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しばらくの実験台

 ティリアの屋敷にたどり着いた俺は居間にいた。

 耳を澄まして、周囲の部屋の様子も探ってみるががどうやら今屋敷にいるのはティリアと数人の使用人だけのようだ。

 確かにこの程度であればそこまで気にする必要もないだろう。

 ただ、一つ気になることといえば、地下にかなり広めの空間があるということだけだ。

 この屋敷に入る直前に外に設置された通気口の大きさからしてきっとそうなのだろう。

 しっかりと空気の流れがあったことから確実に地下に空間があるということはわかる。


「お待たせ」


 そう言ってティリアは部屋に入ってきた。

 外で聖騎士団の人と話を終えてきたようだ。


「別に構わない。あれでミリシアたちが自由に過ごせるのなら問題はない」

「いえいえ、あの程度のこと全く問題はないわよ」


 彼女は不敵な笑みを浮かべながら、俺の前の席へとゆっくり座った。

 いまだに何を考えているのかわからない彼女だが、きっと何か良からぬことでも考えているはずだ。

 そんなことを考えていると彼女は足を組み始めた。


「条件として、実験台になってもらうとの話でしたよね?」

「ああ、それで俺たちが魔族ではないと証明できるのならな」


 それをはっきりさせるために俺は実験台になるという条件を飲んだのだ。

 もちろん、リスクを承知の上で頷いたのだが、結果としてミリシアやリーリアを心配させることとなってしまった。

 無駄な心配をかけないようにしなければいけないと思っていたのだが、こうも簡単に約束を破ってしまうとは、俺としても反省しないとな。


「まず、実験内容として魔族と戦ってもらうわ」


 魔族が敵だと判断すれば俺は人間側だという証明になる。

 マフィを説得させた時と同じような理由だろう。

 敵の敵は味方なのだからな。


「そうだったな。聖剣などは使わないということも聞いた」

「ええ、素の状態で魔族と対峙してもらうわ」


 聖剣を使わないとなれば、魔族を完全に仕留めることはできないということだ。

 とは言ってもこんなところで戦うとなればせいぜい数対程度だ。なら、聖剣がなくとも全く問題はない。


「わかった」

「それと、私個人としての興味なのだけど、ちょっと不利な状況で戦ってもらうわ」

「不利な状況?」

「そうよ? ただ魔族と戦うだけだと面白くないでしょ。だからギミックを用意したの」


 何を考えているのかは検討つかないが、多少不利な状況で戦いを強いられることになりそうだ。

 しかし、大抵のことであれば耐えれるよう俺は帝国時代に何度も訓練を受けてきた。


「まぁなんでもいい。地下で戦うのか?」

「ええ、よく気づいたわね」

「外の通気口でな」

「ふふっ、勘のいい子は好きよ?」


 そんな不敵な笑みを浮かべながら彼女はゆっくりとまた立ち上がった。


「早速実験を始めましょうか」


 どうやら今から実験を始めるのだろうか。


 それからしばらく廊下を進んでいき、地下へと続く階段を降りていく。

 しっかりと整備されているようで地下牢とは全く違うものとなっている。


「ここが、あなたの実験に使う場所よ」

「なかなか広いな」


 帝国の地下施設とは比べ物にならないが、家にあった訓練場と同等か少し大きいぐらいの大きさはあるだろう。

 これなら十人ぐらいで組み手ができるだろうな。もしかすると、ここはフリザード家の訓練場だったのかもしれない。


「魔族の種類は?」

「よく見かける人型の魔族、少し汚らわしいけれどね」


 なるほどな。

 それなら全く問題はないか。

 流石のゴーレム型とかになれば、生身では確かに苦戦を強いられることになるが問題はなさそうだ。


「では、私は少し準備がありますのでここで待っていてくれる?」

「わかった」


 そう言って彼女はこの監視室から出て行った。

 外から鍵をかける音が聞こえたが、ここから逃げられないようにするためだろう。

 すると、魔剣の中からアンドレイアとクロノスが現れた。


「お主、あれほど無茶なことはするなと言ったじゃろうが」

「別に人型の魔族であれば全く問題はない。死ぬことはないはずだ」

「じゃがの。相手は魔族じゃ。どういったやつなのか見当もつかんぞ」


 顔を赤くして必死に訴えかけてくるアンドレイアはいつものことだ。

 俺が多少無茶なことをしようとすれば、すぐに抵抗してくる。


「ご主人様、私は不安でしかないです」

「俺が死ぬとでも?」

「それも、ありますね。ここは何やら嫌な予感がしますから」


 それは俺も同じように思っている。

 階段を降りたあたりから嫌な気配が漂ってきている。

 ここで恐ろしい実験を繰り返している、そういったことを直感が訴えてきているのだからな。


「確かに地下空間で閉じ込められでもすれば、脱出は困難だな。だが、それはティリアの望んでいることではない」


 彼女は興味で俺を戦わせようとしている。

 そう簡単に俺を生き埋めにするようなことをすれば、彼女にとって意味がないことになるからな。


「とりあえずじゃ。絶対に死なぬと誓えるかの?」

「ああ」

「ご主人様、本当ですか?」

「なんとしても生き延びるつもりだ」

「……わかりました。ご主人様を信じます」


 そう言ってクロノスは魔剣の中へと姿を消した。

 一瞬涙をこぼした様子ではあったのだが、彼女は人前で泣くのは嫌なようだからな。、


「絶対にじゃぞ?」

「わかってる」

「死んだら許さないからの」


 そう言ってアンドレイアも魔剣の中へと姿を消した。

 それと同時に外の鍵が開けられティリアが入ってくる。


「準備ができたわ。聖剣はそこにおいて降りてきてくれるかしら?」

「ああ」


 俺は魔剣と聖剣を武器庫の中に入れてティリアの後をついていくことにした。

 先程の監視室から階段をさらに下りて、見えていた実験場へと辿り着いた。


「ここでしばらく戦ってもらうわ」

「しばらく、どれぐらいだ?」

「私の気が済むまでよ」


 まさか数日間続けて実験をするわけでもないだろう。

 それであれば、全く問題はない。


「ああ」

「死ぬかもしれないのに、即答するのね」

「何かを考えて不安になるよりも考えずにその時の最善を尽くせば問題はないだろう」

「……そう、じゃ始めるわね」


 そう言って彼女は実験場から出て行った。

 しばらくすると上の方の窓から顔を出してきた。どうやら監視室から俺を観察するようだ。

 この感じはあの地下施設の感じに似ているな。あの時は複数台あるカメラで俺たちを観察していたようだが。

 そして、ニコッと笑顔を俺に向けると頑丈そうな扉が開いた。

 そこから魔族が十体ほど出てきたのであった。


「っ!」


 その魔族を見て俺は驚いた。

 相手は武器を持っている。俺は何も持っていない。

 何よりも人型ではなかったのだ。

 人よりも一段大きい大型の魔族だ。


「嘘、だったか」


 予測していたことだが、想定よりも数が多い。

 彼女は俺に本気を出させたいようだな。


「グガァァ!」


 魔族の咆哮が実験場を轟かせる。

 この程度のことでは死ぬことはない。それに想定外とはいえど、対応できないわけではないからな。

 俺は十体の魔族の攻撃を避け続けることにした。

 魔族はすぐに怪我を治癒していく。ここで無駄に攻撃などをして体力を消耗したくないからだ。


   ◆◆◆


 想定よりもだいぶ強いようね。

 監視室でもう三時間ほどエレインの戦いを見ている。

 もう夜も遅くなる。さらに言えば、彼は聖騎士団と戦ったりマフィと戦ったりとかなり疲弊しているはずなのだ。

 それでもここまで動けているのは不思議でしかない。


「……非人間って書かれてた人よね?」


 そう話しかけてきたのは私の愛弟子であるカイン・ミルフェイスだ。


「そうよ」


 私は紅茶を飲みながらその質問に答えた。


「聖剣のない状態でここまで長く戦えるのね」

「全く、驚きだわ」


 彼の戦いを見ているわけだけど、彼はまだ本気を出している様子ではない。

 準備運動をしているかのような、そんな余裕さえも感じる。


「カイン。音響妨害を開始して」

「……うん」


 彼女は若干の戸惑いを見せつつも音響妨害のスイッチを入れた。

 ズーンっと低く強烈な音が監視室を轟かせた。

 もちろん、実験場はさらに大きな音がなっている。この音響妨害装置は実験場内の人間の聴覚を狂わせ、さらには平衡感覚すら惑わせるようなものだ。

 エレインはこれに耐えられるのだろうか。


「へぇ」


 予想通り、音響妨害をしたところで彼の動きに衰えはなかった。

 平衡感覚がほとんど機能していないはずなのにしっかりと体のバランスを保っている。


「出力は最大なのかしら?」

「え?」

「最大なの」

「……まだ三割ほどしか」

「最大にしてみてくれるかしら」


 私がそう彼女に言ってみるが、戸惑いを見せている。

 行動が遅いのはあまり好きではない。


「……出力を上げるわ」


 若干の戸惑いをあらわにしながらも彼女はつまみを回した。

 私は音から耳を守るために防音用の耳当てを装着した。カインも同じく耳当てを着ける。


「出力、最大!」


 大きな声で彼女が言うと目の前の分厚い強化ガラスが震え始めた。

 実験場内はとてつもない音に包まれていることだろう。

 エレインの耳から血が出てきている。

 耳の内部はこの音で完全に破壊されてしまっているようだ。そして、この強烈な低周波で心身ともに消耗していくはずだ。


「ふふっ」

「……」


 ここまで耐えるのは初めてだ。

 魔族の方も若干の息苦しさを感じているようだが、この音は特殊で人間にしか効果がない。

 それでもエレインは戦えているのだ。

 なかなかに面白い。

 私はいつの間にか聖剣を取り出していた。


「師匠っ。いったい何をするの?」

「冷やすのよ。氷点下よりもさらに低い温度で戦えるのかしらね」

「いくらなんでもそれはっ」


 カインの言葉を無視して私は聖剣を突き刺した。

 そして次の瞬間、目の前のガラスが真っ白に曇った。

 分厚い強化ガラスでも一瞬にして凍ってしまうほどの冷気を下の実験場へと流し込んだのだ。

 これで実験場全体の温度は冷凍室と同じぐらいの温度になったことだろう。

 もちろん、エレインにはまともな防寒着などない。

 さて、これでどうかしら?


「……」


 カインは強化窓の結露をタオルで拭ってくれる。

 私はゆっくりと窓から覗き込んでみる。


「面白いわね。本当に面白いわ」

「……」


 エレインはまだ戦えていたのであった。

 まさか、人間がここまで耐えられるとは驚きだ。

こんにちは、結坂有です。


かなり不利な状況でエレインは戦っているようですね。

彼は本当に人間なのでしょうか。気になりますね。

ここで一つ、ティリアはエレインたちのことを人間だということを知っています。どうしてこのような実験をしているのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。



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