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混乱する学生たち

 私、ミーナは部屋から出ていた。

 この学院寮には学生同士が集まることができる大きな部屋がある。

 私はその部屋へと向かっていた。

 何をするのかというと、ついさっき寮の近くで爆発が起きたからだ。

 寮生の安否を寮を担当してくれている教師が確認するためだ。


「無事だったようだな」


 そう話しかけてきたのは私のパートナーであるフィンだ。


「ええ、他の生徒たちは?」

「セシルの奴以外は全員揃っているな」

「そうなのね」

「それにしても、さっきの爆発はなんなんだ? 嫌な気配もするんだが……」


 彼は頭をかきながらそういった。

 確かに気がかりなのは私も同感で、この近くに大きな爆発が起きそうな場所はない。工場も全くないただの住宅地が広がっているだけだ。

 住宅地の中に聖騎士団の人たちが集まる駐屯地があったような気がするが、そこが爆発することはないだろう。


「わからない。でも何か緊急のことが起きているのは確かなようね」

「そうみたいだな」


 すると、寮担当の教師が前に立った。


「爆発の原因はわかりませんが、魔族が溢れ出ているとの報告がありました」


 その言葉が寮生に届いたと同時に部屋が響めき始めた。

 将来、私たちは魔族と戦うことになる。死の恐怖が心の奥から滲み出てくる。

 そういった恐怖と不安がここにいる学院生に降りかかっているのだ。

 教師のたった一言で私たちは平静を保てないでいた。所詮私たちの覚悟などまだそういったもののようだ。

 命をかけてこの国を、この世界を守ると決めていたはずなのに。


「ですが、安心してください。すぐに聖騎士団が来ると思いますから」


 すぐにとは言っても、それがいつになるのかはわからない。

 私自身も恐怖で足がすくんでしまっている。

 前に足が進まないのだ。

 相手は前のように人間ではない。強靭な肉体、そして高い生命力は人間をはるかに凌駕している存在。当然ながら、怖くて仕方がないのだ。

 そう恐怖を克服しようとしていると、ドンッと鈍く重たい音が響いた。

 天井から埃が舞ってくる。どうやら魔族がこの寮を攻撃してきているのだろうか。


「落ち着いて! ここの寮の壁はすぐには壊れないですから!」


 担当の教師がそう大声をあげるが、平静を失った生徒たちの足は震えて中には地面に膝をついている人もいた。

 フィンも恐怖を感じているようで、いつもの表情が崩れてしまっている。


「……大丈夫?」

「あ? 大丈夫なわけねぇだろ」

「そうよね。私も怖いから」


 彼の足は震えてはいないものの、硬直してしまって動かすことができないようだ。

 目が据わっており、すぐに落ち着きを取り戻すことはできなさそうだ。


 ドンッ!


 先程のものとは違い、さらに強烈な重低音が部屋を轟かせる。

 前の方に立っている教師も動く気配はない。ここで何もしなければ、魔族が壁を突破してしまうのかもしれない。

 この私でも聖剣を持っている。一体でも倒すことができたら、少しでも時間を稼ぐことができるのだろうか。


 ドンッ!


 いや、迷っている場合ではない。

 やれることならなんでもする。

 私の父はそうして無能と言われ続けても戦い続けたのだから。


「お、おい!」

「何?」

「どこ行くんだよ」

「……一体でも多くの魔族を倒す。そうすれば壁は突破されずに済むわ」


 私が歩き出そうとすると、フィンも私の横へと歩いてきた。


「俺も行くぜ」

「どうして?」

「あ? パートナーだからに決まってんだろ」


 足が震えたままの彼だが、どうやら付いてくるようだ。

 一人でも多くの人が応援に来てくれるのなら戦力は単純に二倍以上、それなら壁を守ることができるだろう。

 そんなことを話しているとリンネとアレイも私たちのところへとやってきた。


「本当に行くのね」

「……あなたたちも一緒に来るの?」

「もちろんよ。古い剣術でも魔族に有効なんだから」


 リンネはそう言って、剣の柄を握った。

 すると、他の学院生たちも私たちの会話を聞いていたのか私たちの周りに集まってきた。


「俺たちも一緒に行くぜ」「少しでも協力できるのなら……」「自分の身ぐらいは守らないとなっ」「僕にもできることはあるかな?」


 ほんの少しでもいいから、と生徒たちが集まり始めた。

 まだ恐怖で動けない人もいる中、少数ながら私たちはこの寮を守るために剣を握ることを決意した。


 それから私たちは聖剣を持って寮の外へと向かっていた。

 寮担当の教師は教師というだけであって、聖剣をもった人ではない。そのため、教師は部屋で生徒たちの世話をしてくれている。

 本当に私たちが魔族を倒すことができるのかはわからないが、それでも今まで訓練をしてきたのは確かだ。

 訓練通りに実力を発揮できれば、何も怖くはないはず。

 そう思い、扉を開けた。


「っ!」


 魔族が門を突き破ろうと必死に突進してきている。

 人よりも大きい体格を持った魔族は見ているだけで恐怖を感じ、足が動かない。

 私たちの逃げ場はもうないのだから、ここで戦わなければいけない。

 守るということはそういうことなのだから。


   ◆◆◆


 俺はセシル、リルフィと共に学院寮へと向かっていた。

 聖騎士団本部から出ると魔の気配が強まっている。

 確かに魔族が街の中に出没したということは確かなようだ。とは言っても、魔族が無差別に襲撃しているというわけではなく、どうやら寮を狙って攻撃を仕掛けてきているようだ。


「妙だわ。魔族ってここまで計画的に行動できるなんて」

「魔族の中でも会話ができる奴もいる。それなら作戦を皆に伝えることぐらいできるかもしれないな」

「話ができる魔族がいるの?」


 帝国で出会った魔族の中に数体いた会話のできる魔族。それが聖騎士団が言うリーダー格や司令塔的な存在のようだ。

 かなり強い魔族ではあったが、技が洗練されていないために倒すことは簡単だったの覚えている。


「ああ、魔族のほとんどは会話できないようだがな」


 少数でも会話できるものがいれば、作戦を伝えて計画的に物事を進めることはできるだろう。

 今回の襲撃もおそらくそういった意図があるのかもしれない。

 まずは学院の寮を攻撃、その後から侵食的に街を破壊していく効率のいい戦い方だ。


「っ!」


 すると、目の前に魔族の集団が見えてきた。

 リルフィは怯えているようだが、セシルはそこまで恐れている様子ではない。

 相手の数は二〇体ほど。この程度ならセシルが怖がることはない。以前、魔族の防衛を行った時があるからな。

 だが、リルフィはそう簡単に恐怖を克服することはできないだろう。

 自分の実力をまだ信じ切れていないのだから、仕方のないことなのかもしれない。


「リルフィ、大丈夫よ。私たちを信じて」


 セシルがそう彼女に話しかける。

 今はそうすることしかできないのだ。

 まだ彼女に自信が付くのに時間がかかるのだからな。


「エレイン、倒せるわよね」

「もちろんだ」

「それなら行くわよ」


 そう言ってセシルは二本の剣を引き抜いて突撃していった。

 俺もそれに合わせるように突撃する。

 前は俺が前に出たのだが、今回はどうやら彼女が前で戦うようだ。

 まぁ危ない状況になったら俺がすぐにフォローするから彼女は安心して戦えることだろう。


「はっ!」


 セシルが魔族へと攻撃した。

 その美しい剣閃は魔族の体を鋭く斬り裂く。大量の血飛沫が飛び散り、一瞬にして魔族を一体倒していった。


「ん?」


 セシルは何かに驚いている。

 もちろん、先程の攻撃はセシル本人が斬ったのだが、その鋭い斬れ方に驚いたのだろうな。

 剣の振り方を俺と戦っているうちに覚えていったようだ。もちろん、俺はそうなるように訓練、指導していったつもりだ。

 とはいえ、ここまで綺麗に斬れるとはな。セシルもだいぶ強くなってきたと言えるだろう。


「セシル、気を抜くな。敵を倒すことだけに集中しろ」

「……ええ、わかったわ」


 そう言って彼女は前を向いて剣を構えた。今までの訓練を信じて、魔族と戦えばいい。

 それにしても、まだ学院の寮まで距離はある。

 まさかとは思うが、とてつもない魔族の量がこの街に溢れ出てきているのだろうか。

 ティリアの地下に眠っていた魔族の量よりもさらに膨大な数の魔族がいるのかもしれない。

 いち早く寮にたどり着く必要があるのだが、この数の魔族を押し切るのは簡単なことではない。

 いざとなれば、魔剣の方の力をまた開放する必要があるだろうな。

こんにちは、結坂有です。


学生たちの中にも恐怖に打ち勝とうとする人たちが現れてきましたね。

これでエレインたちが来るまでの時間稼ぎはできそうです。

そして、寮を襲いかかってくる大量の魔族、エレインたちはどう対処していくのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。



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