思いがけない合流
ルカの治療を待っている間、俺はリーリアとともに第一防壁の近くを歩いていた。
もちろん、外側ではないのだが。
「エレイン様、疲れていませんか?」
「いや、全く疲れていないな」
「そうですか。魔族を両断したあの技なのですが、あれはエレイン様の渾身の一撃ですか?」
「そうだな。あの時に出せる技としては一番の大技だったな」
あの状況で引き出せる最大の一撃だったのには間違いない。
もちろん、魔剣の能力を使えばもっと高速な攻撃は可能だったのだが、別の理由でそれらの技は使わなかった。
「……改めて、エレイン様に忠誠を誓いたいと思います」
そういうと彼女は俺の目の前に立つと、ゆっくりと膝をついて頭を下げた。
今までそういった形式的なことはしてこなかった彼女ではあるが、どうして今になってそのようなことをするのだろうか。
「心身ともに私はエレイン様のために尽くします。好きになれというのなら好きになります。死ねとおっしゃるのであればもちろん死ぬつもりです」
「いや、そこまでの忠義は必要ない」
流石にやりすぎな感じもする。少しばかり重たい関係になってしまわないか心配だ。
とは言っても、魔族と戦っている以上、これから生き死にをかける場面は多くなってくるはずだ。そのような場合では確かに意味があるものになるのかもしれないか。
すると、リーリアは周囲に誰もいないことを確認し、俺の目をじっと見つめて小さく口を開いた。
「私はエレイン様のことを誰よりも理解している人間だと思っています。一番の理解者がそばにいるのは間違っていることでしょうか?」
そこまで言われてしまっては俺も返す言葉がない。
まぁこれから俺への対応が変わるとも限らないしな。
「普段通り接してくれるのならな」
「ありがとうございます」
そう言って彼女は俺の目を一瞬見たあと、嬉しそうにまた頭を下げた。
そんな長いようで短い時間は地割れの音とともにかき消された。
「オラァ!」
「っ!」
レイが強烈な斬撃で瓦礫の山から脱出してきた。そしてその直後、リーリアが立ち上がり俺の盾となるよう咄嗟に前に出た。
「魔族の野郎、出口を塞いでやがったなっ!」
以前の魔族侵攻で建物でも崩れた後かと思っていたが、どうやら違ったようだ。
すると、彼は俺を横目で見つけると同時に手を挙げた。
「エレインっ、こんなところで何してんだ?」
それは俺のセリフでもある。どうして瓦礫の中から飛び出してきたのだろうか。
「どうしても何も俺はただ……」
「エレインがいるのっ?」
視界には映っていないがミリシアの声が聞こえてきた。
そして、それと同時に魔の気配が強まってくる。彼らは魔族と戦っているのだろうか。
「レイ、何があったんだ」
俺はイレイラを引き抜いて戦闘態勢に入る。リーリアも俺に倣って双剣をスカートの中から取り出した。
「魔族の野郎が俺らを挟み撃ちにしてきやがってよっ。それで出口を探してたってところだぜ」
そう余裕そうに彼が言う。
確かに地下という狭い空間では彼の本領は発揮されないことだろうからな。
「まぁいい。倒すだけだからな」
俺がそう言った途端、瓦礫の中から生徒を含めた八人が出てきた。
アレクが生徒を守るように応戦しながら、ミリシアが案内していたのだろう。かなりの速度でこの場所へと走ってきたことが生徒の様子からわかる。彼らはヘトヘトになりながらも必死な表情で彼女の後ろへと引っ付くように走っていたのだろう。
相当な訓練でも積んでいなければ彼らの速度に追いつけないからな。ミリシアも生徒のペースに合わせていたようで良かったが、本来なら取り残されていてもおかしくない。
「エレインっ、お願い!」
そう言って瓦礫の山から飛び出してきた彼女は俺を見つけるなり、そう声を上げた。
俺は目を閉じ、魔の気配を頼りに魔族の数を把握する。どうやら六〇体ほどの魔族がまだ地下の空間にいるようだ。
この様子から奇襲を仕掛けられたのだろうか。そもそもこんなところにこれほど大量の魔族がいること自体がおかしいのだからな。
まぁそのことは後で話を聞こう。今は魔族の処理に取り掛かる方がいいだろう。
「ふっ」
大地を蹴り、俊足で俺はアレクの援護へと向かう。
イレイラをシュンッと一振りすると魔族の腹部に一閃が走る。間合いの外だろうと距離さえしっかりと把握すればこの聖剣の能力で攻撃を与えることが可能だ。
「ガァバァア!」
魔族は咆哮と共に倒れると、後ろで待機していた魔族が次々と溢れかえってくる。
その様子を見ていたアレクがさっと俺の横へと立って態勢を整えた。
「ここまでの数とはね。でも、広い場所に出た以上は僕たちが有利だよ」
「余裕、だな」
俺はアレクの突撃と合わせるように攻撃を開始した。
それにしてもアレクは俺の知らない間に戦い方を変えたのだろうか。地下施設の頃とはまた違った立ち回りをしている。それに彼の攻撃は非常に大胆かつ正確になっている。
繊細な連続技を得意としていた彼なのだが、そのような面影はどこにもない。
彼なりに何か変化があったということなのだろうな。
「はっ」
彼の一撃は非常に強力だ。一振りするだけで魔族の皮膚が大きく抉れ、大量の血飛沫が飛び散る。
聖剣の能力のおかげという可能性もあるとはいえ、積極的な戦い方に変化しているのは間違いないようだ。
俺は彼の立ち回りの邪魔にならないように立ち回る必要があるだろう。
それからレイの参戦もあって魔族の群れは数分で片付いた。
「……それにしてもどうしてこんなところに魔族がいるんだ?」
「全くわからないね」
「私たち、急に出動命令が出て地下連絡通路に入っただけだから……。生徒たちは少しでも協力したいって付いてきたのよ」
詳しい話を聞いてみたのだが、魔族の残党がいたとの報告があって地下通路に来たところ想定以上の魔族が挟み撃ちを仕掛けてきたようであった。
彼女たちが嘘をついているというわけでもないからな。当然、その連絡をしてきた議員の秘書というのが怪しくなってくるのだが、まぁ俺が考えたところで事態は変わることはないか。
とりあえずはみんなが無事に魔族の奇襲を切り抜けたということを喜ぶべきだろう。
こんにちは、結坂有です。
更新が深夜になってしまいましたが、いかがだったでしょうか。
これから裏切り者の調査が本格的に始まっていきそうですね。
それでは次回もお楽しみに。
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