動き出す味方
私、アレイシアは何もできなかった。
ミリシアたちを保護するのが今の私にできることだったのに、それすらもできなかった。
団長が何らかの理由で動けないようだし、私は何がなんでも彼らを追い払う必要があったのだ。
ミリシアとアレク、レイが聖騎士団に手錠をかけられてからの数分間、私は声すら上げることができなかった。
「あ、あの……」
聖騎士団が帰ってしばらくすると、扉が開いた。
扉を開けたのはユウナとナリアで、ユレイナではなかった。
「どうして二人が?」
「ミリシアさんに言われてずっと隠れていました。一体何があったのですか?」
「聖騎士団の人が押し入ってきたのよ。変な誤解をしてミリシアたちを魔族か何かだと思っていたみたいで」
「……そうなんですね」
ユウナはそう言って考え始めた。
今私たちができることを最初に考えようとしているのだろうか。
何もできなかった私よりもよっぽど優秀なのかもしれない。
「とりあえず、みんなが戻ってくるまで待ちましょうか。お腹も空きましたし」
さっきの言葉は訂正する方がいいだろうか。
いや、腹が減っては戦はできぬとも言う。とりあえず、ご飯を食べてゆっくり考えようということなのだろうか。
私も彼女と同じく何もすることはできないために、そうすることにしよう。
「そういえば、ユレイナは見た?」
「いいえ、私は見てませんけど……」
ユウナはそう言って横にいるナリアを見たが、彼女もまた首を振ってそれを否定した。
もしかすると、ユレイナも連れて行かれたのだろうか。
そういったことを考えるだけで不安が込み上がってきたのであった。
◆◆◆
聖騎士団に捕らえられてから私たちは手錠をかけられ、目隠しをして聖騎士団本部の方へと連れていかれた。
目隠しをされたからと言ってもしっかりと視覚以外の感覚を駆使すればある程度の方角などがわかる。
空気の流れや、場所特有の匂いなども判断材料の一つになるだろう。
ちょうど、聖騎士団本部の地下牢には何回か行く機会があったためにすぐに理解できたのであった。
それからじめっとした空気が漂ってきたと同時に目隠しが外される。
まだ視界が暗いために地下牢のどのあたりなのかはわからないが、おそらくはかなり奥の方へと連れて行かれたのだろう。
「ってぇな。どこだよここ?」
「聖騎士団本部の地下牢みたいね」
そう言っている間にも聖騎士団の団員が地下牢の扉を開けて、私たち三人を同じ牢屋へと閉じ込めた。
ガシャンっと乾いた金属音が響くと団員たちは牢屋から離れていった。
離れたと言ってもすぐに駆けつけることができる場所で待機しているようだ。ほんの少しだけだが、話し声が聞こえる。
「それにしても、人間と同じ扱いにはされていないみたいだね」
そうアレクが言うようにこの地下牢は特に掃除されている様子ではない。
それに人の糞便の臭いが立ち込めており、息をするのもしんどいほどだ。
「くっせぇ場所にいつまでもいるつもりはねぇぞ?」
「待って、もう少しだけ待って」
今すぐにでも逃げたそうにしているレイを引き止めつつ、私はあることを考えた。
このまま地上に出た場合、どのあたりなのだろうと。
地下牢は本部の敷地内全域にわたって作られているようだ。かなりの数を収容できるように思えるが、実際はそうではなく倉庫代わりとしても使われることがあるのだ。
「ミリシアの考えていること、わかるよ。このまま真上に出たらどこに出るか考えているんだろ?」
「アレクは頭がいいから話が早いわ」
「で? 地上に出てどうすんだよ」
「真上が本部の建物内だったら無理だけどね。もし中庭とかだったら私がやろうとしている作戦ができるわ」
私がそう言うとレイは顔を傾げた。
どうしてわざと捕まるような真似をしたのかというと、本部の調査をすることだ。
団長の指揮でアレイシアの家を攻撃したわけではないのだとしたら、きっと別の要因があるはずだからだ。
「聖騎士団本部の調査、それがミリシアの目的だね?」
「ええ、でも建物内に出てしまったら誰かに気付かれてしまうから」
「なるほど、中庭とかだったら静かにしていれば気付かれることはないだろう」
とは言ってもここから地上に出るのは難しいだろう。
私たちの聖剣や魔剣は全て先程の団員たちに没収されたばかりだ。
当然私たちは掘り進めるための道具もなければ時間もない。
それでも何かをしなければ現状を打破できないのは明らかだ。何かできないだろうか。
「レイ、もしかしてこの扉ぐらいだったら蹴破れるのかい?」
そうアレクが言うと彼は軽く伸びをした。
「蹴破っていいのかよ」
「そうだね。少しは現状が変わるかもしれないからね」
アレクもまた私と同じように今の状況をどうにかして変えたいと思っているようだ。
しかし、目の前の扉は鉄で作られており、硬く鍵が閉められた上に鎖で固定されている。
そんな状態の扉を蹴破ることなど可能だろうか。
「でも、どうやって?」
「それは……」
すると、レイが壁側へと歩いて走る態勢になった。
「へっ、だったらこうすればいいんだろっ!」
そう言ってレイが牢屋の扉へと蹴りを入れた。
バキンッ!
金属が破断する強烈な音が地下空間を轟かせると同時に、鉄でできた強固そうな扉が吹き飛んだ。
レイの常人離れした怪力がここでも発揮されたのであった。
「おいっ! 早く出んぞって」
彼がそう言った途端、奥の方から団員たちが十人以上やってきた。
「俺が突破してやるからっ、お前らは先にっ」
しかし、団員たちが包囲する方が早く一瞬にしてレイの動きは封じられてしまっていた。
「離しやがれっ!」
「レイ、殺してはダメよ」
「あ?」
必死に抵抗するが、その努力も虚しく彼は人の腕ほどの太い鎖でぐるぐると体を拘束されてしまった。
そして、別の地下牢へと彼は放り込まれてしまったのだ。
「お前ら、ふざけんなよ! 俺が本気出したら一瞬でぶち殺してんだからなっ!」
そう言い捨てるように彼が言うが、聖騎士団団員たちは負け犬の遠吠えのように彼の言葉を聞いていただけであった。
私たちも同じく破壊された牢屋から移動させられ新しい牢へと入れられた。
今度は同じ場所ではなく、三人とも別々の個室となってしまった。
幸いにもお互いに目の届く範囲にいる。
「とりあえず、レイの怪力については理解できたとして。これからどうするんだい?」
アレクがそう言って私に話を切り出してきた。
「そうね。レイが暴れてくれたおかげで少しは彼らも警戒してくれたみたいだし」
「俺を囮に使ったのかよっ!」
「結果的にそうなってしまったわけだけど、おかげで現状は変わったよ」
確かに先程の環境からはだいぶ変わった。
ここからなら少しは打開策が生まれるかもしれない。
そんなことを考えていると、奥から一人の団員がやってきた。
「……さっきは蹴破ったみたいだね」
そう話しかけてきたのは先ほど攻撃を止めてくれた男の人だ。
「あ? それがどうしたんだよっ」
すると、男は聖騎士団指定のフードから顔を出した。
「あ、アドリスかよっ」
「知り合いなの?」
アドリスという男は口元に指を当てて「しっ」と静かにするように言った。
「僕は君たちの味方。とある事情でこんなことをしてるけど、信頼してくれるかな」
「全部は信じられないけれど、レイの知り合いだったら……」
私はそう返事をしてみせる。
全てを信じることはまだできないけれど、レイの知り合いでもあるわけだ。それなら少しぐらいは信じてもいいだろう。
「君たちがここに来るってことは何か目的があるのかな?」
「ええ、どうして聖騎士団があんな真似をしたのか気になったのよ。何か裏で悪いことでも起きているのだとしたら、それを調べる必要があるでしょ?」
「そういうことか。だったら、これを渡しておくよ。それじゃ僕はこれで……」
そう言ってアドリスは地下牢を出て行った。
渡された布切れの中にはここの牢屋の鍵と思われるものが入っていた。
これを使えば、音を立てずに牢屋を出ることができる。
しかし、彼はどうして私たちに協力しようとしたのだろうか。
レイの知り合いだからか? 私たちが知らない何か重大なことが起きているのかもしれない。
こんにちは、結坂有です。
助けてくれた人はどうやらアドリスだったようですね。
彼が渡してくれた鍵でミリシアたちは一体どうするのでしょうか。これからの展開が気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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