カインのやきもき
エレインの部屋での情事を止めた私、カインはそのまま自分の部屋へと戻った。
あのまま声を聞いて楽しむということもできたのだが、どうしても体が動いてしまったのだ。
なぜかはわからない。ただ自然と体が動き出していた。
「はぁ」
自分のベッドにゆっくりと座った。
エレインのことはティリアが気にかけていたということからどういう人物なのか興味が湧いていた。
その興味がいつの間にか、別の感情に変わりつつあるということは自分でも感じている。
彼のメイドであるリーリアの邪魔をするのは本当は間違っているのかもしれない。でもこんな場所でイチャイチャするのは良くはないだろう。
自分の家でならまだしも、天界の神が住む城だ。何も間違っていないはず。
「ちょっといいか」
「ひゃっ! ま、待ってて」
そんなことを考えていると扉をノックしてエレインが話しかけてきた。
確かに今思い返してみれば私の部屋に来てもいいとは言った。
だが、こんなにも早く来るのだろうか? いや、別の可能性だって考えられる。エレインが私のことが好きって可能性もないわけではない。
いやいや、なんで今そんなこと考えているんだろ。
「無理そうなら大丈夫だが……」
兎にも角にもエレインが私の部屋に用があるというのには変わりない。どういった内容なのかは直接会ってみればいいものだ。
「いいよ。ちょっと散らかってただけだからっ」
私はさっとベッドから起き上がり、扉を開けた。そこには振り返って自分の部屋へと戻ろうとしていたエレインがいた。
「……ここに来て二日しか経っていないのに散らかっていたのか?」
「な、なんでもいいでしょ? それで、なんのようなの?」
そのことを聞いてみると心臓の鼓動が速くなっていくのが分かる。少しだけ鬱陶しさを感じながらも私は扉を大きく開いた。
「ああ、リーリアが俺のベッドを占領していてな」
待って待って、私の部屋で寝ようというのだろうか。私の心の準備はまだできていないのに少し強引過ぎる気がするが……。というか、そんなこと彼は思っていないはずだ。私のことなんてただの治療士にしか見ていない。絶対そうだ、そうに違いない。
「……それで私と一緒に寝ようってのね。べ、別にいいけど、狭いわよ?」
「いや、ベッドは使わない。そこの椅子で寝るつもりだ」
「そ、そうなのね。だったらまぁ、全く問題ないわけだけど」
椅子ってあの石でできたもののことだろうか。
まともなクッションがあるわけでもないあの椅子で質の高い睡眠が取れるはずがない。この温かいベッドの方がいいはずだ。
「問題あるわね。ベッドで寝ても……」
「ん?」
そういえば、替えのシーツなのがあるわけでもない。あのベッドには私の匂いが残っているはずだ。
最初に寝転んだ時は全く無臭だったのだが、一晩で人の匂いは付くものだ。
色々と考えていると耳元が熱くなっていく。
「顔が赤いが、大丈夫なのか?」
「そ、そういえばエレインの部屋に椅子はないの? そこで寝ればいいのに……」
よくよく考えてみればわざわざ私の部屋で寝る必要があるのだろうか。
ここと同じような作りなのであれば椅子でもありそうなものだ。
「俺の部屋は一番狭い場所であるのはベッドと小さな机だけだ。もちろん机の上で寝るということも可能ではあるな。厳しいようであれば、机で寝ようと思う」
確かにエレインの部屋に一瞬入った時には椅子のようなものがあるわけでもなかったし、部屋に入ってすぐ横にあった机はとてもじゃないが人が寝れるようなものではない。
「……わかったわよ。とりあえず、私のベッドで寝てもいいわよ」
「ああ、すまないな」
そう言って彼を私の部屋へと入れた。
彼が私の横にいるだけで彼の匂いが伝わってくる。お風呂に浸かっていたために不快な匂いではないが、彼自身の心地よい匂いが私の本能へと何かを訴えかけてくる。
「……」
「気まずいか?」
「別にエレインのことを考えているわけじゃないからね?」
もちろん、それは嘘ではある。でも、それを言っておかないとエレインに変な気を持たせてしまいそうだからだ。
「いや、本当にベッドに入っていいのか?」
「な、何も気にしなくていいから」
「顔が赤い。しんどいなら柔らかいベッドの方が休めるが……」
「体調が悪いわけじゃないわよ。ただ、ちょっとねっ」
そうはぐらかしてみるが、エレインは首を傾げて不思議そうな目で私の方を見つめてくる。
なんだろう。変な人と思われているのだろうか。
「まぁ本当にベッドで寝ていいなら嬉しいのだがな」
「嬉しいのならよかったわ」
とりあえず、一安心と言ったところだろう。
こんな彼と肌が触れるような距離で一緒に寝るなんてそんなのは不可能だ。
あのリーリアのように理性が飛んでしまうことだってあり得るだろう。だってこんなにも魅力的な人だとこっちの身も持たない。
そんな私の視線を気にしてかは知らないが、エレインはゆっくりと私のベッドへと入った。
今の彼が私の匂いをどう思っているのかはわからない。ただ、私には悶々とした時間が朝まで続いたのは言うまでもないだろう。
◆◆◆
剣神である俺、トレドゲーテはエレインたちが寝た後も城の中を警備していた。
いくら城壁が強固で完璧なものであったとしても何かが侵入してくることだってあるかもしれないからだ。
まぁここ数百年は魔族が潜入してきたということは記憶にないのだがな。
「剣神よ」
「なんだ」
そう俺を呼び止めたのは俺の武器や防具を作ってくれた鍛冶の神トーレスだ。
鍛治といっても武器を作るだけではない。防具など金属を使って作るものであればなんでも作れるのだ。
「あのエレインという人間は才能があんのか?」
「そうだな。人間だった頃の俺よりは強い」
「へへっ、それは将来有望だなっ」
そう言ってトーレスは大きく笑った。
一体何がしたいのだろうか。
「それがどうかしたのか?」
「展望台から見てたんだ。そのエレインって人間が魔族と戦ってんのをな」
「そうか」
「それで、一つ聞きてぇことがあんだけどよ」
すると、彼は俺に耳打ちをしてきた。
何かやましいことでもしようと言うのだろうか。まぁ神である俺たちは何も縛られるものがないからな。
ただ、天界から下界に降りるのには面倒なことをしなければいけないが、基本的には自由だ。
「今のあいつに足りねぇものってなんだ?」
「足りないものか」
エレインに足りないものはほとんどない。
剣の腕は十分過ぎるほどに高く、そして思考の回転においてもかなり速い。正直、そういった実力だけで言えば俺を凌駕しているとも言えるかもしれない。
「強いて言うなら、彼の実力に見合った装備といったところだな」
「ほう。彼自身に足りないものはない、そう言いたいのか?」
「下界で生き抜くには十分な実力を持っているからな」
「しかしよ。下界の魔族はここにいる奴らよりも強いって聞くが?」
下界の魔族はここにいる魔族とは比べ物にならないほどに強力だ。とは言っても数には限りがあるのもまた事実。
今のエレインには数百体、数千体と一度に戦わせたとしても生き残り殲滅する実力を持っている。
さらに彼の持っている聖剣や神として歓迎したくはないが魔剣の力も使えばなんの問題もないはずだ。
「まぁ彼なら全く問題はない。ただ、人間の作る防具なんかでは彼の力は発揮できないだろうな」
「つまりは?」
「ふっ、お前が作りたがっているのは見え見えだ」
「そうかよ。じゃエレインのために最高の防具でも作るとしようか」
すると、彼はそう言って倉庫の方へと向かった。
無理矢理天界に連れてきたわけだしな。何も手土産がないのも彼は納得しないことだろう。
ま、俺と性格が似ているのだとしたらそんなこと考えすらしないだろうがな。
こんにちは、結坂有です。
確かにエレインの魅力は高いのかもしれませんね。
とは言ってもアレクやレイも魅力的です。
そして、神が作るエレインの装備もまた気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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