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訓練生の疑問

 学院にきて数時間経った。

 午前の訓練はある程度終えた。

 生徒たちも朝の時と比べればかなり身体の使い方が上達しているように見える。まぁ今は意識してできるようになっているだけなのかもしれないが、それでも進歩だろう。


「そろそろ昼にすっか?」


 レイがそう話しかけてきた。

 私とアレク、レイとで手分けして五〇人もの生徒の訓練を見ており、すでに彼の見ていた生徒たちは疲れ切っている様子であった。

 訓練中も横目で彼の様子を窺っていたが、私からしてもハードな指導をしていた。不安定な丸太の上を片足で立ち、その状態で素振りを一〇〇回というものだ。

 確かに体幹は鍛えられるとはいえ、初心者である生徒たちには五回も木剣を振ることができない。当然ながら、生徒たちからすれば心身ともに疲弊したことだろう。


「……そうね。その様子だとお腹も空いているだろうしね」

「それじゃ、僕たちも休憩にしようか」


 私とレイの会話を聞いていたのかアレクもそう訓練を中断した。

 彼の訓練はとても基本的なばかりで、レイのように複雑な訓練はしていなかった様子だ。生徒たちもそこまで疲れている様子ではないが、明らかに朝とは体の動かし方が違う。まず、歩き方から少し変わってきている。

 自分の重心を意識した動き、全ての基礎となるものだ。


「アレクの生徒はかなり上達してるみたいだけど……」

「君と同じぐらいだよ。僕の方はまだ無駄な筋力を使っている人もいるからね」


 アレクと違い、重心の使い方を主体に教えていない。私の指導している生徒たちは筋力をうまくコントロールできていない人が多いため、そのあたりの指導から始めた。


「そんなふうには見えないけどね」

「あ? そんなこと、後でいいから飯行くぞ?」


 レイのそんな一言で私たちは食堂へと向かった。

 食堂に入ると料理の香りが漂ってくる。いつもここでエレインが食事をしていると思うと少しだけワクワクする。


「それにしてもデケェな」


 生徒の多くが食事をする場所のため、ここはかなりの広さがある。全校生徒が集まっても大丈夫なほどだ。


「毎日こんなところで食事をしているのかな」


 私がそう呟いていると、訓練中ずっと見守っていたルカが話しかけてきた。


「エレインのことか?」

「ええ」

「ふっ、確かにここで食事をすることはあるが、ここの料理を食べているわけではないからな」

「そうなの?」

「ああ、メイドの手作りの弁当を持ってきているらしいぞ」


 それは初耳だ。

 メイドというのはおそらくリーリアのことだろう。彼女もそういったところで彼との好感度を上げているというのか。

 ただでさえ接触の機会が少ない私を突き放すような内容をルカが話した。

 だが、そういったことは私とエレインとの関係ではそこまで関係はないはずだ。何せ、私たちは何年も彼とともに過ごしてきたのだから。


「ま、そこまで気にする必要はない。メイドは確かに厄介な相手かもしれないが、彼女はそこまで積極的に何かをしようとしているわけではないからな」

「……そうなの?」

「必要以上に彼と接しているわけではない」


 どうやら学院では弁当以外ではそこまで関わっているわけでもないのか。いや、そう楽観するのはまだ早いだろう。なにせ、彼女はどんな時でも彼のそばにいる。接触時間が長いほど、信頼もより強くなっていく。

 私自身も彼とは長い付き合いだが、最近はそこまで親密な会話などはしていない。

 彼は私のことをどう思っているのだろうか。


「気にするだけ無駄よね……」

「飯なんてどれも同じだろ?」


 私のこんな思いを知ってか知らずか、レイはそんなことを言った。


 それから昼食を済ませるとまた訓練を再開することとなった。

 それぞれ上達の速さは違えど、確実に強くなっている。実際に私の見ている生徒でも無駄な動きや力が少なくなったことで技のキレが良くなっているのが見て取れる。

 しっかりと訓練の意味を理解すれば、大抵の人はかなり上達するものだ。ただ、彼らが私たちと同じレベルになるのは難しいのかもしれない。

 幼い頃から重点的に指導を受け続け、戦うことだけに集中した生活をしていた私たちとは根本的に戦闘に対する考え方が違う。考え方が違えば、意識も変わってくるのだ。


「ちょっといいか」


 そんなことを考えていると生徒の一人が私に話しかけてきた。

 彼はミゲルだ。ルカから聞いた話なのだが、彼はエレインと戦ったことがあるそうだ。


「どうかしたの?」

「先生の動きはエレインと似ているところがあるんだが、同じ流派だったりするのか?」


 彼がそう私に質問すると、いくつかの生徒が私の方へと向いてくる。

 私やアレク、レイはそれぞれ自分の特徴にあった技術を自ら生み出している。確かに似たような環境で育っていたから技などは彼に近いところがあるが、どう説明したらいいだろうか。


「どこから説明したらいいのかわからないけれど、私たちとエレインはちょっと違うの」

「違う?」


 ミゲルのパートナーであるエイラも話しかけてきた。


「ええ、エレインとは幼い頃にちょっと関わりがあっただけよ。それからはフラドレッド家に引き取られたから」


 咄嗟に思いついた嘘だが、あながち間違いではない。ある程度事実を交えた方が真実味も増すことだろう。


「それにしても、な?」


 ミゲルがパートナーであるエイラにそう聞き返す。

 確かに言及されれば嘘だとバレるようなものだが、そこまで問題になることはない。なぜならエレインと私たちは年齢が違うという設定だからだ。

 いざとなれば私たちがエレインを教えたということにもできる。


「……エレインがどういったことをしているのかはわからないけれど、私たちの真似をしているって可能性もあるわね」

「そ、そうなのか?」

「そうね。私たちの動きを知った状態でフラドレッド流剣術も取り入れたんだと思うわ」

「……だから見たことのねぇ技が使えるわけだな?」


 そうミゲルが自分の中で結論づけて納得したようだ。

 少し無理のある解釈だとは思うが、事実だと言われればそう納得せざるを得ないことだろう。


「でも独学っていうことは事実なのよね? やっぱり私たちが彼に勝つのは厳しいってことだわ」

「ま、そういうことだな」


 そう言って二人はそれぞれの訓練へと向かったようだ。

 そんなことはどうでもいいけれど、エレインには申し訳ないことをした。

 私たちが彼の師匠のような関係だと知ってしまった以上、これは本人に伝えなければいけない。

 エレインはそこまで気にすることはないだろうが、失礼なことをしてしまったのは事実だろう。

こんにちは、結坂有です。


学院の生徒たちの疑問はミリシアたちにとっては少し説明が難しいものだったようですね。


それでは次回もお楽しみに。



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