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小さき盾の役割

 僕、アレクは一人の魔族と戦った後、周囲を警戒していた。

 とは言っても魔の気配が消えたから警戒する必要もないのだ。そんなことを考えているとまた空が光り輝き始めた。

 その禍々しい光はここに来る前にも起きていた。

 二回目が起きるということは普通ではない。一回目でも異常事態なのだ。一体何が起きているの言うのだろうか。

 僕は近くに誰もいないことを気配や空気の流れなどで確認した後、すぐに第二防壁南門まで行くことにした。


 南門の前に行くとちょうどレイも僕が来た逆の方向から戻ってきた。

 少しだけ怪我をしているようではあるが、彼にとってはどうということはないだろう。


「アレクか。ミリシアはどうしたんだ?」

「僕もちょうどここに来たばかりでね。彼女とは……」


 すると、門からまっすぐ伸びた道からミリシアが現れた。

 誰かを肩で支えてこちらに向かってきている。

 彼女を見た途端、レイはすぐに走り出した。僕もミリシアの方へと向かう。


「フィレスっ、大丈夫なのか?」

「……ええ、大丈夫よ」


 ミリシアが連れてきた女性はレイを保護してくれた人だ。

 エルラトラムの隣国であるパベリ出身の剣士のようだが、どういった人なのかは詳しく知らない。


「俺の知らねぇところで何してんだよ」

「ちょっと、ミスっただけだから」

「へっ、ミスっただけじゃねぇだろ」


 そう言いながらレイはフィレスを抱き上げようとした。

 彼女の状態では歩くのも一苦労だろう。いわゆるお姫様だっこという形で抱き上げる。


「ひゃっ」

「心配すんな。すぐに連れて行ってやるからよ。ミリシア、アレク。ちょっと行ってくるから待ってろよ」


 すると、彼は一気に第二防壁内側へと向かっていった。

 あの速度なら内側の治療室まで二分弱で着くことだろう。


「……アレク、あの光って何かが起きてるってことよね」

「そのようだけど、僕は行かない方がいいと思う」

「どうして? ずっと疑問だったけど」


 アレイシアの言ったように僕たち小さき盾を第二防壁に配置するということは僕たちの力をより高める配置である。

 もちろん、持久戦になってしまうことは間違いないのだが、第一防壁で半数以上の魔族を削ってくれれば大丈夫だ。あとは僕たちが全力を出し切って第二防壁を維持するだけだからだ。


「僕たちがうまく連携し、防壁を維持することができるのはこれぐらいの大きさが限界かな」

「三人、だから?」

「それもあるね。でも一番大きな理由は僕たちだって疲弊しているってことだよ」

「……私たちの状態を見た上でそう判断したってことなのね」


 別に保身に走ったというわけではない。

 僕たちは連日戦ってばかりだ。もちろん、地下施設で過酷な訓練を受けてきたからと言っても無限の体力を得たわけではない。

 少しでも体力を温存しておく方が後々有利になってくる。


「そうだね」


 僕はそれ以上の理由をミリシアには伝えなかった。

 僕がこの第二防壁の配置で了承したもう一つの理由はあの状況でアレイシアの提案を拒否すればどうなるかわからなかったからだ。

 アレイシアは僕たちを守るためにと奮闘してくれている。それに関してはとてもありがたいことなのだが、それゆえに自由がないというのもまた事実。

 実際に小さき盾の出動には許可がいるのだ。

 第二防壁での配置を許してくれただけでも十分過ぎるだろう。

 僕たち小さき盾の役割は『内なる脅威から議会を守る』ということ、この国の全体の防衛は四大騎士や他の兵士たちに任せる方がいいのだ。


   ◆◆◆


 私、セシルは急いで議会から第一防壁へと向かっていた。

 フィンは学院の寮へと向かってこの脅威に戦える人を探してくると言ってくれた。現在学院生でもこの脅威に立ち向かうことは議長のアレイシアから許可されている。

 一人でも多くの増援が集まれば、前線は維持できるはずだ。


「セシルっ、これから前線に行くのよね?」

「ええ、私はこの国を守ると学院に入ったわ。国難の時くらい何か役に立ちたいのよ」


 私はそう断言する。

 その言葉に嘘偽りはない。副団長だった父の背中を追い、そして追い抜きたい。

 だからこうして真っ直ぐに、迷いのない走りができる。自分に自信があれば手足は自然と軽くなり、動きが俊敏になる。


「……私は今まで流派の存続を考えてきた。でも、エレインやセシルを見ていてそれだけじゃダメだって気づいた」

「そうね。私たちの流派がエルラトラム最強だってこと、もう一度証明して見せるわ」


 アレイの言葉に釣られるようにリンネも言った。確かに彼女たちが受け継いでいる流派は現存するエルラトラム最古の剣術、強かったからこそ今も残っているということだ。今は分派が多くなり様々な剣術へと派生して行った。

 だが、その派生は剣術評価を上げるためのもので実戦を意識したものではないように思える。

 そう私の父が言っていたのを思い出した。

 つまりは魔族との戦いで生まれた彼女の、彼女たちの流派がまだ最強だということだ。


「だったら、もう迷いはないわね。このまま門を出ましょうっ」


 そう勢いよく第二防壁の門へと走る。


「え?」


 その門に近づくと女性を抱えた一人の男性と接触した。


「エレインのパートナーだったな?」

「……ええ、そうだけど」


 彼は小さき盾でエレインの友人のレイだ。

 実力としてはよくわからないが、エレインが強いというぐらいだ。高い実力を持っているということは言うまでもない。


「ちょうどいいところに来たな。ミリシアとアレクが門の外にいるんだが、頼めるか?」

「えっと、何を?」

「何をってお前ら増援として来たんだろ? やることは決まってるはずだぜ」

「……分かったわ。任せて」

「へっ、俺もフィレスを治療させたらすぐに前線に行くからよっ」


 そう言って彼はフィレスと言う女性を抱えたまま急足で奥の施設へと向かった。


「あの人って?」

「エレインの友人みたいよ」

「友人ってだけで強いのは確定ね」


 それから第二防壁南門を抜けると、少し進んだところに二人の男女がいた。

 ミリシアとアレク、彼女たちもエレインの友人でとても強いのだそうだ。


「ん? セシル?」

「そうよ。ここで何をしているの?」

「魔族の奇襲部隊を倒したばかりよ」


 ということはここまで魔族が来ていたということなのだろうか。

 ただ、それにしては魔の気配が薄いような気がする。


「魔族はここにはいないのかしら」

「そうだね。あの奇襲部隊は忍び込んだ部隊だったみたいだね。本隊は第一防壁の方でまだ戦っていると思うよ」


 そうアレクが言う。

 光り輝いた場所は今も淡くだが光っている。まだ戦っているということだろう。


「あなたたちは行かないの?」

「僕たちは第二防壁に配属されたんだ。前線に行くつもりはないよ」

「……それでいいの?」

「色々考えた結果、ここにいるのよ。前線に行くのならこの道をまっすぐに突き進むだけ」


 どういった状況なのかはわからないが、小さき盾という部隊がこんなところで待機しているのは間違っていると思う。

 理由はどうであれ、国を守る存在の彼らがどうしてこんなところで待っているのだろうか。


「小さき盾だったら一番早く前線に立ち、魔族を追い返す。そうじゃないの?」

「……」

「小さき盾という部隊は許可がないと動けない。それは知っているけれど、本当にそれだけでいいのかしら?」

「その考えはよくわかるわ。でも、私たちにも考えがあるの。今は一緒に行けないわ」


 ミリシアがそう呟くように言った。

 何か考えがあるのなら彼女たちを信じるしかない。私たちができることは前線の維持だけ、私たちは私たちの仕事をするだけだ。


「アレイ、リンネ。行きましょう」

「ええ」

「うん」


 それから私たちは第一防壁へと向かった。

 この闇夜の中、淡く光り輝いている場所へと必死に走る。私たちでも魔族と戦えるとそう信じて。

こんにちは、結坂有です。


小さき盾、今後どういったことをしようとしているのでしょうか。

そして、セシルたちが前線の維持ができるのでしょうか。気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



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