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真実は勝者によって書き換えられる

 私、リーリアは学院にいた。

 本来であればすぐに帰ってもいいのだが、セシルにエレイン様のためと言われて残っていたのだ。

 学院に来ていない彼が授業で遅れないようにという理由で残っていた。

 とは言っても今日の授業は全て実技だった。

 そして、学院が放課後になり生徒がそれぞれ帰る時間となった。

 セシルはエレイン様と放課後に訓練をしたかったみたいだ。しかし、今日はエレイン様がいないため、仕方なくリルフィと訓練をすることにしたようで先ほど訓練場へと向かっていった。


「リーリア、少しいいか」


 私も家に帰ろうとしていたところルカが呼び止める。それに彼女の横にはマフィも一緒にいた。


「どうかされましたか?」

「これからティリアの屋敷に向かうところでな。マフィも付いてくるそうだ」

「ルカだけだったら何するか分からないから」


 彼女の説明にマフィがそういった。


「エレイン様を取り戻すためですか?」

「ティリアにエレインは必要ないだろうからな。それに、我々大騎士としても一個人を長期間拘束しているのは看過できない」

「それにエレインは魔族ではない。もちろん、人間でもないかもしれないけれど。今は味方」


 どうやら二人は本当にエレイン様を助け出したいと思っているようだ。

 それなら私も協力した。

 私一人ではティリアに勝てる自信はないが、ルカやマフィも一緒であれば勝ち目はある。

 それに私は最初から勝つつもりはなかった。

 説得に応じないようであれば、力尽くでも取り戻したいのだから。

 そう考えていると一人の女性が学院へと入ってきた。


「リーリア、少しいいですか?」


 学院に来たのはアレイシアの専属メイドであるユレイナであった。


「どうかしましたか?」

「アレイシア様がエレイン様の救助のために議会のほうに来てほしいとのことです」

「議会、ですか」


 すると、目の前にいるルカとマフィが首を傾げた。


「議会がどうしたんだ?」

「……まだ公には発表されていませんが、今朝アレイシア様が議長として就任したばかりです」

「議長にか?」


 私は当然初耳だった。

 もちろん、何か隠し事があるということは気付いていたもののまさかそういったことだとは思ってもいなかった。


「そうだったのですね。わかりました」


 今すぐにでもティリアの屋敷に行きたい気持ちなのだが、議会の後押しがあればより確実に助け出すことができそうだ。

 さらに言えば、そのままエレイン様を……


「わかった。議会に行くのは久しぶりだけど行く」

「なら私も行くとするか。アレイシアに色々と聞きたいことがあるからな」


 すると、ルカとマフィもそう議会に行くと言った。

 それから私たちは議会に向かった。

 もうすぐエレイン様に会えると思うだけで胸が高鳴るのを感じながら道を歩いて行ったのだ。 


   ◆◆◆


 魔族の群れを一瞬で制圧した俺はカインと共に穴の奥に向かった。

 奥ではティリアとハーエルが言い争っていた。

 このあたりの魔族は俺も手をつけていないのだが、どうやら二人がなんとか制圧したようであった。

 だが、ここでいつまでも言い合っているだけでは何も進展しないのもまた事実、それから場所を改めて話し合いをしようという流れになった。


「っ!」


 後ろの方でブラドが見ているということは知っている。そしてもう一人いることも心音でわかっていた。

 攻撃を仕掛けてくる様子はないと思っていたのだが、攻撃を仕掛けてきたのだ。

 真っ先に走ってきたのはブラドの助手を勤めていたフィレスで、その後ろからブラドが展開した影の分身が襲いかかってくる。

 俺は剣を構えようとしたが、彼女らは俺に敵意を向けることはなく後ろのティリアとハーエルに対して敵意を向けていたのだ。


「テメェ! 不意打ちとは卑怯じゃねぇか!」


 もちろん、あの二人は聖剣の力を解放した後のためかなり疲弊してしまっている様子だ。

 魔剣のように血の契約がない状態で超常的な能力を使えば、当然体力を多く消費することになるのだからな。


「これも作戦のうちですっ」


 そうフィレスが言うと鈍くなってしまった二人を押し倒して、俺の手を引っ張ろうとする。


「こちらにっ」

「待って」


 すると、横にいたカインが引き止めた。

 後ろのティリアとハーエルは影の分身と戦っている。


「抵抗するのなら斬ります」

「私は何も抵抗しないわ。けれど、エレインの体はかなり疲弊しているのよ」


 カインは俺のためを思って彼女に伝えたのだろう。

 無理に体を動かすようなことをすれば、また体を壊してしまうかもしれないからな。

 とは言ってもそのことについてはアンドレイアの”加速”でほとんど完治している。

 そこまで気にする必要はないのだがな。


「……わかりました。忠告ありがとうございます。さ、こちらに」


 そう言ってフィレスは俺の手を引っ張りながら連れて行く。


「ちょっと、カイン! エレインを取り戻さないとっ」

「ティリア、実験場がこうなった以上、エレインの戦闘実験はできない。それに確保していた魔族も全滅したのよ」

「……」


 これ以上、俺を拘束しておく理由はないとカインは言った。


「大丈夫、さっきいいデータが取れたから」


 なるほど、あの”瞬刻の殲裂”のことを言うのか。

 まぁ具体的なことはわからないだろうが、ある程度の情報にはなるはずだ。

 それだけでもティリアにとっては興味深いもののになるのだからな。

 そして、俺はフィレスに連れられて穴を抜け出すことにした。

 階段はどうやら被害が少ないようで俺たちはそこから地上に出ることにした。

 地上に出るとそこにはブラドがいた。


「通路の確保、ありがとうございます」

「気にするな。それからエレイン、今から議会に向かう」

「議会?」


 議会に対してはあまりいい思い出がないのだがな。まぁ今はだいぶ変わったと聞いている。

 それにフラドレッド家現当主のアーレイクもいるようだ。それなら以前のようなことは起きないだろう。


「ああ、議長のアレイシアが待っている」


 今初めて聞いた。

 一体どういった経緯があって彼女が議長になったというのだろうか。

 とは言っても彼女が議長になることに対して何ら不自然なことはない。家柄で政治のことをある程度勉強していたようだからな。

 当然ながら、そういった人が政治のトップになるというのはあり得る話なのかもしれないな。


 それから俺たちは議会に戻った。

 議会に戻るとそこにはアレイシアが議長室にいた。


「おかえり、エレイン」

「ああ」


 彼女は今議長室という部屋の椅子に座っている。

 本当に議長になったということのようだ。


「心配したんだからね?」

「悪いな。だが、あの時はティリアの提案に乗るしかなかった」


 聖騎士団に狙われている状況で逃げ続けるのは短期的にも長期的にも不利益しかないからな。

 それならティリアの提案に乗って穏便に済ませる方がいいのかもしれないと思ったのだ。

 結果的に聖騎士団から狙われることがなくなったのだから良かったと言える。


「そのことは聞いたわ」


 そう言って彼女は一呼吸置いた。


「それと、ごめんなさい。私が力不足なだけにエレインたちを守れなくて」

「気にしなくてもいい。こうしてまた帰って来れたのだからな」


 そんなことを話していると、議長室の扉が開いた。

 扉を開けたのはユレイナであった。


「っ! エレイン様、お帰りになられたのですね」

「ああ」


 そして、後ろからはリーリアとルカ、マフィがいた。


「エレイン様、本当によかったですっ」


 ユレイナと驚いていたリーリアは溢れ出しそうなぐらい涙を溜めてそう言った。

 彼女にも心配をかけたのだから仕方ないか。

 後で感謝しなければいけないな。


「ふむ、エレインが帰っているということはティリアから取り戻したということか?」

「ええそうよ。全ては元通りになったの」

「てっきりエレインを取り戻そうと思ったのだがな。無駄足だったというわけか」


 そう言ってルカとマフィは踵を返そうとすると、ブラドが引き止めた。


「待て、証人になってくれないか?」

「……証人?」

「ああ」


 何も聞いていないのかアレイシアが驚いた。


「ちょっと、ブラド?」

「俺に考えがあるんだが、いいか?」

「……まともならいいわよ」


 確かに彼の作戦はいつも極端な場合があるからな。

 とはいえ、彼女が俺のことを大事に思っているのなら少し過激な内容だったとしても受け入れるのかもしれない。


「フリザードの家は完全に崩壊している。そして、アドリスに頼んで聖騎士団の書類倉庫を荒らした」

「つまり?」

「エレインたちが非人間だという証拠は今の所ないということだ」


 なるほどな。

 証拠がないのなら俺たちを非人間だと言って攻撃することはできない。


「待って、私はエレインをまだ人間だと確定したわけではない」


 そうマフィは反論する。


「そうだな。だが、逆に言えば人間ではないという証拠も今の所ないということになる」

「ふむ、公的な証拠がない状態では有効的だな」


 ルカがそういうとブラドはある書類を取り出した。

 その書類は研究所の封筒のようだ。

 そこには俺とレイが非人間だと書かれていた。


「ことの発端はこの書類だからな」


 そう言って彼はその書類に火をつけた。

 書類は床で燃え盛り灰になって、さらに彼が足でそれを粉々にしたのだ。


「これで証拠はなくなった」

「……なるほど」

「あとは、ルカとマフィの証言を取るだけでエレインたちは自由になる」


 全ての証拠はなくなった。

 しかし、人の記憶はそう簡単にはなくならないものだ。

 ここで真実を書き換えたところで、聖騎士団に植え付けられた情報が変わるとは考えられないがな。

 少なくとも議会が俺の敵に回るということはないはずだろう。


 こうして、研究所の公的文書を処分し書き換えることで俺が非人間であるということはなくなった。

 まぁまだ問題は幾つか残っているものの、大きな問題は解決できたと言えるだろう。

こんにちは、結坂有です。


前回も含めて更新が一日遅れしまい申し訳ございません。

一つ言い訳を言いますと、物語の内容を大きく変えたのが原因です。

もともとは違った展開でエレインを取り戻す予定だったのですが、世間の状況を考えて変更いたしました。


まとめに入ります。

アレイシアが議長になって無事にエレインを取り戻すことができたようです。

もしかしてそうなるのでは?と思っていた人もいたようですね。

果たしてこれからはどうなっていくのでしょうか。気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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