挑まれる覚悟を持つ
午前の授業の座学を終えると、普段なら生徒たちは食堂に行くか弁当を食べるかでそれぞれ動き出す。
しかし、今日はいつもと違う。それは俺とセシルがいるからだ。
「エレイン! お昼空いてる?」
「セシルさん お昼一緒にどうっすか!」
「エレインっ! こっちこっち〜」
いつもならそれぞれの動きをする生徒たちなのだが、今日に限っては似たような言動となっている。
それは言うまでもなく、昨日の試合のことだろうな。
やはり、あのような目立った行動をすれば興味も自然と向くようだ。
そんなことを考えていると、真横にいたリンネがこちらを睨むように見つめてきている。
「すっかり人気者になったね」
「意図していないがな」
「何よ。あんな魅せるような試合しておいて……」
俺は視覚的に見ていないため、どのような魅力があったのかは具体的にはわからない。
とはいえ、それなりに綺麗な抜刀で二人倒したのだから興味は上がるだろうな。
それに相手の配慮なのか、観客が多かったのも原因の一つだろうが。
「エレインー!」
そう言って他の女子よりも真っ先に机に手を置いた女子生徒がいた。
彼女はリルフィだ。
「なんだ」
「お昼たーべよ?」
「ちょっと、リルフィは下がっててよ」
「いいじゃん、うちだってそれなりに強いんだから」
確かに彼女の剣術評価はかなり高かった記憶がある。
しかし、ペアを組んだ後の評価までは覚えていない。
「エレインだってうちの剣術に興味あるでしょ?」
「悪いがどういった技なのか知らないんだ」
一度も戦ったことのない相手に対して興味が湧くことなどない。
「そんなこと言わずにさ。お昼いこっ」
そう言って俺の腕を引っ張るように催促してきた。
普段ならリーリアが俺を守るように来るはずなのだが、今回は来ていない。
視線を後ろの方へと向けると彼女はどうやら眠ってしまっているようだ。まぁ夜通し俺についてきていたわけだから仕方ないな。
ここは仕方なくリルフィに付いていくことにするか。
食堂に到着すると、食堂に集まっていた人たちからも注目される。
どうやらあの試合の影響はかなり大きいようだ。
「やっぱり注目は浴びちゃうよね」
「別に俺は気にしていない」
「そっか」
それから料理を受け取って空いているテーブルに二人で腰を下ろした。
遅れてセシルがやってきたが、俺と同じく男子たちを振り切れずに面倒そうな表情でテーブルに腰を下ろしていた。
「ねぇねぇ、セシルと付き合ってたりするの?」
そう前のめりになって俺に質問してくる。
「いや、そういった関係ではない」
「へー、ただのパートナーってこと?」
「そうだな」
俺がそう言うと彼女はうんうんと頷いていた。
「じゃあ、うちと付き合っちゃっても別に問題ないんだよね」
「まぁそうなるな」
否定せずにそう答えると、彼女は少し頬を赤く染めた。
「否定されると思っていたのか?」
「ううん、てっきり付き合っているものだと思ってて」
「そうなのか?」
「だって、みんな言ってるよ?」
どうやらそういった噂が既に広まってしまっているようだ。
セシルの方へ視線を向けると、顔を赤くしていることから俺と同じような会話も向こうもしているのだろうと予想できる。
そこまで大きな問題でもないから耳を傾ける必要はないか。
「間違った認識だな。俺たちは恋愛的な関係ではない」
「そうなんだぁ」
そう言って彼女は水を少し飲んだ。
「それが聞きたかったのか?」
俺がそう聞くと彼女はゆっくりとコップを机に置いて俺の目を見つめてきた。
「違うよ?」
「本題はなんだ」
「本題、ね。ちょっとかたい内容になるけどいい?」
俺は肯定するように頷くと、彼女は肘を突いて真っ直ぐな目で口を開いた。
「あのね。今度の試合でうちが狙われてるの」
「それのどこがかたい内容なんだ? この学院なら普通のことだろ」
「今回のは違うの。パートナーは何もしてくれないし……」
どうやら彼女は相手からもパートナーからも狙われているようだ。
とは言ってもこの学院では戦って勝ち抜くことが目的だ。
「パートナーが何もしないのは問題だな」
「でしょ?」
「何か原因があるのか」
「多分、うちの家系のせいだと思う」
そう言って深く落ち込むように彼女はそういった。
「何が悪いのかわからないが、今のリルフィは家柄など関係ないだろ?」
「うん、そうだけど……」
「それなら全く問題ないと思うけどな」
俺がそういうが、彼女は納得してくれないようだ。
個人の問題となれば、家柄など関係ないような気がするのだが違うようだ。
「エレインは平等に見てくれるんだね」
「……どういうことだ?」
「うち、リルフィ・エルデバンは元々剣士として生きてきた家系じゃないのよ」
そう小声で言った彼女は少し怯えている様子であった。
「剣士ではない家系、何か問題なのか?」
「……エレインも知ってると思うけど、こんな高度剣術学院に入ってくる生徒たちって騎士家系が多いの。先祖が魔族と戦ってたとかね」
確かに言われてみれば、門下生と言われる人は少ないな。
高度と謳っているぐらいだから当然と言われれば当然なのだが、それでも優秀な人が選ばれているのは間違いない。
門下生だろうと、我流だろうと関係ない。現に俺が入学できているぐらいだからな。
「問題とは思えないがな」
「問題なの! うちらのクラスは平和だからいいけど、他のクラスはそう言った差別は多いのよ?」
まぁわからなくもないか。
俺は他のクラスをあまり知らないからなんとも言えないが、彼女の言葉が事実なら他クラスはそういった差別をしているようだ。
家柄で人を見るというのはこの世界ではよくあることのようだからな。
俺もここに入学したときはフラドレッド家だからと色々と聞かれたぐらいだ。
「家柄的に何もない人間なのに実力を伸ばしてきているのが、嫌な人がいるってことなのよ」
「だったらそれ以上に強くなればいい」
俺がそう言うと彼女は驚いたような表情をした。
「うちだって強くなりたいけど、パートナーが……」
「セシルはあまり良くは思わないだろうが、少しぐらいなら訓練に付き合ってもいい」
「え? いいの?」
「ああ」
そう頷いて見せると彼女は嬉しそうな表情をした。
思ってもいなかった内容だろうからな。
「まずはリルフィの家柄について聞こうか」
「えっとね」
それからしばらくは彼女のことを聞くことにした。
リルフィの家系はもともと剣士の家の使用人だったようだ。今のリーリアのような立場の人間が先祖のようだ。
そして訓練に付き合うことなどがあったようでそこから独立して、自ら我流の剣術を生み出したのが彼女の先祖だそうだ。
そういった家系に生まれた彼女は日々訓練をし続けて、着実に実力を高めていった。
聖剣にも認められなんとかこの学院に入れたのだが、入学当初はパートナー探しに苦戦していたようだ。
結局、最後までパートナーを見つけることができず、余り者で決められた人と今は組んでいる。
ただそれでも彼女は堅実に評価を上げていったために反感を買う人が増えてしまったということらしい。
その話をした彼女は少しほっとした表情をしていた。
悩みを打ち明けて安心感を得たのだろうか。
「まぁ頑張る人を妬むのはよくあることだからな」
「そうだね。そうだけど、された側の人は大変なのよ?」
「リルフィがその人よりも強くなれば問題ないだろ」
「……そうだけど、ほんとに強くなれるのかなぁ」
そう言って彼女はまた不安そうな表情をした。
おそらくだが実力的には問題ないはずだ。ただ、全力を出し切れるかはわからない。
「うちなんて剣術的に見てもそこまで強いわけではないからね」
「技があるとかは特に考えていない。俺も剣術評価が低いわけだしな」
「そうなの?」
「ああ」
肯定すると彼女は少し興味深そうな顔をした。
「実際、剣術などは実戦で役に立たないことがあるからな。実力は剣術だけではない」
「そうだね」
彼女も今の実力を身につけたのも必死に訓練を続けてきた結果であって、それに剣術などは関係ないはずだ。
事実、彼女は剣術評価が低いのにも関わらずそれなりに強くなれているのだ。
もっと訓練を続ければより強くなることは目に見えている。
もちろん、強くなれば強くなるほど、挑まれる機会は多くなる。ただ、それは自分を高めるために必要なことなのだ。
こんにちは、結坂有です。
新しく登場してきたリルフィは一体どれほどの実力者なのでしょうか。
実力はかなり高そうですが、よくわかりませんね。
これからの活躍に期待です。
それでは次回もお楽しみに。
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