終わらない戦い
地下牢で裏切り者の議員をなんとかして処分した私たちは会議室へと向かっていた。当然ながら、これからの魔族との戦い方について話し合うためだ。
ルカは先に帰ったそうだ。彼女には今後色々と聞きたいことがあるのだが、それはまた今度の機会にしよう。
魔族との戦いでかなり疲弊していることだろう。
「それで、アレイシアとしては今後この国をどう進めていきたいんだ?」
「私として?」
「ああ、今のお前はこの国の議長だ。命令があれば部下である俺たちはそれに従うまでだ」
ブラドとフィレスは議長の耳であり、目であり、そして剣でもある。
そんな彼らを自由に命令することができる私は命令しなければいけない立場だ。議会の諜報部隊という肩書きの彼らは議長の命令なしでは動くことができないからだ。
「……当面の間は聖騎士団の育成、かな。あとは新規で議会軍を結成するのもいいかも」
「妥当なところだろうな」
「ですが、アレイシア様。今の私たちにはそれらを組み上げるほどの人材はいません。もちろん、小さき盾を含めれば戦力としては十二分ですが」
確かにユレイナの言うように議会軍の大半は聖騎士団に飲み込まれている。とは言っても実戦経験のある人たちのため、その人たちをうまく流用することができれば問題ない。
ただ、先の魔族侵攻で相当数の議会軍出身の人が亡くなったと聞いている。
このような状況で新編成の軍隊を作り上げるのは不可能なのかもしれない。
「あくまで小さき盾は最終手段よ。それ以外でなんとかして作り上げたいところだわ」
「でしたらどう人員を補うおつもりですか?」
魔族侵攻の後ということで前線を維持していたほとんどの兵士が死んでしまったのは変わりない。
しかし、エレインが全力で守ってくれた学院生がいる。
彼らならきっと問題なく兵士としての務めを果たしてくれると期待している。
「まさか、学院生を使うのか?」
「苦肉の策ではなるけどね。でも人員の確保はそれで十分だと思うわ」
「……お言葉ですが、学院生はまだ訓練候補者に過ぎません。彼らを実戦で投入するにはリスクがあるように思います」
フィレスの言葉は百も承知だ。それでも今は軍隊を編成しなければいけない時期だ。
議会の中に裏切り者がいたこと、そしてその気になれば魔族一万の軍勢をすぐにでも展開できるほどの状況。これらを踏まえた上でこちらも編成を考えるのは至極当然のことだ。
「ええ、それはわかっているわ。それでもやらなければいけないの」
「アレイシアの言うように今のエルラトラムには人員が足りない。その状況下で訓練に時間を割くことはできないな」
「本当に学院生をお使いになられるのですね」
ユレイナが確認の意味でそう聞いてきた。
私は無言のまま軽く頷くと彼女はすぐに資料に何かを書き込み始めた。
その資料はこれからの方針について次の議会で話し合いに出すためのもので、今までの会話を彼女がまとめてくれているようだ。
「まぁ今できることはそれぐらいだろうな。魔族の数は無限と言っていたが、ありえないことだ。とは言っても俺たちの数は少ない」
「数で負けている以上、ここは持久戦になってしまいますからね」
ブラドとフィレスも納得してくれている。
彼らの言うように私たちは持久戦を強いられているのだ。それはどう足掻いても変わることはない。であれば、私たち人類ができることは攻撃に耐えること、そして人類同士連携を取るということだ。
勢力で負けているのだから戦力を一つもまとめること以外ないのだ。
◆◆◆
あれから生徒たちを学院へと連れて戻り、明日の訓練内容をみんなに説明するとすぐに解散にすることにした。
魔族と戦うことになった生徒たちは特別に明日は休みとすることにした。
まぁ本来であれば、訓練に来て欲しいところなのだけど、戦闘に慣れていない彼らからすると鬼畜の所業と言えるだろう
「ミリシア、お疲れ様」
私がそう生徒たちに説明し終えるとアレクが労ってくれた。
いつもは彼がしていることなのだが、今回は私が担当した。彼が前に出るとどうしても威圧感がある。
甘いルックスに優しそうな声とは真逆に歯に衣着せぬ物言いをしてしまう。それは悪い意味でも良い意味でもあるが、精神的に疲れている生徒がいる状況では悪影響の方が大きいだろう。
そんなことを考慮して私が優しい口調で生徒たちと接することにした。
それはどうやら正解だったようで、生徒たちはほっとした面持ちをしている。
「僕だとどうしてもこうにはならないだろうからね」
「へっ、もう少し厳しくてもいいんじゃねぇか?」
「彼はまだ学生なのよ? それに私たちは普通じゃないの。私たちを基準に考えたらダメだわ」
レイの言う通り、このままでは生徒たちは強くはなれない。とは言ってもそこまで厳しくする必要もないだろう。
あくまでこの訓練は学院が休んでいる間だけに行われる緊急授業のようなものなのだから。
「そうだったね。僕たちはあくまで生徒の実力をサポートすること。全力で指導しているわけではないからね」
「でもよ。さっきの男がほざいていた魔族一万の軍勢が本当に来ていたとしたらヤバくはねぇか?」
考えていなかったわけではないが、確かに今の状況で一万の軍勢が押し寄せてきたとしたらどうなっていたことだろう。
確かに氏族がいる限り、この国が滅びることはないだろうが、今まで以上に被害が出ていたことは間違いないはずだ。
そして、何よりも兵士が圧倒的に少ないということだ。
聖騎士団は本来世界を守るための部隊、そのため半数以上は国外にいる。ある程度呼び戻していると言ってもその数はそこまで多くはない。さらに第一防壁が崩れた際に兵士が千人以上も死んでしまっている。
私たちもその調査に協力していたために知っている。
この国でまともに実戦経験のある強い兵士は五千人にも満たないはずだ。
そんな中、魔族の大軍が攻め込んできたら大きな被害が出るのは当然だろう。
「……ルカとエレインがなんとかしていなければ、かなり危険だったかもしれないわね。それに私たちも助けられたことだし」
「あの状況で挟み込まれていたら流石に無傷とはいかないだろうね」
百体近くの魔族に押されるように通路を進んでいくとそこには魔族一万の軍勢、そんな恐ろしい状況が起きていたとなれば地獄を味わっていたことだろう。
少なくとも生徒たちは助からなかったはずだ。
「ま、お国の判断に口挟むつもりはねぇけどな」
「それもそうだね。僕たちにできることだけをするべきだからね」
アレイシアを議長とした議会はかなり優秀なはず、そんな議会が馬鹿な決断をするなんて考えられない。
今のままで大丈夫なのであれば、現状維持を続けることだろう。
でも、状況を打破するために変化を起こすのだとしたら、その時は学院生たちが未熟なまま軍隊に招集されるはずだ。
最悪なようで、もっとも実行する可能性の高い計画だ。
少なくとも私が議長だったら議員や周りの反対を押し切ってでもそれを実行するかもしれない。
こんにちは、結坂有です。
次回にてこの章は終わりとなります。
次章はより戦闘シーンが多くなる思います。
そして、天界での物語も大きく進む章となりそうです。
それでは次回もお楽しみに。
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