不穏な予感
リルフィとセシルと別れた俺はすぐにリーリアを呼ぶことにした。
彼女には仮眠室で寝るよう指示していたからだ。
仮眠室に入ると彼女はまだ寝ていた。
「リーリア」
俺がそう言うと彼女はゆっくりと目を覚ました。
「んっ……エレイン様?」
「おはよう。疲れは取れたか?」
「っ! すみませんっ。見苦しい姿を……」
すると彼女はさっと起き上がり、少し乱れた服を整える。
まだ目が覚めていないのか手元に力が入っていない様子であった。
「そこまで気にしなくてもいい」
「失礼いたしました」
服装を整えた彼女はゆっくりを顔を上げて俺の方を向いた。
彼女はまだ眠たそうな目をしている。
夜通し戦闘態勢であった彼女はかなり疲弊していたのだろう。そして、休む暇なく俺の世話に学院への付き添いをしているのだから当然だ。
「放課後、商店街に行くのだったな」
「はい。少し買いたいものがあるので」
「わかった。歩けるか?」
俺がそう聞くと、彼女はほんの少しだけ考えた。
「もう少しだけ、休憩させてください」
「ああ」
それから数分ぐらい彼女はベッドの上で軽く体を動かして目を覚ましていた。
俺とリーリアが学院から出て、帰り道の商店街で買い物をすることにした。
どうやら彼女は日用品を買うために商店街に立ち寄ったようだ。
「石鹸などの消耗品が少なくなっていましたからね。ここで買いましょう」
そういって彼女は日用品などを売っている店に入った。
どうやらここは女性用のものが多く売られているようだ。
石鹸一つとっても乾燥肌用など、さまざまな種類の石鹸があるようだ。さらに化粧を落とすための石鹸なども奥には置いてある。
それぞれ添加物が異なるようで、乾燥肌用の石鹸には油脂などを多く含んでいるため肌が乾燥しにくくなっているようだ。
「エレイン様は石鹸にご興味があるのですか?」
「興味があるわけではないがな。ただ、こんなにもたくさんの種類があるのだなと思ってな」
「確かに多いですよね。私自身、間違えてしまうこともあります」
そうリーリアは言っているが、迷いもなく石鹸を買い物かごに入れているところを見ると間違えるということはないように思える。
「これぐらいで十分ですね」
それからしばらく店の中であらゆる商品を買った彼女はそういった。
「十分なのか?」
「はい。これぐらいあれば問題ありません」
そう言って彼女は買い物かごの中を覗き込んで商品を確認していた。
「それにしてもエレイン様、日用品のことに関してはほとんど知らないのですね」
「ああ。そういったことは教えてもらっていないからな」
「そうなんですね。でしたら、私がお教えします」
「そうだな。その方がありがたい」
そんな会話をしていると、背後から妙な視線を感じる。
店内でまだ人が多いため誰が俺に視線を向けているのかはわからないが、殺意のようなものではないため俺は無視することにした。
買い物を済ませて帰り道を二人で歩いている。
変わらず俺たちの後ろから誰かが尾行しているようだ。
それもかなりの手練れであるのは間違いない。
「……つけられていますね」
横を歩いているリーリアがそういった。
彼女もかなりの実力者でこの程度の尾行であれば気づくようだ。
「そうだな」
「どうしますか?」
リーリアはすぐにでも戦えるといった様子であったが、俺は戦闘をしない方がいいだろう。
後ろをつけている人物がいったい誰であるのかはわからないからな。
それに変にここで刺激したところで意味はないだろう。
「何もしなくていいだろう。向こうも危害を加えるようなことはしないみたいだからな」
「わかりました」
それからしばらく歩いていると、尾行はなくなり俺たちは無事に家に帰ることができた。
そして、家に帰るとすぐにアレイシアが出迎えてきてくれた。
「エレイン、おかえり」
「ただいま」
「ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかな?」
「ああ」
「リーリアも、ね」
「……はい」
ユレイナのところへ行って夕食の手伝いをしようとしていたリーリアをアレイシアが引き留めた。
リーリアは少し意外そうな表情だった。
リビングへと向かいその話を聞くことにした。
「えっと、まず一つ連絡なんだけど昨日の魔族の襲撃のことね」
椅子に座るとアレイシアはゆっくりと口を開けてそういった。
昨晩の出来事は彼女ももちろん知っている。
聖騎士団の人たちから何か追加の情報をもらったのだろうか。
「あの後、周囲の森を調べたんだけど小さな村があったそうよ」
「村?」
「うん。魔族の生息している森に人間が住んでいるなんて信じられないけれど、実際あったそうよ」
「その村はどうなったんだ?」
魔族にある程度対抗できる村だとしたら確かに有り得なくもない。
とは言ってもあれほどの魔族を村程度の人口でどうにかできるはずがない。
「悲惨な状況になっていたみたい。でも生存者がいたみたいで、今その人は聖騎士団本部に保護されているみたい」
「なるほどな」
「それで、あの黒い石のことも聞き出せたみたい」
彼女から黒い半透明の石のことについて話を聞くことにした。
その村ではあの石は”心石”と呼ばれていること、生まれた時から体内に宿っているもの。それらを聞いた。
人間の中にそういった石が存在することはどう考えても不自然である。
握り拳大の大きさの石が体内にあれば身体的に何らかの支障があるはずだ。しかし、それはどうやら関係ないようだ。
「あと、あの黒い石って魔族にも似たようなものがあるのよ」
「そのようだな」
「魔族のものは石っていうよりかは結晶みたいなものだけどね」
そのことはアンドレイアたちから聞いたことと同じだ。
もしそうだとしたらあの石が何らかの魔の気配を発している事になる。
もちろん、魔族と無関係というわけでは絶対ないはずだ。
「それと、人間が襲ってきたって言っていたわよね」
「ああ、門番の人が魔の気配を放つ人間に襲われたそうだ」
「それでその人にも同じような黒い石があるのよね……」
確かに不思議なことだ。
魔族と無関係ではないのは明らかだが、どういった関係なのかはまだわからない。
精霊の長を務めていたクロノスでさえもわからないと言っていたからな。
「……生存者はその人のことを何か知っていたのですか?」
「うん。村の中で会ったことがあるようで、その人は村の人たちのことを奴隷と呼んでいたみたいよ」
「よくわからないな」
その一言からは何も汲み取れない。
ただ少しずつだが、謎が解けそうな予感がする。
とは言っても不穏なことなのには変わりないのだがな。
こんにちは、結坂有です。
更新が遅くなりました。
明日は本編のほか、幕間も投稿する予定ですので楽しみにしていただけると嬉しいです。
石の正体について少しずつわかってきましたね。
村の人たちがどういった人なのか、すでに勘づいている人もいると思いますが、これからは面白い展開になっていきます。
それでは次回もお楽しみに。
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