議会の調査
目が覚めると肌寒い空気が肌を過ぎる。頭に袋を被せられているのか息苦しく、何も見えず、手足が冷たい鎖か何かで縛られているのだ。そして、何よりもこの空間がひどい臭いで充満している。
どういった臭いなのかは袋のせいでよくわからないが、不快なのは変わりない。
私、ナリアはどうしてこんなことになってしまったのだろうか。
議会に到着して議員の人たちの護衛に向かったことだけは覚えている。議会に着くと後ろから誰かに殴られて……。
そんなことを思い出していると金属を引っ掻くような音が響く。
もしかすると、ここは牢屋なのだろうか。
すると、男の声が聞こえてきた。
「おや、起きたようだね」
「……」
口を縛られているようで、言葉を発することができない。
「そんなに暴れないでほしいね。ま、ここには誰も来ないと思うけど」
何も恐れていないかのように余裕そうな口調で彼はそう言った。
確かに私は手足を縛られ、声も出せない状況であれば誰かに助けを呼ぶことすら難しいだろう。
それにここがどこかのかも全く見当がつかない。
牢屋という予測でしかわからないからだ。
「本当に人間のような反応をするんだね」
「……」
彼は一体何を言っているのだろうか。
私は人間のはずだ。
魔族に敵と認識しているのは聖騎士団も議員の人たちもそれは公認している。
「君の報告書を見たよ。ブラドがまだ団長だった頃のね。いやぁ、普通人間にこのような石はないんだよ」
カランッと彼は何かを私の目の前に落とした。
「それにね。君からは魔の気配を感じるんだ。私だって議会軍にいたことがあって魔族のことはよく知ってるんだよ」
一方的に彼は話を進める。
確かに彼の言う通りだ。心石と呼ばれる石は普通の人間にはないものだろうし、私から魔の気配が漂っていることは複数の人から聞いてわかっていたことだ。
ただ、そのこともブラドは報告書に書いてくれていた。
「君が魔族の一員だってことは誰もが知っているんだ。君を保護していたアレイシアも小さき盾もみんな君を嵌めるために議会に連れてきたんだよ?」
「……っ!」
そんなはずはない。
ミリシアやアレク、レイ、それにユウナが私を罠に嵌めるなんてことはしない。
今までの訓練で彼らは私たちを一人の人間として接してくれていた。何も特別扱いなどしなかった。
「否定するのかい? でもね。ここ、エルラトラムでは魔の気配を放つものは全て魔族、みんながそう認識しているよ?」
すると、彼はそう言って私の目の前にしゃがみ込んだ。
何をするわけでもなく、ただ私の方を見つめているようだ。
「裏切られた気分はどうかな?」
「……」
そんなことは絶対にない。
こんなことをしなくてもミリシアたちなら私を簡単に殺すことができるわけだ。何もこうして牢屋に閉じ込めるなんて非合理的だ。
「無理そうか?」
少し離れた場所から一人の男の声が聞こえてきた。その低い声がこの空間に響く。
「……仲間を完全に信じきってるみたいだね」
「だったら俺の聖剣でこいつの心を壊す。それでいいか?」
「あまり強引な真似はしたくないけれどね。仕方ない」
そう言って剣を鞘から抜く音が聞こえた。
いったい私に何をしようとしているのだろうか。洗脳? 拷問?
そんなことを考えていると心の底から恐怖が湧いてくる。心拍数も徐々に高くなっていく。ただでさえ、袋を被っているのにさらに息苦しくなる。
「怯えんなよ。一瞬で終わるからよ」
そう言って私の近くにもう一人の男がやってくる。
そして、冷たい剣先が私の肩へと触れた。
◆◆◆
私、フィレスは議会の中を調査していた。
しかしながらこれといって不審な人物はいなかった。議員や職員の人たちは淡々と自分たちの仕事をこなしており、怪しい動きはしていない。
「うまく隠しているのでしょうか」
「妙だな」
ブラドさんは事務処理をしている部屋を見渡してそう一言つぶやいた。
「どうかしたのですか?」
「俺も数年前に一度この部屋に来たことがあったんだが、部屋が小さくなっている気がする」
「改装工事をした、とかですか?」
「そのような話はなかったと思うのだがな」
部屋が小さくなるなんて普通ではありえない。
確かに壁には書類を保管する棚などで埋め尽くされているとはいえ、部屋の面積がそのまま小さくなることはない。
であれば、何か隠しているということだろうか。
「ちょっといいか」
そう彼は職員の一人に声をかけた。
「なんでしょうか」
「以前、あの場所にもう一つ棚があったと思うのだがそれはどうなったんだ?」
「えっと、私は知りませんけれど……」
あの話し方、何かを知っているが誰かに口止めをされているのだろう。
「そうか。わかった」
そう言って彼は職員との話を終えた。
すると、剣を引き抜いた。
「ひゃっ!」
職員の人たちが慌て始める。
「はぁあ!」
ブラドさんが聖剣を振り下ろし、怪しいと言っていた場所を斬り裂いた。
斬り込まれた壁が一瞬にして粉砕し、別の通路が現れた。
「っ! 隠し通路、ですか」
「どうやらそのようだな」
すると、一人が走ってこの場から逃げようとする人がいた。
しかしそれをブラドさんが分身を放つことで拘束する。
「フィレス、先に行ってくれないか」
「わかりました」
少なくとも職員の数人かは何かを知っている。
議会の敵対者であれば当然ながら捉える必要があるだろう。
私はこの場をブラドさんに任せて、隠し通路の方へと向かうことにした。
通路の奥には下に向かう階段があった。
その階段を降りていくと、次第に壁が石レンガになっていき苔が着いているようだ。
私はライトを付けて下の方へとさらに進んでいく。
議会は大昔、巨大なお城があったとされている。
それはエルラトラムが王国だった名残りだそうだが、この空間はおそらくおそらく王国の時代のものだろう。
「っ!」
強烈な腐敗臭が漂ってくると、鎖の音が聞こえた。
誰かが捕らわれているのだろうか。
私は腐敗臭に耐えながらも音を立てずにゆっくりとその音源へと向かっていく。
そして、下に着くとすぐ横の牢屋で二人の男が袋を被った女性と話していた。
一人の男性が剣を取り出して、その女性の首元を剣で斬ろうとしていた。私は何かいけないことをしているのではないかと思い、自らの聖剣を引き抜いた。
「なっ!」
細身の男が私に反応したと同時に、剣を持った男が私の方へと剣を向ける。
しかし、彼はそこまで実戦経験がないのかその動きはどこか遅いような気がする。
「ふっ」
私は体勢を一瞬にして低くして、相手の剣を避けるとすぐに剣で足を引っ掛けて相手を倒す。
「がぁはっ!」
剣を持った男はなんとか倒したのだが、もう一人の男は目を離したすきにどこかへと逃げてしまったようだ。
この地下牢は明かりが全くなく、あたりを見渡しても暗闇でしかない。
「貴様、どこから来やがった」
「事務室からよ。それよりここで何をしていたの?」
「へっ、教えるかよっ」
彼はそう言って私から目を逸らした。
話を聞くのは後にして、今は目の前の女性の正体が気になる。
私は彼女の袋を取ると、私がよく知っているナリアがいた。彼女はかなり怯えた表情で私のことを見つめている。
「……大丈夫?」
私がそう声を掛けると、彼女の頬にゆっくりと涙が流れた。
こんにちは、結坂有です。
議会の内部でも色々と何かが起こっているようですね。
議会内で反乱が起きないことを願いたいところです。
それでは次回もお楽しみに。
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