最初のパートナー
教室に着くと机に名前が書かれてあり、黒板には名前のある机に座るように指示されていた。
名前はフルネームで書かれてあり、俺の名前もしっかりと記載されていた。
そして俺がその席に座ると、すぐに第一声が響いた。
「おい! フラドレッド家の人間がいるぞ!」
「え? うそ!」
その声に釣られて人が俺の席に集まってくる。
昨日のうちにアレイシアに聞かされていたが、どうやらフラドレッド家は代々美男美女の家系で剣士の間ではアイドル的な存在になっていたようだ。
容姿も端麗で、さらに剣士としての実力もあるフラドレッド家は注目の的だろうから覚悟してほしいと言っていたことを思い出した。
まさかこれほどまでに人気があるとは思ってもいなかった。
周りの女子は俺の顔や体を突き刺すように見つめている。
「確かにかっこいいけど……美形、なのかな」「かっこいい部類には入るけど、美男と言うほどではないよね」「体付きも一般的だし、とても強そうには見えないし」
そう好き勝手に俺のことを分析している。ここは一言、言っておくべきだろう。
「すまないが、俺はフラドレッド家の養子なんだ。実子ではない」
「そうなんだぁ。でもフラドレッド流剣術はとても評価されているし、強いんでしょ?」
周りの女子もこくこくとうなずいている。
「それに関しても学んだことはない。期待を裏切って申し訳ないな」
そう言って俺の評価表をみせる。
それを見入るように女子が集まる。
「聖剣二本だって」「その時点でやばいよね」「フラドレッド流じゃないってことは我流ってこと?」「それでも一〇八位は一緒に組めないね」
フラドレッド家の実子としての魅力も、剣術的魅力もない俺はパートナーとしての価値も相当低いものになる。それはわかっていたことだ。
「わかったなら席に座ってくれないか」
そう言うと女子たちは自分の席に座った。
しばらくすると、教師が教室に入る。
「席に座っているな。これから説明を始める」
そして教師は説明書類を配り始めた。どうやらこの学院でのルールやパートナーの選び方、そして学院評価の基準が書かれているようだ。
「説明の前にこのクラスの担当となったルカ・セイザンだ」
そう言って、黒板に自分の名前を書くと続けて学院の説明を始める。
「皆も知っているように、この学院はパートナーを組みともに剣術競技に参加することで順位を上げることができる。剣術競技に勝つことも評価に入るが、どのように戦ったかも評価に入る」
「ひとつ質問です」
すると、一人の学生が手を挙げた。
その女性は金髪の長い髪はとても綺麗で鋭くルカを見つめる目は碧眼、そして背が高く騎士然としている。そのアレイシアに似た女子生徒は聖剣を二本、腰に携えていた。
「よろしい」
「パートナーは絶対組む必要があるのですか?」
「確か、試験評価一位のセシルだったな。自分よりも弱い者と組むのが嫌? 残念だが、これは絶対だ。お前が下位を引っ張る役割になっている」
教師であるルカに質問をしたのは評価一位のセシル・サートリンデのようだ。アレイシアから聞いていた二刀流の剣士の一人だそうだ。副団長の娘で実力も非常に高いと評判の少女のようだ。そして、男子の高嶺の花でもあるそうだ。
「そうですか」
「では続ける。入学試験での評価は一時的な物でしかない。学院での実戦形式で評価が一変することもある」
続けて説明が行われた。
学院で定期的に行われる剣術競技での勝負で学院評価が決定するようだ。しかし、日々の訓練やその他努力と言ったものは全く評価に入らない。結果主義とも言える評価基準だが、理にかなっているやり方だとは思う。
「以上だ。質問がなければ解散だ。自由にするといい」
ルカは学生を一瞥し、質問がないことを確認すると教室を去った。
皆が緊張気味にしている中、一人の男が立ち上がった。
「セシル様、僕と組んでくれませんか?」
「私は私より強い人と組みたいの。申し訳ないけれど断るわ」
「僕は強いです」
すると、セシルが剣を高速で引き抜いた。
その剣先は男の首元の直前に止まる。
直接的な危害がなければ教室で剣を抜いても構わないと言うことはさっきの教師が説明していた。
「この剣先を目で追えない人とは組めないの」
「くっ……」
どうやら判断基準はあの高速の剣先を目で捉えられるかどうかのようだ。確かにあの速度であれば目で追うことは難しいのかもしれない。
これが彼女を高嶺の花だと言わしめる所以なのだろう。
その光景を見ていた他の男子も唖然としていた。あまりにも高速の剣撃に驚きを隠せないでいた。それは女子も同然だった。しかし、その中で一人だけ、表情を変えずにそれを見ていた女子がいた。
その女子は両手剣を机に立て掛けてその光景をただ無表情で見つめていた。俺がその人を見ていると、その女子と目が合いそうになった。
俺は彼女に気付かれる前に目を逸らしたが、その女子は何かを決めたように頷いていたのが見えた。
「他の人もこれを認識できないのであれば私に関わらないで、パートナーは他クラスの二位の人と組むから」
そう言ってセシルは教室を離れる。
彼女が出ていくと教室はざわめき始める。
「怖かったよね」「綺麗だけどあれじゃとっつきにくいな」「性格悪過ぎだよね」
そう言った声が聞こえてくる。まぁあの態度を取ったことでそうなるのは当たり前だろうな。
そう教室の様子を見ていると、あの女子が俺の席に向かってきた。
「あの、エレイン・フラドレッドくん? 私と組んでほしい」
当然、教室のみんなは耳がいいのか俺の方を向く。
その一瞬にして静まり返った教室はどこか気詰まりに感じてしまうものだ。しかし、この女子の要望に答えないとこの環境は変えられないため俺は答えることにした。
「別に構わない」
「えー!! その人最下位の人だよ!」
俺の声を遮るように周りの女子が騒ぎ始める。
その声を聞いてか、俺を誘った女子は気まずそうにする。
「最下位なのか?」
「悪い……かな」
「まぁ俺も似たようなものだ。とりあえず、一年間よろしくな」
「よかった。私の名前はミーナ・グレイス。よろしくね」
ミーナは両手剣の使い手のようだ。しかしどのような実力なのか俺には全くわからなない。
「はぁー 狙ってたのになぁ」
そんな声がどこからか聞こえたが、この人と組むことになったのは確定なため覆すことはできない。すると、それに釣られてか何人かのため息が聞こえた。
「俺はどうすればいい?」
「えっと、まずは私の実力を見てほしいの」
どうやら自分の実力を見て何かを判断してほしいようだ。大体は分かったが、本当に俺でよかったのだろうか。
「それでは練習場に向かおうか」
「うん」
授業はまだ始まっていないが、俺たちは早速練習場を借りることにした。
練習場には授業で使われるような大きな場所もあるが、個室にも分かれている。その中から好きな部屋を選ぶことで練習することができる。
幸いにも入学式当日のため誰も借りている人がいなかった。そのため自由に部屋を借りることができるようだ。
「ここの部屋にするね」
そう言ってミーナは学生証をデバイスの中に入れ操作する。すると、鍵が出てくる。練習を終え、またここに鍵を返却することで学生証も戻ってくる仕組みのようだ。
「じゃ、行こうか」
俺とミーナはそのまま部屋番号の場所に着く。
中は縦横六メートル、高さ四メートル近くの大きさで個人で練習するにはちょうどいい部屋だろう。
するとミーナはかついでいる両手剣を取り出し、構えに入る。
「私の攻撃を受け止めるだけでいいから」
「わかった。いつでもどうぞ」
そう言って、俺も腰にあるイレイラを握る。
「や!」
ミーナの攻撃は非常に重たいものであったが、違和感も感じられる。構えの体勢から見ても攻撃に向いているとは思えない。しかし、ミーナはそれでも攻撃を繰り返してくる。
おそらくミーナの剣術はそもそも攻撃には向いていないものなのだろう。
しばらく剣を交わすことで、ミーナの実力がだいたいわかってきた。
「どう、かな」
ミーナは本気で俺にアドバイスを求めようとしているようだ。なぜ俺にそれを求めているのだろうか。
「その前に、どうして俺にアドバイスを求めようと思ったんだ?」
「その、セシルの剣撃を見て平然としていられたからきっと強い人なんだと思って」
「一〇八位だが?」
「教師の人も言ってたこと、入学試験だけが実力ではないって」
さすがに見られていたようだ。俺はあの剣撃を見てなんとも思わなかったからな。
「そうか、それで俺と組むことにしたんだな」
ミーナもコクリと頷き肯定した。
ふむ、どうやら本当にアドバイスを求めているようだな。
こんにちは、結坂有です。
入学初日に早速パートナーを見つけることができた主人公ですが、これからどう順位を上げていくのでしょうか。
そして、入学時評価一位の生徒も気になるところですね。
それでは次回もお楽しみに。
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