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騒動の裏側

 ブラドの分身に手古摺ってしまい私、ティリアのエレインを失ってしまった。

 それから私たちは一度、ディゲルド家の屋敷に向かって話し合いをしていた。カインとハーエルのメイドはお茶を作ってくれている最中だ。

 目の前のソファに座っているハーエルが攻撃さえしてこなければこのようなことにならずに済んだのではないだろうか。

 彼がどうしてこの屋敷を攻撃してきたのかもよく知らないのだ。とりあえず一つ一つ処理していく必要があるか。

 私はいつものようにハーエルを睨みつける。

 当然、彼も私に対して睨み返してくるのだ。


「どうしてここに攻撃を仕掛けたのかしら? 場合によっては本当に規約違反となるわよ」

「あ? 俺はただジジイに言われただけだぜ?」

「ジジイ? あの氏族監督官の?」

「そうだぜ? そいつに言われたんだからよ」


 氏族監督官である彼がこのようなことを命令するとは考えられない。

 私たち四大騎士は氏族監督官と呼ばれる人に自由を制限されているわけだが、隠れていろんなことをしている。

 フリザード家の私は魔族の生捕、ヘルゲイツ家のルカは学院の教師、ウィンザー家のマフィは学生として生きている。

 そんな中、何もしていないと思われるのはディゲルド家のハーエルだけだ。正直言えば、何かができるほどに頭がいいわけではない。

 彼は完全に戦闘狂で聖騎士団の手伝いをしているとよく聞くが、その真相は私の情報網でもよくわかっていない。

 雷動と呼ばれる雷の中に身を宿して移動、攻撃できる彼の能力は一瞬過ぎるため追いかけることができないのだ。

 もちろん、強い能力なのは認めるけれど発動するのに無防備な時間があるために前線で使用することはできない。後衛からの超火力支援という目的ならうまく使えることだろう。


「なんだよ。なんか問題でもあんのか?」

「それが本当だとしたら問題にはならないかもしれないわね。けれど、どうして監督官がそんなことをするのかしら」

「んなこと、俺が知ってるわけねぇだろ。俺はただ言われた通りにやっただけだぜ」


 監督官が氏族に対して命令を出すことはよくあることだ。魔族に攻め込む時には聖騎士団からの強い要請で私たちが前線を率いることだってある。ただ、それは私たちの代になってからは全くない。

 魔族侵攻といった大規模な魔族の攻撃がある限り動くことがないからだ。

 先代の時と比べればまだ平和な方なのかもしれないけれど、気を抜いている場合ではないのは事実で実際にセルバン帝国が魔族の攻撃によって壊滅してしまったのは記憶に新しい。

 聖騎士団が間に合っていれば滅びることはなかったと思われるが、今となっては考えるだけ無駄だろう。


「何考えてんだ?」

「……もしかしてだけど、監督官が私たちを悪用しようとしていたりしてね」

「んなことあんのか?」


 可能性としてはなくはない。

 監督官は議会から選ばれた特殊な人間にのみ許されている。

 そして、氏族会議では拘束の聖剣でもって私たちの話し合いを監督するのだ。


「彼が拘束の聖剣を持っている以上、私たちに自由はないの。行き過ぎた力を持っているのは認めるけれど、それは精霊に私たちの家系が選ばれたからよ」

「……だがよ。あれはあの場所でしか機能しねぇだろ。全く関係ないと思うがな」


 あの場所というのは会議場のことだろう。拘束の聖剣はそこでしか真価を発揮できないものとなっている。

 あの会議場以外で皆が一つに集まることは禁止されているからだ。


「でも、考えてみて。あの場所では私たちは無力なの。あなたも経験あるでしょ?」

「そうだけどよ」


 何か裏でよからぬことが起きているのかもしれない。

 この国の防衛に関わる事態がすでに動き始めているのだろうか。


「もしあの監督官が私たちの情報を外部に漏らしたり、もしくは情報を錯綜させて惑わしたりしている隙に何か大きなことをしようとしていたらどうなると思う?」

「どうなるんだ」


 そう彼は即答で答えを聞いてきた。

 少し考える素振りでも見せればいいのだが、まぁそういったことは言わなくてもいいだろう。


「私たちはエルラトラム国の最後の切り札よ。それが機能していない状態で、さらに聖騎士団も再編成中、今の私たちに”盾”は存在していないのよ」


 ここまでいえばいくら頭の悪いハーエルでも理解できるだろう。

 聖騎士団は議会軍との統合で大きく編成を組み直している上に、私の流した情報で混乱している最中だ。

 そんな中、私たちまで混乱を引き起こしていては防衛の手立てがないと言っているのと同じだ。


「……もしそれが本当だったとして、今頃魔族がこの国を囲っていてもおかしくはねぇか」

「どういうこと?」

「時間を稼ぐってもう何日も経ってるじゃねぇか。前の魔族侵攻の記録だと二日半で数百体の軍勢を放っていたそうだな?」


 ハーエルにしてはいい返答だ。

 確かにすでにこの国は魔族によって包囲されていてもおかしくはない。そして何よりもどこかで攻撃が起きているとも考えられる。

 もし攻撃が起きているのだとしたら、私たちにも情報が回ってくるはず……


「っ!」

「なんだよ」

「今、氏族監督官が全ての情報を握ってるわ」

「あ?」

「魔族の情報、先週あたりから全く聞かされてないわ」


 そう、今思い出した。

 何回かあった氏族会議だが、その内容は全て魔族の内容ではなかった。

 一度、聖騎士団がどうとかで話題にはなったが、その時は監督官が話を止めていたのを覚えている。


「ってことはよ。どうなってんだよ」


 そこまで答えが出ていればわかるでしょ。と言いたくなるが、私は彼を引っ張っていくことにした。


「おい、話聞いてんのか?」

「作戦は後よ。私たちがするべきことは確認することなの。魔族がこの国を包囲しているかどうか、調べないと」

「んなこと、監督官が連絡するだろ」

「先週から何も言っていないの。隠しているに違いないわ」

「ど、どういうことだ?」


 本当に頭が悪いのか、ただ単に遊んでいるだけなのかはわからないが、私は彼を連れてすぐに防壁の方へと向かうのであった。


   ◆◆◆


 僕、アドリスは聖騎士団の再編成が決まってから本部の警備を行っていた。

 ミリシアの脱出を計ったのだが、彼女たちはどうやらうまく逃げ切れたみたいだ。今、聖騎士団を率いているのはレゼルだ。

 彼にブラドのような判断力があるとは思えない。とはいえ、再編成には賛成している。

 この段階でうまく編成を組み直して、国防能力を一つでもあげなければいけない。


「レゼル隊長、編成の方はうまくいっているのか?」

「……あ、ああ。部隊の相性もあるがうまくいっているよ」


 彼はそう答えてはいるが、うまくいっていないように思える。

 編成に時間がかかるのは仕方のないことだ。個人の能力も見極めて采配を決める必要があるのだから。

 時間がかかったところで防衛に穴がなければいい。命令があれば部隊はすぐに入れ替えることができることだろう。

 急な配属でも対応できるよう僕たちは訓練されてきている。

 そう考えていると、ふと司令室の横の地図を見た。


「部隊の配置も変えるのか?」

「そうだ。変えるのなら全てを変えなければいけないからな」

「以前のままでも十分に防衛効果は高かったように思えるけれど」

「だめだ。あれでは部隊が活かしきれていないではないか」


 そこまで断言するのか。

 まぁ指揮官によって考え方はそれぞれだ。以前までの配置はブラドが考え出した配置をしていた。

 完全に防衛できる体制ではないのだが、本隊が到着するまでの時間は稼げるだけの能力は持っていた。

 防衛の本質は時間稼ぎにあるのだ。


「……今の部隊はどこにいるのかな」

「防衛戦から撤退させているところだよ。皆それぞれの意見を大事にしたいからね」

「撤退か。支部に?」

「いや、本部に来てもらっているところだ」


 僕はその言葉を聞いて嫌な予感がした。

 予感が合っていなければいいのだけれど、一応確認する必要があるだろうか。


「防衛線に聖騎士団は一人もいないということかな」

「そうだが?」


 その予感は当たっていたようだ。


「今もし魔族が攻め込んできたらどうするつもりなのかな。その対策も考えているのかい?」

「魔族がそうすぐに来るわけがないだろう。つい最近突撃してきたばかりではないか」


 レゼルは本当にそれで大丈夫だと思っているのだろうか。

 思い返してみれば彼の作戦には問題があることが多かった。指揮官にとってやってはいけない慢心や怠惰を彼はやっていたのだから。


「防衛側は常に気を引き締めなければいけない。防衛線を空けるなどもってのほかだよ」

「このタイミングで魔族が攻めてくるわけがないだろう」

「……僕たちの隊はすぐに前線基地に向かうよ」

「待て、君たちの部隊はまだ編成できていないではないか?」

「それでもいい。前線に誰もいないのは問題だからね」


 僕はやはりレゼルに聖騎士団を任せることはできない。ブラドの命令とはいえ、このやり方に僕はどこまで耐えられるのだろうか。


「た、隊長命令だっ」


 僕は扉を開けてその命令を無視した。

 もう耐えられてはいないのかもしれない。現にこうして隊長命令を無視しているのだから。

こんにちは、結坂有です。


裏で起こっている最悪な事態は一体なんなのでしょうか。

そして、ティリアとアドリスはその事態を解決できるのでしょうか。気になりますね。

さらにこれを引き起こしている人たちは何が目的なのか。


それでは次回もお楽しみに。



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