得られた強力な味方
商店街で緊迫した空気感ではあったが、マフィ・ウィンザーと俺たちは学院へと向かっていた。
すると、ルカが急に話し始めた。
「それにしてもウィンザーが生徒とは驚いたな」
「……ヘルゲイツよりも私が先に目をつけていたから」
「ふふっ、どちらが早いかなど関係はない。学生など戯れだと言っていたではないか」
そう鼻で笑ったルカは続けてマフィを見る。
マフィは少しだけ嫌そうな表情をしていたが、すぐに反論した。
「それは昔の考え、学生は楽じゃない」
「競争は確かに楽ではないな」
どうやら二人だけの会話のようだ。
完全に俺たちは話の外だ。
そう思っているとルカが俺に話しかけてきた。
「それにしても真空の刃をよく避けれたな」
「空気の流れを感じ取ればすぐに気配を感じ取れる」
「初見でそれに気づける人はそういない」
「エレインは普通じゃないからね」
続けてセシルもそういった。
普通ではないことは理解しているつもりだが、あの程度の異変であれば気付くだろう。
と、こう考えている時点で普通ではないのだろうがな。
「エレイン様がお強いのは今にわかったことではないですよ」
「……学院生であることが不思議だ」
学院の教師であるルカがそう言ってはいけないような気がするが、まぁ不釣り合いな実力だということは俺も理解している。
当然、俺をここに入学させようとしたブラド団長やアレイシアも理解の上だろう。
「エレイン、将来は何になるつもりなんだ?」
「聖騎士団の上層に所属して魔族と戦う。そのために学院で上位を取る必要があるんだ」
そう言ってみるが、入学当初の評価でどこまで引き上げることができるのかは疑問ではある。
「教師としてお前の順位を教えることはできないがな」
「個人的に介入してるのだからいいじゃない」
セシルがそうムッとした表情で話してみるが、規則上それはできないのだろう。
別に俺はそのあたりについてはどうとも思っていない。
「私としても教えてやりたいが、無理だな」
「……会議の時と全然違う」
そう横目で見ていたマフィがそう話した。
「当然だろ。私とて普通の女性でいたい気分なんだ」
「普通……」
「エレイン、変か?」
彼女の普段からの態度からすれば普通とは言えない。
「あの高圧的な態度は普通の人ではないような気がするがな」
「高圧的? これでもか?」
そう言って彼女は袖を回した。
すると、桃の香りが漂ってくる。おそらくはリーリアの使っている石鹸と同じものを使っているのだろうか。
「……っ」
「なんだ?」
「そんな態度しているのにいい香りがするの変」
そうマフィが言うように態度と香りが合っていないのだ。
「なんだと? 私のメイドが用意してくれたのだ」
「一つ言っておくが、俺は桃の香りが好きなわけではない。好みなのはリーリアの方だ」
俺がそう言うと真っ先に反応したのは何故かリーリアの方であった。
「っ! エレイン様、お好きではないのですかっ」
「好きだと一言も言っていなかったが?」
石鹸に香りがあるものが珍しかったから見ていただけだ。特に気に入ったわけでも好みというわけでもない。
「……別にエレインに合わせたつもりはない。私はただメイドに頼んだだけだ」
「苦しい言い訳」
「ウィンザー、少しは黙れ」
それから商店街の人に妙な視線を向けられながらも俺たちは学院へと向かった。
学院に入ると、クラスが違うためマフィはすぐに別れたが、俺たちはそのまま教室へと向かった。
当然ながら、教師であるルカと同時に教室に入ったために変に目立ってしまったのは言うまでもないだろう。
◆◆◆
少し用事があって本部を離れていた俺、ブラドはある連絡が入ってすぐに本部へと向かっていた。
連絡してくれたのはフィレスで彼女は緊急事態だと言っていたのだ。
仕事を中断し、数時間で聖騎士団本部へと入った。
「緊急事態とはなんだ?」
団長室に入ってすぐフィレスに伝えた。
「っ! はいっ。緊急です」
急に扉を開けたのがいけなかったのか、取り乱した状況で彼女はそういった。
「あの資料が、何者かに盗られました」
そう言って彼女は金庫の方を指さした。
あの資料というのはエレインたちのことだろうか。
「金庫の鍵は預けておいたはずだな?」
「はい。ですが、鍵の部分を凍らせて破壊したようです」
そう言って金庫の中を開けてみせた。
金庫を開けると鍵の部分となる場所が破断しており、無理矢理こじ開けられたと言うことがわかる。
「……警備は?」
「当時、警備していた人とは今連絡が取れない状況です」
「確かに緊急だな」
「すみません。私が休んでいたばかりに……」
そう彼女が落ち込みながら言うが、毎日ここに来いと言うのは彼女にとっても辛いはずだ。
「いいや、この破壊の仕方は以前にも見たことがあるからな。対応はできる」
「と言いますと?」
「ここにきた人に直接尋ねればいい話だ」
俺は踵を返して団長室を後にした。
フィレスも疑問符を浮かべながらだが、俺の後を付いてくる。
本部を出て小一時間ほど歩いたところに大きな屋敷がある。
そこはフリザード家という名家だ。
「ここはなんですか?」
「犯人の居場所だ」
そう言って俺は門を開いた。
すると、中から警備を担当しているのか門下生が飛び出してくる。
「何者っ!」
それを俺は分身を使って軽くいなす。
「そこまでよ」
空気が冷え込むと同時に奥から出てきたのはティリアだ。
彼女はこのフリザード家の現当主で、資料を盗んだ張本人のはずだ。
「ティリアか。盗んだ資料を返してもらう」
「あら、このことかしら?」
そう言って紙切れのように資料を地面に投げた。
「……何かしたのか?」
「ええ、四氏族会議に提出した後だからね」
「全くふざけた真似をするものだな」
「私に構っている場合? エレインがどういう状況になっているのかしらね」
彼女は煽るようにいう。
もちろん、ちょっとしたことでエレインが危機的な状況になるのかと言われればそんなことはないと言い切れる。
だが、もし四氏族全てが彼の敵になってしまった場合は違う。
四氏族と呼ばれる人たちは先祖代々強大な力を持った聖剣を受け継いでいる。
剣術といった技術だけではどうすることもできないような絶対的な力を持った彼らにエレインが真っ向から対抗することは難しいはずだ。
とは言ってもエレインの持っている剣の能力を全て把握しているわけではないからな。
彼がどこまで力を持っているのかは未知数だ。
「未だ学生とはいえ、その程度でやられるような奴ではない」
「エレインの力を信頼してるのね。いいわ。私が狙っているのはエレインだけじゃないから」
「どういうことだ?」
「エレインともう一人、『非人間』と書かれていた人がいたわね」
つまりはレイのことだろうか。思い返せば彼も非人間と書かれていたな。
「聖騎士団団長として通告だ。エレインやその仲間に関わるな」
「私はただ得た情報を共有しただけ、それ以外は何もしてないわ」
「これ以上、彼らの情報を探るのはやめろ」
俺は殺気を混ぜた視線で彼女を睨みつける。
もちろん、すぐに殺すようなことはしないがな。
「……本気、のようね。しばらくは何もしないわ」
「氏族会議以外では公開していないのだな?」
「どうかしら」
「教える気はない、と?」
そう問い詰めるが、彼女はそれ以上を話すつもりはないのだろう。
確かにどこまでその情報が広まってしまったのかは彼女すら知ることはできないのかもしれない。
一度出回った情報は人伝てに広まっていくため、当人が把握することすら難しい。
「もう話すつもりはないし、これから私はエレインに何もしない。それは約束するわ」
「邪魔もするな。それならいい」
「ええ」
俺がそう言うと彼女は小さく肯いた。
これで彼女が邪魔をするようなことはしないだろう。
こんにちは、結坂有です。
マフィ・ウィンザーは味方にはなったのかもしれませんが、果たしてどうでしょうか。
そして、ティリアの動向も気になるところですね。
今後の展開が面白そうです。
それでは次回もお楽しみに。
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