魔族の本群
俺、エレインはまだ岩場にいた。
ルカの大聖剣を俺に握らせた理由を聞いていたのだ。
どうやら彼女は大聖剣を持てる人間を探していたようだ。それで俺に白羽の矢が立ったということらしい。
「やはり私の直感は間違っていなかったな」
一通り彼女の話を聞いていると、そう言って俺の肩を叩いた。
「そうとは言ってもだな。俺にはその剣を扱えるような人材ではないと思うが?」
「ふむ、それはどうしてだ」
理由はいくつもあるのだが、大きな理由はその大聖剣は振るうための形状ではないということだ。
俺は剣を振るう剣術においてはかなり自信がある。しかし、聖剣の能力だけで戦うといった戦い方はあまり得意としていない。それをするのであれば、幼い頃から聖剣を使う鍛錬を積んでいた人の方がいいと思うのだがな。
「俺の戦い方に合っていないような気がするからな」
「ふふっ、確かにそうだろう。お前は己の技術を駆使して戦う人間だからな。とは言ってもこの大聖剣はただ能力が高いと言うだけではないのだぞ?」
「ああ、それの剣を取り出した時から分かっていた。だが、それでも俺が扱う必要はないとは思う」
強力な聖剣は確かに俺が使ったとしても強さは変わらないが、俺が持つ理由は何一つない。
複数の人間が強い聖剣を持っている方が色々と都合が良いからだ。俺が複数の聖剣を持っていたとしても俺は一人しかいないのだ。
「なるほどな。そこまでしてこの大聖剣を持ちたくないか」
「俺以外持ち主がいなければ話は別だがな。エルラトラムには俺以外にも素質のある人間はいるはずだ」
「ふむ、それは考慮しておくとしよう」
彼女はどうやら納得したようだ。
流石にこの国の全ての人間に試すようなことはしないと思うが、そのうち洗われることだろう。
「エレイン様はこの世界で唯一だと思います。エレイン様のような人は他にいないですよ」
すると、リーリアはそう言ってルカに気づかれないように俺の背中へと密着してきた。
学院に入学した時から思っていたのだが、彼女はルカのことが苦手なのだろうか。
まぁ人は誰でも苦手な人がいることだからな。このような態度を取るのは仕方のないことだろう。
そんなことを考えていると強力な魔族の気配が突如にして現れる。
「……おもしれぇ力を持ってやがるな?」
低く悍ましい低音が響く。
その声はどこか帝国に攻撃命令を出したと思われる魔族の司令官に似ているような気がした。
「上位の魔族か。どうしてこんなところに?」
ルカは余裕そうに振り返ると巨大な肉体を持った魔族は彼女を見下すように口を開いた。
「人間如きが持っていい力じゃねぇな」
「悪いが、狩りをしに来たわけではない。死にたくなければ立ち去るといい」
魔族の低い声に臆することなくルカが睨み返す。
それに対して魔族は不気味に口角を釣り上げた。
「俺様だけと侮っているようだが、この数を見ても余裕そうにしていられるのか?」
目の前の魔族がそういうと滅紫の煙が発生し、その中から大量の魔族が流れ込んでくる。
「へっ、散々下位の奴らの世話になったようだからよ。お礼を言いに来たってわけだっ」
そう言って目の前の魔族は大きく腕を振り上げる。
滅紫の煙がその巨大な腕で振り払われると魔族の全貌が見えてきた。
その数は以前、この国を攻め込んできたそれとは比べ物にならないほどの数がいた。そして、その数は奥の崖下にも存在しているようで有に千を超える数がいるのだろう。
「ふふっ、以前の戦いでは力を発揮することはなかったのだがまぁいい。私の可愛らしい教え子の前だしな」
「何をするつもりだ?」
「教師であるこの私が教え子より弱いわけがないだろう」
そう言って彼女は再び煉獄の門を開き、大聖剣を取り出した。
「私の大奥義を見るがいい」
すると、彼女はその大聖剣を自らの腹部に突き刺す。
「”我が煉獄の嵐よ、今こそその力を示せ”」
「っ! お前ら岩陰に逃げろっ」
目の前の魔族がそう背後にいる仲間にそう言った直後、視界が真っ赤になるほどの強烈な光がこの一帯を覆う。
「エレイン様っ」
リーリアは咄嗟に俺の覆い被さるように俺を守る。
地面を見ると一瞬にして炭化していることがわかる。先程まで白かった岩肌は石炭のように黒くなっている。
「嘘だろっ」
強烈な赤い光でよく見えないが、魔族が蒸発していくように消えていくのがうっすらと見える。
これが四氏族の大聖剣本来の力なのだろう。
大きく分けて聖剣と大聖剣がある。とは言ってもこれほどに力の差があるというのならもはや大聖剣の枠を超えているようにも思える。この力は神のそれに等しいに違いない。
「……っ!」
力を発揮したルカは腹部に突き刺さった剣を引き抜くと、すぐに膝をついた。
それと同時に強烈な光は収まり、視界が晴れていく。
「……ふふっ、まだ立っていられるとはな」
ルカが息切れを押し殺すようにそう言った。
「くそがっ。この攻撃で国ごと滅ぼしてやろうと思っていたのだが、かなりの数を失ってしまったじゃねぇかっ!」
「全滅させることができなかったのは私のミス、もう一度……」
彼女の力はもうほとんど残されていないことだろう。これ以上体を酷使すれば命に関わる。
俺は彼女の前に立って剣を止める。
「気配と音で残りの魔族は百と少しだ。俺に任せろ」
「何をするつもりだ」
「自然を制する力は対価がいると聞いているからな」
俺はイレイラを引き抜くと、ルカの前で初めて自らの本気の構えを取る。
全身の肉を焼かれた目の前の魔族は俺の構えを見てもすぐに動くことはできない。ということは十分に精神を整える時間があるということだ。
「……本気の技を見せてくれたのだ。それに見合うことをしよう」
魔剣を使った時間を止めるやり方は意味がない。
しかし、このイレイラなら能力を発揮しても目で見ることができる。
「これが、お前の構えなのか」
ルカは俺の構えを見て感心しているが、これの元となっているものはそこまで珍しいものでもないはずだ。
まぁそんなことはどうでもいいか。今は目の前にいる魔族の群れに集中することにしよう。
「てめぇ、弱そうだが本当に俺たちを倒せると思っているのか?」
「……」
俺は目を閉じてこの一帯にいる魔族の全ての位置を把握する。空気の流れや足音、呼吸音から心音まで全てを五感で感じ取ることでそれは可能だ。
「仕掛けてこないのなら俺様からっ!」
大きな一歩で目の前の魔族が俺に迫ってくる。
相手が俺の間合いに入るまでの刹那の時間、俺は全神経を剣先へと集中させる。
「オラァ!」
「ふんっ!」
神速で袈裟斬りを間合いに入ってきた魔族へと与える。
シュズゥオンッ!
そしてその直後、神速の剣撃がイレイラの能力によって無数に展開され全ての魔族へとその一撃が走る。
空気が震え、轟音とともに魔族の体が両断されていくのであった。
こんにちは、結坂有です。
一日空いてしまいました…
申し訳ございません
魔族の本隊が現れてしまいましたが、ルカの大聖剣の力であったりエレインの本気の一撃であったりと一瞬で倒してしまいました。
それでは次回もお楽しみに。
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