敵の敵は…
リーリアに引っ張られながら自分の家へと向かった。
家に帰ると、そこにはレイとアレクが天井の修理をしていた。
昨晩もここに攻撃があったのだろうか。
「エレイン、帰ってきたか」
脚立の上からレイが声をかけてくる。
「攻撃があったのか?」
「そうだね。寝込みを襲ってくるとは思ってもいなかったけどね」
そういえば、寮での戦いも深夜ではあったな。
一人一人暗殺していくのは非常に時間のかかるものだったが、それでも闇夜に乗じれば特に苦労することはない。
「怪我がなかったのならいい」
「にしてもよ。俺たちも注意しねぇとな。この家はでけぇからよ。すぐに侵入されちまうぜ」
「敵は地下の通気口から侵入してきたからね。もう少し注意するべきだったよ」
彼が言うように訓練場の脇に通気口があった。
ちょうど一人分入れるぐらいの穴のため、侵入は容易なのかもしれないな。
「エレイン?」
すると、玄関を開けたのはミリシアとユウナだ。
「昨晩は大変だったそうだな」
「ええ、三〇人近くはいたと思うわ」
「……」
ミリシアはそう答えたが、ユウナは少し申し訳なさそうな表情をしていた。
「被害は天井だけでよかった」
「わ、私がしっかりと起きていれば……」
「いいわよ。ナリアの部屋を掃除してくれてたわけだし。疲れてたんでしょ」
「そうですけどみなさんが戦っている間、私はずっと寝てたんですよっ?」
ユウナは地下施設で訓練を受けていたものの、より高度な訓練は受けていない。
より深い地下施設で俺やミリシアたちは特殊なことをしてきたからな。俺たちと同じように動けというのは酷な話だ。
「ユウナ、気にすることはない。強くなるのはゆっくりでいい」
「……エレイン様がそう言うのならゆっくり精進します」
まだ申し訳なさが勝っているのか頭を下げてそういった。
「エレイン様、私は夕食の準備をしてきますね」
すると、横で立っていたリーリアは夕食の準備へと向かった。
「レイ、あとどれぐらいで直せそう?」
ミリシアが屋上に登ったレイにそう質問する。
「あとは瓦を乗せるだけだぜ」
どうやら剥がされた屋根は修復できたようだ。まぁあの怪力のレイであればあと数分で修復できることだろう。
「エレインはナリアのこと知ってるの?」
「名前だけはな」
昨日、寮へと向かう途中でユウナと一緒に俺を援護してくれたのは記憶に新しい。
鉄パイプを高速で投げ飛ばしていた程度しか知らないのだがな。
「中で休憩してるけど、話してみる?」
「ああ、夕食まで時間があるからな」
それからミリシアとユウナに連れられて地下へと向かうとそこにはナリアがいた。
「……エレイン、だったわね?」
「話すのは初めてだな」
「そうね。これから話す機会増えると思うけど」
こう話してみると魔族らしい感じはしない。それに人間に対して敵意も感じられない。
魔の気配は若干ながらあるものの、魔族というわけではないのだろう。
加えてこの気配はリルフィのそれに近いものを感じる。
「一つ聞くが、あの鉄パイプはどうやって投げたんだ?」
「あのこと? 普通に投げ飛ばしただけ」
「普通はあそこまで高速に投げることはできないんだがな」
かなりの距離を、それも速度を落とさずに投げるのは至難の技だ。
そして何よりも彼女にそれほどの筋肉量はない。
「……私は普通じゃないみたいなのよ。国とは違った集落で育ってたわけだし」
「集落?」
「ええ、私はこの国の住民ではなかったしね」
外で保護されたとは聞いていたが、外で小さな集落ができるほどの人間が住めるとは思えない。
魔族が多くいる中、外で集団を形成するのはかなり無理があるはずだ。
「まぁ俺たちも普通ではないからな」
「どういうこと?」
「話すと長くなるが、特殊過ぎる訓練を受けてきたと言えばいいか」
「それはミリシアたちを見てて理解してるよ。私もそれに見合う実力があるのかわからないけれど」
武術についてはわからないが、十分に戦力になる実力を持っているのは確かだろう。
「そんなことないよ。訓練次第で高い実力になるわよ」
ミリシアが言うのならそうなのだろうな。
「そうですよ。私もミリシアさんと訓練してて強くなった気がしますから」
「気がするじゃなくて事実なのよ」
ユウナの実感しているように着実に強くなっているのは確かだ。
「それなら、頑張ってみる」
「ああ、そうしてくれ」
すると、リーリアが階段を降りてきた。
「エレイン様、夕食の準備ができました」
「今から行く」
リビングへと向かうと、アレイシアが座っていた。
少し疲れた様子で、昨晩の攻撃のことなのだろうと想像がつく。
「疲れているみたいだが、大丈夫か?」
「……夜、全然眠れなかったの」
すると、ユレイナが座ってアレイシアの言葉に続けて説明する。
「昨晩の攻撃の後、いろんな場所に連絡したのです。高家であるフラドレッド家が攻められたというのは大問題ですから」
「そうなのだろうな」
ため息混じりにアレイシアはスープを飲み始める。
それからゆっくりと夕食の時間が過ぎ、一日が終わる。
翌朝、学院に向かうためにリーリアと共に家を出た。
ナリアのことも気にはなるのだが、それよりも以前訓練に付き合ったリルフィの様子も気になることだ。
昨日は話す機会がなかったから今日は俺から話しかけるとしようか。
そして、商店街へと足を踏み入れるとセシルともう一人背の小さい女生徒がいた。
「あなた、昨日エレインに攻撃を仕掛けてたわよね」
「……なんのこと」
「惚けても無駄よ。その顔、しっかりと覚えてるから」
女生徒の方は面倒な人に絡まれたと言ったような感じだが、彼女は明らかに俺を攻撃してきた人と同じだ。
確か、ウィンザーと言ったな。
「エレイン様、迂回しましょうか」
「いや、流石に商店街で剣を振るうようなことはしないだろう」
「……わかりました」
リーリアは警戒を強めたままだが、俺はリラックスした状態でセシルのもとへと向かった。
「ふっ」
ウィンザーが振り向いたと同時に空気の流れが変わる。
やはり風を使った攻撃をしてくるのだろうな。
ヒュンっと真空の刃が俺へと放たれる。
しかし、その攻撃は俺へと届くことはなかった。
「不意打ちでも無理か」
「っ! やっぱり危険よ」
先程の攻撃はまともに食らえば致命傷になるであろう強烈な一撃だ。
とはいえ、技が洗練されていないために簡単に避けることができるからな。そこまで脅威というわけではない。
「ウィンザーと言ったな。これ以上攻撃を仕掛けてくるとなれば俺もそれ相応の対処をしなければいけないのだが……」
「エレイン、その必要はない」
そう声をかけてきたのはルカであった。
「ヘルゲイツは関係ない」
「悪いが今日はヘルゲイツとして振る舞っていない。一人の教師だ」
「……詭弁、それはあなたの勝手なこと」
「エレインは重要だ。保護するのは当然だろう」
保護される状況がよくわからないのだが、少なくとも俺は魔族ではない。
ウィンザーが俺のことを魔族と思っているのが原因だと思うのだがな。
「何度も言うが俺は魔族ではない」
「なら証拠を見せて」
「証拠?」
確かに自分が魔族ではないという証拠はすぐには提示できない。
とは言っても全くできないわけではないだろう。
「俺は魔族を敵だと思っている」
「……どういう意味?」
「俺の正体がどうであれ魔族を敵だと思っている。もちろん、魔族側も俺のことを敵だと思っているはずだ」
「そうよ。エレインは魔族と戦っていたし、魔族も彼を倒そうとしていたわ」
セシルも俺の言葉に肯定する。
ここまでいえば信じてくれるだろうか。
「嘘はついて……ない?」
「私は嘘は言わないわ」
真っ直ぐな目でセシルがそういう。
敵の敵は味方という。
魔族が俺のことを敵だと認識しているのなら、少なくとも人間の味方だと言い張ることはできるだろう。
「ウィンザー、もういいだろ」
「わかった」
彼女はそういうと臨戦態勢を解いた。
こんにちは、結坂有です。
なんとかマフィ・ウィンザーを止めることができました。
これからか彼女はエレインとどういう関係になるのでしょうか。気になりますね。
さらに近いうちにTwitterでアンケートを取ろうと考えていますので、参加してくれるとありがたいです。
それでは次回もお楽しみに。
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