動き出す団体
私は若干の不安を覚えながら、地下の部屋へと向かった。
圧倒的な力、そして技術を持ったミリシアやアレクは私を仲間として迎え入れてくれているが、こんな私でも彼女らの役に立てるのだろうか。
「……もしかして、不安なの?」
そんな私を知ってかミリシアが話しかけてきた。
「ううん、私の実力がないのはわかっていたことだから」
すると、ユウナが話しかけてきた。
「大丈夫ですよ。私も毎日レイさんに吹き飛ばされてますから」
「ぜんぜん強くなんねぇから飛ばされてんだぞ?」
そうユウナは私を励ましてくれる。
確かに彼女はミリシアやアレク、レイと比べると弱いのかもしれない。それでも必死に追いつこうと努力しているそうだ。
そのことは彼女の体を見ればよくわかる。
手のひらにできた硬いたこは手を握った時にわかった。
それに細い腕に確実についている筋肉も普通のトレーニングでは身に付かないような複雑な形をしている。
それは長く実戦形式で訓練をしていた証だ。
「でも、ユウナは努力できる。私は耐えられるか心配」
「私たちは無理な訓練はさせないわよ。好きな時に休憩して、好きな時に訓練するの」
確かに要点さえしっかりできていれば訓練の意味はある。
だが、私は訓練をまともにしたことがない人間だ。そんな私にも彼女らと同じようなことができるのだろうか。
多少知っているとはいえ、見様見真似でしかない。
「ナリアの実力はどうであれ、自分の実力を伸ばすには鍛錬で自分の体に技を叩き込むことだよ」
「アレクの言う通り、ゆっくりでいいから確実に実力を伸ばしていきましょ」
そう二人は私を鼓舞してくれる。
「……うん。明日から訓練をお願いするわ」
私がそうお願いすると二人は快く受け入れてくれた。
こんな私でも彼女らについていけば高い実力を得ることができるのだろうか。
そんな心配をまだ拭えないまま今日は寝ることにした。
翌日、私は妙な感覚に目を覚ました。
「何?」
まだ他の人たちは寝ているようだが、この不気味な予感はどうも心地が悪い。
時計を見るとまだ四時過ぎと起きるには早い時間帯だ。
「……っ!」
近くに私の同類がいる。
心石を持った何者かが私たちを狙っているのだろうか。
「早く起こさないとっ」
そう思った瞬間、空気が淀み始める。
「くっ」
息が苦しくなり、声が出にくい。
すると、階段から二人の男が入り込んできた。
「気配がすると思ったが、我々と同じ仲間がいたとはな」
「全く信じられんな」
「……」
私は声を上げようと頑張ってみるが、空気の重みで息ができない。
「まぁいい。時間は限られているからな。さっさと施術を済ませよう」
そう言って男たちはゆっくりと寝ているミリシアに近づいていった。
聖剣の力なのか空気の比重がかなり重たくなっているのを感じる。体の自由はなくなり、自分の力が発揮できない状況だ。
「ふんっ!」
「なっ」
しかし、この程度の重みならなんとか体は動かせる。
私は固められた体を大きく揺らして、近くのコップを男に投げ飛ばした。
「こいつ、重圧の中で動けるのかっ。取り押さえろ!」
「ああ、わかってる」
そう言って男の一人が私を取り押さえようとする。
当然ながら、この重たい空気の圧力では体を自由に動かすことができない。
このままではミリシアたちが危ないっ。
「ふざけた真似だなっ!」
その声はレイだ。
「嘘だろ。こいつも……。ガァッ!」
レイは堂々と歩いていき、ミリシアに近い男を片腕で掴み上げた。
この空気の重圧の中、よくもあそこまで動けるものだ。
ミリシアの言っていた怪力というのはあながち間違いではないのかもしれない。
「おい、ミリシア。動けそうか?」
そう彼がミリシアに問いかけるが、小さく首を振るだけで動ける状況ではないようだ。
「仕方ねぇな。俺がこいつらを始末してやるよ」
「くっ、お前は逃げろっ!」
私を拘束している男に向かってそういうが、その寸前でレイは片腕で掴み上げている男を床に強く叩きつけて私の方へと突撃してくる。
「目を閉じてろよっ!」
「え?」
私は全力で目を閉じた。
そして、次の瞬間……。
グジャッ!
生々しい音が耳元で鳴り響いた。
「あばっ!」
男の顔面にレイの強烈な左ストレートが直撃し、男の鼻を破壊していたのだ。
「このっ……」
「おらよっ!」
私を右腕で無理やり引き剥がすと、追加で男に強力な蹴りを放った。
その蹴りで男の胸部は大きく陥没していた。あれほどの威力であれば肋骨は完全に破壊され、即死したことだろう。
「ば、化け物がっ」
「へっ、誰のことだろうなっ!」
「うぶっ!」
そして、もう一人の男の顔面にレイは回し蹴りを放った。
その衝撃で男の頭部は吹き飛ばされた。
「チッ、どいつもこいつも手応えねぇな」
そう黒い煙の中、彼はそう言った。
すると、アレクとミリシアはさっとベッドから飛び上がり警戒体制へと入った。
「レイ、ありがとうね」
「気にすんな。ナリアが先に気づいたみてぇだからよ」
どうやらレイは私の反応で起き上がったようだ。
「私はただ、妙な気配に目が覚めただけで何もしていないわ」
「気配を感じ取るというのはかなりの才能が必要だよ。僕たちも完璧ではないからね」
「そうよ。自分の力を信じて」
すると、ミリシアは私の肩を優しく叩いた。
彼らの言葉は確かに心に響いた。私は気配を感じ取るのが得意だ。
とは言ってもそれは心石に限定した話だ。魔族でも一部を除けばほとんど気づかないほどだ。
「でも、これは私と同じ人だけなの」
「それでもいいのよ」
優しい瞳でミリシアはそういった。
「できること、できないことがはっきりしているのなら上出来よ」
「……っ! 上の階にまだ人がいるわっ」
かすかに地上で同類が動いた気配がした。
聖剣使いがまだいるのだろうか。
「レイっ」
「おうよ」
そう言ってレイは勢いよく階段を駆け上がっていった。
「アレク、私たちは準備を始めましょう」
「準備?」
私はそう彼女に問いかけた。
これから何をするのかわからないからだ。
「上にいるのは一人ではないのでしょ」
「え?」
「足音的に九人は確実にいる」
耳を澄ましているアレクがそう説明した。
「足音ってどういうこと?」
「とりあえず、敵がまだいるってことよ」
それから私はミリシアに棍棒を手渡され、地上階へと上がった。
すると、すでにレイと何人かの男が対峙していた。
「遅ぇぞっ」
「ごめんね。アレイシアさんは無事なの?」
「ああ、メイドが守ってくれてるみてぇだ」
「なら、僕たちは全力を出せるね」
そう言ってアレクは聖剣を引き抜いた。
その美しい刀身と彼の美しい姿勢は模範的な騎士を象徴しているようだ。
「ふっ」
次の瞬間、アレクが走り出し男の一人を一刀両断する。
「私たちも加勢するわ」
ミリシアも走り始めた。
彼女は非常に高速な体捌きで相手を翻弄しながら確実に仕留めていっている。
そして、レイはというと太い刀身の大きめの剣を引き抜いた。
その剣はレイにぴったりで荒々しさの中に繊細さを含んだ剣捌きで相手の動きを完全に封じ込めている。
「ナリアっ。一人を頼むわ」
三人の戦いを見つめているとミリシアがそう指示した。
「ええ、わかったわ」
私は棍棒を前に突き立てて、構えを取る。
攻撃する相手は一人、周りの人はミリシアたちに任せてもいい。
今は目の前の敵に集中しなくては……。
「はっ」
私は高速で棒を回転させ、連続的に攻撃を加え続ける。
「せいっ!」
そして、相手が怯んだ隙に強力な一打を男の頭部に与える。
この棍棒は訓練用とは違って両端に金属が埋め込まれている。それにより、直撃すれば致命打を与えることができる武器となっている。
「ナリア、まだ敵がいるわ」
「……分かったわ」
地下では九人と予想していたが、実際はもっと多くの敵がいた。
さらに奇妙なことは全員が黒い煙となって消えていったということだ。心石も落ちていたわけだが、明らかに人間ではない。
人間の形をした別の何かなのだ。しかし色々と考えてみるが、結論は見つからない。
いったい彼らは何者なのだろうか。
こんにちは、結坂有です。
今回から激しい戦いが始まります!
これからの展開も気になりますね。
そして、ナリアはどのように強くなっていくのでしょうか。そちらの方も気になるところです。
それでは次回もお楽しみに。
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