練習を終えて
一通りミーナの動きを見ていたところ、どうも防衛型の構えだ。
本人は攻撃型だと考えているようだが、それでは決してうまくはならない。
用途に合わせて戦うべきもの、それが今の彼女にできていないのだからだ。
ここは正直に思ったことを言うべきだろうな。
「じゃ感想を言う。率直に言えば攻撃は不向きだ。今すぐやめた方がいい」
「!!……どうして、かな」
俺がそう言うとミーナの顔がこわばった。
少し傷つけただろうか。だが、本人のためだ。変に言い回して誤解される方が本人のためにならないからな。
「ミーナの構えはどれも防衛型だ。自ら攻撃に出るようなものではないからな。それに両手剣での先制攻撃は非常に効果的であるが、その重量故に融通が利かないこともある。それが攻撃に不向きな理由だ」
俺は丁寧に、誤解のないようにミーナに説明する。こうすることでミーナの中で何が問題点なのかすぐに理解できるだろう。
「父が亡くなってからずっと、こうして練習してきたの。それをちょっと否定された感じがして……」
父が残してくれた最後の形見だったのだろうか。
「率直に言った方がいいと思ってな。傷つけたのなら謝る」
「いいの。私のは見様見真似の剣術、訂正点をしっかり言ってくれたから」
「それならよかった」
少しばかり傷つけただろうが、それ以上に改善点が見えたことを嬉しく思っているようだ。
それにしても見真似でここまで成長できているのは相当なものだ。努力家なのは間違い無いだろう。
父の訓練を模してここまでやってきたのであれば、彼女の実力はかなりのものになる。
「こ、これからなんだけど。私はどのようにして訓練すればいいかな?」
「そうだな。俺が練習の相手になる。相手の攻撃を利用する練習を積むことだな」
「私の相手をしてくれるの、嬉しい」
剣術を学ぶにあたって、人と練習することは大切だ。もしかすると、ミーナは一人でこの剣術を練習してきたのだろうか。そうだとすれば、相当な努力家に見える。
自分でも何が問題なのかずっとわからず、型などを練習してきたのだろう。
「学院だからな。人と練習することもここの役割だろ」
そう言うとミーナは少し笑顔になり返事をする。
「そうだね」
「とりあえず、今日のところは終わりだな。午後には施設が閉まるからな」
「うん、明日も練習お願いします」
ミーナはそう言うと深く礼をした。別に頭を下げるほどではないが、熱心なのはこの行動から見てもわかる。
「お願いされるほどではない」
そう言って、俺たちは練習場を出た。
練習場の扉を開くと、そこにはリーリアが待っていた。
「ここにいましたか」
ミーナはリーリアを見るなり、少し萎縮した様子になる。それも当然だろう。可愛らしい顔をしているが、目はしっかりと剣士の目をしているからな。
続けてリーリアは話す。
「説明会が長くなってしまい、遅くなってしまいました。申し訳ございません」
てっきり俺が怒られると思っていたが、リーリアが謝った。
「いや、俺こそ何も言わずに練習場に来たからな。悪かった」
「エレイン様は何も悪くはありません。私が遅かったばかりに……」
「別に気にしていない。俺が教室にいれば探し回らずに済んだのだからな」
リーリアの発言から察するに、俺が教室にいなかったため学院中を探し回って、一つだけ使用中になっている練習場のここに来たと言うことだろう。
結果はどうであれ、少し心配をかけたことには変わりないのだからな。以後気をつける必要があるな。
「ですが、私の役目でもありますので」
再びリーリアが頭を下げる。
「説明会が長くなったと言ったな。それはリーリアの責任ではないのだろう?」
リーリアは頭を上げ、俺の目を見た。
「……」
「正直に言っていい」
「わかりました。説明会を聞いていたおじいさま方が教師陣に対して取るに足らない質問を延々としていたことが原因でございます」
正直に言っていいとは言ったが、トゲのある言葉で言っていいとは言っていない。まぁ鬱憤は晴れたのならいいのだが。
「それならそのおじいさま方が悪いのであって、リーリアの問題ではないな」
「……それは、その通りです」
こうなればリーリアも認めざるを得ないと言ったところだろうな。
「あの、この人は?」
横で俺たちのやりとりを見ていたミーナがそう聞いてくる。
「リーリアは俺の使用人だ。この学院ではそう珍しいものではないのだろう?」
「ええ、でも養子にそこまでのは珍しいと思うよ」
そうなのだろうか。俺はその辺りの知識には疎い。しかし、フラドレッド家本家にいる使用人の一人は確かに俺に対して扱いが雑だったような気がしていたのは覚えている。
「まぁ俺には二本の剣があるからな。その点を考慮して使用人を付けてくれたんだ」
「そう言うことね」
強引ではあるが、なんとかこじつけることができたようだ。まぁ一時凌ぎにしかならないだろうが、今はそれでもいい。
続けてミーナは話す。
「じゃ私は先に帰るね。また明日、七時半にここでね」
「ああ、また明日な」
「またね」
ミーナはそう手を振って先に行った。
「……彼女に何か言われましたか?」
リーリアはそう心配そうに聞いてくるが、特別何か変なことを言っていたわけでもない。
俺の実力に関しても直接関わるようなことはしていないからな。
「議会の追及のようなことは何も。練習は俺が受け手だったから直接実力は測れないだろう」
「それはよかったです」
そう胸を撫で下ろして、安心したように息を吐いた。
リーリア自身も平静を保っていたように見えていたが、内心心配だったようだ。
「俺たちも帰るとするか」
「はい。そうですね」
そう言って、俺たちも帰路に着くことにした。
こんにちは、結坂有です。
パートナーのある程度の実力が知れたところで、今回は終わりました。
彼女の潜在能力は一体どれほどのものなのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。
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