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成果の先

 朝の練習を終えた俺たちは訓練場を出る。

 外にはリーリアが待っていてくれた。


「お疲れ様です。ご主人様」


 椅子に座っていた彼女は俺たちが出てくると同時に立ち上がりそう言った。


「疲れるほどでもない」

「疲れていないと思っているだけですよ」


 そうリーリアは微笑を浮かべながら答えた。


「仲がいいのね」

「いつものことだ」


 そうして、俺たちは教室へ向かった。


 今日の授業もこの国の歴史などが主体でなかなか面白いものであった。

 剣術がどのように変化してきたのか、興味深い内容だ。

 そんなこんなで気付けば放課後となっていた。

 すると、リンネが話しかけてきた。


「エレインってこう言った歴史とか好きなのよね」

「興味があると言ったところだ」

「へえー」


 彼女はそう吐息を漏らしながら、机に肘をつく。


「どうかしたのか」

「私たち、気が合いそうだなって」

「気が合うかどうかは付き合ってみないとわからない」

「へっ?!」


 俺がそういうとリンネは顔を赤くして驚いた。

 どうやら勘違いさせてしまったようだな。


「すまない。友達としてだ」

「そ、そうだよね。そうそう……」


 少し申し訳ないことをしてしまったな。

 リンネは赤くなった頬を覚ますように両手で煽っている。


「俺はこれからミーナと訓練だ。リンネたちもそうなのだろう」

「うん。じゃまたね。明日が模擬戦だからね」


 俺に手を振ってリンネはそう言った。


 彼女が言った通り、明日の放課後が彼女たちとの勝負がある。

 フェレントバーン流剣術というのは未知なため不安な要素がないと言えば嘘になるが、なんとかなることだろう。

 それにミーナは一度彼女たちと戦っているとのことだ。全く歯が立たないということはないはずだ。

 そう思いながら、廊下に待っていたミーナと合流した。




 それから色々と訓練を続け、模擬戦の日の放課後となった。

 いつも借りている小さな訓練場ではなく、少し大きめの訓練場を借りてそこに四人が入る。

 リンネとアレイ、そして俺とミーナの四人だ。


 対戦相手である彼女たちは聖剣を持っている。二人ともサーベルの形をした聖剣だ。

 だが、少し違和感があった。リンネの剣は片刃であるのに対して、アレイの剣はサーベルとしては妙な両刃だ。

 サーベルはその刃の反りを使って相手を切り裂くのに向いている。


「私の剣が気になるの?」


 そんな珍しいサーベルを見ていると、アレイが話しかけてきた。


「ああ、両刃とは見たことがなくてな」

「珍しいことかな」


 そう言ってアレイは俺の前に立つ。

 どうやら彼女が俺の相手をするようだ。わかっていたことなのだが、いざ対面してみると自然と緊張してくるものだ。

 ミーナの方にはリンネが相手をする。


「そろそろ始めるよ」


 リンネは構えを正す。それと同時にカウントダウンが始まる。

 彼女の言葉を合図にミーナやアレイも構え始める。


「構えないの?」


 何もしていない俺のことを見て、アレイはそう言った。


「俺は型を覚えるのが苦手でな。構えはしない」

「あなたも珍しい人ね」


 お互い珍しい者同士だと言いたいのだろう。

 確かに俺はこの国の剣術などとは違ったものではあるな。

 イレイラを引き抜き、構えることもなく自然な態勢で立つ。

 そして、試合開始の合図が出る。


「はっ!」


 その合図と同時に走り出したのはリンネだ。

 彼女はどうやら攻撃に特化したものなのだろうな。


「くっ……」


 右斜め上から高速で振り下ろされた強烈な一撃にミーナは反応に遅れながらもなんとか防ぐことができたようだ。

 しかし、受け止められたわかるとリンネは瞬時に距離を取る。

 あれではミーナのカウンターが決まらない。


「よそ見だよ」


 そう言ったのは前方にいるアレイだ。

 リンネと違い、高速ではないが確実に一歩ずつ歩み始めている。


「ミーナのことが気になってな」

「相方のことよりも自分のことを気にしては?」


 その言葉と同時にアレイが振りかぶる。

 まだ間合いとしては十分に距離があるが、どう言った攻撃なのだろうか。

 少し観察するとしよう。


「せいっ!」


 振りかぶったアレイの剣先は不規則な線を描き、こちらに突き出してくる。

 重心をうまく使った移動法か。

 俺はそれを完全に見切って左方向へと避ける。

 そして、様子見として彼女の首元へと剣先を向ける。


「ん!」


 無理な態勢だが、俺の攻撃を防いだ。


「素早い反応だ」

「そう……」


 すると、彼女は俺の剣を弾き追撃を開始する。

 今度は内側の刃を使った攻撃のようだ。

 まるで鎌のように扱う剣撃はなかなか近寄り難いものだ。


「っ!?」


 しばらくその攻撃を避け続けていると、アレイは剣を回転させて外側の刃で素早い攻撃をしてくる。

 なるほど、両刃という形をしているのはこう言った攻撃をするためなのだろうな。


 さすがにこの速度で逆方向からの連撃は避けきれないか。

 そう考えた俺はイレイラでその攻撃を弾き返すことにした。


「なっ。これを受け止めれるというの?」

「驚くほどのことか」

「……いいえ、あなたのことを侮っていただけだから」


 彼女は弾き返された反動で態勢を崩していたが、体を回転させることで立て直す。

 あの体捌たいさばきからしてリンネよりも強そうに見える。

 先ほどからミーナとの戦いを見ていると、リンネはどうも体の扱いが不器用なようだ。

 攻撃を受け止められた後、もう一度追撃できる隙はあったのにそれができずにいた。


「またよそ見を……っ!」

「よそ見はどっちだ」


 俺は剣先を一瞬にしてアレイの首元に添えた。


「……私の負けよ」


 何が起きたのかわからずにいたのだが、今の状況からして敗北を理解したようだ。

 彼女の宣言を聞いた俺はイレイラを鞘に戻してミーナの戦いを見守ることにした。


「以前とは違って守りに徹しているのね」

「そうよ」

「弱い剣術のくせに守りは堅い……厄介ね」


 すると、リンネは十分に間合いを取ってから攻撃を開始した。

 あれは何度もミーナと練習した形だ。

 さて、実戦で活かせるか。


「はあっ!」


 俺が練習として繰り出した速度よりも一段速い剣撃でリンネは上段から剣を振り下ろした。


 ガヂィィィン!!


 鈍い金属音が訓練場に響き渡る。

 リンネの縦からの攻撃を受け止めたミーナはその大剣を回転させた。


「ひゃ!」


 リンネはその回転についていけなかったのか剣を手放してしまい、その剣が俺の足元に滑り込んでくる。


「勝負ありだな」


 彼女は体を硬直させて、何かを考えている。

 なぜ自分の剣が離れていったのか、彼女からすれば持っている剣が暴れたような感覚だろう。

 初見ではさすがに見切れなかったようだな。


「私が……負けた」

「ああ、負けだな」


 再度俺がそういうとリンネは膝を突いた。

 彼女は絶対に勝てると高を括っていたようだが、それは誤算だったのだ。

 ミーナは戦い方を変えた。攻撃から防衛型へと……その理由が彼女は完全に理解できていなかったのだ。


「そう、みたいね」

「お姉ちゃん……」


 アレイが駆け寄るが、リンネは距離を取った。


「いいの。私が悪いから。慢心した結果こうなったの」

「違うよ。私たちの実力がっ……!」


 リンネがアレイの手を弾いた。


「もういい。私は帰る」


 そう言ってリンネは俺の方へ弾き飛ばされた剣を拾い上げる。


「今日はありがと。自分の力を過信していたとわかったわ」


 それだけ言い残して訓練場を後にした。


「エレイン、お姉ちゃんのことは許してあげて」

「許すも何も、俺は迷惑とは思っていない」

「そう……多分月曜日は普段どおりになっていると思うから」


 アレイはそう言いながら自分の剣を鞘に直した。

 彼女もここから離れるようだな。


「一つ聞いていいか」

「ん?」


 彼女と戦って気になったことがあった。

 それを聞くことにしよう。


「相手の攻撃を見ずにどうやって受け止めたんだ?」

「あぁそのことね。フェレントバーン剣術の暗闇流は空気の流れ、音の変化などを感じ取って攻撃したり、防いだりするの」


 確かに剣を振れば、空気は揺れ動き音も変化する。

 その小さな変化を五感で読み取ってあらゆる方向からの攻撃を察知することができるのだろうな。

 一度目の攻撃で無理な態勢だったにも関わらず防がれたのも納得がいく。


「なるほど、答えてくれてありがとう」

「別に隠すほどのことでもないからね。私からも一つ聞いていい?」

「なんだ」

「二回目の攻撃、あれはどうやったの?」


 俺が彼女の首元に剣先を添えたことだろう。


「あれは単純に体と剣先の動きを同じにしただけだ」

「あんな一瞬で綺麗に立ち回れたというの」

「そのために目が二つ付いているのだろう」


 目が二つあるから距離感が正確にわかる。距離が掴めれば、自ずと自分の立ち回りも綺麗になると言ったところだ。とは言っても自分の体のことを知り尽くしていなければ、できないことだがな。

 俺がそういうとアレイは目を見開いて驚いた。


「……ふふっ、面白いこと言うのね」


 すると、口元を押さえてアレイは毛先をほんの少し揺らして笑った。


「面白いか」

「いいえ、とても技術のある人なのね。また話聞かせて」

「話ぐらいならいつでもいい」

「うん。じゃまた今度ね」


 そう言ってアレイは練習場を後にした。


 俺とミーナも練習場を出ようとした時、彼女が口を開いた。


「あの……最初の攻撃、うまく返せなかった」

「俺も見ていた。距離を取られては無理もないだろう」

「ううん。追撃する術はあった。でもできなかった」


 そう言ってミーナは俯いた。


「どうしてだ」

「負けると思ったから……」


 自分の手を強く握ってそう言った。

 まだ自分の力を完全に信じることができなかった故の恐怖心。もちろん、すぐに自分の力が信じれるはずはないのだが、ミーナはそれを気にしているようだ。


「そうか。俺は自分の力を信じていると思うか?」

「うん。だからあれほどに強い」

「少し違うな。俺でも信じ切れていない部分がある」


 俺がそういうと彼女は意外そうな表情で顔を上げる。


「信じれないから、信用していないから不安要素を見つけ出し、改善点を探せるものだ」

「力を信用しない?」

「自分の技術なんてものは結局のところ手段でしかないんだ。信じるべきものを間違えてはいけない」


 ミーナは首を傾げる。

 俺の発言の意味を知りたいようだ。


「本当に信じるべきものというのは自分自身だ。自分が見たもの、感じたものはどれも真実だろう。今日感じた自分の弱さはミーナ自身が信じるべきものなんだ」

「弱さを信じるの?」

「矛盾しているように思えるがな。弱い自分という認識があれば、努力するだろう」


 自分が弱いと思っているから努力できる、訓練を続けられる。

 そして、さらなる高みへと到達できるのだ。


「……ありがとう。励みになったかな」


 ミーナは顔を赤くしてそう言った。


「恥ずかしいこと言ったか」

「ちょっと見惚れた……って何言ってるんだろ、私」

「なるほど、そういうことか」


 俺がそういうとミーナはムッとした表情を浮かべた。

 全く感情の読めないものだな。

こんにちは、結坂有です。


無事にミーナはリンネとの模擬戦に勝利することができたようです。

しかし、リンネはこれからどうなるのでしょうか。しっかりと妹のアレイと仲良くすることができるのでしょうか。


そして次の章から第二章となり、『魔族防衛』篇です。

それでは次回もお楽しみに。

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