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知らないことばかりの世界

 僕、アレクは階段を駆け上がっていた。

 前にはレイもいる。

 彼は左腕に腕の太さほどの鎖を持っている。その鎖は武器として使うようだが、一体どのように使うのだろうか。

 考えてみれば、鎖を使った戦闘は訓練をしたことがない。いったい彼はどのようにしてそれを武器として使うつもりなのだろう。

 とは言っても、あれほどの大きさなのであれば普通に振り回すだけでもそれなりの攻撃力はあるはずだ。

 本当に振り回すだけなのか?

 そんな疑問が頭をよぎっているが、もうすぐ地上だ。


 バキンッ!


 塞がれていた鉄製の扉を一蹴りで吹き飛ばし、レイが叫ぶ。


「へっ! 脱走してやったぜっ!」


 脱走の成功を報告する脱走者がいるのかという話は置いておいて、これで注意が僕たちに向くのであれば陽動は成功だ。


「レイ、無茶はしないようにね」

「おうよ。アレクも無茶はすんな」

「ああ、わかってるよ」


 すると、警報のようなものが鳴り響き僕たちのところへと団員が集まってくる。


「来やがったな」

「そうだね。広場の方へと向かおう」


 僕がそう言うと同時にレイは走り出した。それに合わせるように僕も走り出す。

 団員たちが僕たちを見失わないように注意しながら速度を調整しながら、建物を走り抜ける。この疾走感は地下施設では味わうことのできなかった。

 風が僕たちの周りを避けている。そんな感覚は初めてであった。


 それから広場へと到着すると、団員たちに囲まれてしまった。いや、そう誘導させたのだ。

 そう、僕たちの戦いが始まるのだ。


「おいっ! 来いよ!」


 僕の背中にレイが立った。

 お互いに死角を埋め合う配置だ。これなら全方位から攻撃されたとしても対処することができることだろう。

 全方位からの殺気を含んだ視線がやけに痛い。

 なるほど、組手というものはやったことがないが、きっとこのような感じなのだろう。

 俄然、やる気が出てきた。


「はっ」


 引き抜いた聖剣で地面を斬り裂く。そして大量の砂塵が舞い上がり視界を不明瞭にさせる。


「レイ、くれぐれも殺さないように」

「わかってるって」


 そんな声が聞こえた瞬間、団員の悲鳴のようなものが聞こえた。


「あぎゃぁ!」


 苦痛のその叫びは耳に痛い。

 殺さないようにとは言ったが、どういった手段で敵を倒しているのだろうか。

 まぁそのことはこの砂塵が消えてから確かめるとしよう。

 すると、砂塵の中から妙に鋭い視線を感じた。おそらく僕に対して攻撃を仕掛けてくるようだ。


「ふっ」


 僕はサッと振り向くと剣先が襲いかかっていた。

 それを義肢の腕で受け止め、即座にその聖剣を叩き飛ばした。


 ギャキンッ!


 鈍く、甲高い金属音が響き渡る。そして僕は義肢で強化された足で相手を蹴り飛ばした。

 腹部への強烈な蹴りで相手の意識を一瞬にして刈り取ることに成功した。

 当然、周囲に軽く十人を超える数の団員がいることだろう。

 この調子ならまだ余裕だ。

 レイも楽しんでいる様子だ。


「っ!」


 砂塵の中から太い鎖が飛んできた。

 その直後、鎖の間に剣を挟んだのだ。。


「悪りぃな」

「……もう少しズレていれば僕の頭に直撃だったんだけどね」

「頭ぐらいどうってことねぇだろっ」


 そう言って鎖を引っ張ると砂塵の中から団員が出てきて、レイは魔剣を振り上げて相手の鎧を完全に破壊してから急所へと蹴りを入れた。

 グジッと生々しい音を響かせた直後、団員は叫んだ。

 あの蹴りで肋骨が折れ、それが内臓へと刺激を与えているのだろう。

 内臓が完全に破壊されない程度に加減しながら、彼は蹴りを入れている。その繊細な技術とは裏腹にかなり惨いことをしている。


「手加減は……」

「あ? してるって。こんなもん、なんてことねぇだろ?」

「いや、普通の人は耐え難い苦痛だと思うのだけど」

「弱ぇ奴には興味ねぇなっ」


 それからも彼は鎖を使って相手の武器を無力化してから着実に急所へと蹴りを入れていくのであった。


   ◆◆◆


 階段近くで外の様子を伺っていた私、ミリシアは装備を整えていた。

 レイが先導して外にいた団員たちを誘導してくれたようだ。これで私が自由に本部内で何かを探すことができることだろう。

 そう考えて私はゆっくりと階段を駆け上がっていった。

 地上に出ると外には団員の様子はなく、広場の方から剣を交わすような音と悲鳴が聞こえていた。

 殺さないようにとは言ったものの、かなりの激戦になってしまっているようだ。

 まぁ私たちを殺そうとしてきているのだ。本気で戦うというのは当然と言えば当然か。

 そんなことを思い馳せながら私は本部の中へと侵入していく。


「中は特に変わってないわね」


 一見すると、中はそこまで変わっていないような気がする。

 しかし、明らかに変わっているものを発見した。


「あれ、団長の肖像画がない……」


 大廊下にかけられていたブラド団長の肖像画がなくなっているのだ。

 他の偉そうな人の肖像画は残っているものの、ブラド団長のものが完全になくなっていた。

 何か問題があって下されたのだろうか。

 それからしばらく歩いて資料室へと向かう。


「え?」


 そこに広がっていたのは山ほどあった資料が散乱していたのだ。

 整理することは不可能な状態だろう。全ての資料が床にぶちまけられていた。


「一体誰がこんなこと……」


 調べようとしていたことをわかっていたのだろうか。それとも不都合な資料を隠そうとしていたのだろうか。

 どちらにしても私がここに来てわかったことは誰かが確実に聖騎士団を陥れようとしているという事実だ。

 そして、何か情報を悪用している可能性が高い。

 資料室をここまで荒らすぐらいだ。きっと悪いことを企んでいるに違いない。


「っ!」


 資料室の裏から足音が聞こえた。

 私は急いで資料室の本棚の上へと登った。

 この資料室はかなり広い空間で天井までの距離は人の三倍ほどの高さがある。さらにこのタンスも天井に近い位置まである大きい本棚でこの上に隠れれば大抵の場合は見つからることはないだろう。

 私は息を潜めてそこに隠れることにした。


 しばらくすると、ゆっくりと扉が開いて誰かが資料室へと入ってきた。

 甲冑の足音のため団員の誰かなのだろうが、下手に顔を出して確認すると気づかれてしまう可能性がある。

 ここはじっと待機して機を伺った方が良いだろう。


「誰も来ていない、か……。ん?」


 しゃがみ込む音が聞こえた。

 何かを見つけたのだろうか。


「錆、やはりここにっ」


 そう言って男の人は聖剣を引き抜き本棚を斬った。

 運良く私のいる本棚ではなく、一つ横の本棚だった。しかし、その本棚は勢いよく崩れていった。

 今度私のいる本棚へと攻撃された場合、私は確実に気づかれてしまうことだろう。


「ふっ。次は……」


 彼がそう言った途端、扉が開いた。


「レゼル団長っ。いったい何を?」

「ああ、なんでもない」

「団長、外がやばいことになっていますっ。すぐに応援をお願いします」

「……」


 それでも彼はすぐに資料室から出ようとしなかった。まだこの中に誰かがいると思い込んでいるようだ。


「団長?」

「さ、行こうか」

「はいっ」


 そう言ってレゼル団長は資料室から出て行った。

 レゼル、どこかで聞いたことのある名前だが、いったいどこだったのだろうか。

 このことは後でアレイシアたちに聞いたらわかることだ。とりあえず、私たちの仕事は終わった。

 あとはここから離れるだけだろう。

 そう思って音を立てないように本棚から降りる。


「っと……」


 ふと足元に視線を下ろすとそこに気になる資料を見つけた。


「エレイン、非人間。レイ、非人間。どういうこと?」


 その資料に書かれていた文字を読んでみる。

 エレインとレイが魔族なのかもしれない。であれば、その仲間のミリシア、ユウナもまた魔族。

 そういった殴り書きされたようなメモを発見したのであった。

 私はそれがなんなのかわからないが、とりあえずその資料をポケットの中に入れて私は資料室から出たのであった。

こんにちは、結坂有です。


新年あけましておめでとうございます!

今まで応援してくださった方々、本当にありがとうございます。

どうぞ、今年からもよろしくお願いします。


ミリシアはついに聖騎士団の反乱の原因となっているメモ書きを見つけてしまったようですね。

大元の資料はなくともあのメモで十分わかることでしょう。

これからの展開が楽しみにですね。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

Twitterではここで紹介しない情報はたまに呟きなども発信していますので、フォローしてくれると助かります。

Twitter→YuisakaYu

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