未来のために
私、ミリシアはエレインたちと昼食を食べ終えて、地下部屋に戻っていた。
すると、すぐにナリアが家に戻ってきた。心的にかなり疲れてしまっているようで議会で何かあったのだろうか。
「どうしたんだ? 浮かない顔してよ」
彼女の異様さは誰が見てもわかるほどだ。それにフード付きの服を着ていることから何かがあったのは明らかだ。
「……議会の中に裏切り者がいたの。その人たちに襲われてしまって」
「襲われたのか。そりゃ大変だなっ」
そう言ってレイは剣を持って立ち上がった。
「今はブラドさんが対処してくれているから大丈夫よ。安心して」
「それならいいんだけどよ」
「だけど、議会に裏切り者とはね」
アレクがそう呟くようにいう。
確かに議会の中にもいろんな派閥の議員がいるため、全てがアレイシアの味方をするわけではない。その上、魔族と情報をやりとりしている可能性があるという事実も先ほど昼食を食べているときにリーリアから聞いた。
何が起きているのかはわからないが、人類の敵だということは間違いないことだろう。
「具体的にどういった裏切りなの?」
「私の情報は議会と聖騎士団に知られているわよね。でも、私からは魔の気配が出ているの。それで私が魔族だって勘違いしている人がいるみたいなの」
「裏切り者ではなく、間違った認識をしているだけではないのか?」
「そう単純じゃないみたいよ」
ナリアがそう言うとフードを取ってソファへと力が抜けたように倒れ込んだ。
そして、顔だけを私たちの方へ向けて口を開いた。
「……あなたたちはいつまでも私の味方、なのかしら?」
「おうよ。当然だ」
レイは大きな声でそうすぐに同意するが、私としても少し怪しいと思っている。
普通であれば人間から魔の気配が出ることはないからだ。少なくとも彼女は普通の人間ではない。
とはいえ、私たちに敵対するそぶりもないことから彼女としては人間でいたいと思っているのだろう。
「人間を裏切るようなことをしなければ私たちはいつまでもあなたの味方よ」
「そうだね。正直に言うのなら怪しい動きをすればすぐに敵だと認識するってことだよ」
アレクが正直にそう言った。
まぁ悪い言い方をすればそうなるのだろう。
「……わかった。ありがと」
そう言って彼女はゆっくりと目を閉じた。
相当疲れていたのだろうか。もともと今日は訓練をするつもりはなかったのだ。そのまま彼女を寝かせておくことにした。
そして、数時間経って日暮れの時間になった時。
地下部屋にユレイナが降りてきた。アレイシアが私たちに何か重要な話があるのだそうだ。
呼ばれたのは私とアレク、レイだ。同じ”小さき盾”のメンバーではあるのだが、ユウナは呼ばれることはなかった。
それから階段を上がり、彼女の部屋へと向かうことにした。
ユレイナがノックしてから扉を開ける。
「ごめんね。夕食前に呼んでしまって」
「いいわよ。特に何かをしていたってわけでもないし」
「それで? 俺たちに何のようなんだ」
すると、彼女はほんの少しだけ口を閉じて少し考えた。
それほど重要なことを話そうとしているのだろう。
「あなたたちに学院の教師をお願いしたいと思っているの」
「あ? 教師だ?」
「ええ、あなたたちなら生徒をもっと強くすることができるわよね」
確かに私たちがエレインの通っている学院の生徒たちに教えることができるのなら、彼らをもっと強くさせることは可能なのかもしれない。
少なくとも私たちはこの国で最も強い部隊となっているのだからだ。
ただ、それでも一つだけ問題がある。
「教えることは可能だわ。でも、生徒たちは私たちを信頼してくれるのかしら?」
「どういう意味?」
「アレイシアの言う通り私たちはかなり強い、だから教師として生徒を教育してほしいというのはよくわかるわ。だけど、私たちは生徒と同じ一五歳なの」
「年齢だけは誤魔化せないよね」
そう、同じ年代の人が教師なんて生徒は絶対に反発するだろう。
それもよくわからない人たちだ。当然ながら反感を買うことになるはずだ。
「……一つだけ、方法があるわ」
すると、彼女は険しい表情でつぶやいた。
この年齢という壁はかなり大きい。まさか、年齢を偽るというのだろうか。
言われてみれば、アレイシアは議長だった。個人の情報を変えるぐらい雑作のないことなのかもしれない。
だが、彼女がそんなことをするとも考えられないが……。
「年齢を変更することよ」
どうやら本当に年齢を詐称するようだ。
確かにそれであれば年齢という大きな壁は問題なくなる。あとは私たちがどう強いかを証明するだけではある。のだが、本当にそれでいいのだろうか。
「待ってほしい。僕たちはまだ一五歳だ。大人のふりをするのはいくらなんでも限界があるように思えるけどね」
「それは大丈夫よ。あなたたちは年齢よりも大人に見えるからね。四、五歳程度なら盛ってもわからないわ」
「……レイなんて大人とほとんど見分けつかないからね」
彼は年齢に似合わない体格の持ち主だ。二〇を超えていると言われても誰もおかしいとは思わないかもしれない。
「あ? 老けてるって言いてぇのかっ」
私の言葉にレイがそう反応した。
老けてるって言い方は少し語弊があるが、まぁそういうことで間違いない。
「それよりも年齢を偽るってそう簡単なことなのかしら。私たちの戸籍ってこの前登録されたばかりよね?」
「むしろ登録されたばかりだから都合がいいのよ。何か問題でもあるの?」
変更するのなら早い方がいいということだろうか。別にそれでいいぐらいに調整してくれるのであれば、全く問題はない。
教えることに対してはユウナやナリアに毎日しているからそこまで面倒だとは思っていないし、自分たちの訓練にもなるから反対する意味はほとんどないと言える。
「私は問題ないわ」
「僕も大丈夫だと思うよ」
「老けて見えるってのはなんか癪に障るんだが、まぁ問題ねぇぜ」
レイも特に反対する理由はないそうで、私たちはアレイシアの提案を受け入れることにした。
ユウナやナリアに関しても二人だけで訓練を続けていればかなり強くなれると思う。むしろ、前線で戦っても即戦力になるほどには成長しているのだ。このままあの内容で進めば問題はない。
一つだけ言うとすれば、ナリアの棒術はアレクしか教えれる人がいない。
私もレイも棒術を得意としているわけではないのだ。当然、ユウナもずっとあの調子で知っている様子もない。
そのことに関してはそこまで気にすることではないか。
それから色々とアレイシアから話を聞いたのだが、生徒はあの高度剣術学院の生徒となる予定だ。
現在、怪我人多数のため休校となっているのだが一部のやる気のある生徒のために特別授業を始めることにしたそうだ。
確かにやる気のある生徒だけでも訓練はしっかりとした方がいいだろう。
とは言っても、本格的に学院が始まるまでの予備校的な感じに進めてほしいようで、剣術競技といった評価は関係なくただ生徒たちの訓練を担当することとなった。
そして、訓練を主体にした授業であれば何をしてもいいとの許可も出してくれた。
私たちが教えるのだ。もちろんだけど、一人で魔族を十体以上倒せるぐらいまでは強くさせることができるだろう。
三日後、私たちは議会からもらった軍服を基調とした制服に身を纏い、学院へと向かうのであった。
こんにちは、結坂有です。
昨日は更新できず申し訳ございませんでした。
なんとミリシアたち”小さき盾”が学院の教師として派遣されることになりましたね。しかも年齢を偽ってまで。
ですが、間違った選択ではないのでしょう。実際に彼らは強いですから。
それでは次回もお楽しみに。
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