裏切りの存在
フリザード家に警告してから俺、ブラドは聖騎士団本部へと戻ることにした。
道中、何者かに見られている気配はしたが、俺とフェリスは特に気にすることはしなかった。
なぜなら俺たちを嫌っている人間はこの国に多くいるからだ。
税金泥棒などと批判する人たちもいる。
「……団長、たくさんの人に見られている気がするのですが?」
「気にしないことにしている」
俺たち聖騎士団は命を削ってこの国を魔族から守っている。それすら理解できない人が多いのもまた事実。
本部や高度剣術学院の周辺はそういった人は少ないのだが、流石に遠出すると人の考えも変わってくるものだな。
「そうですか。団長もお辛いのですね」
「慣れている」
最初のうちは辛いものだったが、今となってはもう慣れた。
それから本部へと到着する。
やはりここ周辺が一番気楽でいれる場所だ。
「……」
ただ、今日は少しだけ違う。
団員からの視線がいつもと違うのだ。
「どうかしましたか?」
「いや、気のせいだろう」
気のせいではなく、明らかに違和感のある視線だが後で調べることにするか。
そんな違和感を背に俺たちは団長室へと入った。
「っ! これはっ」
入った途端、フェリスが声を上げた。
理由は団長室が荒らされていたからだ。
特に書類関係を保管している鍵付きの引き出しなどが破壊されていた。
「どういうことだ……」
「大問題ですよ。今すぐにでもっ」
そう彼女が言うと扉が開いた。
「団長、これはどういうことだっ!」
勢いよく扉を開けたのは団員の一人だ。
彼の後ろに五人ほどの団員もいる。
彼らは比較的に新しい団員で、防衛拠点に配属されていたはずだ。
「なんだ?」
すると、彼はある書類を突き出してきた。
それはエレインや彼らの仲間のことについて調査した書類だ。
エレインたちの実力や能力などをまとめたものだが、どうも彼らは本気を出していないようで彼らの全容まではわからない。
とは言っても千体以上を一人で殲滅したり、魔族の壁を一太刀で分断したりと彼らの常人離れした偉業は素人目でもわかるものだ。
「人間ではない奴らを匿っているとはどういうことだっ」
「誰のことを言っているのか……」
「惚けるなよ。噂では魔族だとも聞いているっ。匿っている場所も全部把握してるんだぞ」
エレインたちが今住んでいる場所を知っているということなのだろうか。
フラドレッド家の家はいくつもある。さらに分家なども含めれば国内に数十カ所も存在していることになる。
しかし、彼は把握したと言っている。
誰からの情報なのかはわからないが、確信があるような表情をしていることから嘘ではないのだろう。
「所詮噂は噂だ。鵜呑みにするのは危険だ」
「この資料を見るあたり、人間ではないのは明らかだろ」
確かにその実績は明らかにおかしい。
特にエレインの千体斬りに関しては聞いたことのない数字だろう。
「俺も人間かどうかは判断できないがな。彼らは人間として生きているんだ」
「人間として生きていても魔族だったら意味がない」
すると、廊下の方から誰かが歩いてきた。
「お前たち、そう焦るな」
そう言葉を放ったのは指揮官の一人、レゼルだ。
「一体何のつもりだ」
「団長が特別扱いしている子供についてだ。あの時から不思議だと思っていたんだよ」
彼の言葉がわからなかったが、思い返してみれば彼には以前、防衛指揮をさせたことがあった。
その時に応援としてセシルとエレインを指名した。もしかすると、彼はその時から妙だと考えていたのだろうか。
「セシルの父は副団長でありながら魔族に魂を売った。そいつの娘となれば魔族だと言えるだろ?」
「……娘は一切関係ない。それにエレインはこの私が魔族ではないと判断したんだ」
「どうだかね。あの帝国、裏で何をしていたのかわかったものではないからな」
確かにレゼルの言う通りだ。
帝国が何を企んでいたのかはあの資料を解読しない限りわからない。
だが、一つ言えることは魔族に対抗しようと必死に策を講じていたのは確かだ。ミリシアが話してくれた帝国宰相のことを俺は知っている。
「全てを理解できたわけではないが、俺がそう判断したと言っている。それとも、団長の俺を信頼できないと?」
「あの配置なら確実に戦死すると思っていたがな。こうなったのは全てあんたのせいだ」
「どういうことだ?」
「セシルとエレインを孤立させて、攻め込んでくる魔族を全てあいつらに押し付けたんだ」
「っ! お前、一体何をするつもりだ」
俺がそうレゼルに聞くと彼は不敵な笑みを浮かべた。
あの時の作戦は思いの外魔族が流れ込んできたと聞いていた。そして、被害もかなり最小限に抑えたと報告を受けた。
しかし、それがほとんどエレインのおかげだということは知らせされていない。
エレインも色々と気を使ってカメラの外で戦ったこともあってか具体的な被害を把握していなかった俺の責任だな。
そして、しばらくの沈黙の後、彼が口を開いた。
「この俺が団長の座に就くんだ」
そう言って彼が聖剣を引き抜く瞬間、俺は魔剣へと手を添えて自分の分身を放った。
「なっ!」
影の分身が素早い移動で彼の肩と鎧の間に剣先を突き刺して動きを封じる。
「た、隊長っ!」
「隊長?」
「この俺が隊長となって聖騎士団を引っ張っていくんだ。そうすれば、エレインやセシルとかいう人間の皮を被った魔族をも殲滅できるっ」
勝手なことをするものだ。
こいつと廊下の六人を処罰する必要があるな。
「くっ、俺たちには仲間がいるんだっ!」
廊下にいる男の一人がそういうと、ゾロゾロと団長室へと数十人が押し寄せてきた。
当然、それほどの人数がこの部屋に入るわけがなく、扉を団員たちが塞いでいた。
「団長っ! これでは逃げられません」
「ブラド団長、覚悟しろっ!」
「ふっ!」
俺は聖剣を引き抜き追撃してきた男を軽くいなして、攻撃を躱す。
そして、俺は椅子を蹴り上げて窓ガラスを吹き飛ばし、退路を作った。
「フィレスっ!」
「はいっ」
それから俺たちは窓を突き破って本部の建物から脱出した。
すると、周囲からも団員たちが押し寄せてきた。
「団長っ、ここは逃げましょう!」
「……ああ」
本部に駐在している団員たちのほとんどが敵のようだ。
一体、どういうことだ。
これも全てフリザードの思惑なのだろうか。今はそのようなことは考えないでおこう。
俺たちは本部から逃げ出すことにしたのであった。
◆◆◆
「エレイン様、絶対にいけませんっ!」
横に立ったリーリアがそう俺に忠告してくる。
彼女が何に怒っているのかと言うと、それは目の前にいるルカの一言だろう。
『私とデートしろ』
剣術競技が終わった後にデートをしろとルカが言ってきたのだ。
それに対してリーリアは非常に怒っているというわけだ。
「別にいいではないか。名門中の名門のヘルゲイツ家当主とデートできるのだぞ?」
「家柄などは特に気にしてない」
「ふっ、私ほどスペックの高い女性などそういないだろう。デートできるだけでも光栄と思え」
やはりこの高圧的な態度はとてもではないが、好印象というわけではない。
とはいえ、俺とてアレイシアと出歩いたことも多いからな。
「エレイン様、絶対にだめです」
「……そこまで引き止めるのならそのメイドも一緒に来たらいい」
そうルカが提案すると、リーリアは少しだけ悩んだ。
「それでエレインと良い関係になるのならいいと思うのだがな?」
「……」
明らかにリーリアはその提案に迷っているようだ。
まぁ彼女が同伴なのであれば、何も問題はないだろう。
公正きしとしての彼女の存在はかなり大きいからな。ルカの対処にも彼女がいてくれた方が色々と助かることだろう。
「それでいいのなら、俺は構わない」
「で、ですが……」
「何か問題か?」
「いいえ、なんでもありません」
すると、目の前のルカが満足そうに笑った。
「決定だな。剣術競技の後、エレインは教室に残っておけ」
「ああ、わかった」
なんとも一方的な提案ではあったが、俺はルカとのデートを受け入れることにした。
彼女のことだ。ただのデートというわけではないのは間違いないだろうな。
こんにちは、結坂有です。
聖騎士団本部は一体どうなってしまうのでしょうか。
そして、団長はこれから何をしようと言うのでしょうか、気になるところですね。
さらにルカとのデートも面白そうな展開ですね。
それでは次回もお楽しみに。
評価やブクマもしてくれると嬉しいです。
Twitterではここで紹介しない情報やたまに呟きなども発信していきますので、フォローしてくれると助かります。
Twitter→@YuisakaYu




