戦いを超えた先へ
私、セシルは怪我人の治療を手伝っていた。
多くの兵士は切り傷や打撲などであったが、一部の兵士は腕が失っていたり足がちぎれてしまったりしていた。
そんな兵士たちは敵に対してただの魔族ではないと口を揃えて言う。
魔族の中にはゴースト型やゴーレム型など種類が数多くある。それでも普通の魔族ではないとはどういうことなのだろうか。
「お、俺の治療はいらない! お前ら、ここから逃げてくれっ!」
発狂して治療を拒む兵士が何人もいる。
どういうことだろうか。私たちには聖剣がある。魔族に立ち向かう力がある。それなのに逃げた方がいいとはどういう意味だろうか。
「奴らは魔族なんてもんじゃねぇ! 悪魔なんだっ」
「落ち着いてくださいっ」
「お前たちは知らないんだっ。俺たちに悪魔は倒せないんだよ!」
私は彼の言っていることがわからない。
聖剣があれば魔族を倒すことができるはずだ。聖剣で倒せない魔族でもいるのだろうか。
「あれはどういう意味なの?」
私は治療を終えてベッドで休んでいる兵士の一人に聞いてみることにした。
彼も前線で戦った一人だ。事情はある程度知っているはずだろう。
「……あまり言いたくはねぇが、敵の力が強大でまともに戦えたもんじゃねぇ」
「魔族はただでさえ強いのよ? それ以上に強いの?」
「今までの魔族とは比べ物にならねぇぐらいだ。まるで聖剣使いと戦ってるみたいだったからな」
「どういうこと?」
「わからねぇよ」
魔族が聖剣を使っている? そんなことは聞いたことがない。
新しい種の魔族なのだろうか。それとも元々いたが、攻め込んで来ていなかっただけなのだろうか。
どちらにしても今までとは違うということは確かなようだ。
「聖剣使いみたいだってことは何か能力でもあるわけ?」
リンネがそう加えて質問した。
「能力なんてもんじゃねぇ。ありゃもう魔法だ。ありえない力だぜ」
「どんな化け物なのよ」
「俺たちにもわからねぇ」
とんでもない魔族がいるというのは間違いないようだ。
しかし、私たちとて聖剣使い同士で戦い合って切磋琢磨している。
「数もとんでもねぇが、力も強力だからな。俺たちでも無理だ」
どれほどのものなのかはわからないが、私たちが戦える相手なのだろうか。でもこの国を守ると誓った。そのために学院に入学したのだ。怖がる理由などはどこにもない。
「リンネ、アレイ。今回の魔族は今までとはどうやら違うみたいよ」
「それは聞いててそうなのかもしれないね」
「ここまで来たからね。戦わないわけがないでしょ」
そう二人は戦う気満々でいるようだ。
リンネとアレイは剣術評価が低いとはいえ、実戦ではかなり強いと評判だ。
聖剣使い相手でも苦戦するような彼女たちの剣術であれば、強い魔族だろうとおそらく大丈夫なのかもしれない。
私も聖剣使いとしてはかなり強い方だと自負しているから頑張れるはずだ。
「後で来る他の生徒たちもいるからね。戦える人は多い方がいいわね」
「うん、怖がらずにここまでくる人ってことは実力の高い人ってことだからね」
正直、今から激しい戦場である前線に行こうとしているのだ。それを承知の上でここまでやってくるほどのは実力があると自信がある生徒たちだろう。
十分にやる気に満ちているはずだ。
「お前たち以外にも生徒が来るのか?」
「来ると思うわ」
「……正直に言うが、十数人生徒が来たところで戦況が良くなるとは思わねぇ。このまま時間稼ぎできればいいところだろうな」
「違うわ。ここで勝つの。勝つために私たちが来たのだから」
私がそう言ってみるが、怪我をした兵士は口角を上げて少し嬉しそうに笑った。
「できるといいな」
そういった彼の目は諦めている目ではなかった。片足を失っている彼ではあるが、まだ闘志は砕けていないようだ。
それから私たちは治療を続けた後、態勢を整えるために防壁の内側へと動ける兵士たちが集まった。
先ほどからずっと戦ってくれている大騎士の限界が来ているのだそうだ。
確かに私たちが来る前から戦っていたとしたら軽く一時間以上は戦っているのは間違いない。
「いいか。大騎士様のおかげで魔族の数はだいぶ減ったと聞いているが、まだまだ魔族の攻撃は収まる気配がないっ」
まるで地獄のような戦場を作り上げていた大騎士の力だが、それでも魔族の数は圧倒的でまだ攻撃が止まない。
本気でエルラトラムを攻め落とそうとしているのは目に見えてわかる。
「だが、勝機はある。聖剣の力を信じて戦って欲しい」
そう隊長がそう言った直後、フィンが他の生徒たちを連れて応援に来てくれた。
「俺たちも参戦するぜっ!」
「が、学院生の人が増援として来てくれたようですっ」
兵士の一人が彼らを案内してきた。
何人来ているのかはわからないが、十人を超える数の生徒がここにきているのは見ればすぐにわかった。
「……そうか。学生の人たちは俺について来い。では、それぞれの配置について魔族を退けろ!」
「「おー!」」
兵士たちが雄叫びをあげた。
その迫力は学生の私たちが経験したことのないようなもので、兵士である彼らがどのような気持ちで戦場に立っているのか、どのような決意で剣を握っているのかが声の振動という形で表れていた。
そして、私たちとフィンたちは先ほど兵士たちに声をかけていた隊長のところへと集まると、すぐに私たちが配置される場所が決まった。
「君たち学院生はまだ現場での経験が少ない。だから、第二陣として前線の援護を頼みたい」
「わかったわ」
「へっ、すぐにでも戦えるぜ」
「いい意気込みだが、正直今の状況では前線を維持できるのは数時間が限界だろうな」
彼の言うようにたった十数人増えたところで戦況に大きな変化はない。
いくら頑張れたとしてもそれぐらいしか戦果は上げられない。
「だが、時間を稼ぐことは重要なことではある。外国へと遠征している聖騎士団がもし戻ってくるのであればな」
「……今のところ連絡は?」
「ない。俺たちはただやるべきことはやる。それだけだ」
聖騎士団の本隊が戻ってくるのかどうかはわからないが、死力を尽くしてこの国を守るということは変わりない。
私たちがすることはただ一つ、魔族と戦い続けることなのだ。
こんにちは、結坂有です。
これから激戦となるようです。
学院生たちはどう戦うのか、聖騎士団は果たして戻ってくるのか。
気になることばかりですね。
それでは次回もお楽しみに。
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