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エルラトラムの切り札

 ちょうどメリセズが帰った直後にエレインが無事に戻ってきた。

 先ほど私、ミリシアは気配を感じて上へと向かって少しだけ話すことができた。

 だが、一日戦闘を続けていたせいかかなり疲れている様子でもあった。これから風呂に入ると言っていたため私は欲求を抑えて地下へと戻ってきた。

 まだ胸の高鳴りがうるさい状態で私は地下部屋の中心に配置されているソファへと座った。


「エレインが帰ってきたのか?」


 するとすぐにレイが話しかけてきた。


「うん。かなり疲れているみたいだったけれど怪我とかしていなかったわ」

「それはよかった!」

「そうだね。一日ぐらいは大丈夫だろうと僕も思っていたけれど本当にすごいね」


 レイとアレクがほっと安心したように一息ついた。

 今日の夕方まで私たちは国民ですらなかった。何かをするにしてもフラドレッド家の傘下内でしか行動できない。

 とは言ってもブラドの言っていたように勝手に行動して、見つからなければ問題はないと言ったこともある。

 私も最終的にはそれをするしかないかとも思っていたが、無茶をしなくてもよかった。


「やっぱりエレイン様はお強いですよね。尊敬してしまいます」


 お茶を持ってきてくれたユウナがエレインを敬うようにそう言った。

 彼女は地下施設時代に彼とともに訓練をしていたことがあったそうだ。


「……私は知らないけれど、すごい人なのね」


 ナリアとは訓練を共にしているのだけれど、エレインとは一度も手合わせをしたことがなかった。

 どこまで強いのかは剣を交えただけでわかる。

 彼女にとっても彼と戦闘訓練をすれば何か変わるのかもしれない。


「そうですっ。強過ぎるぐらいに強いですっ」

「でも、エレインには権力がないわ。あのような高い権力者相手だといくら彼でも無理があるわよ」

「まぁそうだね。それは僕たちも同じ、一応エルガルト家に属することはできたとはいえ、肩書きすらない状態だ」


 するとレイが大きく舌打ちをして嫌そうな表情をした。


「チッ、権力がどうしたって言うんだ? 俺たちには力があるんだぜ。それだけで十分だろ」

「それは違うわ。大きな社会を秩序よく保つためには力だけではだめなの。権力が強い理由は人民を動かせることよ」

「どういうことだ?」


 レイは話を聞くように私の方へ前のめりになった。

 彼は地下施設の時ではそこまで勉強をしてこなかった。私やアレクは図書室で嫌になるぐらい本を読み漁っていたわけだ。

 とはいえ、勉強をしたくないわけではないそうで、話を聞いて理解しようと努力してくれるのは見て取れる。

 するとアレクはゆっくりと口を開いた。


「僕たちは武力がある。でもそれは他人を傷つけるだけだよね? 高い地位にある人は人を多く従わせている。もちろん人を傷つけることもできるけれど他にもできるんだ」

「それに平和に暮らしていく上で強いリーダーがいると人は安心するの。だから平和にもなるわけだし」

「……そうかよ。必要な力ってことなんだな?」

「そういうことよ」


 ある程度は理解してくれたみたいだ。

 もちろん、暴走してしまった権力を武力で抑制することはよくあることだ。歴史がそれを証明している。

 だからこそ、権力と武力は互いに均衡を保たなければいけないのだ。


「まぁそんなことを言っても私たちには関係のないことだけどね。私たちがこの国で強い地位に立てることもないだろうし、仮に武力で叩き上げることができたとしても聖騎士団止まりね」


 そう、聖騎士団の幹部になるには学院を卒業する必要がある。しかし、私たちは年齢的に少しだけ遅い。

 つまりは卒業ができないということだ。

 であれば、這い上がれる地位は限られている。


「そうかよ」

「でも、もし権力が暴走した時は私たちは動けるわよね?」


 すると、ナリアがそのようなことを言った。


「そうだけど……」

「それができるだけでも十分じゃないかなってね。本当にどうすることもできないのなら国民を代表して私たちが権力に立ち向かうことだってできるでしょ?」

「ただそれを決めるのも国民だよ。僕たちが国民の総意だって誰が証明できるんだい?」

「……わかんなくなってきたぁ」


 そう話しているとユウナがふわふわとした表情で訴えかけてきた。

 確かに彼女にとっては難しい内容なのかもしれない。

 ただ、これは今後考えなければいけないことなのには変わりないだろう。とは言っても杞憂に終わりそうな予感がするけれど。


「ごめんね。話しすぎちゃったわね」

「そうだね」


 まぁ難しいことは考えるだけ意味がない。

 実際に事が起きてから考えても遅くはないのかもしれないわね。


   ◆◆◆


 私、アレイシアは必死に考えていた。

 防衛線で何が起きているのか、私にはまだわからないからだ。

 すると、ユレイナが急いで議長室へと戻ってきた。


「アレイシア様、先ほど前線の方から連絡がありました」

「続けて」

「第一防衛線が突破、さらに魔族の大部隊が接近しているとのことです」


 一〇〇年近くも突破されたことのなかった第一防衛線が崩れたとなればかなりの大ごとなのかもしれない。

 とりあえず、どれほどの魔族の数がいるのか確認しなければいけない。


「……正確な数は?」

「今日は新月でして、正確な魔族の数は把握できていないそうです」

「わかったわ。ありがと」


 今するべきことは魔族をなんとしてでも第二防衛線で食い止めることだ。これができなければ国民に影響が出てくることだろう。

 被害を最小限に抑えるためにもここでなんとしても魔族の攻撃を止めておきたい。


「アレイシア様、どうなされるのですか?」

「とりあえず、議員たちを集めるわ」


 私がゆっくりと立ち上がろうとすると、ユレイナは私を支えてくれた。


「無理をなさらないでください」

「今、防衛線では魔族と戦っているのよ。私も何かしないと……」


 ある程度の手立ては考えている。

 この国でも最も強いと言える人たち、それを私は知っている。

 当然ながら、彼らを危険に巻き込むことになるのは間違いない。場合によっては死ぬことだってある。

 しかし、そんな悠長なことを考えているわけにはいかないのだから。


 それから私は会議室へと向かった。

 招集をかけて議員を集めた。

 書類関係の作成は議員たちにやらせた方がいいからだ。


「議長、何をなさるつもりですか?」「こんな緊急事態、早くシェルターへと向かった方がよろしいかと……」

「一つだけ、みんなにやってほしいことがあるの」


 私はそのことをいち早く伝えることにした。

 すると、議員たちは私の言葉をしっかりと耳に入れるために静かになった。


「私の分家にあたるエルガルト家に特権を与えたいの」

「……それはどういったことですか?」


 何を言っているのかわからないと言った様子で議員たちが私を見つめてくる。

 当然、エルガルト家は非常に強い力を持っているが、それは武力ではない。

 魔族の暗殺に向いているが、それ以外の強みがないと彼らは思っているのだろう。しかし、現状は大きく変わった。

 それはアレクやミリシアたちが加わったことだ。


「エルガルト家の養子を認めたわよね。その養子はエレインと同じ訓練を受けてきて高い実力を持っているの」

「エレイン自身もよくわかっていない状況で、そのような人たちを利用するのはリスクがある気もしますが?」

「でも、彼らを利用しなければいけないの。四大騎士ほどの権力はなくていい。ただ、こうした事態で自由に動けるようにしてあげたいだけなのよ」

「……」


 特定条件下でのみ彼らに自由を与える。

 それが今の私が考え出した答えだ。そうすることでこの国の防衛戦力はかなり高まることだろう。


「法律的にも問題ないはず、何も問題はないわ。それでもダメかしら?」

「……今の議長はアレイシア様です。ご命令であればすぐに手配します」


 議員たちは真っ直ぐに私を見つめた。

 ザエラ議長の時とは違う彼らは私のことをかなり信頼してくれているようだ。それほどのフラドレッド家の人間は信頼されているということなのかもしれない。


「ええ、エルガルト家に最終防衛特権(小さき盾)を与えるわ」


 今ここで、アレク、レイ、ミリシア、ユウナ、ナリアの五人に特権を与えることが成立した。

 これで魔族の防衛ができるのなら全く問題はない。

 私たちの切り札は彼らなのだから。

こんにちは、結坂有です。


またしても更新が遅くなってしまい申し訳ありません。


なんとミリシアたちが”小さき盾”と呼ばれる防衛特化の部隊になりました。

エルラトラムの切り札として今後、どのように活躍するのでしょうか。気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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