挑発的な行動
議会の中に裏切り者がいることは明らかなのだが、全くと言っていいほど手がかりがない。
俺、ブラドはフィレスとともに議員の調査を今日も行なっていた。
とは言っても昨日とほとんど進展はないのだがな。
「今日も特に変わった様子はなかったですね」
彼女は資料の入った鞄を大事そうに抱えてそう言った。
確かにナリアを襲ったりといった目立つような行動はしていないように思える。
早いうちに正体を暴かないと何をするかわかったことではないからな。今すぐにでも捕まえたいところだ。
「あの人……」
そう言ってフィレスは一人の女性を指さした。
少し焦った様子で議員の部屋へと向かっていく。いったい何があったのだろうか。
「ここ最近は変わったことなどなかったのだが、あの様子は少し妙だな」
「はい。調べてみますか?」
「その方がいいだろうな」
俺がそう言うと彼女は鞄をベルトで腰に固定した。
それから目の前を足速に歩いて行く女性の後をつけることにした。
議会の二階部分にはいくつも部屋があり、議員の個室が設けられている。その女性はある議員の個室へと入るとすぐに部屋の鍵を閉めた。
「何か重要な話でもあるのでしょうか」
「わからないが、調べる価値はありそうだな」
だが、個室の扉に耳を当てたところで部屋の中の音を聞くことはできない。別の手段で音を聞く必要があるだろう。
「……あそこから侵入できないでしょうか」
そう言ってフィレスが廊下の天井を見ながらそういった。
そこには各部屋に繋がっている通気口のようなものだ。確かに彼女の体格なら入れそうではある。
「フィレスなら入れそうだな。頼めるか?」
「はい。任せてくださいっ」
すると、彼女は勢いよく飛び上がり通気口へと音を立てないで侵入していった。鞄を腰に固定しているために身軽に動けるのだろう。ただ、そうとは言っても彼女の身体能力があっての芸当だがな。
あの部屋の議員のことは彼女に任せて俺は別の調査を始めることにした。
議員の部屋に入っていった女性はどうやら秘書のようで何かの連絡をしていたようだ。
俺は事務室へと向かい手がかりがないかと調べることにした。
「こちらが最新の記録になります」
そう言って事務員が議会で行われている記録の一覧を持ってきてくれた。
毎日様々な情報が錯綜しているこの議会ではたった数時間で十冊を超える情報がやりとりがなされている。
国内のことだけでなく、国外に向けての議事録などもあるからだ。
「国内のものは?」
「はい。この束が国内に関する議事録です」
俺はその束の資料を調べてみることにした。
この事務室へ先日、情報を隠蔽などを行なっていた奴らを処分した。そのためここに集まってくる情報は全て厳格に処理されることになった。
当然ながら、こうして俺が記録を調べている間にも新たな資料が事務室に入ってきている。
こうして調べているだけでは何もわからないか。
「最近変わったことはないか?」
「……そうですね。小さき盾に関する資料が多いのです」
「小さき盾?」
「はいっ。とてもお強い集団だと聞いていますが、なかなか詳しい情報がないのですよね」
確かに小さき盾の実態は一部の人しか知っていないことだろう。
ミリシアとアレク、そしてレイ、ユウナの四人。彼らはこの国で最も強い部隊と言っても過言ではない。
正直聖騎士団全員で囲んだとしても倒すことはできないはずだ。それほどの人間がたった一五歳と言うのは誰もが信じられないことだろう。そのため、アレイシア議長が年齢を変えたと言っていた。
まぁ妥当な判断だろうがな。
「どういった資料が多いんだ」
「えっと、さっき書類になるのですが、これですね」
そう言って資料の束から一つの冊子を取り出した。どうやらそれは小さき盾の出動命令のようだ。
どういった理由で出動命令が出ているのかが書かれている。
「早速か?」
「そうみたいですね。なんでも今国内に聖騎士団がほとんどいないようなので……」
最近、魔族の襲撃があったというのに聖騎士団は一体何をしているのだろうか。普通であれば防衛を固めるために聖騎士団は多く確保しておくのだが、どうやらどこかへと遠征に向かっているらしい。
「聖騎士団の遠征要請は誰がした?」
「確か、シュレイザー議員だった気がします。ほら、小さき盾の出撃命令も彼が出していますよ」
そう言って事務員の人は書類の下の方を指さした。
シュレイザー議員、彼のことはよく知らないが、今フィレスが調べてくれている議員の部屋も彼の個室だったな。
もう少し彼について調べる必要があるか、それとも強行に出るかどっちかだろうな。
「協力感謝する」
「いえいえ、ブラドさんのおかげでこの職場も働きやすくなりましたから」
言われてみればここの職場環境は最悪と言っていい状況だった。情報は隠蔽、改竄する上に職員に圧力をかけたりもしていたようだからな。
そんな状況と比べれば今の環境は働きやすいと言っていいだろう。
「これからも頼む」
「はいっ」
それから俺はフィレスが盗聴してくれている場所へと向かった。
先程の廊下へと戻ってくるとフィレスが通気口から降りていた。
「どうだった?」
「会話が途中からだったのですが、小さき盾が魔族を討伐しに向かったと言っていましたね」
「ああ、事務室の記録にもそう書かれていたからな」
先ほど事務室で調べた小さき盾の出撃命令には地下連絡通路の魔族残党の討伐と書かれていた。
おそらくはそのことで連絡をしていたようだ。
「ただ、気になる会話といえば、学院生が何人か小さき盾と同行することになっていると言っていました。議員はどこか焦った様子でしたが、なんだったのでしょうか」
「……直接聞けばいいだけだ」
「え? ちょっと」
俺はシュレイザー議員の扉を蹴り破った。
ドシャンッと扉の木片が飛び散り、その中を俺の分身が流れ込んでいく。
「なっ」
「きゃあ!」
複数の人間の悲鳴が聞こえている。
「な、何者だ!」
「議員という権力を横行、心当たりはあるな?」
「なんのことだか……」
「詳しい話は後で聞こう」
そう言って俺は分身に彼らを拘束させて、地下にある諜報部隊の本部へと連行した。
◆◆◆
「ミリシア、こいつらものすごい数がいるぞっ」
斬っても斬っても暗闇の中から大量の魔族が湧いて出てくる。
そのどれもがそこまで強いわけでも巨大なわけでもない。それでも数の暴力か、私たちに圧力をかけている。
レイの怪力はこの狭い場所ではそこまで役に立たないことだろう。下手をすればこの地下通路が崩壊してしまう可能性があるからだ。
それに私の魔剣も暴れることもできず、アレクも聖剣も能力を発揮できずにいた。
「……俺たちも手伝いますっ」
すると、生徒の一人がそう声を上げた。
「え?」
「先生ばかりに負担はかけたくありませんからっ」
生徒たちが剣を引き抜いた。
「狭い場所での戦闘はいろいろと制限がありますよね」
「数で押し負けているのなら、こちらも戦力を増やすまでですっ」
そう言って彼らは各々の流派の構えを取る。
最初見た時とは比べものにならないほどにしっかりとした構えを取っており、彼らの成長を肌で感じた。
「はあっ!」
一人の生徒が剣を大きく振り下ろすと強烈な風圧が発生し、魔族の動きを鈍らせる。
そして、それを皮切りに生徒たちが魔族へと突撃する。
彼らの斬撃はまだ未熟ながらも、あの弱い魔族を倒すには十分だ。
「へっ、援護は任せろっ」
レイも生徒の勢いを崩さないように援護へと回る。
私もそれに倣って援護に出る。
一気に六人も戦力が増えた。魔族の数も多いものだが、確実に掃討できることだろう。
魔族の全滅、もしくは撤退はもはや時間の問題となっている。
まぁ、私たちが逃がすわけがないのだけどね。
こんにちは、結坂有です。
ミリシアたちはどうやら大丈夫そうですね。
それにしても議員は一体何が目的だったのでしょうか。
そして、エレインの方は何もなかったのか。気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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