新勢力の力
それから俺とリーリアは家へと帰ることにした。
色々とあったが、俺たちが解決できるようなものでもないため今日は帰ることにしたのであった。
昨日はミリシアともほとんど顔を合わせていなかったわけだしな。
いや、彼女たちはほとんど地下部屋で過ごしているから時間が合わない限り、話すこともないのかもしれない。
「エレイン様。今日のことなのですが、アレイシアにも連絡しておきます。正体を隠していたヘルゲイツ家が何かを企んでいることは明確ですから」
「そのことは任せる。俺が言える立場ではないからな」
家の問題についてはフラドレッド家次期当主であるアレイシアに任せる必要があるだろう。
世間体ではただの学生だ。
俺の発言力などそれほど高くはないのだ。
「はい。私たちの方で調査をいたしますね」
リーリアは公正騎士でそういった調査をすることはよくあるのだろう。
以前であれば議会の不正などを調べていたと聞いているからな。
「聖騎士団のブラド団長ですが、やはりエレイン様のことを調べていると思われます」
「何かわかったのか?」
「研究機関に帝国の資料の解読をお願いしたそうですね。噂ですが、エレイン様やそのお仲間の人の情報が書かれていたそうです」
なるほど、確かにあの帝国が地下施設で俺たちを訓練させていたのは事実だ。
そういった情報がまだ残っていたとしても不思議ではない。
「どんな情報かはわからないか?」
「そこまではわからないですね」
まぁ少なからずその資料の内容は隠す必要があるだろう。
内容はどうであれ、俺たちの訓練記録なのであれば弱みを握られることだってあるからな。
「その情報なのですが、エレイン様としては公表してほしくない情報ですよね」
「俺としてはどちらでもいい。もちろん、内容によるのだがな」
「そう、ですか」
ミリシアたちがどう思うかだが、個人的にはどちらでもいいと思っている。
あの帝国のことだ。多少調べられたところで全てがわかるような資料を作っていないことだろうしな。
「……先ほどから気になっていましたが、その服は新しいものですか?」
「ああ。今日の訓練で燃えてしまってな」
「ど、どういった訓練をなされていたのですか?」
若干の怒りを交えたその視線はやはりルカに向けての感情だろうな。
リーリアの話によれば、エルデバン家を聖騎士団に引き渡したあと急いで訓練場に向かうとルカのメイドたちが生徒たちを半ば一方的な訓練を行なっていたそうだ。
その後、すぐにルカに俺の居場所を聞いて医務室に駆けつけてきたということらしい。
「事実を隠すつもりはないが、メイド六人全員に対して木剣で戦った」
「服が燃えたということは相手は真剣、それも大聖剣の能力を貸与された状態ですか?」
「その通りだ」
リーリアはヘルゲイツ家のことある程度知っているようで、すぐに推察できたのだろう。
当然ながら圧倒的不利な状況で戦うことを強いられた俺だが、勝てたのは彼女も知っているようだ。
「本当にご無事で良かったです」
「俺があの程度で負けることはない」
「……聞くのはよろしくないと思いますが、どうすればエレイン様に勝てるでしょうか」
彼女も俺が万に負けるなどと考えてはいないとはいえ、気になるのだろう。
「そうだな。相手は真剣でこちらが素手であればもう少し互角に戦えたのかもしれないな」
木剣で相手の攻撃をほんの少しでも逸らすことができたのは大きい。
実際にそれでかなり早い段階で倒せたからな。
「体術で勝負するということですか。もしそれでエレイン様を倒せたとしても意味はないですね」
大き過ぎるハンデで勝ったところでそれに意味はほとんどないのだからな。
「簡単に俺がやられることはないから安心しろ」
「いいえ、それでも私はそばにいたいのです」
そう真っ直ぐな目で彼女は言った。
透き通るような虹彩を輝かせ、頬を若干染めた彼女はいつもより色っぽく感じる。
それにしても何やら妙な視線を感じる。
それも殺気に似たものだ。
「エレイン様?」
その直後、魔剣からアンドレイアが飛び出してきて剣を振り回した。
キュィインッ!
強烈な金属音が聞こえたと同時に銃声が轟く。
「っ! 狙撃?」
そう言ったリーリアを俺は抱き寄せて、銃声が聞こえた方向から隠れるように壁裏に隠れた。
「お主に向けられた殺意、このわしが見逃すとでも思ったかの?」
余裕そうに口を開いたアンドレイアの表情は非常に険しいものであった。
それは俺たちがすでに囲まれているということだ。
まだ遠いとはいえ、気配を完全に隠していたということだろう。
この俺でも最初は気付かなかったぐらいだ。
「アンドレイア、これは明らかに攻撃の意思があるな」
「そうじゃの。まだ仕掛けてくる様子はないが、ここでお主を殺すつもりじゃろう」
そう断言する彼女は体格に合わない黒の魔剣を肩に乗せた。
「一番信頼できるのはミリシアたちだ。今は家に帰ることに専念したい」
「ふむ、それで行くとするかの」
すると、また剣を振り回し狙撃の銃弾を弾いた。
「銃弾など、わしらにかかれば無意味じゃ。お主よ、安心して進め」
俺はそのアンドレイアの言葉を信頼して、リーリアを抱き上げた。
「えっ……。ひゃっ」
「じっとしてろ」
そう言って俺は駆け出した。
普通の人間の速さではない速度で街中を駆け回る。
アンドレイアも当然のように付いてきて、銃弾を確実に弾いて俺を守ってくれている。
流石の俺でも視覚外からの狙撃は対処できないからな。
それに今は骨董品になりつつある銃を取り出してきて彼らは何をしたいと言うのだろうか。
とりあえず、今は家に帰ることだけに集中しよう。
うまく逃げ切れた俺たちはすぐに家へと入って扉を閉めた。
「っ! エレイン様っ、どうなさいましたか?」
いつもと様子の違う俺にユレイナは駆け寄ってきた。
「狙われている。レイを呼んでくれないか?」
「あ? 呼んだか?」
そう言ってリビングから顔を出したのはレイであった。
「扉を出て八メートル先に三人の敵がいる」
「武器は?」
レイは太い刀身の魔剣を構えて戦闘態勢に入った。
「直剣、ハンマーに鎖鎌だ」
「へっ、ふざけた連中だなっ!」
すると、猛烈な速度で扉を蹴り飛ばし、その扉に隠れるようにレイが走り出した。
「オラァ!」
蹴り飛ばした扉を縦半分に斬り裂き、三人に同時に攻撃する。扉で相手を直前まで見ることができなかったために相手は一瞬にして意識を刈り取られてしまった。
俺もリーリアを下ろしてアンドレイアから魔剣を受け取り、レイの加勢へと向かう。
三人が同時にやられたとして、周囲を取り囲むように大勢の人が家の周りに集まってくる。
「お前……。何か悪いことでもしたのか?」
「心当たりはないな。ただ下校していただけだ」
正直なところ、ここまでの人たちに狙われるようなことをした覚えはない。
周辺には全く人が住んでいないのをいいことに彼らは本気で攻撃を仕掛けてきているようだ。
「なになに!」
そんなことをしているとミリシアとアレクが玄関から出てきた。
「ミリシアとアレクはアレイシアの護衛を頼む」
「ああ。わかったよ」
「よくわからないけど、地下の安全なところに連れて行くね」
今この状況で攻め込まれた場合、足の不自由なアレイシアが危険な目にあることは目に見えている。
彼女ら二人に任せて、俺とレイでこいつらを対処する必要があるだろう。
それにユウナを使って聖騎士団本部へと向かわせることもできるわけだしな。
まぁそのことについてはミリシアも考えてくれるはずだ。
「こいつら、斬っていいのか?」
「死ぬと思ったら斬れ。それ以外は殺すな」
「へっ、了解っ!」
太い頭身の魔剣を振り上げて、地面に叩きつける。その衝撃は凄まじいもので一瞬にして砂塵が巻き上がる。
俺はその砂塵に身を隠して一人一人確実に倒していくことにした。
「腕鳴らしにはちょうどいいぜっ」
「ほどほどにな」
それから俺たちは四〇人の団体と戦うことにしたのであった。
こんにちは、結坂有です。
新勢力との戦いはどうなるのでしょうか。
そして、聖騎士団はそれらに対してどう対処していくのでしょうか。気になりますね。
これからの展開は面白くなりそうです。
それでは次回もお楽しみに。
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