まだ見たことのない世界
生まれた時から私の周りに魔族がいた。しかし、魔族がいるからといって私たちは怯えてなどいなかった。
なぜなら私たちには彼らに対抗することができるのだから。
「ナリア、まだ起きてる?」
自分の部屋で寝る支度をしていると、姉が私を呼んできた。
「なに」
扉越しにそう返事をすると、姉は少しだけ扉を開けた。
「外、すごいことになってるよ」
「え?」
私はカーテンを開けて、外を確認した。
私たちが住んでいるところは小さい村だ。
数えても数百人程度しかいない村なのだが、それでも魔族に対抗できるほどの力を持っている。
聖剣ではなく、自身の力で倒すことができるのだ。理由はわかっていないのだけど。
「何が起きてるの?」
「すごいでしょ」
村の人がどうやら魔族を生捕にしてきたようだ。
とは言ってもまだ子供のようで木製のカゴを破壊できるほどの力はまだないようだ。
「あんなことして大丈夫なの?」
「大丈夫でしょ。村の中には素手で魔族と戦える人がいるんだから……」
姉はそう言って窓を開けた。
「それ、どうするの?」
「解体して研究すんだよ」
男は冷静な表情でそういった。
確かに魔族にも弱点がある。それは私も戦ったことがあるからわかっている。
弱点は魔族の種類によっても異なるため、日々そういった研究をしなければいけないのはよく理解できる。
しかし、生捕にしてまですることだろうか。
「ね? すごいでしょ」
姉はどこか嬉しそうにそう言った。
私たちはごく少数の人間だと思う。私たちが特別だとは慢心してはいけない。
理由はわからないが、魔族と対抗できる。ただ、それだけで特別だとは思ってはいけないのだ。
私たち以外でも聖騎士団は魔族と対等以上に戦えるからだ。
「その顔、聖騎士団のこと考えてるでしょ」
そう私の顔を覗き込むように姉は言った。
「……だめなこと?」
「何を目指すのかはナリア自身だけどさ。もっと自分の力を信じたら? あんた一人でも魔族と戦えるんだから」
「そうだけど、この力がなんなのかわかんないし」
「そんなこと気にしてるのあんただけだからね?」
確かに周りの人も自分の力に関して何も疑問に思ったことがないようだった。
それでも私は変だと思っている。
この力が本当に特別なものだとしたら、なぜ私たちなのか……。
私たち以外にも力を与えるべき人がいるはずだ。
「っ! こいつっ!」
すると、魔族を捕まえてきた男性が叫んだ。
私も慌てて外を見てみると、木製のカゴの中にいた魔族が光っている。
闇夜の中、赤く禍々しい光を強く放っている。
「あれ、なに?」
姉にそう質問すると、地面が揺れるような感覚がした。
「じ、地震?」
この振動は地震ではない。
魔族が走ってきている証拠だ。
「ギャギィ!」
カゴの中の魔族が奇声を発する。
その直後、奥の家が破壊された。
「っ!」
巨大なゴーレム型の魔族だ。
それも一体だけではない。その数は一〇体を超えている。
「嘘、見張りはどうなってるの?」
姉はそう言って家を飛び出す。
私もそれに合わせて巨大な剣を持って外へ出る。
「ナリア、応援を呼んできてくれる?」
「わ、私が?」
「当たり前でしょ。向こうの広場に行って警報を鳴らしてきてほしいの」
「……わかったよ」
そう言って私は広場の方へと向かった。
今、村の人たちの大半はすでに寝静まっている。広場を中心にしているもののそれぞれ離れた場所で生活している。
だから隣人という人は誰一人いない。
警報を鳴らせば、離れて寝ている村の人たちも呼ぶことができる。
流石にあの数のゴーレム型はいくら私たちでも対処できない。
重たい剣を地面に突き刺して、私は全力で走る。
広場には魔族が侵入していた。
「あれぐらいならすり抜けれるわね」
巨大なゴーレム型と違い広場に来ている魔族は人間と大差ない。
私は地面を蹴り、警報のある物見櫓へと走り抜けた。
村一番の素早さを持つ私ならあの鈍い魔族に捕まることなく走り抜けることができる。
そして、櫓に着くと私は警報を鳴らした。
「これで応援が来るといいけど……」
若干の不安を残しつつ、私は櫓を降りようと振り返った。
「っ!」
「ちょっといいか?」
振り返るとそこにはフードを深く被った一人の男の人が立っていた。
大きなハンマーを持ったその男の人はどこか不気味で私は自然と警戒してしまった。
「……なに?」
「それに用があんだ」
「あなた、この村の人じゃないでよね」
私は彼を知らない。
村の人は全て把握している。彼のような人は村の中にはいない。
「もしかして、聖騎士団の人?」
「あ? ちげぇよ!」
そういうと狭い場所なのにも関わらず大きなハンマーを振り回した。
「ちょっと、危ないでしょ!」
「とりあえず、そこを退けよ!」
私が警報機の近くから離れると、彼はそれをハンマーで叩き壊した。
大きな音を鳴らしていた警報は止まる。
「な、何をしてるの!」
「うるせぇ! てめぇら奴隷には関係ねぇだろ」
「奴隷? なんのこと?」
「あー! バカに付き合ってる暇はねぇんだよ!」
そういって彼は櫓から飛び降りた。
私は何のことなのか理解できなかったのだが、警報機が壊されたのは事実だ。
あの男は明らかに私たちの敵、聖騎士団でもないのなら尚更だ。
「この魔族の軍勢をなんとかしないと……」
櫓から周囲を確認してみる。
魔族は優に百を超えている。
寝ていた村の人たちも警報を聞きつけて参戦してくれている。
それでも魔族は一向に倒すことができない。
「……どうして?」
明らかに魔族の強さが違う。
村の人が剣で応戦しているが、それでも倒すことができない。
それに斬りつけられた魔族は見たことのない速度で回復している。
私の知っている魔族とは格が違うようだ。
「っ! これじゃ……」
私は姉のところへと向かった。
これほどの力を持った魔族が相手なら姉は絶対に負ける。
そう思った時には私は櫓を飛び降りていた。
それから俊足で元いた場所へと向かう。
「姉ちゃん!」
すると、そこには傷だらけの姉がいた。
「……ナリ、ア?」
周囲には魔族はいない。どうやら別の場所へと向かったようだ。
「む、無理しないで」
「逃げて、お願い」
「え?」
「ゴーレム型以外にも魔族…いる」
息苦しそうに姉は私の裾を握っている。
「逃げるってどこに?」
姉はわからないと小さく首を振る。
「とりあえず、生きて」
「うん。姉ちゃんもっ」
「私はいいから……」
そう言って裾を握っていた手を落とした。
「っ! どうしてっ」
「ナリアちゃん!」
まだ遠くだが後ろからそう呼んだのは幼馴染の男友達だ。
「あの魔族、普通じゃない!」
「え?」
涙で視界が霞んでいたが、はっきりとわかった。
彼が跡形もなく叩き潰されるところを見てしまったのだ。
「あ……」
私は初めて魔族に対して恐怖を持った。
これが本当の魔族、これが本当の恐ろしさなのだと思い知ったのだ。
今まで相手にしてきた魔族は戦闘をしたことのないものだったのだろう。だから、なんとか倒せていたのかもしれない。
私はいつの間にか立てなくなっていた。
勝てない、聖剣がなければ絶対に勝てない。そう確信したからだ。
家が崩れる轟音、人々の悲鳴、魔族が肉塊を踏み荒らす音。
その全てが私を恐怖の奥底へと引き落としていく。
あれから何時間経ったのだろうか。
あたりは無音に静まり返っている。
広場から離れていた私は運良く生き残っていたのだ。
今はゆっくりと歩きながら森の中を歩いている。
「……どう、したら」
さっきまで真っ暗だったのに、今はもう日が昇り始めている。
行く宛もなく私は森の中を歩いていた。
「っ! 誰!」
歩いていると後ろから何者かの気配を感じた。
私を追いかけてきた魔族なのだろうか。そう思い振り返るとそこには美しい鎧を身につけた騎士であった。
「エルラトラム聖騎士団団長のブラドだ」
「僕はアドリスだよ」
「フィレスよ」
そう三人は名乗り上げた。
どうやら聖騎士団の人のようだ。
「……なに?」
「魔の気配がするな……。聞くが、お前は人間か?」
私は小さく頷いた。
すると、目の前の聖騎士団団長は目を閉じて考えた。
「わかった。生存者として保護する」
そして、ゆっくりと目を開けた彼は私の目をまっすぐに見てそう言った。
こんにちは、結坂有です。
果たしてナリアは何者なのでしょうか。これから彼女や彼女の村の人たちについての謎が解明していくといいですね。
……すでに勘づいている人もいると思いますが。
それでは次回もお楽しみに。
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