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境界を超えて

 私、ミリシアは生徒たちの指導を終えるとルカの言っていた情報をみんなにも伝えることにした。

 彼女によるとアレイシアもこの情報は耳に入っているそうだ。

 ただ、気になるのがアレイシアがどういった判断を下すのかだ。下手なことはしないだろうと踏んでいるが、どういった内容になるかはわからない。

 学院から帰宅し、いつも通り地下部屋へと向かうとナリアとユウナがいた。

 今日は自主練をしていたようだ。エレインに教えてもらったことを踏まえて二人は訓練をしていたようだ。

 彼女たちがどこまで強くなったのかはわからないけれど、どこか今までと姿勢が違うような感じがした。


「ミリシア、話って何かな?」


 事前に話があると伝えていたアレクが私に声をかけてくる。


「えっと、身構えないで聞いて欲しいのだけど……」


 私が前もって言っておく。

 魔族の活動に変化があったなどと彼らにそのまま伝えればすぐに危機感を感じることだろう。

 だから、私はまだそこまで性急な話ではないということを暗に示しておいた。


「防壁周辺にいた魔族が消えたの」

「それってなんかあんのか?」

「ええ、私たちの動きを監視する目的かはわからないけれど一定数の魔族が今まで防壁周辺にいたの。それが今になって消えた」


 すると、アレクが腕を組んで考え込んだ。


「つまりは近いうちに魔族が何らかのアクションを起こすと考えているんだね?」

「そうね。でもそんな早い段階で来るとは思えないわ」

「へっ、一万もの魔族の軍勢なんて今までなかったからな」


 一万の軍勢の損失はいくら魔族といえど手痛い損害のはずだ。直ちに次の作戦が来るとは考えられない。

 しかし、警戒を緩めるのも危険だ。

 どういうわけかは知らないが、魔族の総数が判断できていないというのが不安要素だ。

 相手の戦力がどれほどあるのかわからない状態では私たちもどう動いていいのかわからない。


「実際に僕たちは知らないけれどね。でも魔族が本気を出してきたと考えるのはどうかな?」

「というと?」

「たとえば、今までの三回あった大侵攻は彼らにとっては小さなものだと考えたとしたら事態はより深刻になるよね」

「でも、一万よ?」

「その数は確かに尋常ではないが、世界の半分以上を掌握しているんだ。数十億もの魔族がいても不思議ではないと思うけどね」


 アレクの言うように地球の半分は魔族の支配下にある。そして、大量の資源もそこに存在していたとなれば尚更無数の魔族がいると考えてもいいだろう。


「僕たちは魔族のことを何も知らないんだ。常に最悪な状況を考える必要があるけどね」


 彼がそう言ったおかげで私のお膳立ては台無しに終わった。


「ま、また魔族が攻め込んでくるのですか?」


 案の定、ユウナが不安そうな表情でアレクを見つめる。

 その上聖剣を持っていないナリアはじっと床を見つめて何かを考えている。

 まぁレイはそこまで怖がる様子ではない。彼にいたっては魔族に対してそこまで恐怖心を持っていないのだ。


「そうだね。そう遠くないうちにね」

「もしそうなったら私たちはどうすればいいの?」

「ナリアは国民の保護に徹した方がいいわね」

「聖剣も持っていないのに?」

「ええ、棒術だけでも魔族の足止めにはなるわ。足止めしている間に聖騎士団とか聖剣を持っている人に手伝ってもらえれば全く問題ない」


 私はそう言ってみる。

 それがどれほど辛いことかを彼女はよく知っているはずだ。


「……やってみるわ」


 しかし、彼女はそれでもやってみると答えた。

 すでに彼女の中でも覚悟はできているのだろう。魔族とどう戦うか、これからどう生きていくかを。

 そしてその覚悟はより強固となり決意となっていく。


「とは言ってもよ。いつ攻めてくるかわからねぇだろ?」

「そうよ」

「攻め込まれてからだと遅くはないか?」

「少なくとも第一防壁は簡単に突破されてしまうわね」


 常に最悪な状況を考える。アレクの言うようなそんな状況を考えると絶対に第一防壁は突破される。そして、第二防壁へと後退してもそこまで長くは持たないだろう。

 この国の中心部にある比較的小さな防壁でやっと踏ん張れるといったところだ。

 聖騎士団に所属していた時、どういった防衛をするのかをブラドから教えてもらったことがある。

 少なくとも一番大きな第三防壁はそう簡単に突破することはないはずだ。


「最悪、最終防壁での戦いが主体となりそう」

「だったら第一防壁で全部防いだらいいだろ?」

「無理よ。最初の防壁はかなり広い範囲を囲っているの。広範囲にわたって魔族の列が攻め込んできた場合、絶対にどこかの師団は崩れてしまうわよ」


 いくらレイが頑張ったとしても守れる拠点は一つだけ、他の拠点まで同時に攻撃された場合はどうすることもできないのだ。


「……厳しい戦いになるってか?」

「そうなるだろうね。今の僕たちには聖騎士団の本隊すらいない状況なんだ」

「全く、こういった状況でどこに遠征しているのかしら」


 アレイシアからそのことを聞いていたのだが、こういった国難にどこに行っているのだろうか。

 まぁその判断をしているのは今の新しい団長なわけで、私たちがどうこう言えるわけでもないのだけどね。


「私は足手まといにはならないですか?


 そんなことを話しているとユウナがそう不安そうに私を見ながらそういった。


「大丈夫、少なくともユウナはこの国でかなり強いはずだから」

「それなら少し安心ですけど……」


 そうは言ってみても不安が完全に拭い去ることはないだろう。


「僕たちがなんとか守ってみせるよ。一度は魔族に負けた、けど今度は負けるつもりはないからね」

「そうだぜ? 心配すんな」


 どこまでもポジティブな二人はユウナに向かってそう声をかけた。

 不安にさせた張本人が言っても説得力はないのだけど、彼女は少しだけ安心したようであった。

 これからどうなるのかはわからない。でも、今からでも対策はできるだろう。

 私はみんなを見ながら、少しだけ作戦を考えてみることにした。


   ◆◆◆


 私、セシルは夕方に寮へと戻った。

 数日間、寮には戻っていなかったのだが、だいぶ修復は進んでいるようでほとんど工事は終わっているようであった。


「セシル? 久しぶり」


 そう話しかけてきたのはリンネであった。

 どうやら彼女は買い出しの帰りだったようで食材の入ったカゴを持っていた。


「久しぶり、あれからなにかあった?」

「うーん、特に変わりはないかな。部屋の工事がほとんど終わったぐらいね」

「そう」

「あと、怪我した人もほとんど戻ってきているわ」


 あの襲撃でほとんどの生徒が怪我をしたが多数いた。

 その治療のためにいろんな場所で入院していた生徒たちが戻ってきているのだろう。

 それであればまたいつも通りの学院生活に戻れるのかもしれない。


「後で話を聞いてみるわ」

「何か調べてるの?」

「ええ、あれから何か変わったことが起きていないか調べてる」

「私も手伝うよ」


 そう言って彼女は私の方へと近寄ってきた。

 どうしてだろうか。彼女とはそこまで接点があったというわけではないが、手伝ってくれるのだとしたら助かる。


「……ありがと」


 私はそう言ってみることにした。

こんにちは、結坂有です。


下界でも色々と進んでいるようです。

果たして魔族は本当に攻め込んでくるのでしょうか。気になるところですね。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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