幕間:会えるだけでも嬉しい
私、ミリシアはあることを考えていた。
エレインの学院にもし行くことができれば私は二位ぐらいにはなれるのではないか。
彼を守るためにも私が学院に行くことの重要性は高いと思える。
あのメイドのリーリアという人も確かに実力者ではあるが真剣勝負となれば私の方が一歩上手のはずだ。
「ミリシア、何を考えてんだ?」
そんなことを考えていると横に座っていたレイが私の方を向いて話してきた。
「何も考えてないわよ」
「いや、ぜってぇ考えてたな」
「もしかして、エレインのことかな?」
アレクもどうやら私の考えていることに気づいていたようだ。
ここまで言及されれば認めざるを得ないか。
「……そうよ。今何してるのかなって」
時間的にも授業が終わり、あのセシルって子と訓練をしているのだろう。
彼女は学院内での剣術評価一位という実績のある実力者なのだが、実の所実戦経験が少ないと聞く。
あらゆる剣士の人と訓練をしてきたようだが、実際に戦うということとは少し違う。訓練は訓練でしかないのだから。
「ちょうど放課後の時間だね」
「でもよ。あいつ、学院の奴と訓練してんじゃなかったか?」
「そう、だったかな」
確かにアレクの言う通りでいつも訓練をして帰ってきていると言っていた。
エレインのことだからかなりハードな訓練内容になっていると思うが、その辺は大丈夫なのだろうか。
彼の本気を一度だけ見たことがあるのだが、私たち全員が追いつくことができなかったぐらいだ。
かろうじてレイが必死に食らい付いていたのを覚えているが、それでも本人はかなりきつかったと後でつぶやいていた。
「訓練に付き合ってる奴がぶっ倒れてねぇか心配だな」
「別にそんな心配しなくてもいいんじゃないかな」
すると、お茶を入れに行っていたユウナが戻ってきた。
「エレイン様なら合わせてくれると思いますよ」
「そうなのか?」
「私の知っているエレイン様は仲間の人に実力を合わせていましたからね」
私たちが地下施設に入る前に彼女はエレインと訓練をしていたと言っていた。
地下施設の訓練は常に戦闘を意識したものだったため、他人に合わせると言ったことができなかったのかもしれないが、もっと幼い頃なら違ったのかもしれない。
まぁ今もその考えが変わっていないとも言い切れないけれど。
「かもしれねぇな。あいつは他人を見れない人間じゃねぇしな」
「うん。そうだね」
レイとアレクはそう頷いた。
私のその点においては同感だ。私もこの前の戦いでその凄さを目の当たりにしたばかりだ。
「でも、エレイン様の学院に私たちも行けたらいいのになぁって」
「ちょっとっ」
私の考えていたことをユウナがさらっと言ってのけたのだ。
「そりゃいい考えだな。明日にでも乗り込んでみるか?」
「エレイン一人でも異常な強さなんだ。僕たちが参加すれば、学院の均衡が崩れてしまいそうだよ?」
「そんな柔っちい奴が学院に行ってるのか?」
以前の議会軍でいくつかの人と話したことがあるからわかるが、学院でそれなりにいい成績だった人でもユウナより弱いと感じたぐらいだ。
当然ながら、一年生の生徒ならそこまで強いわけではないのかもしれない。
「当たり前でしょ? 私たちは普通からすれば異常な訓練をしてきたんだから」
「ミリシアの言う通りだよ。僕たちはここの人たちとは違った存在なんだ」
アレクもそう言う。
「……二人が言うならそうなんだろうな」
「でも、学院のことが気になるのは確かだね」
「だろ? 生徒でなくても見学ぐらいならいいんじゃねぇか?」
確かに見学ぐらいなら問題ないのかもしれない。
それなら学生の均衡を崩すことなく学院を見て回れるはずだ。
「とは言っても現実的にそれは難しそうだね」
「私たちは正式にエルラトラム国民になったわけじゃないからね」
そう、私たちには家名がない。
どういった人たちなのか他人に説明することができないのだ。
しかし、レイはパベリに保護されたため家名があり個人を証明することができる。
私とアレク、ユウナはどこの誰だと聞かれれば答えることができない。
「そうかよ」
「まぁ別にいいんじゃないかな。エレインが学院を卒業する二年後、その時まで僕たちが生きていれば何かできるだろうし」
アレクの言う通り、二年間何も起きなければ私たちは無事にチームを作れるわけだ。
それにフラドレッド家に保護されている身でもある。放浪者ではないのだから社会的にもそこまで問題ではないだろう。
「ただ、このまま家名を持たずに過ごすのって面倒ですよね」
ふとユウナがそう呟いた。
彼女の言う通り、私たちはフラドレッド家にお世話になっている。
私たちが何かしたいと思えば、フラドレッド家の人に許可を取る必要がある。そうなったときは確かに色々と面倒だ。
「でも、家名を持つのって難しいと思うよ」
「私たちもそこまでこの国について詳しいわけじゃないし、国民として権利を取得できるのはもう少し先になりそうだわ」
「そうかよ」
私たちが今できることはエレインを見守ること、そして聖騎士団のお手伝いをするぐらいしかできないのだ。
でも目標として今後、家名を持つことは重要なのかもしれないけれど。
「私としては今のままでも十分ですよ。エレイン様と一緒に入れるだけで私は幸せですから」
「……」
「ミリシア、反論したらどうかな?」
「いいのよ。ユウナもエレインのことが好きなんだから」
「す、好きだなんて、私が……」
彼女はエレインに対して好意があることは知っていた。
そうではないと彼女は豪語しているけれど、私やアレクたちには気付かれている。
それにアレイシアにも。
「まぁそうね。ユウナの言う通り、私もエレインと一緒の環境に入れるだけでも幸せだわ」
私もそう本音を言ってみることにした。
こんにちは、結坂有です。
ミリシアたちにとって家名を持つ事はこの国で独立するために必要なことのようです。
ですが、そう簡単にできないのが現実、これから彼女たちはどうしていくのでしょうか。気になりますね。
今回は幕間でしたが、本編にも少し関わってくる内容です。
それでは次回もお楽しみに。
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