休息は必要
リーリアとセシルとで朝食を食べた後、俺たちはゆっくりとした時間を過ごしていた。
特に何かをするわけでもなく、ただ会話を楽しんでいただけであった。
久しぶりに体を使わず、平和な時間が流れていくのはなんとも心地が良い。
すると、アレイシアたちが戻ってきた。
彼女もまた疲れている様子だ。
「はぁ」
小さくだが確かなため息をついて俺の目の前の椅子に座った。
「……昨日は帰ってこなかったのだな」
「そうよ。やるべきことができちゃったからね。エレインのためにも、この国のためにも頑張らないといけないの」
「だが、頑張り過ぎるもの良くはない。体調を崩しては意味がないからな」
「わかってるわよ。でも、誰かがやらないとね」
アレイシアはかなりの努力家だ。
それは彼女の剣捌きを見ても、体捌きを見てもわかっていた。あれほどの技を身につけるのに一体どれ程の訓練を積んできたのだろうか。
「アレイシア様は頑張り屋ですから。いつお体を壊すのか心配です」
俺の横に座っているリーリアがそう心配する。
彼女もアレイシアとは聖騎士団の頃から知り合いだそうだからな。そのあたりのことはよく知っているのだろう。
「そうですよ。体調には本当に気をつけてください」
アレイシアの斜め後ろに立っているユレイナもそう助言するかのように言う。
「……みんなして私を休ませようとしたって無駄よ? 私はエレインのことを愛してるんだからね?」
「家族愛だからといって何もアレイシアだけが頑張る必要はないだろう」
「か、家族愛じゃないのっ」
そうむっとした表情で彼女は俺の方へと前のめりになって言った。
家族なのだから家族愛ではないのだろうか。
すると、セシルが不機嫌そうに口を開いた。
「私のパートナーに何を言っているのよ」
「セシルもいたのね」
アレイシアがそういうとセシルは怒りをあらわにして立ち上がった。
「エレインの義姉なんでしょ? 普通、愛してるって義弟に言うかしら?」
「言うところはあると思うわ。実際に私がそうなんだから」
確かに実例を出されては意味がないのかもしれない。ただ、それは一般論としては論拠に欠けるだろうがな。
「普通ではないのかもしれないですね。アレイシア様の弟愛は普通ではありませんから」
「ちょっと、普通ではないって言い方はひどくないかしら?」
「事実ですから……」
ユレイナがそう言うように俺に対してかなり感情を移入しているのは誰の目にもわかることだ。
とは言っても、俺のことを好意的に思っているのはアレイシアだけではない。リーリアやミリシアだって同じことだ。
「弟愛だけでは済まないわ。本当に結婚しようと考えていそうよっ」
「え、エレインと結婚なんて……」
セシルのその一言でアレイシアの顔が真っ赤になってしまった。
ある意味図星と捉えられてもおかしくはない反応ではあるのだが、結婚しようとまで考えていたとは思ってもいなかった。
「まぁ別に血の繋がりがあるわけではないからな。問題はないはずだ」
「問題あるわよ。だってお義姉さんなんでしょ?」
すると、ユレイナがゆっくりと口を開いた。
「アレイシア様とエレイン様がご結婚なされるのであれば、私は二人の……」
「エレイン様は私のご主人様です。誰にも譲りません」
彼女のその言葉でリーリアがそう力強くいった。
「……エレイン」
「なんだ?」
「エレインは私のパートナー、それは間違いないわよね」
「ああ、そうだな」
俺がそう言った途端、アレイシアとリーリアは鋭い視線をセシルへと向けた。
二人ともパートナーという言葉に反応し過ぎな気もするがな。学院での決め事にそこまで真剣になる必要はないだろう。
とは言っても、二人にとってはそこまで大問題なのかもしれないな。
アレイシアはしばらくすると自分の部屋へと体を休めるために向かった。議会でほとんど休むことができなかったようだ。
後からユレイナに聞いた話だが、彼女は朝起きてからすぐに報告書をまとめたり、議会が管轄する諜報部隊を作る手続きをしていたそうだ。魔族に関する情報を集めることは今後の戦いを優位に進めるのにかなり重要になってくるからな。
その辺りのところまでしっかりとこなすのはさすがだと言えるだろう。
正午を過ぎたぐらいにユレイナがキッチンから出てきた。
「昼食はどうなされますか?」
彼女はセシルに向かってそう言った。
確かにまだ寮は慌ただしい状況だろうしな。もう少しここにいた方がいいのかもしれない。
「今日は一日、ここで過ごすことにするわ」
「わかりました。お昼も多めにお作りいたします」
そう言って一例をすると、ユレイナはキッチンの方へと向かった。
今頃キッチンではユレイナとリーリアの二人で昼食を作ってくれていることだろう。平日は学院で昼食を食べることが多かったために少し新鮮な気分だ。
「ほんと、貴族みたいな生活よね」
「実際貴族だからな」
「……私なんかが釣り合うかわからないわ」
言われてみれば、セシルは父が聖騎士団副団長だったというだけで貴族家系ではない。階級的には上位に位置するはずだが、そこまで貴族ではないのだ。
「釣り合うかどうかは関係ないだろ。俺自身もここの養子ではなかったらただの一般人だ」
「聞いた話だと、一般人にしては異常な気がするけどね」
そういった彼女は肘を突いて、そっぽを向いた。
彼女はかなりの修行を積んで、自分の剣術評価を地道に上げていった。
父の剣術は実戦向きでありながらも美しさを持っている。その基礎を知っていた彼女はいろんな人と訓練を積んで次第に強くなっていったのだろう。
俺とは違う。
俺はただ与えられた試練をただ単に遂行していっただけに過ぎないのだから。
「セシルは自分が強くなるために必死に努力をしてきた。俺のは努力とは言わない」
「じゃ、努力なしでそこまで強くなれたってこと? それってすごいことだと思うけどね」
「そうか?」
「才能があってもそれをうまく引き出せていない人も多いって聞くしね。ただ、私は才能がないみたいだから必死に努力しないといけないわけだけれど」
そう彼女は俺のことをすごいと言ってくれる。
今までそう言ってくれた人は多いが、彼女の言葉がとても印象に残った。
すると、いい香りを漂わせてキッチンからユレイナとリーリアが料理を持ってきてくれた。
「エレイン様、栄養の多い食材を選んできました」
そう言ってリーリアが俺にそう言って料理を並べた。
色とりどりの野菜が盛られたサラダにしっかりと焼き目の付いたお肉。さらにはスープまで作ってくれているようだ。
「いっぱい食べてくださいね」
「……少し張り切り過ぎではないか?」
「いいえ、もっと作れますっ」
まだ作れると自信満々に彼女は言う。
確かに食材が多ければもっと作れるのかもしれないが、食べられる量にも限りがあるからな。
幸いにも今回は食べる人が多いからそこまで問題はないか。
「……いつもこれぐらい食べるのかしら?」
セシルは次々に並べられていく皿を見つめながらそう言った。
「いや、普段はここまで作らないのだがな」
「エレイン様、いっぱい食べてくださいね」
本当に俺のことを思って作ってくれているのだろうが、流石にこの量は多過ぎる気がする。
そんなことを考えていると、レイがやってきた。
「うまそうじゃねぇか」
「どうしたんだ?」
「あ? 少し眠れなくてな。外の空気でも吸いに来たんだ」
通気口があるとはいえ、完全に密室状態の地下では空気も悪くなることだろう。
「なるほどな。それより……」
「食べてもいいのか?」
俺が最後まで言わずとも彼はそう質問をしてきた。
「ああ、四人では全て食べきれないと思ってな」
「はっ、これぐらい余裕だろっ」
確かに彼は大きい見た目に反さず、かなりの量を食べるからな。
この大量の料理を残さずに食べることができそうだ。
それからはアレクやミリシアたちも加えて昼食を食べることにした。
そういえばナリアがまだ帰ってきていないようだが、今頃何をしているのだろうか。
こんにちは、結坂有です。
エレインたちも小さき盾の人たちもゆっくりと休息を取ることができたようですね。
ただ、まだナリアが戻ってきていないようです。議会で何かしているのでしょうか。気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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