人間ではない力
私、ナリアは今日初めてエレインと訓練をした。
彼のことは強いと知っていた。だが、どこまで強いのか、ミリシアたち以上に強いのかはわからなかった。
どこか自分の中で彼女たちと同じぐらいだろうと考えていたのは間違いだったようだ。
その理由としてユウナが他の人たちよりもエレインに対して慕っていることでもわかるが、何よりもどのような武器でも自分の強さを維持できているという点だ。
ミリシアやアレクは確かに強いが、それらは自分の得意な武器を使っているからだ。特にミリシアに関して言えば、細身の剣以外は扱うことができない。アレクも彼女よりかは扱える武器は多いとはいえ限られている。
ただ、レイはそういったわけではない。圧倒的な体術でどのような武器でも一定の強さを維持できている。しかし、それも一定の強さというだけだ。エレインのようなものとは比べ物にならない。
彼は一体何者なのだろうか。
私が感じただけでも彼は別格だとわかる。
「エレイン様、お昼の準備ができました」
訓練場に顔を出してきたのはエレインのメイドのリーリアだ。
「ああ、すぐに行く」
ユウナに新しい技を教えていたエレインは彼女に対してそう返事をした。
それにしても、彼の顔には汗ひとつない。まだ本気を出していないというのだろうか。
彼が本気を出した場合、私やユウナが追いつけるようなものではないことは理解している。
それでも私は気になった。
一通り訓練を終わらせるとエレインとセシルは昼食へと向かった。
私たちも地下部屋でお昼を食べることにした。昼食とはいってもおにぎりと野菜炒めを作った程度だが。
「ねぇ」
「ん? なんですか?」
必要な量を皿に盛り付けてソファに座ると私はすぐにユウナに話しかけた。
「エレインとユウナはどういった関係なの?」
「うーん、深い関係ではないですね。幼い頃に訓練をともにしていたってだけですよ」
そのことは以前にも聞いたことがある。
ただ、それだけではないような気もする。
「それだけ?」
「……今となっては恥ずかしいことかもしれないですけど、憧れ? そういった存在ではありました」
なるほど、だから見様見真似で彼の真似をしていたと言っていたのか。確かに体の形だけを見ればエレインとかなり近い動きをしていた。
「憧れ、ね。その時ぐらいからそんなに強かったの?」
「もちろんですっ。対人戦を基本とした訓練をたくさんしていたのですが、一度も彼が負けたことはなかったですよ」
子供の頃から負けなし。その一言を聞くだけで強過ぎると言うことはわかる。
でもなぜだろうか。特別一人だけ強かったというのは妙だ。
同じように周りの子も訓練を受けていたのだとしたら、実力は同じぐらいになるはずだ。
一人だけ突出して強くなることはないようにも思える。
「負けなかったのってどうして? 周りの子も強かったんでしょ?」
「強かったのですが、エレイン様だけは特別だったのかもしれません。何せ、対人戦以外の訓練も全てクリアしていますから」
「……たとえばどのような訓練?」
それからユウナから幼少期の訓練の話を聞かせてもらった。
覚えきれないような訓練もあったそうで、その全てを話してくれたわけではないがとんでもない訓練をしていたのはよくわかった。
まずは感覚を遮断した状態での対人戦、手足の感覚はもちろん視覚や聴覚などの五感も失うことになる。その状態ではまともに立つことも難しく、ましてや剣を握って振るうこともできないことだろう。
そんな状態でも彼は何事もなく訓練を終えたという。
そのほかには無数の糸が無作為に張り巡らされた場所での訓練だ。糸に触れるだけでも失格となる厳しいもののようだが、糸は透明で暗い場所での戦闘訓練だ。
ユウナは一瞬で糸に服が擦れてしまって失格となってしまったが、エレインもそんな状況下で最終段階に進んでクリアした。
そして、その中でも特に厳しい訓練と言っていたのが、一〇〇体の石でできた人形を五分以内に木剣で全て斬り倒すという訓練だ。
普通に考えて木と石とでは耐久度が全く違う。それでもエレインはたったの三〇秒で終えたという。当然ながら、ユウナは一体も斬ることができずに
そんな話を聞くだけで幼少期から異常だったということがわかった。いや、異常という言葉では済まされない。もはや人間ではないような気がする。
「私が話した以外にもいろんな訓練があったけれど、エレイン様は全て成功していました」
「本当にありえない人なのね。憧れるのも無理はないわ」
私がそう言うとユウナは少し頭を下げて、ゆっくりと口を開いた。
「……最初は怖いとすら思っていました。でも、剣術の指導を受けているときにエレイン様が私に自信を付けてくれたのです」
「自信?」
「はい。型を覚えることに必死だった当時の私は対人戦もそこまで成績が良くなかったのです。そんな中、剣術指導者の人と戦う訓練があって、その時にエレイン様は私に勝ち方を教えてくれました」
詳しく話を聞くとどうやら指導者の人と二体一で戦う訓練だったようで、エレインは受け身となることでユウナに攻撃の隙を与えたのだそうだ。
実際の戦闘で囮となる人を立たせるやり方は確かに有効的だ。しかし、それを幼少期の彼が考え行動したというのは驚いた。
「そんな彼を私は一度でも怖いと思ってしまったことが私の最大の罪です」
「……罪なのね」
「はい。だから一生、エレイン様に仕える存在でいたいです。それでも許されるようなものでもないのですが」
「そこまで気にするほどでもないと思うけれどね。でも、あなたがそこまで言うのなら私もエレインのことを知りたいわ」
ユウナは真面目な人間だ。
エレインが気にしていないようなことだろうと彼女は真剣に受け止めてしっかりと考えるのだろう。
だからこそ、彼女はこれからも強くなれるはずだ。
私が子供だった頃なんて楽なものだ。棒術の訓練は楽しいから受けていただけだ。彼女たちのように必死になって取り組んでいたわけでもない。
「エレイン様のこと、知りたいのですか?」
「ええ、あなたの一言でね」
「でしたら、ナリアさんも私と同じですねっ」
そういった彼女はどこか嬉しそうで、そしてどこか悲しそうでもあった。
こんにちは、結坂有です。
エレインの強さの秘密に迫るような回でしたね。
訓練内容はとても子供のなせるようなものではなかったようですが、一体エレインは何者なのでしょうか。
本当に人間ではないのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。
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