疾風の騎士
寮からの学院は案外普通なもので、距離もいつもとほとんど変わらない。
ただ、違うのは時間帯が同じ生徒たちがいるということだ。
当然ながら見知った生徒がいるのは当たり前のことで……。
「あっ! エレイン!」
そう声をかけてきたのはリンネであった。
それと同時にアレイも頭を小さく下げて会釈する。
「……待ってたでしょ」
セシルが鋭い視線を彼女らに向けるが、どうやら待っていたわけではなく本当に偶然だったようだ。
「違うよ。今日は朝練もしないつもりだったし」
「うん。お姉ちゃんは嘘ついてないよ」
アレイもリンネの主張に補足を入れる。
「ちょっと、私が毎日嘘ついているみたいじゃない」
「まぁちょうどいい。一緒に学院に向かうか?」
「え、いいの?」
「ああ」
そう俺が言った瞬間、セシルとリーリアから嫌な視線を向けられた。
しかし、同じクラスメイトなのだ。一緒に登校するぐらい普通のことではないのだろうか。
「……まぁいいわ。リンネが何言っても無駄だし」
「な、何よ」
セシルとリンネは視線で睨み合っているが、アレイは気にすることなく俺に話しかけてきた。
「あの、今度一緒に朝練とかできたら嬉しいな」
言われてみれば、アレイの構えは非常に独特だ。
彼女のことを知るためには朝練などで一緒に訓練をすれば少しはわかるのかもしれない。
「そうだな。アレイの剣術にも興味はある」
「私も流派は一緒なんだけど!」
「一緒かもしれないが、アレイは変わっている」
同じ流派でも考え方の違う構えをアレイは行っている。
まぁリンネの戦い方も興味がないわけではないがな。
「もっ!」
そんな話を続けていたら、すぐに学院へと着いてしまった。
個人的にはもっと話していたかった気分だが、時間は有限のため仕方ない。
教室に入ると、朝練で早めに来ていた生徒たちが俺たちの方へと視線を向けた。
「……」
いつもより早い登校だったのだが、教室の半分ぐらいは生徒がいた。
「なんで一緒なのっ!」
そう言って主に女子生徒が俺の周りへと集まってきた。
「そんなに珍しいことか?」
「だって、寮で待ち伏せしてても来ないんだもんっ」
それはそうだ。
俺は寮からこの学院に来ているわけではないからな。
「そうだが……」
「エレイン様の邪魔ですよ」
そうリーリアが俺の前に立って生徒が集まってくるのを止めようとするが、人数の圧力には彼女でも制御しきれないだろう。
それから担当教師であるルカが来るまで俺は女性生徒たちに囲まれた状態だった。
◆◆◆
私、マフィ・ウィンザーは学院へと登校していた。
早朝の四氏族会議を終えてすぐに学院へと来た。
この学院は高度剣術学院で、どうして登校しているのかというと単に興味があったからだ。
私の持っている情報でエレインという男が千体以上の魔族を倒したという事実があった。
ちょうど私と同じ年齢だったため、入学して調べてやろうとしていたのだ。
しかし、意外とこの学院での生活は不慣れなものでまず生徒同士の競争が激しい。
「おいっ、チビ!」
そう私を呼んだのは同じクラスメイトの人だ。
「この前の試合の続きだっ!」
「……」
私は彼を無視して自分の席へと座ることにした。
「無視すんなよ。評価が雑魚のくせによ」
「剣術評価はあくまで技の評価で実力とは関係ない」
「ふざけんなっ。チビがよ」
私は確かに低身長だ。
しかし、それと実力は何も関係ない。低身長にも強みはあるのだ。
「私は別にいいのだけど、パートナーにはなんて説明すればいいのよ」
「あ? 関係ねぇだろ」
剣術競技を行うにはペアを組んで戦う必要がある。
それ以外の戦いは成績に含まれない非正規の戦いということだ。
「……意味のない戦いはしないから」
「いいじゃねぇか!」
「はぁ」
私はため息を吐いた。
今日もこの人たちと相手をしなければいけないのだろうか。入学してずっとこんなやりとりをしている。
まともにエレインを調査する時間がない。
試合を何回か見たことがあるけどあれだけでは彼の実力がどれほどなものなのかわからない。
一度でいいから手合わせできればいい。
それに、ティリアの持ってきた資料の『非人間』という情報も気になる。
魔族であるのならこの私が対処するべきだろう。
それから面倒な生徒たちとのやりとりを終え、お昼休憩をすることにした。
今日は初めての食堂へと向かうことにした。
朝に氏族会議があったため弁当を作る余裕がなかったのだ。
仕方ないと思いつつ、私は食堂に向かう。
「っ!」
食堂にはエレインがいたのであった。
学院評価一位のセシルとメイドを連れて私の目の前を通り過ぎていった。
この気配、普通ではない。
ここまで接近したのは初めてだ。手を伸ばせば届くほどの距離だ。
「……やはり、人間ではない」
魔の気配はしない。
だが、ゴースト型と呼ばれる魔族はそういった気配を隠すことができる。
油断はできない。
このまま彼を野放しにしていれば、おおごとになってしまう。私の本能がそう警告する。
「”疾風の刃よ。我が力となれ”」
そう言うと私は刃のない剣をスカートの中から取り出した。
「っ!」
エレインが私に気付いて振り返る。
でも遅い。
疾風の刃はすでにエレインの体を斬り裂いて……。
「なっ!」
彼は無数の風の刃を寸前で避けていたのであった。
「エレイン様っ!」
横にいたメイドが彼を守るように私の前に立った。
「……あれを避けるなんて只者ではない。見過ごすわけにはっ」
私はさらに追撃の刃を振るった。
すると、エレインは一瞬で私の前に立って腕を掴み上げた。
「ここでその力は使うべきではない」
「ど、どうしてっ」
「あと、その程度の攻撃で俺を倒すことはできないからな」
そう言って彼は私の剣を叩き落とした。
私から攻撃の意思がないと判断した彼はそのままテーブルへと向かったのであった。
「やっぱり見過ごすわけにはいかないわね」
彼が離れた後、私は聖剣を拾い上げてスカートの中へと仕舞った。
次で仕留めなければいけない。彼が『非人間』であることはこれで確定したのだから。
◆◆◆
食堂で食事を終えた俺はすぐに教室へと戻ることにした。
「……ゆっくり食べるつもりだったのに、あの人は誰なの?」
「エレイン様に刃を向けるなど言語道断です」
「少なくとも攻撃の意思があったのは確かだな」
目には見えなかったが、空気の流れで何かが迫ってきているのはわかった。
それも急所を的確に狙った一撃、暗殺を狙ったのかもしれないがどちらにしろ危険な人物であるのには間違いない。
「エレイン様、今後とも注意してください」
「ああ、当然だ」
それから学院では特に何事もなく下校することができたのであった。
こんにちは、結坂有です。
新しい人物が出てきましたね。
果たして彼女は一体何者なのでしょうか。そして、エレインをどうするつもりなのでしょうか。気になりますね。
今回でこの章は終わりとなります。
次回からもさらに戦いの多くなる章となりますので、お楽しみに。
評価やブクマもしてくれると嬉しいです。
Twitterではここで紹介しない情報やたまに呟きなども発信していきますので、フォローしてくれると助かります。
Twitter→@YuisakaYu




