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終わりの始まり

  私、カインは驚いていた。

 私は今、師匠であるティリアの助手として彼女の横に立っている。

 先ほど結露した窓ガラスを拭いた直後から実験場の下で戦っているエレインという人が魔族に対して猛攻を始めた。

 聖剣を持たない彼は魔族を倒すことすらままならないはずなのに、それでも彼は魔族を一体、また一体と次々と倒していっている。

 魔族といえど致命傷となる攻撃を受ければ一時的にだがすぐに動くことができない。それは回復を待つ必要があるからだ。

 しかし、下にいる魔族はどうやらそのような感じではない。

 すると横に立ってエレインの戦いを観察してたティリアが不気味に笑い始めた。


「ふふ、私の氷を使ったのね」

「……」


 なるほど、その手があったのか。

 実験場は冷凍室並みの極寒状態となっている。それであれば血飛沫を上げれば氷となる。それには精霊の力が宿っているため、当然ながら魔族への有効打となり得るだろう。

 ただ、それをあの極限状態で気づくことができるはずがない。

 考えてみれば確かに納得のいく作戦だと思うが、十体の魔族と戦っている上に轟音の凍てつく実験場でそのような冷静な判断ができるのだろか。

 そんなことを考えていると、エレインは最後の魔族を倒すことに成功していた。

 もちろん、彼はまだ立っている。他に魔族が来るかもしれないと周囲を警戒しているようだ。


「面白いわ。本当に面白い。カイン、次の魔族を放ちましょう」

「流石にこれ以上は意味がないわ」

「どういう意味かしら?」

「彼は限界よ。それに怪我もしている。そんな状態でまともなデータが取れるはずがない」


 私が見た限りだと確かに彼は戦えることだろう。

 とは言っても、耳を完全に失っており四肢は凍傷、さらには眼球すら凍ってしまっている可能性がある。

 いち早く聖剣の力で治癒しなければいけないのだ。


「……わかったわ。あなたがそういうのなら仕方ないわね」


 ティリアはそういうと少し残念そうに椅子に座った。

 流石にこれ以上続けていては本当に彼の限界が来てしまうことだろう。今はまだ戦える状態だが、ほんの少しでも万全な状態で維持しておきたい。

 あれほど強い彼にはこの実験で生き残って欲しいのだから。

 私は毛布を持ってすぐに階段を降りていった。

 実験場の扉を開くと肌を突き刺すように凍てつく空気が流れ込んでくる。この場所で何時間も戦っていたということはそれだけで異常だということだ。


「……」

「終わりよ。終わりだから安心して」


 おそらく聞こえていないだろうけれど、私はそう言って彼に毛布を何重にも巻いた。


 それから暖かい部屋へとエレインを連れて行き、すぐに私は聖剣を引き抜いて彼の治療を開始することにした。

 見てわかるほどにボロボロになってしまった彼の腕を見るとよくこの状態で剣を振るうことができたなと思ってしまう。普通であればものを持つことすらできないほどの状態になっているのだ。

 私はまず、機能していない耳を修復した。これで聴こえるようになるだろう。


「この状態で戦えるなんて異常だわ」

「……そうか?」

「自覚ないようだから言うけど、異常よ」


 私はそう断言する。

 明らかに普通ではない事象が起きているのだからそう言わざるを得ない。

 私はフリザード家に弟子入りしているわけだが、何も技を教わっていない。しかし、こう言った治療行為に関しては一流以上であると自負している。

 一度、聖騎士団直属の医師と会ったことがあるのだが私と対して変わらない印象であったの覚えている。

 聖剣の力ですぐに彼の壊死しかけていた腕が回復していく

 そして、凍り始めていた眼球もすぐに回復する。これは回復の能力を持った聖剣で、攻撃には全く使うことのできないものなのだ。

 一見するとナイフのようなものだが、刃はなく触れた患部を治癒していくといった能力を持っている。当然、強力な能力のため精霊の試練は難しく、治療のための知識などを問われた。


「すごい能力だな」

「……攻撃のできない聖剣だけどね」


 質問に返答しつつも、彼の治療を完璧に行なっていく。

 そして、彼の体を治し終えると彼はすぐに立ち上がった。


「ちょっと、すぐに立ったら……」

「っ!」


 怪我の名残があるのか、すぐに痛みを感じたようだ。流石の彼でも壊死しかけていたのだから耐えがたい痛みだろう。


「凍っていて感覚が麻痺していたのよ。すぐに動いたら痛むのは当然よ」

「そのようだな」

「まったくもう」


 私がそう小さくため息を吐くと、治療室にティリアが入ってきた。

 エレインが彼女を見るなり警戒の視線を向けた。


「人型の魔族だと聞いていたのだが?」

「ふふっ、人型でしょう?」


 不敵な笑みを浮かべたティリアがそういった。

 確かに人型ではあったのだが、あれでは大型種に入ってしまうものだ。

 明らかに初めの実験として行うのは不適切ではあると思う。


「まぁ倒せないわけではなかったからよかったがな」

「それでいいじゃない。それで、次の実験なのだけど……」

「一ついい? 流石に身体的にかなり疲弊しているわ。このまま次の実験を行ったところで正確なデータは絶対に取れない」

「見た限り、治っているわよね?」


 ティリアの言う通りで彼の体は完全に元に戻っている。しかし、それでも時間が巻き戻ったわけでもないのだ。


「だめよ。私の聖剣もそこまで強力な治癒能力はないの。少なくとも数日は休むべきだわ」

「数日? そんなに待てないわよ」


 そう言って彼女はエレインの隣へと座って、彼の腕を弄った。

 彼女の目はまるで何かを誘っているかのような妖艶さを醸し出しており、気まずい空気感を漂わしてくる。

 しかし、ティリアの場合は興味があるだけであって何もやましいことではない。

 どうやらそれはエレインも知っているようで、彼は少し面倒そうな表情をしていた。


「ねぇ? 本当はどうなの? 戦えるでしょ?」

「その女性も言っていたように、万全とは言えない。その状態では実験の意味はないと思うがな」

「そうなの? こんなにも綺麗な腕してるのに?」


 ティリアはより妖艶な雰囲気を漂わしながら、彼の腕を観察している。

 横から見ているとそれは乙女が男を誘惑しているかのようだが、全く彼女はそういった感情は全くないようだ。

 エレインはあくまで実験対象であって、彼の魅力に惹かれているわけではない。


「とりあえず、今日の実験は終わりよ」

「……確かに痛がっているようだしね。今日は終わりにするわ」


 彼の様子をじっくりと観察した結果、そう判断したようだ。

 とは言っても、明日また彼女はエレインを観察し、正常だと判断すればすぐに戦闘実験を開始することだろう。

 エレインはこんなふざけた戦闘実験で死んではいけない人材だ。

 私はティリアのこの実験に対しては肯定的だが、やりすぎはよくないと考えている。

 確かに犯罪に近いことなのかもしれない。とは言っても、新たな人材を生み出すには多少なりとも危険なやり方をせざるを得ないのは明らかだ。

 これは人類が魔族に勝つための方法の模索でもあり、また新たな未来のためでもあるのだから。


   ◆◆◆


 私、アレイシアは議会へと向かっていた。

 横にはユレイナがいる。

 彼女は足の不自由な私のために色々と介抱してくれている。


「アレイシア様、この階段で終わりです」

「ありがとう」


 議会に入るための最後の大きな階段でユレイナはそう言ってくれる。

 それから議会の中へと進んでいく。

 すでに何人かの議員が着席しており、前議長のブラド団長もいた。


「アレイシア、譲渡の場はここと決まっていてな」

「いいわよ。それに議長になればここに何回か足を運ぶことになるのだからね」


 そう、私がここに来た理由はただ一つ。私が議長になるための儀式を行うためなのだ。

 議長になるということはリーリアやミリシアたちには言っていない。なぜなら余計な心配や配慮をしてほしくないからだ。

 彼女たちには自分自身の仕事に全力を捧げてほしい。


「それでは始めようか」


 それから儀式は行われ、無事に私が議長になることとなった。

 ずっと、議長をやり続けなくてもいい。そういった逃げ道があるからこそ、私は引き受けた。

 別にそこまで苦ではないのであれば、私は続けるかもしれない。

 エレインのために私ができることといえば、こうして裏方の仕事をする方がいいのかもしれない。

 命が狙われることがあったとしても構わない。彼に助けてもらった命、彼のために全力を尽くすのは当然のことなのだから。

こんにちは、結坂有です。


ティリアの戦闘実験は過酷を極めているようですね。

そして、エレインの状態を完璧に治療するカインという人物も気になるところですね。

さらにアレイシアはついに議長としての座につくこととなりました。

これからいろんなことが起きていく予感がしますね。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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