表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
239/675

招かれざる客

 私、リーリアはエレイン様のために厨房へと向かっていた。

 いつも通り食材を取り出して、調理を開始していく。エレイン様の好みは既に把握している。味付けも彼の好みに合わせて作っていくのだ。

 もちろん、栄養が偏らないように野菜なども選んで料理を作り上げていく。


「ただいま〜」


 すると、玄関の方からミリシアの声が聞こえた。

 それと同時にアレクやレイの声も聞こえてきた。第一防壁での一件から学院に生徒たちを送り届けていたのだろう。

 とは言っても、魔族と長時間戦っていたためにかなり疲れているのは確かなはずだ。

 私は調理を一旦止めて、彼女たちを出迎えることにした。

 玄関の方へと向かうとすでにエレイン様も来ていたようで何か会話をしていた。


「ねぇ、ルカとデートってどういうことよ?」


 ミリシアがエレイン様に対して質問をしていた。

 ルカとのデートは色々と問題視していたが、ただ彼女が楽しんでいただけで特にいかがわしいことなど一切なかった。


「普通に街を散策しただけだ。それにデートだけが目的だったとは思えないのだが……」


 すると彼は話を一旦止めた。

 確かに氏族の大聖剣に触れることができたと彼女に伝えるのは特に意味はないからだ。


「いや、話し過ぎるのも良くはないな」

「そこまで言ったんだから教えなさいよ」


 ミリシアはムッとした表情をしているが、氏族に関することはそう簡単に口外できることではないだろう。その辺りのことは彼女も深くは追及したりしなかった。


「おかえりなさいませ。魔族との戦いの後ということもあって大変疲れていると思います。リビングでゆっくりしてください」


 私はミリシアたちにそう伝えた。

 地下部屋は広い場所ではあるものの、気温は低く湿度も安定していない。そんな状況ではまともに体も休まることはないだろう。


「ええ、そうさせてもらうわ」

「助かるよ」


 そう言って彼女たちはリビングへと向かった。


 それから私は調理を再開して、しばらくすると私はエレイン様に夕食を渡す。もちろん、私も一緒に食べることにした。

 ミリシアたちはソファの方でアレクとレイとで明日の授業のことを話していた。先ほどまでエレイン様も会話に加わっていたのだろう。

 小さき盾としての職務を全うしながらも、学院生の訓練相手までやってのけるのだからすごいと言わざるを得ない。


「エレイン様、今日は控えめな味付けにしてあります。たくさん食べてくださいね」

「ああ、ありがとう」

「いえいえ、エレイン様に尽くす者として当然のことですから」


 ミリシアの視線を背中に感じつつも私たちは食事を楽しむことにした。

 そして、夕食に手を付け始めた直後、光が天井を埋め尽くした。


「っ!」

「なにっ?」


 眩いほどのその光はどこか神秘的な力を感じさせながらも、禍々しい力を放っている。

 私とエレイン様と同様に警戒体制を維持したまま、その光から離れた。そして、そこから甲冑をきた人が現れた。

 いや、人間ではないのかもしれない。

 あれほどの重装備の人が現れたのに何一つ音がしないのだ。


「エレインっ、離れてっ!」


 ミリシアとアレクがエレインの前に出て剣を構える。

 その二人を見ても甲冑の人は全く動じる気配はない。戦闘に慣れているということだろうか。


「どうやってここにきたのかは知らないけど、僕たちは強いよ?」

「……」


 アレクの言葉を無視するように黙ったままだ。

 しかし、その目は私の横にいるエレインを見据えているような気がした。目的はエレイン様なのだろうか。


「へっ、黙ったままだと何もわかんねぇだろっ」


 すると、レイが剣を引き抜いて甲冑の人へと斬りかかった。


「ふっ」


 レイの剣は大きく空を斬り、凄まじい音が部屋を轟かせる。


「な、てめぇ!」


 その瞬間、光が放たれると同時にレイが壁へと吹き飛ばされた。

 あの甲冑の人は一体何者なのだろうか。魔族のような気配は感じられない。とは言っても精霊のような聖なる力に満ちている様子でもない。


「……さすがと言ったところか。人間相手に神の力を使うのは気が引けるが、仕方ないか」


 何を言っているのかはわからないが、その目はエレイン様を見据えている。次に攻撃を放つとしたらエレイン様なのだろう。

 私は魔剣へと手を翳し、甲冑の人の心理を読み取ることにした。


「アレクっ」

「ああ、わかってる」


 二人はそう言って隙のない連携攻撃を仕掛ける。

 しかし、ミリシアの剣は光を斬り裂いただけで、甲冑へと傷つけることはできなかった。


「はっ」


 ミリシアの攻撃が外れたと気付いたアレクは一瞬にして姿勢を低くして、甲冑の人の攻撃を一度避けるが光の線がアレクの腹部へと叩きつけた。


「うっぐっ」

「我が子孫よ。そこを動くな」


 すると、甲冑の人はエレイン様の方を見据えた。

 強烈な力を感じているが、エレイン様は全く動揺していない。そして、ゆっくりとイレイラを引き抜くと鋒を彼へと向ける。


「どういう意味かは知らないが、妙な力だな」


 そうエレイン様が足を広げ、攻撃を防ぐ体勢を取る。


 バキンッ!


 次の瞬間、エレイン様の聖剣が木っ端微塵に砕け散った。


「っ!」

「神を侮るな」


 甲冑の人が一気に詰め寄ろうと走っていくが、すでにエレイン様は魔剣の構えていた。

 引き抜く動作すら見えない程の神速の抜剣だ。


「ふむ、さすがは我が子孫。だが、もう遅い」


 甲冑の人が一体何をしようとしているのかはまだわからない。

 しかし、動きだけならわかる。どう動くのかがわかっていればそれに合わせることは簡単なはずだ。


「エレインっ!」


 ミリシアが魔剣を投げ飛ばすが、それすらも光の力で跳ね返すと甲冑の人は姿を消した。


「くっ」

「捉えたぞ」


 その直後、エレイン様の腹部に甲冑の人の腕が突き刺さっていた。

 流石に目で追うことができない相手を防ぐことは難しい。でも、こんな弱い私でも相討ちなら可能だ。

 振り上げていた双剣を甲冑の隙間を縫うように突き刺した。


「この動きを読めたというのか?」

「私はエレイン様のために生きていますっ。エレイン様が死ぬときは私も死ぬ時ですからっ」

「……認めざるを得ない、か」


 双剣が胸部に二本刺さっている状況で甲冑の人はまだ余裕そうに話している。


「これでっ、終わりですっ!」


 私は双剣を捻り、とどめを刺そうと試みるが強烈な光が視界を埋め尽くした。


「エレイン!」


 ミリシアの声が聞こえたと同時に雷鳴のような音が脳を響かせた。


   ◆◆◆


 エレインの腹部に完全に腕が突き刺さっていた。しかし、それでもエレインは痛みを感じている様子ではなかった。

 それに不自然を感じていた。

 私、ミリシアは、魔剣を投げ飛ばしたのだがそれは甲冑男の注意を逸らすための攻撃だ。


「ふざけやがってよ!」


 レイが甲冑男の背後で大きく剣を振り上げ、渾身の一撃を光の人へと振り下ろした。

 雷でも落ちたような強烈な音を轟かせるとこの建物が震え始めた。


「レイっ」

「くそっ! あいつ、逃げやがったな!」


 光が収まるとそこには誰もいなかった。

 先ほどまでエレイン、リーリア、そして謎の甲冑男がいなくなっていたのだ。


「……何が起こっていたんだ」

「わからないわ。でも、連れて行かれたのは確かなようね」

「エレインを連れてどこに行くつもりなんだよ」


 どれもこれもわからないことだらけ、神と話していたが何者だったのかもわからない。そして、エレインのことを我が子孫とも言っていた。

 謎は深まるばかりだが、一つだけ確かなことがある。

 甲冑男は明らかに人間ではないということだ。


「一体何が起きたの!」


 そんなことを考えていると、一番奥の訓練場にいたセシルとユウナたちがやってきた。普段はこんな時間までしないのだが、ユウナとセシルが自主的に訓練をしていたのだそうだ。

 セシルはこのリビングの現状を見て何か最悪なことでも起きたのではないかとすぐに思ったようだ。


「……エレインが連れていかれたわ」

「僕としたことが、申し訳ない」


 私とアレクがそういうとレイが強く床を叩いた。


「連れて行かれたって誰に?」

「わからない。多分だけど人間じゃないわ」

「大きな物音が立ってからたった数分で連れていかれるなんておかしいからね」


 ナリアも険しい表情でそういった。

 突如として起きた事件に誰一人として理解している人はいないことだろう。しかし、エレインだけはある程度察していたのかもしれない。

 腹部に腕が突き刺さったとしても表情に動揺の色は見えなかった。不自然に思えていたのはその表情にあった。彼ならきっと無事だろう。


「エ、エレイン様が……いなくなってしまったのですか?」


 ユウナはエレインがいた場所に付着した血痕を見ながらそういった。彼女はエレインのことを崇拝しているような人間、そんな彼女が今の状況を見れば発狂しそうなものだ。


「ユウナ、彼なら大丈夫よ。きっと何か考えがあって攻撃を受けたのだと思うわ」

「……そう、だといいですね」


 胸の中にある恐怖に必死に耐えているのか祈るように指を絡ませる。

 そんな彼女を見て、セシルも目を閉じた。

 今、私たちにできることは普段通りに過ごすこと、何が起きたのかはわからないにしても彼を信じる他ないのだから。

こんにちは、結坂有です。


今回でこの章は終わりとなります。

次回からは新しい章が始まります。戦闘の多い章となる予定ですので、お楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

Twitterではここで紹介しない情報やたまに呟きなども発信していますので、フォローお願いします。

Twitter→@YuisakaYu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ