本当の剣士は注目を浴びる
一時間も寝ていない状態で俺は学院へと向かった。
もちろん、この程度では体が動けなくなるわけではない。まだ体力は十二分に残っているのだ。
五日も寝ずに戦い続けていれば体は持たないのかもしれないがな。
「エレイン様、本当に大丈夫なのですか? もし具合が悪いのであれば、すぐ教えてください」
「問題ない。一日寝なかったからといって体力がなくなるわけではないからな」
「そうなんですか? それならいいのですけど……」
リーリアはそう心配そうな表情をしているが、問題ないのならと前に向いた。
当然ながら彼女も夜通し俺に付き添っているため疲れているはずなのだが、それでも俺の学院生活を支えてくれている。
そのことについては今日帰った時に感謝しなければいけないことだな。
そんなことを考えていると商店街へと差し掛かった。
「おはよ」
そう後ろから声をかけてきたのはセシルであった。
「おはよう」
彼女とはいつもこの場所で合流している。
そして、ここで挨拶を交わすのも日課になりつつあった。
「昨日は戦ったし、疲れてないかしら」
「そこまで疲れてはいないな」
「……緊張というものがないのね」
そう彼女はため息混じりに言った。
彼女には昨晩何があったのかは知らないからな。何事もなく彼女は話しかけてきたのも普通だろう。
「緊張するほどの相手でもない」
「こっちの身にもなってよね。少しは怖かったんだから」
もし、俺が視覚、聴覚がない状態で戦えなかった場合は彼女に全てが降りかかっていたはずだ。
一度に二人を相手にするのは非常に難しい。それに相手は聖剣使い、それ相応に苦戦を強いられることだろうな。
「セシル、エレイン様が負けることなど万に一つもありません」
「それはわかっているわ。それでも不安になるのよ」
まぁ誰でももしものことを考えるのは普通のことだ。
人という生き物は先を予測することができる生き物でもある。そうすることで自分を守ろうとしているのだ。
悲観的なことを考えて臆病になるのは自然のことだと言える。
自然界では臆病者が生き残るのだからな。
「まぁその不安がのちにプラスになればいいだけだ」
「そう簡単に行くわけないでしょ」
「確かにそうだな」
何もかもがうまくいくわけがない。だが、そう意識するだけで何かが変わるのもまた事実だ。
彼女にはもっと強くなってもらいたいからな。俺のためにも、人類のためにも彼女はかなり重要な立ち位置になるのは目に見えている。
「それにしてもここの商店街、無事に再開できてよかったわ」
「そういえば、今日からだったな」
学院に向かう直前に思い出したことだ。
今日から商店街が再開するということで、少し気になっていた。
見渡してみると、以前のように買い物をしている人も多くいるようだ。
これなら今後も問題なくここで過ごすことができるだろう。
「ここで買い物ができるようになるのは寮に住んでいる私からしても嬉しいわ」
寮の帰り道にあるこの商店街は学生にとって重要な場所であることは間違いない。ここで食材などを買うことで日々過ごしている人もいるようだからな。
「今までは学院裏まで買いに行っていたようだからな。少しは楽になるだろう」
「ええ、ここにあるだけで遠回りして帰る必要がないからね」
「エレイン様、私も帰りにここに立ち寄ってもいいでしょうか」
「何か買うのか?」
「ここでしか買えない食材もあるので、アレイシア様の好きな料理を作ろうと思います」
どうやら商店街で欲しい食材があるようだ。
それなら別に断る理由はないか。
「問題ない」
「ありがとうございます」
そう言って彼女は小さく頭を下げた。
「ほんと、仲がいいわね」
「いいえ、エレイン様と私との関係は主従関係にあります」
「へぇ、じゃそれ以上の関係はないってことかしら?」
「はい」
そう断言するリーリアであったが、少しムッとした表情でもあった。
反論したい気分だが、メイドである自分が言えた立場ではないと思っているのだろう。
「言いたいことがあれば言えばいい」
俺はそう彼女に伝える。
「……体を重ねる関係にはあります」
すると、彼女は誤解を招くような言い方でそう呟いた。
確かに今朝、体を流してもらったが、それを体を重ねると言うのは語弊があるだろう。
「え、ええっ!」
「背中を流してもらっただけだ。何も邪なことではないからな」
当然、セシルは顔を真っ赤にして驚いていた。
俺はすぐさま誤解を解くことにした。
「そ、そうよね。当たり前よね」
うんうん、と頷きながら彼女は熱くなっていた頬を手で仰いでいた。
「何か問題でもあるのでしょうか」
「ないわよ。いや、あるけど……。なんでもないわ」
まだ落ち着きを取り戻していないのか、彼女はしどろもどろになりながらもそう言った。
「エレイン様と私との関係は信頼の上に成り立っています。これは崩れることはありません」
「……そうね。そう思っておくわ」
どこか悔しそうにセシルはそっぽを向いた。
それから俺たちは学院の教室へと向かうのであった。
教室に向かうと、そこには何人かの生徒が俺たちの方を見つめてきた。
もちろん、それは予想していたことだ。
あのような試合でほんの一瞬だけ本気を出してしまったのだからな。
「エレイン、堂々としていれば……っ!」
セシルが俺に忠告しようとした瞬間、女子たちが俺の周りに即座に集まってきた。
「なにあの抜刀術っ! 綺麗だった!」「信じられないぐらいの速さだったけど、それ以前に美しかったわ!」「あれを間近で見られてセシルは羨ましいわね」
皆それぞれ、俺の技の感想を言っているようだ。
特に問題となるような発言は見受けられない。
「ちょっと、エレインが困ってるでしょっ!」
「セシルさんはずっとエレイン先生といるんだから少しぐらい、ね?」
「先生、って。あんたたちの先生ではないのよ」
顔を赤くした彼女はそう反論するが、聞く耳を持っていない女子たちはさらに俺を押し込むように集まってくる。
すると、男子たちがセシルの周りに集まってきた。
「せ、セシルさんっ!」
「何よ」
彼女がそう聞き返すと男子たちが一斉に声を上げ始める。
「かっこよかったですっ」「やっぱ、サートリンデ流が正義っすよ」「一対一で勝てる気がしないよな」
彼女もどうやら昨日の試合に関して聞きたいことがあるようで、男子たちに囲まれ始めていた。
どちらにしろ、俺やセシルは生徒らからすれば憧れの存在なのだろうな。
それ自体は別に気にしていないのだが、こう毎日集まられて来られるとやはり疲れるものだ。
何よりもリーリアからの目が怖い。
仕方ない。ここはしばらく話に付き合って彼女たちの興味が薄れるだろう。それを待つことにしよう
だが、俺の読みは外れて結局担当教師であるルカが来るまで彼女たちは俺たちを解放することはなかった。
こんにちは、結坂有です。
本当に強い剣士はこうして注目を浴びるのですね。
確かに憧れの的であるエレインやセシルに慕うような生徒たちが出てくるのは当然なのでしょうね。
果たしてエレインたちは今後、どう学院生活を送っていくのでしょうか。気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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