信頼するべき人
ルカとマフィは両手足を失った男を調査すると言って俺と別れることにした。
マフィは俺の家を知りたがっていたようだが、緊急事態ということでルカと一緒に向かうことにしたのであった。
それからしばらくリーリアと歩いていると、彼女はふと俺の方を向いた。
「あの……デートの件なのですが、本当によろしいのでしょうか」
「俺はいいと思っている。何か問題でもあるのか?」
流石にメイドとして歩いていればそれはデートではないのかもしれない。
とは言っても普通の服装で普通のやりとりをしていれば、周りから妙な目で見られることはないだろう。
「いえ、私なんかがエレイン様と同じ立場で会話するなど、失礼ではないかと思いまして」
「そんなことは気にしなくていい」
アレイシアと同じ二十一歳と言うことだ。俺に対して失礼だと思う必要はないだろう。
「……歳のこと、考えてませんか?」
「いや、そんなことはない」
「むっ、絶対考えてましたよね。私とエレイン様はそこまで年は離れていませんっ」
「アレイシアと同じではないか?」
「知りませんっ」
そう言って彼女はそっぽを向いた。
そんなことをしていると奥からユレイナがかなり焦った表情でこちらへと走ってきた。
「エレイン様っ」
「どうしたんだ?」
「今すぐ、家に戻ってきてください」
そう言って彼女は俺の手を引っ張って走ろうとする。
俺もそれに連れられるように走っていく。
すると、その先には玄関を破られた家があった。
「何があった?」
「聖騎士団の人が私たちのところに来たのです」
まさか聖騎士団の人がアレイシアを攻撃するとは考えられない。
それにミリシアたちがいることも団長は許可していると聞いている。それなら彼らがここを襲う理由がない。
「どうしてそうなったのですか?」
リーリアが俺が思っていた疑問を口にしてくれた。
しかし、ユレイナは答えることはしなかった。
彼女自身もどうして攻撃されたのかはわからない様子だ。ということはかなり突発的な事件であるのは明らかだろう。
「……ですが、ミリシアさんやアレクさんのことを魔族だと言っていました」
マフィが誤解していたことと同じ理由か。何かそういった妙な噂が出回っているのかもしれないな。
「ちょうど私たちもそれで狙われたことがあったのですよ」
「エレイン様もですか?」
「ああ、なんとか誤解を解くことができたわけだがな」
ほんの少しでも気を抜けば命を取られていたかもしれない。今となっては一応味方だと認識してもらえているのだが、それも気を抜くことができないだろう。
それから玄関の中に入ってアレイシアの元に向かうと、そこにはユウナとナリアがいた。
「アレクたちはどうしたんだ?」
「……それが、私のためを思ってわざと捕まってくれたの」
「なるほどな」
彼らであれば簡単に聖騎士団を撃退することができただろう。しかし、そうしなかったのには理由があるはずだ。
無意味に捕まるような真似はしないはずだ。
「それは問題ないだろうな」
「はい。ミリシアさんは偵察も含めて捕まると言っていたので」
それなら納得できるか。
これは明らかにブラド団長の仕業ではない。となれば、聖騎士団の裏切りの可能性があるのかもしれないな。
内部抗争でもあったのなら調べる価値はあるだろう。
「え、そうなの?」
「安心してください。彼女たちならきっと大丈夫ですよ」
「それよりも、ユウナ」
「はいっ」
すると、ユウナは姿勢を正して俺の話を聞く体勢となった。
彼女はかなり緊張しているようで、今の状況をどうするべきなのか考えている様子であった。
「アレクやミリシアは何か言っていたのか?」
「いいえ、エレイン様に報告するようにとだけ言われました」
「そうか」
確かに情報を伝えるだけでも十分ではある。
今、アレクやミリシア、レイがどこにいるのかはわからないが、おそらく本部の地下牢のはずだ。
そこにいなければ、別の支部へと連れて行かれたのだろう。
とは言っても何かあれば、簡単に抜け出せるはずだ。
彼らを助け出す必要はないだろうな。
「私たちはどうすればいいでしょうか?」
そう言ってきたのはユウナであった。彼女もまた役に立ちたいと願っていることだろう。
しかし、今彼女にできることは限られている。
「そうだな。俺は別のところへと向かう。アレイシアの護衛を頼んでもいいか?」
「はいっ」
ユレイナもいるのだが、彼女だけでは不十分だ。
であれば、ユウナやナリアも担当すればいいことだ。あの二人に任せていればほとんどの敵を倒すことができるだろう。
ただ、一つ問題点を挙げるとすれば、マフィのような強力な聖剣の能力を持った人が来た場合だ。
そうなった場合はほとんどの確率で彼女らが負けることになることだろう。
「ユウナ、もしものことがあれば本気でその魔剣の力を解放して構わない」
「え?」
「敵がどういった実力なのか分からなければ自分の力を解放しろ」
「……わかりました」
そう敬礼するように彼女は手を挙げた。
その様子を見た俺はリーリアと共にある場所へと向かうことにしたのであった。
◆◆◆
アドリスのおかげで音を立てずに牢屋の鍵を開けた私、ミリシアは同様にアレクとレイの牢屋も開けることにした。
それから、私はある作戦を考えた。
「とりあえず、あそこを見張っている三人の聖騎士団を静かに倒しましょう」
「ああ、そうだな」
そして、地下牢から地上に出る場所を警備している三人の警備隊を私とアレクとで倒した。
三人をすんなり倒せたのは運が良かったのだろうか。彼らは抵抗する間もなく気絶していたのであった。
「これで終わりかな」
「そうみたいね。装備を持ちましょう」
没収されていた聖剣や魔剣を私たちは手に取った。
「レイ、その鎖はどうするつもりなの?」
引きちぎっていた鎖を彼はまだ大切そうに持っていた。
後で何かに利用するつもりなのだろうか。
「あ? 武器になんだろ?」
どうやらその鎖を武器にするようだ。
彼にはかなり強力な魔剣を持っているのだが、その刀身はそこまで長くはない。しかし、今持っている鎖はそれなりに長い。とは言っても太さが人の腕ほどあるため、かなりの重量のはずだ。
「本当に持てるの?」
「こんなもん、なんともねぇよ」
「それならいいのだけど……」
「レイのことだ。常人とは違うよ」
そうアレクが言ってくる。
確かに彼の怪力は異常を極めている。今更気にする方が変なのかもしれないな。
「それよりも、これから地上に出てどうするんだ?」
「うーん……」
私は少し悩んでいた。
地上に出れば必ずと言っていいほど、団員の人たちがいるはずだ。
となれば、隠密で行くべきなのかもしれない。
「この時間帯だと、まだ団員が多いと思うの。ゆっくりと内部を調べることができるか心配だわ」
団員がいる間は自由に調査ができないはずだ。
「だったら、俺が団員の奴らを引きつけてやるよ」
「レイ?」
「僕も彼の協力をしようかな。ミリシアのために時間を稼ぐよ」
「……本当に大丈夫なの?」
確かに彼らが団員を引きつけてくれるのなら、時間は十分に確保することができる。
しかし、それでは彼らが危険な状況になってしまうのではないだろうか。
「ああ、ちょうど腕慣らしをしたくてね」
「へっ、あの訓練だけだとものたんねぇんだよ」
あの訓練を物足りない……。それはいいとして、私は彼らを信用する方がいいだろう。
どちらにしろ、今できることはこの作戦以外すぐに実行できるものはない。それなら私にできることをするべきだ。
「わかったわ。じゃ、タイミングを見て私は外に出るわ」
「おうよ」
そう言って二人は階段を上がっていった。
レイは鎖を引きずりながら、堂々と。アレクは美しい所作で剣を引き抜いて美しい姿勢で階段を上がっていった。
あの二人ならきっと大丈夫。もし無理そうなら逃げてくれることだろう。
こんにちは、結坂有です。
今年最後の回となります…
色々とありましたが、半年というのは意外と早いものですね。
まずタイトル変更となりました。
急遽、内容変更したために一回にまとめることができませんでした。申し訳ありません。
新年からも頑張って投稿していきますので、よろしくお願いします。
それでは次回もお楽しみに。
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