表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
248/675

攻撃の予兆

 私が寮に戻ってからリンネと数人の生徒に話を聞いてみたのだが、特に変わったことは起きていなかったようだ。

 本当に連れて行かれたのはエレインとメイドのリーリアだけなのだろうか。


「特に変わった情報はなかったようね」

「周りのことをよく見ているあなたが気付かないのならそういうことよ」


 正直、リンネが特に何も知らないと言うのであれば学院では変わったことが何もなかったのだろう。

 剣術評価は低いけれど彼女の流派はかなりの実績がある。それの正当後継者ともなればきっと高い実力を持っているはずだ。

 そんな彼女が小さな異変も気付くに決まっている。


「流石に全部見えているわけじゃないよ? エレインみたいにね」

「彼は強過ぎるのよ」


 私がそう言うと彼女は少しだけ笑って「そうだね」と答えた。


「あっ」


 すると何かに気付いたかのようにリンネが顔を上げた。

 その視線の先にはフィンがいた。

 少し疲れた様子の彼は私たちを見つけるとすぐに表情を変えた。


「セシルか、久しぶりだなっ」


 そう声を出した彼は私たちの方に歩きながらそういった。


「そうね。魔族襲撃の時はここに来てなかったからね」

「少しぐらいは顔を出せよな」

「そのことは悪かったわ。でもこれからは寮で生活するから」

「それならいいんだけどよ」


 彼は私の安否を知れただけでもよかったのか、彼はほっとため息を吐いた。


「それよりもこんな時間までどこに行ってたの?」

「ああ、俺のパートナーのミーナがな。少し訓練に付き合ってたんだ」


 そういえばミーナの容体は大丈夫なのだろうか。

 両腕が複雑骨折していたと聞いている。その状態でどう回復したのかはわからないが、なんとか剣を振れるまでは治療できているのだろう。


「……それ以外で何か変わったこととかない?」


 私は彼にも質問をしてみることにした。

 すると、彼は少し考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「そう言えば、ミーナを治療してくれたカインって人がいなくなったって聞いたぜ? まぁ他のところで治療しているのかもしれねぇけどな」

「カイン?」

「かなりやばい人らしいぜ」


 どこかで聞いたことのある名前だけどエレインと同時にいなくなったというのは偶然ではないのかもしれない。

 聞いた名前だということは全くエレインと無関係というわけでもないだろう。


「関係ありそう?」

「まだわからないけどね。でも可能性はあるわ」

「あ? 何のことだ?」

「そのカインって人は治療士であってるわよね」

「そうだが、なんなんだよ」


 やっぱり何かあるのかもしれない。

 彼女のことについては今後調べていく必要がある。それにエレインとの関係性も知っておくべきだ。

 強い治癒能力のある聖剣を持っているのだろうか。少なくともそういった聖剣に認められる時点で普通の人間ではないのかもしれない。


「えっと、次来るかもしれない魔族の襲撃の予兆でもないかと思ってね」


 フィンには悟られないようにここは本当の目的をはぐらかした方がいいだろう。

 エレインに何かあったと心配事を無闇に増やす必要もない。


「なるほどな。確かに魔族のことだ。俺たちが弱ってると思って突撃してきてもおかしくはねぇからな」

「ええ、また何か変わったことがあったらすぐに伝えてくれるかしら?」

「おうよ。それで少しでも対策ができるのならいくらでも協力するぜ」


 そう胸を張って彼は言った。

 確かにそう断言してくれるとこちらとしても頼りたくなるものだ。エレインがいない以上、私一人でどうこうできるわけではない。何人かと協力すれば一人よりも多くのことができる。

 そうしたらエレインの問題もなんとか解決できるかもしれないからだ。


   ◆◆◆


 私、フィレスはブラドに頼まれて第一防壁周辺の調査を行っていた。

 今朝、議会で話題になっていた魔族の謎の撤退行動を事だ。

 とは言ってもすぐに魔族が攻め込んでくるということはなさそうだが、それでも何が起きているのかを調べる必要がある。


「一通り見てみたけど何もないわね」


 国全体を囲うように作られた第一防壁はとても広大で、大昔に魔族からの侵攻に備えて建てられたと言われている。もちろん精霊などの力を駆使していたようだ。

 そんな巨大な防壁の半分を馬を使って調査してみたのだが、特に変わった様子はなかった。魔族が全くいないのは妙に不気味なのだけど、それでも異変はなかった。

 それから日が暮れて防壁の中へと戻ると兵士の一人が私に話しかけてきた。


「あの、魔族の調査ですよね」

「ええ、そうです」

「魔族はどこに行ったのですか?」

「どこに行ったかはわからないわ。おそらくは自分たちの領土に戻ったと考えるのが自然ですけど」


 どのように大量の魔族を統制しているのかはわからないが、敵陣であるエルラトラム周辺にわざわざ居座るのも意味がない。ある目的のためにこんなところで潜んでいたのだろう。

 でも、具体的な目的や作戦まではわからない。


「魔族の動きがわからないのは現場の僕たちが一番不安なんですよ」


 この場所では死と隣り合わせなのだ。いつ魔族が攻め込んでくるかわからない。そして誰よりも先に戦闘を開始する役割でもある。

 かなり危険な場所に配属されているというのは本人も重々承知の上なのだろう。


「わかっています。私たちも全力で魔族の調査を進めます」

「ありがとうございますっ。僕たちにとって情報が一番大切ですから」


 情報をいち早く調査し報告すること、それは諜報部隊である私たちの仕事だ。

 より正確で詳細な情報を議会に連絡することで対策を考えることもできる。魔族のことを改めて何も理解していないと分かった。

 それで私たちの部隊が作られたのだ。


「頼りにしてますっ」


 そう言って敬礼をした彼は本当に私たちを信頼しているのだろう。

 私はそんな彼の期待に応えなければいけない。明日は反対側、つまりは北側の調査に出るつもりだ。

 全体を調べれば何かがわかるはず、そう考えた瞬間南の方角で滅紫の光が輝いた。


「なっ。全体! 警戒体制!」


 彼がそう号令をかけると一斉に兵士が防壁を保護する陣形を取る。

 先の魔族侵攻により強い兵士だけが生き残っている。迅速に陣形が形成されていくのが目に見えている。

 一つの号令で視界にある防壁全てが一瞬にして防衛陣形となった。もちろん、視界に入っていない場所でも同じように陣形が組まれていることだろう。

 ものの数分でここまで強固な守りになるのは非常に素早い。


「ま、魔族の反応なしっ」

「……フィレスさん、いち早く議会に連絡を。僕たちはここで警戒体制に入りますのでっ」

「わかりました」


 魔族の反応がまだないのならまだ十分に時間はあるだろう。

 馬を使って急いで議会に連絡に向かう。ここから議会までの直線距離は二時間と少しだ。

 第一防壁が突破されるのが先か、私の連絡が届くのか先か。

 私は風になった勢いでかけていく。第一防壁から第二防壁まではほとんど住宅がないため全力で駆け抜けることができる。

 すでに日が落ちて、暗くなり始めているため視界が悪くなっているがこの道をまっすぐに進めば第二防壁の門へと続くはず……。


 キュンッ!


 小石が弾けたような高音とともに私は宙に浮いた。いや、私だけではない馬も同じく浮いていたのだ。

 かなりの速度で投げ飛ばされるが、厳しい訓練を積んできたおかげかなんとか受け身を取ることができた。


「っ!」


 膝当てを地に当てて衝撃を逃し、崩れた体勢を整えながら地面を滑る。

 その時、液体のようなものが砂埃とともに私の顔へと付着する。なんの液体だったかは横に倒れている馬を見ればすぐに分かった。

 馬の血液が顔にかかっていたのだ。

 そして、馬の足の全てがちょうど半分に切断されている。

 私は警戒し、腰に携えている聖剣を引き抜いた。


「……」


 周囲を警戒しても誰かがいるような気配はない。しかし、不気味な空気感は残ったままだ。


「魔族を怒らせるということを人類にわからせる必要があるな」

「ふっ、笑わせるな。人間なんざ何も考えてねぇだろ」

「でもでもあんな巨大な防壁を作っちゃうんだよ?」


 暗闇で相手が見えないが、明らかに声が聞こえる。気配を隠しているのだろうか。


「一体誰なのですかっ」


 私は声を上げて正体を現すよう促す。


「雑魚がうるせぇな」

「手荒な真似はよせ。ここで人を殺すのは危険だ」

「少しは黙れよ、インテリ野郎。一人や二人殺したぐらいで何も起きやしねぇって」

「でもでも神様に怒られちゃうよ?」


 何を言っているのかはわからないが、私はゆっくりとこの場から離れることにした。

 相手の位置すら掴めていない以上、不利なのには変わりない。

 そう一歩だけ音を立てずに後ろに置いた。


「んっ!」

「どこに行こうってんだ?」


 後ろに置いた足から伝わってきたのは硬い地面ではなく、肉体的な感触。

 私は瞬間的に前へと飛んだ。


 ガスッ!


 前へと逃げようとしたのだが、横から人とは思えないほどに大きな腕が飛んできて私の肩を鷲掴みした。


「ぐぅっ!」

「あの防壁からの連絡を遮断するのが俺たちの役割だ。まぁ貴様らは邪魔なだけだがな」

「でもでも、僕はおっきな壁を飛び越えるの手伝ったよ?」

「あ? てめぇ粋がってる場合じゃねぇだろ」


 彼らは一体何者なのだろうか。

 ズキズキと痛み始める右肩に意識を失いそうになるが、私は必死に精神を落ち着かせることにした。

 そうすることで聖剣を落とさないことに専念する。反撃のチャンスがあればすぐに行動できるようにするためだ。


「こいつは俺が確保しておく。貴様らは別の人間を探せ」

「……ちっ、わかったよ」

「はいはーい」


 そう言って二体はどこかへと向かったようだ。

 しかし、私を片手で捉えている魔族は一向に力の緩みがない。どう対処するべきか、思考が止まりかけている頭を必死に回転させて策を考える。


「ふむ、抵抗するんだな。この俺から簡単に逃げれると思うなよ」


 そう言って彼は私を引き摺るようにしてどこかへと連れて行った。

こんにちは、結坂有です。


すでに防壁の中で潜んでいたあの魔族たちは一体何者なのでしょうか。

そして、始まる超大規模攻撃の予兆…

これからの展開がますます気になりますね。

戦闘が非常に多くなると思いますので、次回もお楽しみにっ!



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

Twitterではここで紹介しない情報やたまに呟きなども発信していますので、フォローお願いします。

Twitter→@YuisakaYu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ