新組織の結成
リーリアがエレインの元に戻って行ってからしばらくすると、ブラドが議会に戻ってきた。諜報部隊を作りたいと彼に話をした。
彼はそのことについて快く承諾してくれた。もちろん、フィレスも承諾してくれることだろう。
ただ、それよりも諜報員の少なさが目立ってしまうのは変わりない。
そんなことをしていると家に帰る時間などすぐになくなってしまうもので、結局のところ私は議会で一夜を過ごすことにしたのであった。
議会には仮眠室やシャワー室なども完備されており、数日であれば寝泊まりすることができる環境となっている。
全ては議員やここにいる職員たちの仕事のためだ。昼夜問わず流れ込んでくる情報を処理するにはこうして働く環境を完全に整備しなければいけない。
「おはようございます。アレイシア様」
仮眠するための個室にユレイナが入ってきた。
朝食も作ってくれていたようで、彼女が部屋に入ってくるとすぐにパンのいい匂いが漂ってくる。
「今日はパンとスープです。食材が少なかったのでこれぐらいしか作れなかったです」
「ここは議会よ。家ほど備蓄があるわけではないから」
議会の食料は最低限のものに限られている。
栄養的には問題がないとはいえ、決して品数が豊富というわけではない。
とはいえ、作ってきてくれたスープには野菜が多く含まれており、さらに香りもとても良い。
香辛料などは少なかったと思うのだが、本当にユレイナの料理には驚かされてばかりだ。
「もう少し栄養の多い野菜を使いたかったのですが、仕方ないですね」
申し訳なさそうに彼女は俯いた。
確かにいつものと比べると見劣りするが、それでもしっかりとした朝食を食べることができるのはありがたい。
「朝食を作ってくれるだけでもありがたいの。冷めないうちにいただくわ」
それからゆっくりと立ち上がって椅子へと座った。
すると、それに合わせてユレイナも机に朝食を並べてくれた。
朝食を食べ終え、議長室へと二人で向かった。
なるべく移動を少なくしたいと考えていたのだが、議会は階段ばかりで足が不自由な私にとっては少し辛いものだ。
「アレイシア様、大丈夫ですか」
「ええ、大丈夫よ。それよりも議長室に戻って部隊のことをまとめないといけないからね」
「ですが、あまり無理はしないでください。どんな時でも健康第一です」
体を崩していては、仕事すらできなくなる。
だが、ここで手を抜くわけにはいかないのだろう。諜報部隊も早くに結成し、活動できる状態に持っていく必要がある。
今この時間にもこの国の転覆を考えている裏切り者がどこかにいるかもしれない。そんなことを考えていたら、とてもじゃないが悠長にしている場合ではないのだ。
「ここでしっかりと働かないとダメなの。エレインを守るためでもあるし、この国のためでもあるんだから」
「……本当に真っ直ぐなのですね」
ユレイナが私のメイドとしてずっと付き添ってくれるのには単なる主従関係ではなく、強い信頼関係のようなものが存在している。
私はユレイナのことを信頼のおける友人のように、彼女もまた私を慕うべき友人と思っている。
「真っ直ぐじゃないと生きていけなかったからね」
大きく踏み出したくてもこの足は言うことを聞かない。しかし、ゆっくりとだが議長室に向かっているのはわかる。
しばらく廊下を歩いて議長室へと辿り着くと、次第に安心感と期待感に胸が高鳴ってくる。
「アレイシア様、紅茶を入れますので休憩をなさってください。ここまでくるのにかなり疲れたことでしょうし」
「ええ、そうするわ。紅茶と今日の資料も持ってきてくれるかしら?」
「わかりました」
夜の間にまとめられた資料を私は一つ一つ確認していかなければいけない。
必要があれば私が指示を出す必要があるからだ。
そして、ユレイナが紅茶と資料を持ってきてくれる。
紅茶の香りを楽しみながら、私は資料を確認していく。資料の内容はどうやら第一防壁の被害状況と復旧計画についてだ。
ざっと目を通してみると建物がかなり傷んでしまっているようだ。ただ、すぐに撤退をしたために死者は少なかったのだそうだ。全体的な被害は議会の予算内で収まることだろう。
それであればこのまま許可を出すだけでいい。
そう思って欄に印を押そうとすると、調査員のなかにミリシアやアレクたちが描かれていることに気がついた。
もしかすると、彼女たちも夜通しで調査をしてくれていたようだ。
小さき盾として最後の防衛手段を担ってくれているわけだが、魔族と戦った後だ。いくらなんでも身体的な疲弊は溜まっているはずだ。いくらなんでも過労状態と言える。
ただ、これぐらい働いても彼らはまだ余裕なのだろう。普通であれば思考能力が低下し、身体能力も低下するほどの訓練を彼らは毎日しているのだ。
木剣とはいえ、半日以上も振り続けることは常人では不可能だからだ。
「信じられない人たちね」
そう呟きながら、私は印を押すことにした。
◆◆◆
俺、ブラドはフィレスとともに議会の地下部屋へと向かっていた。
フィレスは魔族との戦闘の後、数時間ほど仮眠を取ったそうだが、まだ眠たそうにしている。
まぁ実際かなりきつい状況だったそうだからな。無理もないか。
だが、これから俺たちはエルラトラムの諜報部隊として生きていくことを彼女にも伝えなければいけない。
フィレスはこの国民ではないにしろ、信頼できる相手ではある。
彼女の強い信念は並の人間には持つことができないからな。誰よりも正義に忠実であるのだ。
「ブラドさん。どうかしましたか?」
地下部屋へと到着すると、彼女がそう話しかけてきた。
「いや、気にするな」
「それで、話とはなんでしょうか」
「議会の諜報部隊に入ってほしい」
俺は率直にそういうことにした。別にかなり重要な話だからな。ここはすぐに本題に入った方がいいだろう。
「諜報部隊、ですか?」
「ああ、この国に魔族を手引きしている人間がいたのは知っているな?」
「詳細までは聞かされていませんが、地下連絡通路の存在を魔族に教えた人物がいるのは知っています」
まぁそこまで知っていれば詳しく話す必要もないだろう。
重要なのは魔族と連携を取り、この国を陥れようとしている人物がいるという事実を知っているだけでも十分だ。
「そこでエルラトラム議会は諜報活動を本格的に行なってこの世界の情報を細かく収集する必要があると判断したんだ」
俺たちは今まで魔族のことを何も知らない状態でただ身を守っていただけだ。
攻撃してくる魔族をただ聖剣の力を頼って自衛していたに過ぎない。魔族を全滅させるには奴等の正確な情報がいる。そして、何よりもエレインに匹敵するほどの力が必要だ。
「確かに情報がなければ全ての行動が後手に回ってしまいますからね」
「そうだ。だから諜報部隊という特殊部隊を作ることで情報を集めようとしているのだ」
「……わかりました。これも魔族から人間を守るためですよね」
「そうだな。魔族から人間を守るためだ」
魔族、その中には当然ながら魔族側に加担する人間も含まれている。
そういった人たちはもはや人間ではない。魔族と同義なのだからな。
こんにちは、結坂有です。
先日、更新できずに申し訳ございません。
できるだけ早く次回を更新できるよう頑張ります。
そして、アンケート結果ですが、セシルとミリシアが選ばれました!
ご意見ありがとうございました。
無事に諜報部隊が結成され、本格的に活動が広まっていきそうです。
もちろん、エレインや小さき盾たちも頑張って欲しいところですね。これからの展開が気になるところです。
それでは次回もお楽しみに。
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