規格外は共闘する
魔の気配を放つ敵の数はざっと二十人ほど、対して俺たちはリーリアを含め三人しかいない。
圧倒的に数的不利ではあるものの、俺たちは二十人程度で止められるものではない。
「ふっ」
俺が一太刀振るうだけで四人ほどが斬り倒され、そして黒い煙となって消えていく。
それにしても敵の動きがそこまで洗練されていない。
風の鎧も少なからず効果があるようで、相手の攻撃が弾かれているようだ。時間を遅くした空間で感じた違和感はこの鎧のせいなのだろうか。
そして、リーリアも対応してくれているため、すぐに二十人ほどの集団は消え去っていった。
「本当にあっけなかった」
「エレイン様にかかればこの程度普通のことです」
そう自分のことのように自慢するリーリアはどことなく可愛さがあるものの、マフィの表情は変わらない。
なぜなら敵は彼らだけではないからだ。
「我々の駒をこうも削られてはどうすることもできんな」
奥から老人が現れてきた。
「っ! ありえないっ」
その老人を見て真っ先に驚いたのはマフィであった。
「おぉ、マフィか。わしのことを覚えているのか?」
「……」
すると、彼女は聖剣をスカートの中から取り出して構えた。
彼が何者なのかはわからないが、彼女がここまで警戒するということは危険な人物なのには間違いないようだ。
「今のわしは人間ではない。魔族の力を借りてさらに最強へと近づいた存在、誰も勝てるはずがなかろう」
彼がそう言った途端、マフィが剣を振るった。
周囲に突風が吹き荒れ、無数の真空の刃が彼に襲いかかる。
しかし、その攻撃は全て老人の機敏な動きによって全て躱された。
「マフィの攻撃は手に取るようにわかる。いくら風刃を飛ばしたところでこのわしには勝てん」
「くっ、一体何をした?」
「魔族の力を借りたと言っている。それ以外のことは何もしておらん」
もちろんだが、あそこまで無理な体勢でも機敏にそして、素早く動くことは老いた体では難しいことだろう。
それに体の筋肉の動きからして武術を極めているような人でもないからな。
おそらくは魔族の、それも上位の力を得たと言っても過言ではないか。
「マフィ、あれは何者だ?」
「フォーリス。五年ほど前に死んだはず」
なるほど、死んだはずの人間が今になって現れたということか。
ただ、魔族の力を得たというのはどういうことなのだろう。まぁその辺りのことも今後わかってくることか。
「ふむ、わしの力はこのようなものではないっ」
そう言って彼は地面を叩きつける。
すると、地面が抉れながら俺の方へと迫ってくる。
俺はそれを跳び避けるとまたその攻撃も追従してくる。
「エレイン、避けるだけではだめ」
ちょうどマフィがそう言ったと同時に俺は魔剣を引き抜いてその攻撃を叩き潰した。
老人が地面を叩いただけなのに地割れのようになってしまった。
運がいいことにこの辺りには人が住んでいないが、商店街で起こせば大問題となっていたことだろう。
とは言ってもこの時点でかなりの問題なのかもしれないがな。
「フォーリス、一体何を……」
「この国の軍事力はもはや無力、我々が全てを掌握できるのだからの」
「ふっ」
俺はイレイラで彼の左腕を斬り飛ばした。
当然ながら、完全な間合いの外からの攻撃にフォーリスは全く反応できずそのまま攻撃を受けてしまうが、それでも不敵な笑みは消えなかった。
「面白い聖剣だが、その程度の能力、わしの力の前では無意味っ」
そう言って彼は残っている右腕を突き出した。
その直後、俺の首元に強烈な圧迫感を感じた。まるで首を鷲掴みされているかのような、そんな感覚だ。
「……っ」
「エレイン様っ」
咄嗟にリーリアは魔剣である双剣を引き抜く。
魔剣の色は真っ赤で怒りを表しているようだ。
素早い移動で彼女は彼に斬りかかるが、それでも簡単にいなされ蹴り飛ばされてしまう。
「うぐっ!」
「このまま四氏族を殺せばこの国最大の力を持った聖剣使いがいなくなる。そうなれば、わしの計画が全て……」
「悪いが、それらは絵空事だ」
「はがっ!」
すると、フォーリスの残りの手足が切断された。
そう、イレイラの能力”追加”を使って剣撃の数を増やしたのだ。
「な、なぜだっ!」
「力を過信した結果だ」
自分を力を信じることと、過信することは違う。
このフォーリスという老人は想像もできないような力を得たがためにその力に酔いしれてしまったのだろうな。
「エレイン、助かった」
先ほどまで萎縮してしまっていたマフィだが、すぐに平静を取り戻し俺の方へと歩いてきた。
「エレイン様っ、大丈夫なのですか?」
「ああ、問題はない。ただこいつの能力は危険だな」
「うん。フォーリスは私が……」
「その必要はない」
そう言って出てきたのはルカであった。
そして、その連れの人たちがフォーリスを取り囲むように確保した。
「ふっ、エレイン。ウィンザーの護衛役までするとはな」
「護衛というほどのことはしていないがな」
「まぁいい。ウィンザー、このことは氏族会議で私が報告しておく。こいつがでしゃばってくるのはどうもきな臭いからな」
「うん。魔族の力、そのことも調査しないと」
すると、ルカはゆっくりと俺の方を向いた。
リーリアも何か嫌な予感がしたのか俺の前へと立った。
「ところでエレイン、剣術競技が終われば暇だろう」
「まぁ特に予定は入れていないな」
「なら一つ頼みがあるんだが、いいか?」
そういったルカは悪そうな笑みを浮かべて俺の方へと近づいてきた。
その表情でリーリアは警戒をより一層強める。
「話ぐらいなら」
「……私とデートしろ」
ルカのその一言で場の空気は一瞬にして変わったのであった。
こんにちは、結坂有です。
投稿できていなかったようなので、遅れて更新しました!
申し訳ございません




