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崩壊していく事件

 儀式を終えた私は議会の中の議長室という場所で仕事をしていた。

 議長となった私は色々と知るべき知識があるのだ。もちろん、そのために勉強をしていると言った感じだ。

 とは言っても父であるアーレイクのお手伝いをしていたことがあった。そのため覚えることも私にとっては別段難しくはなく、すぐに吸収することができた。


 それから夕方になった。

 書類などの処理を済ませた私は疲れていた。

 エレインを守るためとはいえ、いきなりハードな事務作業はかなり体に応えてしまう。


「アレイシア様、お疲れ様です。紅茶を用意いたしました」


 そう言ってユレイナは紅茶を持ってきてくれた。

 私はそれを受け取ると、彼女はすっきりとした机の上を見てほっとしたようであった。

 先ほどまで大量の書類に埋もれていたこの机は本当に今日中に処理できるのかと思っていたぐらいだからだ。


「本当に終わらせてしまったのですね」

「ええ、疲れたけれど、これぐらいは終わらせておかないとね」


 明日に、と後回しにしていると面倒なことになってしまうため、ここはなんとしてでも終わらせておく必要があったのだ。

 それに何よりも仕事が残っているということが嫌だからだ。


「本当にお疲れ様です。だん……ブラドさんのところへと向かいますか?」


 あれから色々と話を聞いたのだが、ブラドは聖騎士団の団長を追い出されてしまったようだ。

 どのような経緯があって追い出されたのかはわからない。

 しかし、彼を追い出すというのは予想できないことがあったのは間違いないはずだ。

 今、彼は団長ではなく議会での私の補佐という立場に立っている。


「そうね。エレインのことも探さないといけないわけだし」

「わかりました。では、ブラドさんを呼んできますね」

「お願いするわ」


 そう言って彼女は議長室を後にした。

 扉が閉まると再びこの部屋は静まり返る。外の喧騒など全く聞こえず、異質の空間へと紛れ込んだかのようだ。


 それからしばらくすると、ユレイナが戻ってきた。

 ブラドを連れてきてくれたのだ。


「仕事は終わったのか?」


 そう言いながら彼は議長室へと入ってくる。


「大変だったけれど、終わったわ」

「そうか。少しでも手伝えたらいいのだがな」

「いいわよ。これぐらいは自分でやらないとね」


 これから議長として仕事をしていくのだ。こうしたことにも慣れていく必要がある。

 ただ、議長就任直後の書類程度でこれ以降はほとんどが部下が処理してくれることだろう。


「それより、エレインの方はどうなってるの?」

「ああ、話によるとティリアの屋敷にいるそうだがな。そのティリア本人がなかなか立ち入りを許してくれない」

「……だったら議長命令よ」


 私がそう言うとブラドの口角が少し上がったのが見えた。


「就任してすぐに命令か」

「いけないことかしら?」

「いや、それらしくなったと思っただけだ。配下にそう伝えておく」

「お願いするわ」


 すると彼は一礼してから議長室を出て行った。


「アレイシア様、議長らしくなりましたね」

「そうかしら? 私としては与えられた権力をうまく使っているつもりなのだけど」

「そうですか。私もこれから忙しくなりそうです」

「……迷惑かけてごめんね?」


 私の勝手でユレイナまで巻き込んでしまっているのは承知だ。

 もし、嫌なのであればすぐに言って欲しい。

 エレインたちのことも大切なのだけど、彼女のことも大切なのだ。


「いいえ、私も好きでこの仕事をしているのですからアレイシア様がご心配される必要はありませんよ」

「そうなのね。でもありがとう」

「はい。アレイシア様はきっと偉大な議長になられると信じています」


 そう彼女は私を信頼してくれている。

 もちろん、それはエレインや彼の仲間たちも同じく私を信頼してくれている。

 これから私も頑張って彼らを守っていかなければいけないのだ。私のためでもあり、そして人類のためでもあるのだから。


   ◆◆◆


 俺は昼間のうちに戦闘実験を終えていたようだ。

 随分と長い間、戦っていたような気がするが、そうでもなかったらしい。


「それで、エレインって何者なの?」


 そう言ってくるのはカインだ。

 彼女は俺の目の前に座ってゆっくりとコーヒーを飲みながらそういった。。

 一見すると、美しい美少女のようにも見える彼女は俺を探るようにそう聞いてきたのだ。

 もちろん、全てを答えることも可能ではあるのだが、”非人間だ”という情報のことについては一切知らない。


「俺もわからならい。帝国で特殊な訓練や教育を受けていたということだけは事実だ」

「特殊な訓練ね。本当に特殊だと思うのだけど、あのような状態だったら体すらまともに動かせないのが普通よ?」

「体が動かなくなっていたのは事実だが、要は体の使い方だろう。思考さえ冷静でいれば作戦は立てられる」


 極寒の環境で体が動かなくなるのは当然だ。

 しかし、冷静に状況を判断できれば最小限の動きで相手の動きを躱したりすることは可能だろう。常に万全といった状態で戦えないのが戦場なのだからな。


「だけど、それでも無理があるように思えるけど?」

「少なくとも俺はそれで解決できた」

「……やっぱりおかしい」


 そう彼女は結論付けたようだ。

 まぁ普通ではないのは俺でも理解している。常人では理解できないような訓練を何回も突破してきたのだからな。

 すると、暖炉のある大部屋の扉が開いた。

 先ほどまで誰かの対応をしていたティリアが帰ってきたようだ。


「全く、みんな血眼になってあなたを探しているようね」

「聖騎士団か?」

「違うわ。議会の人たちよ。まぁ以前からも調査と銘打って家の中に入ってきたことは何回かあったんだけどね?」

「それは悪いことをしているからではないのか?」


 俺のように拉致すると言ったようなことをしているのであれば、当然捜査を強行することはあるはずだ。


「そんな、まるで私が極悪人のように言うわね」

「事実だからよ」


 目の前に座っているカインも俺の言葉に同意してくれた。

 極悪人かどうかはさておき、周囲からすれば悪いことをしているように見えるのは確かだ。


「別にいいのだけどね。議長命令が出ることもそうそうないだろうし……」


 そういうと自分自身で少し不安になってきたのか、顔色が悪くなってきた。


「どうしたんだ?」

「ブラド団長はもういない……。議長も変わってしまったらどうなるのかしら」


 そういえば、議長はブラドが担当していたと聞いていた。

 言われてみれば彼が聖騎士団を追い出されたのであれば議長の座も危うくなってしまうのは当然だろう。

 もちろん、それが誰なのかはわからないのだが、想定が崩れてしまう要因になりかねない。


「議長命令が出れば危ないの?」

「危ないどころか、完璧に調査されるわね。そうなれば地下牢に閉じ込めている魔族もばれてしまうのかもしれないわ」

「気になっていたのだが、地下にどれほどの魔族がいるんだ?」


 俺は疑問に思っていたことをティリアに聞いてみた。

 戦闘実験では十体の魔族が俺を襲いかかってきた。少なくとも十体以上いるのは確定だろう。


「どれぐらいだろ。四〇体程はいたと思うわ」

「……その数をどうやって確保したんだ? まともに捕獲などできるはずがないだろう」

「氷漬けにしたのよ。私の聖剣の能力”絶対零度”はどんな魔族でも一瞬で凍らせることができるの」


 そう自慢するように彼女は剣を振るって見せた。

 剣を振るうだけで暖炉で温められた空気が一気に冷え込んでいくのが実感としてわかる。

 それほどに強力な彼女の聖剣は四大騎士と呼ばれるには十分な力を持っているそうだ。


「まぁ本当はダメなんだけどね。でも流石に大丈夫じゃない? あの部屋は隠し扉になってるし」

「……それならいいのだけどね」


 ティリアはそう不安をこぼした。

 隠し扉があるからといって安全かと言われれば決してそうではないからな。


   ◆◆◆


 雷撃の騎士である俺、ハーエル・ディゲルドはティリアの屋敷に向かっていた。

 先ほどは議会の連中がいたから一旦引き返したが、流石にもう邪魔者はいねぇだろう。

 クソジジイの奴に言われたんだが、ティリアの屋敷に魔族がいるって本当かよ。


「へっ、全く信じらんねぇな」


 つい言葉に出てしまった。

 確かに彼女の力を使えば魔族の一体や二体ぐらい戦場から奪うことは簡単だろうがな。

 それでもあいつにそれをするメリットがねぇ。

 まぁ何をしているのかはしらねぇが、破壊許可は出ている。

 もし魔族を隠しているっていうのなら破壊すれば出てくんだろうな。


 それからしばらく歩いて屋敷へと辿り着いた。

 どうやら議会の連中はもういないようだ。

 クソジジイの奴が言うには地下だって言ってたな。

 だったら……


「ふっ」


 俺は剣を引き抜き、頭上へと掲げる。

 バチバチッという音が刀身から聞こえる。そして、それと同時に強烈な雷鳴が鳴り響き、目の前の屋敷の門を雷撃で吹き飛ばした。


「やはり痺れるな。だが、まだまだだっ!」


 俺はティリアの屋敷へと走り込んでいった。

 放出される電撃に身を同化させることで、音速を超えた移動を可能としている。

 久しぶりにこの”雷動らいどう”を使ったが、やはり速いというのは便利だ。


「警備が甘いんだよっ!」


 その雷動で高速に移動しながら屋敷の奥へと進んでいく。

 門下生が何人かいたのだが、俺のこの動きに追いつくことはできないようだ。

 それはそうだろう。雷を目で追える人間などいるはずがないのだからな。


 通気口へと侵入し、地下部屋へと辿り着いた。


「ここが地下か。見たところ魔族はいなさそうだがな」


 しかし、確かに魔の気配を感じる。

 それもかなり強力だ。

 前線で戦うことがなくなってから暇だと思っていたのだが、こんなところにいいオモチャがいたとはな。

 まぁいい。魔族拠点攻撃以来だ。思う存分暴れるとしようか。

 ティリアがここに来るのも時間の問題だからな。


「”我が身に天の怒りを宿せ”」


 全身に電気が溜まっていくのがわかる。

 今、ここでこの力を暴走させれば大爆発を起こすことができるだろう。

 もちろん、そうするつもりだ。

 そして、俺は剣を頭上へと突き上げた。

こんにちは、結坂有です。


ティリアの屋敷に強そうな人が紛れ込んできましたね。

果たしてこれからどうなるのでしょうか。

それにしても、街中で40体もの魔族を解き放つのはどうかと思いますよね。


それでは次回もお楽しみに。



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