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訓練はその先へ

 魔族の襲撃の後から三日経った。

 俺、エレインはしばらく自宅で待機することにした。

 もちろん、セシルも俺の家に住み込んでしまっている。まぁ学院の寮の様子から察するにゆっくりとしていられるのはここぐらいだからな。

 魔族の襲撃の後から施設の復旧や魔族の調査とやらで人の出入りが多い。そんな騒がしい環境を彼女が好むとは考えられない。


 ただ、今日は少しいつもとと違った。

 ミリシア、アレク、レイが学院の一部の生徒の訓練指導に向かうのだそうだ。

 果たして彼らにそのようなことができるのかは疑問が残るのだが、少なくとも彼らと訓練を共にした生徒たちは何かを得ることになるだろうな。ミリシアの戦闘の考え方、アレクの華麗な剣捌き、レイの独特な体捌きなどなど生徒にとって大きな刺激になるはずだ。


「エレイン様、今日はどうなされるのですか?」


 彼らが朝食を食べて学院に向かった後にリーリアが話しかけてきた。

 そういえばユウナやナリアの訓練を見てやってほしいとミリシアから頼まれていた。今日は彼女たちの指導をすることにしよう。


「ユウナとナリアの訓練指導を頼まれていたからな。今日はそれをしようと思う」

「わかりました。私はここで昼食の準備でもしておきます」


 そう言ってリーリアは厨房の方へと向かって昼食の下拵えを始めるようだ。

 すると、俺の横に座っているセシルが俺の方を向いた。


「厳しい訓練になりそうなの?」

「レイが言うにはいつもハードな訓練をしているわけではないらしいからな」


 彼の発言は若干ずれているところがあるかもしれないが、激しい戦闘訓練などは最近は控えていたそうだ。

 理由としては無駄な体力の消耗を抑えるためだそうだ。魔族との戦いが本格化する直前から予感はしていたらしいからな。まぁ当然と言えるだろう。


「……つまりは私たちからすればきつい訓練なのね」

「そうかもな」


 とはいえ、この国の一般的な訓練と呼ばれるものと比べればかなり激しいものになるか。


「とりあえず、地下部屋に向かう」

「私も一緒にいいかしら?」

「別に構わない」


 どうやらセシルも訓練をしたいようだ。魔族との戦いから二日も体を休めたため、体を動かしたいのかもしれない。


「他人を指導しているエレインも見てみたいなって思ってね」

「なるほど」


 体を動かす以外にそういった目的があったとはな。学院にいた頃はセシルに指導をしていたことが多かった。だから少し違った様子も知りたいと思ったのだろうな。


 それから地下部屋に向かうとユウナとナリアがソファで待っていた。

 どうやらミリシアが今日出かける前に彼女たちに伝えていたのだろう。


「エレイン様っ。きょ、今日はよろしくお願いしますっ」

「……よろしく頼むわ」


 ユウナはなぜか緊張している様子だ。

 しかし、ナリアとは初めて訓練をする。どういった訓練をしたいのかはまだわからない。


「ナリア、だったか。普段はどういった訓練をしているんだ」

「私はまだ聖剣を持っているわけではないわ。でも、幼い頃から棒術を教わっていてそれの訓練をアレクに教えてもらっていたの」


 なるほど、棒術か。

 棒術は一見すると不便そうに見えるが、実際はそうではない。狭い空間でも使い方によってはかなり有効的に戦うことができる。その上、広い空間ではその長いリーチを利用して戦うこともできる。

 そのためかなり自由度の高いものと言えるだろう。

 とは言っても俺はアレクほど棒術が得意というわけでもないからな。指導できるかどうかは怪しいところだろう。

 それに加えて、ユウナの魔剣も普通の剣とは大きく形状が違う。厄介なのには変わりないが、付き合うと言った以上やらなければいけない。


「わかった。まずは軽く手合わせをしてから考える」

「ええ、そうね」

「は、はいっ」


 まだ緊張しているのかユウナの体が少し硬くなってしまっているが、まぁそのうち改善されることだろう。

 彼女たちはすでに朝食を自分たちで食べて、準備運動も済ませていたようで地上に出るとすぐに二人は素振りを始めた。

 ナリアは棒を、ユウナは自分の武器の形状に作られた木剣を持っている。


「……これが素振り?」

「ああ、変か」

「ちょっとこの時点で私たちと訓練の差があるのね」


 セシルの言っていることがよくわからないが、どうやら彼女からすればこの素振りの時点で変わっている様子だ。

 まぁそのことは置いておいて、二人の分析に入る。


 ユウナはまだ体が硬いものの、しっかりと剣を振るうことができている様子だ。その直線的な剣捌きはミリシアを彷彿とさせるが、体の使い方はレイのそれに近い。

 少しずつではあるものの、自分にあった技を習得しているのだろう。

 ナリアに関しては棒術の構えを完全に自分のものにしているようで、体捌きもかなりのものだ。

 棒の扱いもそうだが、体の動かし方も棒術では重要となってくる。

 アレクの流線的な動きをしっかりと自分のものにしようとしているのが見て取れる。


「だいたい二人の実力はわかった」

「……私がどうこう言える立場ではないわね」


 セシルは目を丸くしてそういった。


「素振りがどうかしたのか?」

「どう見たって素振りじゃないわよ。木剣を振っただけで空間が捻れたように見えるのはおかしいわ。それに距離があるのに私のところまで風圧が伝わってくるし」


 何も普通だと思うのだがな。

 すると、軽く腕を回してユウナが俺に話しかけてきた。


「あ、あの。どうですかね?」

「荒い部分は多少あるものの、十分に上達していると思うがな」

「そうですかっ。ありがとうございます!」


 彼女はそう言って頭を大きく下げた。

 硬くなっていた体も徐々に柔軟性を取り戻してきたようで、この後の本格的な戦闘訓練も身が入ることだろう。


「私はどうなの?」

「ナリアは攻撃の隙が大きい。まぁそれが利点になったりもするがな」

「……どうしたらユウナのように素早く動けるようになるのかしら」

「それだったら一回手合わせするか」


 俺はナリアと同じ棒を手に取って軽く振り回してみる。

 やはり軽いな。

 木とは言っても種類がある。鉄のように重たいものもあれば、空気のように軽いものもある。

 どうやらエルラトラムで使われる棒は一般的なものよりも少し軽いものなのだろうな。


「えっ」

「どうしたんだ?」

「な、なんでも。いつでもいいわよ」


 すると、そう言ってナリアは棒を前に立てて構え始める。


「俺は後手でもいい。先に仕掛けてきて構わない」

「構えないの?」

「基本の型がないのが俺の技術だからな。大丈夫だ」


 ただ、棒を持って楽な体勢を維持しながら、俺はそういった。


「そう、じゃいくわっ」


 そう言って前のめりになり、前傾姿勢で攻撃を仕掛けてくる。

 ミリシアの移動法と同じものだ。地面を蹴らないその動きは相手の反応を遅らせる。


 シュンッ!


 素早く突き出された棒を俺は体をよじることでうまく避ける。

 ただ、ほんの一瞬反応が遅れたことにより、相手が追撃を仕掛けてくる。まぁここまでの動きはいいが、その追撃が非常に甘いものだ。


「はっ」


 ナリアは棒を巧みに操り、素早いステップで俺の方へと追撃を仕掛ける。

 しかし、体に無駄な力が入ってしまっているようだ。これではすぐに体勢を崩すことができる。


 カランッ


 俺は棒を相手の隙を縫うように絡ませると、一気に上方向へと力を加える。


「うそっ!」


 ナリアの棒は頭上に飛ばされ、姿勢を崩される。

 俺は咄嗟に彼女の体を抱き寄せ、倒れるのを防いだ。


「っ!」

「大丈夫か?」

「……大丈夫っ」


 ナリアは顔を真っ赤にしてゆっくりと立ち上がった。

 ただ、セシルが一瞬だけムッとした表情をしたのが妙だった。確かにあの位置では俺の動きが見にくかったことだろうな。


「まだ無駄な力が入っている。それでは簡単に姿勢を崩されてしまう上に、素早さも失われる」

「やっぱりそこなのね。アレクにも言われたけれど、うまくできなくて」


 指摘されているもののまだ意識しないとできないのだろう。

 一瞬の判断を問われる戦闘訓練ではうまく発揮できていないようだ。


「そうだろうな。初めの動きはミリシアから教えてもらったのか?」

「ええ」

「あの移動法は筋力を使わない移動法で重心をうまく使っている。だから、瞬時に相手の懐へと仕掛けることが可能だ。ナリアはもう少し重心移動の訓練が必要だろうな」

「重心移動?」


 追撃するとき、姿勢を変えるのに筋力を使い過ぎた。その隙は小さいようではあるが、かなり大きいものだ。

 それに彼女は体が柔らかいのも特徴だ。その柔軟性も活かすことができれば、少しはミリシアの動きに近づけることができることだろう。


「ああ、上手く使えば……」


 俺はユウナの方を向く。

 彼女との距離は一〇歩ほど先だ。


「え?」


 ユウナは全く無警戒だ。

 当然ながら、彼女は完全に俺の間合いの外だ。しかし、重心をうまく使った移動法を使えば、一瞬で近づくことができる。


「ひゃあ!」


 瞬きの間に俺が近づいたことで彼女はひどく驚いた。

 本来であればもう少し速く移動できるが、ナリアのできる範囲で言えばこれが最速だろう。


「っ!」

「これぐらいの距離でもすぐに詰めることができる。今のは軽くやったつもりだが、ナリアでもできるだろう」

「……今のが、私にできるのかしら」

「十分に体が柔らかいようだからな。できるはずだ」

「頑張ってみるわ」


 あの移動が瞬時にできるようになれば、自然と無駄な力も少なくなることだろう。

 そうすれば、追撃も流れるように繰り出すことができる。彼女には聖剣がない分、そういった技術で強くなってほしいからな。


 それからはユウナの相手もした。

 もちろん、幼少期に俺と同じ訓練をしていただけあって、体の使い方などはかなりいい線まで行っている。

 しかし、独特な形状の剣にまだ慣れていないのか手数が少ない。

 とりあえず、今日は二人の弱点をうまく指導できればいいだろう。アレクやミリシアと同等になることは厳しいが、彼女たちなら近づくぐらいはできるはずだ。

こんにちは、結坂有です。


ユウナとナリア、二人はこれからももっと強くなっていくようですね。

セシルも負けずに強くなっていって欲しいところです。


それでは、次回もお楽しみに。



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