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授業が始まる

 教室に着くと、すでに八割近くが席についていた。まだ友達と言える関係にまで発展していないのか、会話が弾んでいる様子ではない。お互いがお互いに見合っているという状況だろう。パートナーを組んでいない人もいるこの教室はどこか居心地が悪いのは確かだ。


 俺の席の後ろの方に立っているのはリーリアだ。目で合図すると、彼女もまた軽く頭を下げ会釈した。

 ミーナは自分の席に着く。俺も自分の席に座ろうとするが、一人の女性がこちらを見ている。

 その女性は俺の横に座っているリンネだ。今朝、ミーナと戦いたいと俺に伝えにきた人だ。


「ミーナには伝えた」

「そう、これで宣戦布告はできたね」


 リンネは俺がちゃんと伝えたのかどうか、気になっていたようだ。


「フェレントバーン流の話はいくつか聞いた。現存する最古の流派のようだな」


 座ると同時に俺はリンネに少し話すことにした。まだ授業が始まるにはまだ早いからな。


「そんな感じかな。ただ古いだけだよ」


 リンネは笑顔でそういう。他と比べれば数段は劣ると思っているようだ。一度も戦ったことがないため、俺は何も評価することはできないが本人がそう実感しているということだろう。

 感覚的にはそう感じているに違いない。

 しかしそれは案外にも外れている方が多いのだ。自分だけが感じる劣等感は大抵そう言ったものだからな。


「古いものはそれ相応に進化している。何も強みがないのなら今まで残っていないだろう」

「……フェレントバーン流は晴天流、暗闇流の二人一組の剣術なの。一人では本当の強みは発揮できない。他の流派は対複数戦も視野に入れているものも多い中、こんな流派はもう時代遅れよ」


 そうリンネは解説すると、深くため息を吐いた。

 確かに時代遅れなのかもしれないが、そこまで悲観することではないように見える。一人でも十分に戦える実力があるはずだ。こうした学院で下位には入るが、認められている点もあるということだろう。

 少なくとも弱いということはないはずだ。


「俺も対複数戦を得意としているが、それでも一対一の戦闘に誘導しろと言われているからな。二人一組は案外時代遅れではないのかもな」


 俺はそうフォローしてみる。


 戦術は大きく分けて二つある。不利な状況から脱出する術と有利な状況を維持する術だ。この二つを軸に考えるのは対複数戦で()()()勝利する方法など普通ならありはしないのだ。。

 かと言って、複数人との戦闘を必ずしも回避できるとも限らない。そう言ったことがあるのであれば、元から複数で行動しておくに越したことはないということだ。

 それなら二人一組はお互いに協力し合うことができる環境であり、それを想定している流派であれば十分に強みはあると言える。


「私とアレイは姉妹と言っても他人。そうすぐにうまく連携なんてできないよ。型の練習はしているけど、そんなの実戦ではほとんど意味ないの」


 リンネは少し語気を強めてそう言った。

 強く主張したい部分なのだろうが、連携なんてことを意識する必要はない。連携できない要因は大抵、無駄にパートナーを意識するからこそ生まれる齟齬(そご)が原因だ。

 自分がやるべきことをしっかりとしていれば、自然とできてくるものだ。そこに練習なんてものはあまり意味がない。

 だが、そのことを俺が言及することはしない。俺が言えるようなことでもないだろう。


「他人との連携は難しいところだな。俺もできるかと言われてみればできないかもな」

「そうでしょ? おと……師匠の通りなんてできないよね!」


 リンネはそう共感するように嬉しそうな顔をした。まぁ俺も同情する部分はあるためここは話に乗っておくことにしようか。


「自分なりにやっていくしかないな。その辺りは経験でなんとかする他ない」

「そうなんだよねぇ〜」


 リンネはそう机に突っ伏して気怠そうに息を吐いた。

 そんな話をしていると、扉が開いた。それと同時にみんなの視線が一つに集中した。

 扉を開けたのはセシル・サートリンデだ。彼女は昨日、強引ではあるが、パートナーのお誘いを断り自分より強い人と組むと豪語していたのだ。その結果皆の注目を浴びることになってしまっている。


「……何?」


 少しトゲのある強めの口調でセシルがそう言うと、彼女への視線がなくなった。

 それを一瞥したセシルはゆっくりと綺麗な所作で椅子に座った。その辺りはしっかりとしているようで、とても教養があるように見える。


「あの子、強い人だとは思うけど、あれじゃ反感買っちゃうよね」


 そうリンネは小言のように呟く。


「実力がものをいう学院だからな。仕方ないのだろう」


 入学式直後に見せた高速な剣先は誰も目で追えるような代物ではなかった。それほどに綺麗で素早いものだ。

 そして、それを相手の首元すれすれで止めたのだ。完璧に自分の間合いを把握し剣を振る速度なども計算しなければいけない。あのような芸当ができるのは相当な実力者である証拠でもある。

 実力がある人はさらなる高みへと挑みたいと思うものだ。そう言った向上心は確かに必要なのかもしれないが、それによって孤立してしまうこともある。集団で生活していく以上、それは避けられないのだ。


「だけど、友達にはなれないね」


 リンネの言う通りだろう。あそこまで人を引き寄せない行動を取っていては仲間を作ることもできない。

 それは後々になって問題となってくる。実力はどうであれ、仲間がいないのは精神的にも辛い部分がある。セシルもその点について悩みを持っているからこそ、あのような態度を取っているのかもしれない。

 どちらにしろ、改善しなければいけない部分であるのは間違いないか。


「本人にも本人なりの悩みがあるものだ。あまり非難しない方がいい」

「それもそうね。彼女、副団長のこともあるし色々ありそうだもんね」


 リンネはそう納得するように頷いた。

 セシルは真っ直ぐ前を向いて、学生たちのざわつきなど気にも留めていないようであった。しかし、それでも彼女自身の心は少しずつでもすり減っていっているのだろう。

 それほどに仲間というものは大切なものなのだ。

 そうしていると、教師が入ってきた。入学式の時に説明をしたルカ・セイザンだ。


「今日から早速授業に入る。授業内容は昨日配った資料に書いてある通りだ」


 入学式にもらった資料は授業に関して簡単に説明したものだった。すぐに読み込めるよう図を使っており、一日で内容を理解するのは簡単なものであった。

 資料通りに授業が行われるのであれば、今日は議会が管轄している魔族討伐軍のことについてだろう。


「では魔族討伐軍の主な活動について解説していく」


 ルカが黒板を使って討伐軍の活動内容を板書していく。


 魔族討伐軍は魔族に対しての攻撃と防御の他に、治安維持のための対人も担当している。討伐軍という名前だが、魔族だけを対象にしているわけではないようだ。

 そして、聖剣を使ってエルラトラムの国益になるような活動もしており、魔族以外にも活動の幅を広げている。

 議会の指示を基に活動する討伐軍は自由度がないが、人のためになる仕事だと言えるだろう。


 それから討伐軍の活動について詳しく説明していくのであった。

こんにちは、結坂有です。


授業が始まりました。どうやら授業はエレインにとって興味深い内容だったようです。

そして、セシルという女性はどのような人物なのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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