時間の問題ということか。


「つまりは早い段階で手を打っておく必要があるというわけか」

「あの壁が崩壊する前にな。それでも神の大多数はこのままの維持を望んでいるのもまた事実だ」

「神なのだろう? 独断で攻撃できないのか」

「できるのだが、もう少しお前の力を増強する必要がある」


 あの老人が言っていたことか。

 武具を作ってくれるそうだが、一体どういったものを作っているのかは全く見当がつかない。

 目に見えて壊れている部分といえば、鉄靴と肩当だ。とは言ってもこれらは使用していく上でかなり負荷のかかるところだ。

 耐久力がいくら高くとも消耗していくことは目に見えている。


「増強するといっても具体的にどうするんだ?」

「そのことなのだが、俺からお前に剣技を教えるのは実力的に無理だな」

「そうには見えない」

「謙遜するな。俺にはわかっている」


 すると、剣神は俺の方へと近づいて手をかざした。


「エレイン様っ」


 リーリアが前に出ようとするが、一歩遅かったようで彼の指から光の光線のようなものが放たれた。


 カシャンッ!


 その光線は学院から支給されていた防具を破壊した。


「そのような武具では邪神に勝てるわけがない」

「気付いていたのか」

「人間の中ではかなり質が高い方だろうだが、それでも神と戦うには弱過ぎるものだ」


 正直、武具の限界は魔族と戦い続けた時に感じていた。

 この武具は俺の動きについていけない。服は十分伸縮性があり、そして通気性もある。

 しかし、肩当や脛当、鉄靴などは素材が重要になってくる。

 ほとんどを金属で作られているそれらの防具は重い上に俺の動きに耐えられるような代物ではない。

 学院が支給する制服で完璧と言えるのは布地の部分だけだ。


「そうだな。このままでは武具の限界が俺の限界だ」

「……エレイン様、今まで手加減をされていたということですか?」


 リーリアが目を丸くして質問してきた。


「わかっていたと思っていたのだがな」

「相手の精神を読み取ることができるとはいえ、流石にその人の限界までわかるというわけではございません」


 精神状態を分析するというだけで実力がどれほどのものなのかはわからないということか。

 俺もリーリアの持っている魔剣について知らないことが多いな。


「もし、その武具が神の作るものだったらどうだ? お前の力はもっと発揮できるはずだ」

「そうかもしれないが、いくら素材がいいと言っても金属だ。金属にはそれ特有の問題がある」


 まず一つに重さだ。材質によっては軽いものもあるが、一般的に言えば軽い金属は破損しやすい。

 そして、何よりも変形しないということだ。強固な金属にすれば、俺の動きに合わせてくれるわけがない。

 重さに関しては慣れれば問題ないにしろ、俺の体に合った動きをしてくれないと意味はない。


「確かにそうなのかもな。だが、あの鍛治の神なら問題ないだろう。お前に合う防具を作ってくれるはずだ」


  どちらにしろ作ってくれるのは神なのだ。

 それ相応のものができていることを期待するしかないか。

 そんなことを考えていると俺たちの会話に一人の神が話しかけてきた。


「ここにおられたのですね。エレイン殿」


 この神とは初めて会うが、どうやら俺に用があるようだ。


「何か用か?」

「鍛治の神トーレスが作り上げた最後の武具をお渡ししに来ました」

「……あいつ、最後になるなんて言っていなかったのにな」

「どういうことだ?」


 まさか、俺の防具を作るためだけに全ての力を尽くしたというのだろうか。


「トーレス殿は非常に楽しんでおられました。力の限界と知りながらも彼は作り上げたのです。どうか受け取ってください」


 そう言って目の前の神は神聖そうな木箱を俺に手渡した。

 その木箱を持ってみると非常に軽かった。防具が中に入っているのか分からないほどに。


「開けてみてください」

「ああ」


 俺は言われたようにその木箱を開けた。

 中にはいくつか服などが入っていて、今着ている学院の制服とは少し違うデザインをしている。まず一番に目に入ったのはトレンチコートだ。

 制服と同じく黒を基調としているが、黒一色というわけではない。所々白いラインが施されており、それらは体の輪郭に沿って引かれている。

 何よりも今持っているのがコートだというのにあまりにも軽いのだ。

 そして、そのコートに取り付けられるような肩当がある。どうやらこの肩当は簡単な金具で取り付けられるもののようで他にも流用することができそうだ。

 さらに鉄靴と呼ばれるものもあった。

 今のものは学院支給の簡素なもので重たい上に可動域もいいわけではない。しかし、これがなければ不便でもある。鉄靴には防御の他に足を踏み込む時などに有効なのだ。


「これはすごいな」


 全ての品は最高以上の品質を持っている。

 もちろん神が作ったのだから当然のことだろう。

 刃を通さないトレンチコート、軽く可動域の広い肩当や鉄靴とそれに似合うように設計された服には天界の聖なる素材が使われているようだ。


「天界の素材を使ったのか。まぁいいだろう。無理やりここに連れてきたわけだからな」

「トーレス殿は自分で渡したいと言っておられましたが、もう立ち上がることもできず、消えていきました。どうか、その防具をお使いになってください」

「ここまで最高のものを作ってくれたのだ。大切に使う」

「エレイン様、お着替えになられますか?」


 それからリーリアの期待の目に応えるように俺は受け取った防具や服に着替え始めた。

 まず、服だけでも非常にすごいとわかる。

 どうやら制服のデザインに寄せて作られているようで、コートや防具以外は下界でもありそうなもののように見える。しかし、実際に服を着てみると肌触りが非常に良く、布とは思えないほどに強靭な生地をしている。

 コートなどがなくともこれだけでそれなりの防御力があることだろう。

 後から聞いた話なのだが、天界の素材には修復作用があるようで傷ついたとしても時間と共に修復していくとのことだ。

 聖剣の自己修復のようなものらしい。


『……ご主人様、よくお似合いですっ』


 剣の中からクロノスが話しかけてくる。


「あの老人には感謝しないとな。ここまでのものを作ってくれたのだ。俺とて頑張らなければいけないな」

『ご主人様の実力に見合った良いものを持つというのは大事なことです』

「確かに重要だな」


 そんなことを話していると、扉がノックされる。

 どうやらリーリアが早く見たいと思っているのだろう。


「エレイン様、大丈夫ですか?」

「ああ、今から出るところだ」

「……わ、私が開けます」


 すると、彼女はゆっくりと扉を開いた。そして顔だけをひょこっと出して俺の服を確認し始める。


「な、なるほど……」

「何か変か?」

「い、いえ、なんでもありません。とても似合っていますっ」


 見惚れていたのか彼女は目をまん丸にして頬を赤くしている。

 俺は剣を装備して部屋を出ようと扉に近づくとリーリアがじっと見つめてくる。


「外に出たいのだが」

「あ、すみませんっ」


 さっと彼女は恥ずかしそうに避けると扉を開けてくれた。

こんにちは、結坂有です。


今回も遅くなってしまいましたが、読んでいただきありがとうございます。


エレインが受け取った防具はとても良さそうなものでしたね。

彼に見合った代物のようでよかったです。

いったい彼はどれだけ強くなっていくのでしょうか。気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



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