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力の覚醒

 家の中に侵入してきた敵を排除した私たちはそのままアレイシアのいる部屋へと向かうことにした。


「怪我とかしてない?」


 ミリシアが扉を開けたと同時にそう言った。


「ええ、大丈夫。それよりもあの人たちは一体何者?」

「……わからないわ」

「少なくとも人間ではないね」


 アレクが続けてそういう。

 確かに人間ではないことは間違いないが、魔族かと言われればそれとも違うような気もする。


「人間の皮を被った魔族って感じだな」


 レイがそう例えて話した。

 その表現は間違っているのかもしれないが、今の状況を考えると正しいと思う。


「ミリシアは他にもいると思う?」

「この前襲撃してきた人たちも同じだったわよね。だったら他にもたくさんいると思うわ」

「そうなのね」


 アレイシアは深刻な表情を浮かべた。

 ここにきてまだ数日だが、ここまで発展した国であのような敵がいればすぐにでも問題になるはずだ。

 私たちの知らないどこかで今も狙われているのかもしれないと考えると私までも危機感を覚える。


「とりあえずよ。外の奴らをどうにかしようぜ」

「え、外?」


 私には何も聞こえていないのだけど、レイやアレクは外の方を警戒している。


「それなりに包囲されているって感じね。外は私たちが対処するから、ナリアはアレイシアをお願いするわ」

「わ、わかった」


 そう返事をすると、ミリシアたちは外へと走っていった。

 そしてすぐに剣撃の音が外から聞こえ始めた。本当に外に敵がいたようだ。


「……ナリア、だったわよね」


 窓から外の様子を見ている私にアレイシアはそう話しかけてきた。


「ええ、そうよ」

「団長から話は聞いたわ。外で保護されたようね」

「……警戒、してるの?」

「そんなことないわ。あなたから敵意は感じられない」


 そう信頼するような温かい目を私に向けてくる。

 私に対してそこまで信用できるのだろうか。


「でも、魔族に似た感覚がするのは確かよ」


 アレイシアは私に対して信頼の目を向けているのだが、横にいるメイドの人は私のことを警戒している。


「一つ聞くけど……っ!」


 そう彼女は私に質問しようとした途端、天井が崩れて一人の男が剣を持って落ちてきた。

 そして、アレイシアに向けてその剣先を向けた。


「はっ」


 彼女は持っていた杖から刀身が出てきたのであった。

 キャリンっと金属音を響かせ、向けられた剣先を弾くとすぐに横のメイドが追撃を始める。


「せいっ」


 メイドの強力な一撃も男は簡単にいなしてアレイシアへと攻撃を仕掛ける。


「アレイシア様!」

「させないっ」


 私は持っていた棍棒の先端で彼の剣先を受け止めた。


「……裏切り者か。我々の崇高なる計画の邪魔をするな!」


 そう言って男はとてつもない力で私を振り払う。

 私はその力に押し負けて壁に激突した。


「あがっ!」

「所詮裏切り者、弱き存在だな」


 すると、男はまた構え直してアレイシアへと刃を向ける。


「……弱い」


 村のことを思い出した。

 私が強ければあの村は魔族に打ち勝てたのかもしれない。

 勝つことはできなくとも、聖騎士団が来るまでは時間稼ぎは出来たはずだ。それなのに私は弱いままで逃げ出した。

 姉を守ることができなかった。

 思い返してみれば、私の親も狩りに出かけて帰って来なくなった。

 あの村の人たちでも孤立した状態で魔族の団体とは戦えない。運が悪かったと周りは言っていたが、もし私がもっと強ければ親に狩りをさせなくてもよかったはずだ。


 私にもっと、もっと力があれば……。


「なっ! こいつっ」


 気付いた時には男の懐まで走り込んでいた。

 体が熱く、耳鳴りもうるさい。

 でも、私は力が欲しい。

 もっと力があれば、魔族も怖くはない。全てがうまくいく。

 ほんの少し手を伸ばすだけでその絶対的な力は手に入るのだ。なら、私がするべきことはただ一つ。


「”奪い取るだけ”」

「っ!」


 私は男の心臓へと手を突き刺していた。

 無意識のまま、私は男の体内から心石を抉り出した。


「バァガッ!」


 その瞬間、取り出した石が光り始め私へと吸収されていく。

 そして、男は黒い煙となって消えていった。

 私は急に力が抜けたかのような感覚になり膝を突いた。


「ナリア?」

「……大丈夫よ。でも、少し安静にさせて」


 そう話した瞬間、扉が蹴破られた。


「逃げんじゃねぇ!」

「ちょっと、レイ! もういないから」

「あ?」


 どうやらミリシアとレイだったようだ。

 瓦礫で扉が塞がっていた状態だったのに、彼の怪力で無理やり開けたようだ。


「私は大丈夫。でもナリアが……」

「おい。怪我したのか?」

「ううん。気にしないで。足に力が入らないだけだから」


 レイが心配そうに近づいてくる。

 私は怪我をしているわけではない。ただ足に力が入らないだけなのだ。

 でも、何か自分の中で熱く燃え上がるような感覚がする。

 火傷しそうな熱さだが、それでも必要なことだと私は感じたのであった。


   ◆◆◆


 俺は学生寮の周辺を取り囲んでいた敵を一体一体確実に仕留めていった。

 そして、全員を倒したあと俺は寮へと戻ることにした。

 寮のエントランスに向かうとそこにはルカが立っていた。


「エレイン、この私から仕事を奪うとはな」

「……なんのことだ?」

「あんなに敵を倒しておいて、わからないというのか?」


 どうやらルカは寮が狙われていることを知っていたというのだろうか。

 だが、それでも動く気配がなかったのは変だ。


「ギリギリまで待っていたが何もしなかったのはどうしてだ」

「ふふっ、なぜと聞かれれば答えられんな」

「襲撃を知っていたのなら早めに対処するべきだな」


 俺はそう言って寮の中へと向かうと、背後からルカが言葉で引き留めた。


「まずは見事だった。だが、敵の正体を知らずして勝利はないぞ」

「敵がどうであれ、安全を確保できないのなら倒すしか方法はない」


 敵の正体を探るために泳がせた結果、誰かが怪我をしたとなれば意味がない。

 対処できる時に対処をし、調べる時に調べる方がいい。


「時と場合、か」

「分かったのなら俺は帰る」

「……この件は軍の上層が絡んでいる。それだけは伝えておく」


 俺はその言葉をしっかりと耳に入れてから寮の中へと入ることにした。

 セシルの部屋に入ると、電気が付いていた。


「エレインっ」

「起きていたのか」

「どこに行っていたのよ」


 玄関でセシルがムッとした表情で出迎えてきた。


「エレイン様、ご無事で何よりです」

「面倒な奴を追い払っただけだ。気にするな」


 俺はあえて詳細を伏せて答えた。

 数十人もいたなんて言えば、セシルはともかくリーリアが激怒することだろうからな。


「……危ないことはくれぐれもなされないでください。この私が排除いたしますので」


 そう彼女が言ったその言葉の中に強烈な殺意のようなものが含まれていた。


「もう、とりあえず朝食の準備をしましょ」


 時計を見るとすでに五時を過ぎていた。

 七時に寮を出ることを考えるとそろそろ準備を始めるべきだろうな。

 それから三人で朝食を準備するのであった。


   ◆◆◆


 エレインを見送った私、ルカはとある場所へと向かった。

 その場所は巨大な会議場のような場所で、議会とはまた違った神聖な雰囲気のある空間だ。

 そして、中央の暗闇から老人が現れる。


「ルカ・ヘルゲイツよ。敵の正体は掴めたのか」

「逆に聞くが、この様子を見て掴めたと思うか?」

「……空振りと言ったところか。新勢力が戦力を増しているというのは事実、早急に調査を進めろ」


 続けて老人が話す。


「時に、フリザードよ」

「はい。なんでしょう」


 すると、右奥に座っていたティリアが返事をした。


「聖騎士団の中で不審な動きがあると言っていたな?」

「ええ、あのエレインを調べる動きが見られたわ」

「何が目的か、わかったのか?」

「おそらくはこの資料のことでしょうね」


 そう言ってティリアがとある資料を提出した。

 そこには聖騎士団の管轄である調査機関の報告書であった。


「……非人間」

「ティリア、それはどこから取ってきた?」


 私はこの情報の出どころを彼女に聞くことにした。


「ふふっ、気になる?」

「フリザードよ。答えなさい」


 中央の老人は彼女に向かってそう言った。


「ブラド団長の机の中よ」

「よく調べられたな」

「簡単なことよ。聖騎士団の連中にエレインのことを話したらすぐに入らせてくれたわ」

「……何をしているのかわかっているのか」

「あら、怖い怖い」


 私の鋭い視線に彼女はすぐに一歩引いた。

 エレインの情報はそう簡単に振りまいていいものではない。

 彼のほとんどの情報は私が手に入れたものだ。私の知らないところで取り引きに使われるなど許されることではない。


「まぁ良い。この資料は非常に有益な情報だ。今後とも彼らを調査する口実ができたといえよう」

「だがな。エレインの邪魔はこの私がさせない。フリザードもウィンザーもディゲルドも一切彼に手を出すな」


 私はそう釘を刺すように言った。

 フリザードはある意味信頼できるからいいのだが、他の二人が気になる。

 特にディゲルドは信用できないからな。


「おいおい、俺もそいつらに興味が出てきた。調べるぐらいはいいだろ?」

「だめだ。この私を敵に回すというのか?」

「煉獄の騎士とはいえ、力の半分を失っている状態だ。だったら、俺にも勝ち目はある」


 すると、バチバチと電撃が走り、ディゲルドの腕へとそれらは集約していく。


「ディゲルドよ。ここで大聖剣の力を使うでない」

「ジジイ、俺はヘルゲイツと喋ってんだ。邪魔すんな」

「ここで戦争でもするのか?」

「っ!」


 老人がそう言ったと同時にズンッと空気が震え、ディゲルドの体が硬直した。


「電撃の雑魚は何もするな。わかったな」


 私はもう一度彼にそう忠告した。


「わかったよ」

「ウィンザーも手を出すなよ」

「へっ、ガキに何言っても無駄だぜ?」

「……」


 ウィンザーはフードを深く被って、正体を隠している。

 彼女は無口でほとんど喋らない上に容姿も私は知らない。

 だが、子供であることは間違いない。


「では、今回の四氏族会議は終わりとする。いいな?」

「ああ」


 私がそう言うと他の三人も返事をして今回の会議は終わりとなった。

 今回のことで大きく動いたのは確かだ。

 エレインとレイが『非人間』と書かれた資料、あれは一体なんだったのだろうか。

 とりあえず、私にできることは監視と保護ぐらいだ。

 それから私は学院へと向かった。

こんにちは、結坂有です。


ナリアは徐々に進化していくようです。彼女はどこまで強くなるのでしょうか。

そして、裏でさまざまな情報戦が繰り広げられているようですね。

その辺りのことも気になるところです。


次回でこの章は終わりとなりますが、激しい戦いもあります。

それでは次回もお楽しみに。



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