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見るべきもの

 セシルに連れられて訓練場を出た私、リルフィは若干の不安感を抱えながらも隣の訓練場の扉を叩くのであった。


「なんだよ」


 そう不機嫌そうに扉を開けたのは先ほど鍵を受け取っていた男だ。

 すると、私の横で立っているセシルが口を開いた。


「この子と勝負してくれるかしら」

「あ? 雑魚に構ってる場合じゃねぇんだわ」

「じゃ、この人と戦ったら私に勝ったって言えるとしたらどうかしら?」


 そう取引をするように彼女は言う。

 自分を売るようなその発言に私は驚いた。


「セシル、いくらなんでもそんなことまで……」

「学院一位の奴から一本取れたって言っていいのか?」

「ええ」

「そりゃおもしれぇ話だな」


 目の前の男は握り拳を叩いて私の方を見た。

 今からボコボコにしてやるよ、とそう目で伝えているみたいだ。

 当然ながら、今の私には彼らに勝てるような自信はひとつもない。

 でもセシルが後ろ盾してくれるのなら……と安心感がある。

 それにエレインが勝てると私を励ましてくれた。


「それじゃ、決まりね」

「俺が相手してやるよ」

「いいえ、二人で相手してくれるかしら?」


 そういうと中の二人はまるで馬鹿にするような表情を浮かべた。


「二体一ってことか? こんな雑魚に無理だろ」

「無理かどうかはやってみなければわからないわ。それでいい?」

「……別にいいけどよ」


 そう鼻で笑って答える。

 若干の不公平さを感じているようだが、それでもセシルから一本取れたと言えるのであれば彼らは喜んで勝負を引き受けた。


「リルフィ、相手はどちらも似たような流派だわ。しっかりと二人の動きを観察するのよ」

「う、うん」


 彼女のその自信に気圧されながらも私はそう返答することにした。

 今の私を超えるのは私しかいないのだから、そう自分に言い聞かせる。


「ところでよ。ほんとにいいのか? 剣術評価一位のやつの面目を潰すようなことをしようとしてんだぜ?」


 私の方を向いて男はそういった。

 確かに私のしようとしていることはセシルの評価を下げる行為でもある。それでも私は彼らに挑もうとしている。

 辞退するのなら今のうちだと警告しているのだろうか。


「いいよ。うちは全力を出すだけだから」


 私はそう返事をした。

 私が負けるはずがない、と考えるだけでも自分の実力に少しだけ自信が持てた。


「へっ、痛い目見てもしらねぇからな?」

「その時はその時よ」


 そう答えたのはセシルであった。

 彼女は私が勝てるとそう確信を持っているようだ。

 でも、その彼女の確信が私の自信にも繋がっているのだろう。私は彼女に感謝を目で伝えながら訓練場の中央へと向かった。


「二体一でお前が勝てるなんて思ってもいねぇが一応、一位からの指名だからな。悪く思うなよ」

「ええ、本気でうちを倒しにきてね」

「あ? 言うまでもねぇよ。これでセシルから一本取れるんだからよ」


 そう言って二人は剣を構えた。

 一人は剣先が割れている特殊な直剣、その割れている部分に相手の剣を挟んで圧し折ることができるようだ。

 そしてもう一人は大剣と攻撃と防御の両方を二人で分担していると言ったところだろう。

 それはわかっている。

 しかし、問題はそんな彼らがどう動くかだ。

 エレインの動きを思い出す。

 彼がどのような攻撃を仕掛けてきたのかを私はまだ鮮明に覚えている。


「用意はいいわね」

「ああ、いいぜ」


 私は小さく息を吐いて、精神を整える。


「大丈夫よ」


 私の方を向いたセシルはそのまま試合開始の合図を出した。


「おぉ!」


 そう雄叫びをあげたのは大剣を持った男だ。

 当然、上段の構えで攻撃の意思を剥き出しにしたまま私に飛びかかってくる。

 エレインの攻撃に似てる。そう感じた瞬間には剣が自然と後ろに構えていた。


「ふっ」


 相手の動きがよく見える。これが観察するということなのだろうか。

 弱点はやはり足回りだ。私は一歩だけ後ろに下がって、姿勢を低くして下段の構えに入る。


「せいやっ!」


 上段から振り下ろされる大剣は空気を震わせ、私に目掛けて斬り込んでくる。

 しかし、私はそれを軽くいなした。


「なっ」


 一瞬だったが、明らかに相手の体勢が崩れるのが見えた。

 私はそれを見逃さずに剣を突き立てる。


 キリィィン!


 しかし、私の攻撃を止めようともう一人の男が大剣の男の前に立って防いだ。

 剣が折られる前に私はすぐに体勢を整えるために二人から距離を取った。


「少しはやるようだな!」

「まだまだよ」

「っ! 調子に乗りやがって!」


 そう言って大剣の男が前に立っている人を押しのけて、私の方へと走り込んできた。


「バカっ、下がれ!」

「ふざけんなっ!」


 防衛の人の言うことを聞かずに大剣の男は私には突撃してきた。

 相手を観察する、その一言だけではうまく理解できなかったがおそらくエレインが言いたかったことはこのことなのだろう。

 二人で戦っていてもこうして連携などがうまく取れなければ隙が生まれる。

 それを冷静に対処していけば、簡単に倒せる。


「ふっ」


 私は左足を後ろに大きく広げ、エルデバン流の一番低い姿勢に入る。


「おぉ!」


 相手の動きがゆっくりに見える。

 大剣だからなのだろうか。だが、そんなことを考えている暇はない。

 今の私に見えているのは縦に並んだ二本の畳表(たたみおもて)だけだ。


雷走(らいそう)、遠心斬撃」


 私は低い体勢を維持したまま、電撃の如く駆け出し二人の間に入った。

 大剣の男が空を斬ったと同時に私は一閃の剣撃を放つ。

 体を高速に回転させることで、剣に強力な遠心力が加わり斬撃の威力を高めるエルデバン流剣術の技の一つだ。


「ガァハッ!」


 もちろん、シールドがなければ完全に胴体を切断されていたであろうその攻撃に二人は倒れた。


「勝負あったわね」

「はっ! ふざけっ」


 大剣の男は背中からの強力な一撃のため、激痛に悶えている。


「あなたたちの負けよ。認めなさい」

「……」

「いくら体を鍛えていてもあの攻撃には耐えられないみたいね」


 それでも無理して大剣の男は立ち上がりセシルの前に立った。


「もう一度戦わせろ。こいつはよっ!」

「二体一で負ける底辺に話を聞く義理はないわ」

「なっ」

「そうでしょ? リルフィの剣術評価が高いとはいえ二体一よ?」


 その言葉を聞かされた男は口を閉じた。

 セシルの強烈な一言に二人は何も反論できなかったのだ。

 余裕で勝てると豪語していた二人があっさりと負けてしまった、それは彼らが弱いと証明してしまったことでもある。

 もちろん、事実は変えられない。彼らは負けてしまったのだから。


「くそがっ!」

「連携ができていないようね。いいじゃない。課題が見つかって」

「あ?!」

「じゃ、特訓に付き合ってくれてありがと」


 そう言ってセシルは踵を返すと同時に私の手を引っ張って訓練場を後にした。

こんにちは、結坂有です。


リルフィの一撃、強力でしたね。

やはり、エレインやセシルの見立ては正しかったようです。

リルフィもミーナと同様に評価を上げて強くなっていくのでしょうか。気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



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