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実戦を積むということ

 今日の訓練もそろそろ終わりとなってきた。

 夕日が空を赤く染めた頃、一人の女性が私たちが生徒たちに訓練指導をしているこの中庭へとやってきた。


「小さき盾のみなさん、出撃命令が出ました」


 生徒たちが訓練をしている中、女性のその一声が響いた。

 もちろん、生徒は何が起きているのか理解できない状況で私たちの方を向いているが、当の私たちですら理解に追いついていない。


「出撃命令?」


 真っ先に声を上げたのはレイの方だった。


「はい。地下連絡通路の調査中に潜伏していた魔族が暴れ出したようです」


 あれから一週間ほど経っているとはいえ、まだ魔族が潜んでいたとは驚きだ。私たちが思っている以上に魔族は根気強いのかもしれない。

 いや、そんなことは今はどうでもいい。


「聖騎士団はどうなっているのかな?」


 私が疑問に思ったことはどうやらアレクも疑問に思ったそうで、私よりも早くにそう質問した。


「聖騎士団は別の任務ですぐに国内に戻って来ません。それに議会軍なるものは今はこの国にはないので、今は小さき盾の皆さんに頼るしかないのです」


 私たちの疑問にそう丁寧に答えた彼女はどこか淡々としている。

 事前にこう答えるようにと命令されているかのようだ。

 まぁ想定される質問だろうからありえない話ではないか。


「へっ、まだ魔族が潜んでやがるとはなっ。なかなか魔族ってのもしぶといぜ」

「でも少し妙ではないかな? 彼らにあの地下通路で潜んでいる理由がないと思うけどね」


 確かにアレクの言っている通りだ。

 地下通路といえど、エルラトラム国内で潜伏しても奇襲を仕掛けれる可能性は低いと考えるのが普通だ。

 運が悪いのか聖騎士団は遠征中で今は国内にいないというのも気になる点だが、今はそんなことを考えているより魔族をどうにかするべきだろう。

 また寮が狙われては被害者が増えるだけだからだ。


「詳しいことは後で話しましょう。今は潜伏している魔族を倒しに行かないと」


 私がそう言うとアレクとレイは大きく頷いた。

 それと同時に生徒たちは私たちをまっすぐな目で見つめて何かを言いたそうにしている。


「どうしたの?」

「……俺たちも何か役に立てないかなと思ってさ」

「今まで訓練を積んできたわけだし、少しは強くなっただろ?」


 彼らの言うように訓練を始めた頃と比べてかなり強くなっているとは思うが、まだ実戦をさせるには尚早だとも言える。


「いいんじゃねぇか? フォローなら俺らがなんとかできることだしよ」


 レイは彼らが魔族の掃討に向かわせても問題はないと思っているそうだ。

 私たちであれば彼らの援護は容易にできることだ。


「そうね。そろそろ実戦を交えた訓練もいいかもね」


 ここは一つはったりを連絡しに来てくれた彼女に仕掛けることにしよう。


「ですが、生徒の魔族討伐は違法ですっ」


 やはり生徒たちの同行は認められないか。

 自衛行為を超えた魔族の討伐、これはこの国で違法とされている。聖騎士団か議会軍などの特別な許可を受けた人でしか魔族を殺すことができないからだ。

 当然ながら、彼女は否定するしかできない。


「だけど、この国には聖騎士団はいないよね。議会軍も解散して今はいない。そんなことを言っている場合ではないと思う。まぁ僕たちは法律をそこまで知らないからね」


 アレクも私がやりたいことをすぐに理解したようで彼女へとそう圧力をかけてくれた。

 彼女には少し申し訳ないのだけど、この事態を起こしたのはおそらく彼女の上司なのだろう。

 それを引き出すにはこうして圧力をかけ続けるしかない。

 上層の人間というのは自分の手を汚したくない。だから、部下などを使って悪事を働くものだ。

 ということはその部下から正体を暴くこともできることだろう。


「……」

「あ? 人手が増えんだからいいだろ?」


 理解しているのかはわからないが、レイも彼女へと圧力をかけてくれているようだ。

 私たちの発言にはどこにも欠点がないように思える。


「わかりました。上の方にはそう連絡いたします」

「そうしてくれると助かるわ。あとは私たちに任せて」

「はい」


 そう言って彼女は急足で議会の方へと向かったようだ。

 そして、すぐに私たちの方も生徒の選別を開始した。

 流石に五〇人もいる生徒全員が討伐に向かうのはいくらなんでも多過ぎる上に、私たちが全員を援護できるのかもわからない。

 ある程度、実力のある生徒を私たちで選ぶことにした。

 それで六人程度に選び出すと、すぐに私たちは地下連絡通路へと向かうことにした。


 地下連絡通路へと向かうにつれて魔の気配が強まっていくのを感じる。それは六人の生徒にも感じたようで彼らの手が徐々に震え始める。


「大丈夫よ。最初は怖いと思うわ。でも一回剣を振るえば感覚が掴めるはずよ」

「おうよ。最初は誰でも怖いもんだぜ」


 生徒たちは意外そうにレイの方を向いた。

 確かに今の彼の様子からは想像できないのかもしれないが、彼は幼少の訓練期はかなり臆病だったと聞いている。

 まぁその話が生徒たちに良い影響になってくれることを願うしかないか。

 そして、先日魔族によって穴が開けられた場所から地下連絡通路に入っていく。

 通路内では誰かが何者かと戦っているのか、剣を交わす音などが聞こえてくる。若干な違和感を覚えつつも私たちはゆっくりと連絡通路を進んでいく。


「っ!」


 反対側の通路から人の気配を感じたが、私たちに向けて殺気を放ってきている。。

 すぐにアレクが私たちの後ろの方へと走る。


「レイっ。生徒を頼むわね」

「おうっ」


 私はそう言ってアレクと同じ方向へと走っていく。

 すると、三本の投げナイフが飛ばされる。


「ふっ」


 そのうちの二本はアレクの方へと向かった。彼はそれを軽く回すように剣で防ぎ、私も最後の一本も防ぐ。

 そして、暗闇の中から二人の男性が現れた。

 明らかに人間のように見える。


「人、なのか?」

「魔族の眷属……今から死ぬお前らには関係のない話さ」


 アレクの殺気の籠ったに臆することなく男は淡々と話す。


「はっ!」


 すると、二人は剣を引き抜いて私たちの方へと突撃してくる。

 その速度は人間とは違い、明らかに魔の力であることはすぐにわかった。


「くっ……ミリシア、わかっているね?」

「ええ、容赦はしないわ」


 人を殺すことに抵抗のある彼は目を閉じて集中した。

 魔族の眷属として人間を捨てた彼らを敵だと認識するためにだ。それは彼の欠点でもあるが、正義心が強いとも言える。長所でもあり短所でもあるということだ。


「ふっ」


 アレクの動きに合わせて私も一歩前に出る。それと同時に相手は剣を突き出してくる。


 キャリンッ!


 火花を散らさないように私は相手の攻撃を防ぐ。うまくできているのかはわからないが、これはエレインのやっていた防御法と似ている。

 火花が出るということは剣が削れているということ、自分の剣を守る意味でもそうしている。もちろん、アレクも私と同じように男の攻撃を防いだ。


「アッグッ!」


 攻撃をうまく防ぎ、強力な一撃が男の腹部を斬り裂いた。

 私も男の攻撃を受け止め、即座に反撃する。


「がっ!」


 私の細い剣先が相手の胸部を貫く。

 すると、後ろの方からレイの声が聞こえてきた。


「こ、こいつらっ!」


 振り返ってみてみるとレイは大きな魔族の相手をしていた。

 その様子を見て胸部を貫かれている男は口角を上げた。


「……ここからの出口は限られている。お前たちを挟み撃ちにしたってことだよっ」


 そう男が言うとすぐに膝から頽れた。

 そして、奥からドンッドンッと重たい足音が響いてくる。

 私たちを罠に嵌めたということだろうか。


「嫌な予感、的中だね」


 アレクはどこか余裕そうな表情をしている。もちろん、この程度の罠で私たちを倒そうなんてふざけている。


「私はレイと生徒を守るわ。アレクは生徒の援護をしてくれる?」

「うん、わかった」


 そう言ってすぐにアレクは後ろの生徒の方へと走っていく。

 何か裏があるだろうと思っていたが、やはりこういうことだったか。私は剣を背後にして防衛の構えを取る。

 暗闇でわからないとはいえ、足音から察するに九体程が目の前から迫ってきている。

 それから私は狭い場所での戦闘のお手本となるように丁寧に戦うことにした。

 まぁ生徒たちが一体どこまで私たちの動きを見ているのか気になるのだけどね。

こんにちは、結坂有です。


激しい戦闘が始まりそうですね。

そして、議会の裏切り者は捕まえることができるのでしょうか。小さき盾の負担を減らすためにも早くしなければいけないみたいですね。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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