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神の力

 城壁の外で天界に住まう魔族と戦ってみたのだが、どれもそこまで強くはなかった。

 俺たちの知っている下界での魔族はもう少し考えて行動していたように見える。しかし、天界での魔族は本能で動いているのか、動きが単調過ぎる。

 やはり負の力だけで生まれた魔族は思考を持っていないのかもしれないな。

 それから城壁へと向かい、城の中へと入る。

 すると、そこには剣神とカインが話していた。


「無数にいる魔族って言っても簡単な命令しか理解できないのね」

「ああ、だから数はそこまで問題ではない。問題なのは無限に増え続けることにある」


 どうやらこの天界の魔族が弱いということを話していたのだろう。

 確かにあのような魔族であれば数などそこまで問題ではないはずだ。剣神の持つ光の力で一掃できるはずだ。

 しかし、神の力とて無限ではない。たとえ、一〇〇億もの魔族を一気に倒したとて、また二〇〇億もの魔族が復活するのであれば無意味なのだ。


「それで無限の根源である邪神を倒そうとしているのだな」

「そういうことだ。お前たちもその目で見てきたのだろう?」

「確かに下界の魔族とは比べ物にならないぐらいに弱いものだ」

「弱過ぎるっていうのは?」


 俺の言葉に疑問を持ったのかカインが質問してきた。


「下界の魔族はもう少し考えて行動する。だが、天界の魔族の動きにそういった思考による行動は見られなかった」

「……その言葉、目の前の剣神が言うのならいいけど人間のエレインが言うのはちょっとね」

「ふっ、あの程度の差であれば人間であれ誰でもわかるだろう」

「それほどに弱いってことなのね」


 俺の横にいるリーリアも魔族の弱さに気付いたのだ。カインも普通の聖剣を持って魔族と戦えばきっとわかるはずだ。


「ところでエレイン、俺と戦ってみるか?」


 すると、剣神はそう言って俺の方を向いた。

 神と戦うのは流石の俺でも不可能だと思うのだが、彼はどうしてそう言ったのだろうか。


「そう警戒するな。俺とて神の身、そんな理不尽な勝負などするわけがないだろ」

「つまりは神の力を使わないということか?」

「当然だ。正々堂々、剣の技で戦おうと思う」


 実力だけで戦うというのだろうか。神の力を人間である俺に使うのはどう考えても不公平だからな。

 それなら少しぐらいの力試しにはなるのかもしれない。


「ああ、それなら問題ないだろう」

「……エレイン様、相手は神です。どういった技を仕掛けてくるのかわかりませ」

「流石に俺を殺すようなことはしないだろう。少しでも戦力を蓄えたい神にとって俺を殺せばなんの得にもならないからな」

「そこまで信用されていないか。まぁ良い。その従者の言うように俺は神であろうと容赦はしないのかもな」


 そうは言っているが、剣神は普通に実戦形式で俺と戦いたいだけなのだろう。

 別に断ってもいいとはいえ、神と戦う機会などいつ来るのかはわからないからな。たとえ負けたとしても得られる何かはあるはずだ。


「わかった。少しは力試しにはなるかもしれないしな」

「ふっ、そうだろうな」


 俺がそう言った直後、リーリアは不安そうな表情をしていた。

 しかし、致命傷を受けたとしてもすぐにカインの聖剣で治療すれば後遺症なく完治することだろう。

 それから俺は城の中で一番広い場所へと移動した。

 ここは広場として使われていたのだが、今となっては剣神が日々の訓練のために改築されたのだそうだ。そのために床は平らに整えられている。


「いつもはここで訓練をしているのか?」

「ああ、ここで昔に習った形を一人稽古している。といっても何百年も前の話だからな。間違った方法で訓練しているかもしれないが」


 神の力を使わない訓練でもしていたのだろう。

 確かに神の力といえど、無限に力が湧いてくるわけではない。力が枯渇した状態でもある程度戦えるようにしなければいけないのは当然だ。


「間違っていたとしてもしっかりと本質を掴んでいれば全く問題はない」

「そうなのかもな」


 すると、彼は木剣を手にとって軽く振った。

 ブォンッと強烈な風切り音が聞こえると同時にその剣閃が光ったように見えた。正確に刃筋を立てられている証拠だ。


「さて、早速始めるとするか。戦場では待ってくれないのだからな」

「ああ」


 俺も彼と同じ型の木剣を手に取る。

 手に持ってみると下界で一般的なものよりも若干軽いものに感じる。しかし、それでも木材の密度が高く、訓練用としては十分な強度を持っているのは持っただけで分かった。


「天界の木剣は質がいい。まぁ当然なのかもしれないがな。俺も最初天界に来たときは驚いたものだ」

「材料がいいのだろうな。それに職人の腕もかなりのものだ。まぁ神が作ったのなら当然か」


 最高の素材で腕の良い職人が作り上げれば最高の逸品ができることだろう。もちろん、これはただの木剣なのには間違いないが、かなり質が高いというのはすぐにわかった。


「そうだな。では、早速始めるとするか」


 そう言って剣神はゆっくりと剣を構え始める。

 俺もそれに合わせて基本的な構えを取ってみた。


「……お前ほどでも構えを取るのだな」

「普段は取らないのだが、訓練なのだから体裁を取ってみただけだ」

「そうか。なら先に行かせてもらうっ」


 すると、彼は地面を勢いよく蹴り凄まじい速度で迫ってくる。

 しかしそれは人間でも可能な程の速度で以前のように光の速度というわけではない。


「ふっ」


 ただ、人間の最高速度とも言えるその突撃を受け切るのはかなり難しい。


 ガシャッ!


 勢いよく木剣同士がぶつかる。

 力を受け流すといった小技を挟んでいるほど余裕がないのだ。


「はっ」


 受け切られたのを見越して剣神が姿勢を一気に低くする。

 俺はほんの一瞬だけ反応に遅れるが、なんとかそれに対して防御姿勢を取ることにした。

 バスッバスッと剣神の熾烈な攻撃が襲いかかってくる。

 今までに経験したことのないその剣撃に若干ながら押され始めている。今の状況は誰が見ても俺が劣勢のように見えるだろうな。


「これまでか?」

「どうだろうな」


 俺はまだ自分の限界を知らない。

 それであれば思う存分、力を振るえばいい。

 相手は神だ。もはや俺も手加減をしている場合ではない。


「はっ!」


 彼が息を吐くと同時に瞬間的に空中へと飛び上がる。

 上方からの攻撃は体重が乗っているため、受け止めることは難しい。それであれば受け流せばいい。

 これほどの速度の剣撃を受け流す経験はないが、やってみる価値はあるだろう。


「ふっ」


 刃と刃をうまく噛み合わせ、相手の剣を横に逃がすような感覚でその攻撃を受け流す。

 ジュォンっと木剣から重たい低音が鳴ると同時に白煙が立ち上がる。


「くっ!」


 焦げ臭い匂いの中、俺は体勢をひねりながら相手の剣撃を躱し、一気に低い位置へと体を丸めた。


「ほう」


 剣撃が外れた剣神の背後へと一瞬に回り込み、強烈な一撃を彼に与えた。


 ガシッ!


 しかし、その一撃は彼の体には届かず、寸前で彼の木剣に止められていた。


「なるほど、確かに強いな。だが、これまでだな」

「っ!」


 剣神は俺の剣をうまく絡ませて上空へと巻き上げた。

 凄まじい勢いで木剣は俺の手から離れていくその刹那、彼の剣先が俺の喉元へと向けられていた。


「……エレイン様っ」

「大丈夫だ」


 広場の端で見守っていたリーリアが一気に駆け寄ってくる。


「やはり神などとは信用できません」

「……ふむ、従者ばかりと油断していたが、あの攻撃を見切れるほどとはな」

「背後からの攻撃、光の力を使ったのか?」

「ああ、そうだ」


 剣技だけで見ればほとんど互角だったと言える。あのまま続けていれば終わりはなかっただろうからな。


「数百もの魔族と戦った後だというのにまだここまで動けるのはすごいとしか言えないな」

「まぁ別にいいのだがな。俺の知らない攻撃も見れたことだ」


 無数に飛び交ってくる剣撃はアレクのそれとは全く別次元のものであった。その経験ができただけでも十分だ。

 すると、リーリアは少しだけむっとした表情で剣神の方へと向いた。


「今度、エレイン様と戦う時は正々堂々技だけで戦ってください」

「ふむ、そうしたいところだな」

「そうしてくださいっ」


 キリッとした目で彼を睨みつける彼女は今まで見たことがなかった。

 そんな様子をカインはただ口を開けて呆然と見ていたのであった。

 まぁ神の戦いをこんな間近で見れるなんて普通ではあり得ないことだからな。彼女とて少しは勉強になったのかもしれないな。

こんにちは、結坂有です。


これからも激しい戦いは続きそうです。

それにしても神と互角に戦えるエレインは一体何者なのでしょうか。

この先のエレインの成長も気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



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