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意志は戦うためにあり……

 僕、アレクは防衛線にて魔族と戦っていた。

 僕の聖剣ハンセクルスは”増幅”という強力な能力を持っている。

 流石にレイの魔剣ほどは強くはないとはいえ、僕の力を最大限にまで引き上げてくれるものだ。


「アレク、前方から敵が一五体!」


 目の前に立っているミリシアがそういった。

 奥の方へと目を向けると魔族の大群が攻め込んできている。防壁から噴射される火の粉で灯りの確保は十分にできている。

 この調子なら敵を駆逐することも可能だ。

 ふと、横へと目を向けるとレイが五体のゴーレム型と戦っている。彼が戦闘に集中できるようにユウナが邪魔な魔族を蹴散らしているようだ。

 レイとユウナで大型の魔族を倒し、僕とミリシアとで残りの魔族を殲滅する。確かにこの布陣なら敵をほとんど倒せることだろう。


「ふっ!」


 僕は飛びかかってくる魔族を増幅の能力を使って武器ごと二つに両断した。

 当然ながら、相手の武器は聖剣でも魔剣でもないため簡単に斬れていく。聖騎士団を呪撃したときは弾き飛ばすことしかできなかったが、これなら問題はなさそうだ。


「はぁああっ!」


 レイの掛け声とともに強烈な爆発音が聞こえてくる。

 どうやらその音は刃音のようで、あの巨大なゴーレム型が一瞬にして砕け散っていった。一体どれほどの威力があるのかはわからないが、極めて強力な一撃であるということは遠目でも理解できる。

 さらに、目の前のミリシアもレイピアに似合わない音を立てて攻撃をしている。あの魔剣の能力”分散”もなかなか強力なのだろう。

 細い剣ながらも面積を分散で広げることでハンマーのような鈍器に変化したり、相手の攻撃を分散して防御に徹したりと自由度の高い能力で、魔剣である彼女の剣は自分にもその能力を活用することができる。

 魔剣を持っている彼女を斬り裂くことはかなり難しいと言えるだろう。


「アレク、まだ来るわっ」


 横を見てみると、確かに大多数の魔族が迫ってきている。

 ミリシア一人だとあの数を処理するのは不可能かもしれない。

 そう思った僕は一歩だけ前に出て、彼女の援護をすることにした。


「はっ!」


 僕は義足で地面を蹴り、俊足の移動で魔族の列を崩した。


「せいっ」


 すると、ミリシアは僕に続くように突撃してきてくれる。列が乱れた魔族は非常に脆く、僕が逃した相手を彼女が華麗に処理していく。

 だが、それでも魔族の数は一向に減らない。

 二〇〇体以上いると言われているのだ。すぐに倒せるとは思っていなかった。

 時間はかかるが、半日以上かかるとも考えられない。


「まだいける?」

「ああ、もう少し前に出ようか」

「うん。防壁までにある程度倒しておかないとね」


 ミリシアはそう言って僕の隣へと歩いてくる。

 美しく、そして優雅に剣を構えている彼女はいつ見ても洗練されていると感じる。

 その点では僕もエレインも認めている。ただ、連続した攻撃に関してはまだ苦手だそうだ。

 一撃が重ければ別に問題はないと思うのだが、彼女はそうは思っていない。


「ねぇ、アレク」

「何かな?」

「覚えているかわからないけれど、全方位から人形が攻めてくる訓練あったよね」

「……あったね」

「あの時の訓練思い出すなぁ」


 確かに言われてみれば、大量に襲いかかってくるのはあの訓練のようにも思える。

 ただ、違うのは相手の大きさが違うこと、武器を持っていること、変則的な動きをすること……。対応できないわけでもないが、違うのは明らかだ。


「そうだね。でもこれは訓練ではないよ。気を抜いているとすぐに足を掬われる」

「ええ、そうね」


 当然ながら今は戦場、命の奪い合いだ。

 魔族も本気で僕たちを倒そうとしてきているのだから、気を抜いている場合ではない。


「じゃ、援護お願いね」

「うん」


 そう言って彼女は地面を蹴り、前へと進んでいった。

 幸いにもゴーレム型といった大きな魔族はいないようで、敵がすぐに倒れていく。

 それからしばらく戦闘が続いたが、リーダー格のような魔族はいなかった。

 どこを探しても司令塔のような魔族が見当たらなかったのだ。


   ◆◆◆


 私、セシルは強烈な爆発のあった方へと目を向けていた。リルフィの家は丘の上にあって、街が見下ろせる場所となっている。

 そして、街を見下ろすとそこには魔族の軍勢がいた。

 数はわからないが、地面を埋め尽くすほどの数だ。


「……あの方向って学院寮があった場所?」

「そうかもしれないわね」

「それってやばくない?」


 確かにこの攻撃が寮を狙ったものなのであれば最悪な状況だ。


「援護に向かった方がいいかな?」

「どうだろう。私たちが向かったところで戦力になれるかな?」

「でも助けないとっ」


 あの道を埋め尽くすほどの数を私たちが対処できるとは思えない。かといって寮にいる学生たちを見殺しにすることもできない。


「私たちは力があると言ってもまだ学生、今は聖騎士団とか議会に連絡した方がよさそうね」

「……いくら私たちでも無理よね」


 人一倍正義感の強い彼女はすぐに助けに行こうとする。

 しかし、今の私たちではなんの増援にもならないことだろう。エレインだったら心強いのかもしれないけれど、そんなことを言っている場合ではない。

 ここから一番近い場所は聖騎士団本部、その次にエレインのいる家だ。


「とりあえず、本部に行こ」


 それから私たちは丘を駆け降りた。


 本部に到着すると、いつもいる警備隊の人たちがいない。

 不審に思いつつも、私たちは本部の中へと進んでいく。


「……何があったのかしら」


 本部の中で戦闘があったのか、壁面に大量の血液が付着していて腕のようなものも転がっていた。


「これ、義手よね」

「そうみたいね。他に聖騎士の人はいるか探してみましょう」

「うん」


 若干の恐怖を感じながらも廊下を進んでいく。

 人気は全くなく、誰かが廊下にいるような感じもしない。

 もう少しだけ廊下を進んでいくと、誰かの話し声が聞こえてきた。


「……地下通路か?」

「ああ、第一防壁と第二防壁の間には地下連絡通路があるんだ」

「魔族がそれを知っているとは思えないが、誰かが根回ししたと考えれば話は通じるな」


 先程の魔族の出現のことは聖騎士団の人たちも気付いているようだ。もしかすると、もうすでに援護を出してくれているのかもしれない。


「だが、我々だけでは奴らを殲滅することはできない」

「第二防壁に向かわせたからな。今から呼び返すにしても時間がかかりすぎる」


 聖騎士団の本隊はどうやら第二防壁の方へと援軍を出してしまっているようだ。

 そこにも魔族の軍勢が迫っているとすれば、当然そっちの方が危険な状況なのかもしれない。


「何か問題でもあるのか?」


 すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 エレインだ。

 この声は間違いなく彼に違いない。


「ああ、先程の爆発なんだが、街のこの辺りで起きたんだ」

「……寮の近くだな」

「そうだ。だけど、我々には出せる部隊がいないんだ」


 エレインがいるのなら、私が出ても大丈夫だろう。

 何か言われることもないわけだし。

 そう思い、私は部屋の中へと入っていった。


「セシルか」


 部屋に入った瞬間、エレインがすぐに反応してくれた。

 他の聖騎士の制服を着た三人は全く気づいていなかったみたいだ。


「っ! 副団長のっ」

「今すぐ聖騎士団を出動して欲しいのだけど、それは無理なのよね?」


 私は間髪入れずにそう聞いてみた。

 本隊が出せないということを確認するためだ。


「ああ、呼び返すにしても時間がかかりすぎるからな」

「それなら私とエレインとで寮の方へと向かうわ。ここからなら、一五分程度で着くはずよ」

「君たちだけで本当に魔族を倒せるのか?」

「どれほどの軍勢なのかは知らないが、やってみる価値はありそうだな」


 そう言ってくれたのはエレインの方だ。


「魔族の軍勢に突撃するのは自殺行為だぞ?」

「どちらにしろ、行動しなければ学生が大量に死ぬことになる」

「……わかった。行ってくれ」


 どうやら許可を取ることができたようだ。


「リーリアはアレイシアの方を頼む」

「はい。わかりました」


 エレインがそういうとリーリアはすぐに走り出した。

 彼女も非常事態での動きはしっかりしている。メイドにしては妙に落ち着いているというのが不自然なぐらいだ。

 どういった人なのかは謎に満ちているが、少なくとも敵ではない。


「エレイン、いきましょうか」

「ああ」


 すると、彼は私の隣へと歩いてきた。


「え、あっ……。私はどうすれば?」

「危険な状況だからな。付いて来るかどうかは任せる」


 エレインがそうリルフィに言うと、彼女は深く考え始めた。

 しかし、沈黙は一瞬ですぐに彼女は答えた。


「学生を守るためよ。一緒に行く」

「わかった。危険だと思ったらすぐに逃げろ」

「うん」


 それから私たちは寮のある方向へと急いで向かうことにしたのであった。

 すでに死傷者は出ているに違いない。でも、一人でも多くの人を助けるためには私たちが魔族をなんとかする必要があるのだから。

それでは次回もお楽しみに……



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