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入学式へ

 そして入学式当日の早朝、俺の部屋にノックの音が響いた。


「エレイン、起きてる?」


 まだ日が出て間もない時間だが、アレイシアが呼びに来たようだ。

 当然、まだ寝ていてもいい時間だ。


「ああ、今起きたところだ」


 ノックの音に起こされたと言ってもいいが、それを言うとアレイシアが申し訳なく思うかもしれないと俺はそう言った。


「そう、朝食作ってくれてるから早く行こ」

「まだ入学式には時間がある。少し早過ぎないか?」

「いいの、エレインの制服見たいから」


 そう言うとどうやらリビングの方へ向かった。口調からにとても楽しみにしているようだ。


「あの小娘はいつもああじゃの」

「元気ならいいことだ」


 俺は少し身嗜みを整えた後、すぐにリビングの方へ向かった。もちろん二本の剣を持って向かうことにした。

 剣を携えていくのは警戒してのことではない。フラドレッド家の家訓に則ってのことだ。

 もちろんアレイシアも剣を携えている。足に障害があるが、全く剣を振るうことができないわけではない。彼女の持っている歩行補助の杖に刃が仕込んであるのだ。聖剣ではないが、魔族と戦うことを想定していないため問題ない。


 フラドレッド流剣術には片足を失ったことを想定にした戦い方もあり、それを応用することで十分に自衛するための戦力を確保できている。

 リビングに着くと、二人のメイドが食事の支度をしていた。


「早かったね」

「待たせていると思ってな」


 アレイシアはすでに座っており、目の前に食事が並ぶのを待っている。

 俺も席に座り、待つことにした。

 すると、次々に食事が並び始める。


「本日の朝食は卵とソーセージを炒めたものとレタスのサラダになります。まだ季節的に冷え込むので、スープも用意いたしました」


 ユレイナが献立を説明する。

 それを聞いたアレイシアが申し訳なさそうに口を開いた。


「ごめんね。こんな早くに」

「いえ、今日はエレイン様の大事な入学式です。これぐらいは苦ではありません」


 ユレイナはそう言う。アレイシアは普段よりも早い時間に調理をしてくれたためそう断りを入れたのだろう。


「私はエレイン様に同行するために準備して参ります」


 横に立っていたリーリアは自分の部屋に向かった。


「さ、食べよ」


 アレイシアの一声で俺たちは朝食を食べることにした。

 卵とソーセージはしっかりと下味が効いている。体を温めるためのコーンスープは程よく甘く、一口大のクルトンもスープの味が染み込んでいる。

 いつもよりも甘い朝食は不思議と今日が特別な日だと感じさせた。


 朝食を食べ終えると、アレイシアがこちらを見つめてきた。


「ごちそうさま。エレイン、早く制服に着替えてよ」


 アレイシアは身を乗り出す勢いでそう俺にお願いする。


「そうだな。すぐに着替えてくるよ」

「楽しみにしてるね」


 そう心待ちにしてくれるとは俺とて嬉しいものだ。昨日のうちに届いていた制服は自分の部屋でサイズを確認した程度で、まだしっかりと着込んではいない。

 俺は席を立ち、自分の部屋に向かう。


 タンスに掛けられた制服に着替えることにした。こうした制服に着替えると言うことは今までなかったため、自分の中で特別なことが始まろうとしていることを実感する。


「おぉ〜 カッコいいの!」


 横で見ていたアンドレイアがそう言う。


「カッコいい、か。まぁ不格好ではないな」


 自分の体に吸い付くようにフィットしている服は動きにくいと思っていたが、ところどころに伸縮性のある素材が使われており、見た目以上に動きやすい。

 裾の長いトレンチコートも剣を引き抜く際に邪魔になりにくいよう、加工されている。剣を振るうために肩の可動域を大きく保つための工夫も見られるところから剣術を学ぶ学院らしい仕様となっている。


 色合いは黒を基調としており、高度剣術学院と示す紋章を左胸に縫い付けられている。そして、その下にはあとで何かを取り付けるためか、金具も縫い付けている。

 さらに裏は白色となっているため表と裏が程よく対比している。それが黒の重たい見た目を軽減しているようだ。


 軽く体を動かしてみても引っ掛かりがなく、このまま戦闘となっても問題なく動けるだろう。

 そう身嗜みを整えて、リビングの方へ向かう。


 リビングに出ると、アレイシアとユレイナが俺の方を見る。

 アレイシアは口元を手で押さえて、頬を紅潮させている。


「カッコいいです」


 そう言ったのは意外にもユレイナの方だった。


「……うんうん、すごく似合ってるよ」


 続いてアレイシアも言う。


「アレイシア様の頃とは違いますね」

「そうだね。思ってたよりもずっと良い物だね」


 どうやらアレイシアの頃の制服とは違うようだ。

 すると、後ろからリーリアがやってくる。

 リーリアは全体的に装飾が少なく、色合いも地味ではあるが、その可愛らしい顔立ちを邪魔させない服装だ。

 スカートが大きく開いている。おそらくそこには二対の短剣が隠されているのだろう。


「私はこれで十分です。主役はエレイン様ですから」

「メイド服だと少し派手だもんね」


 リーリアは軽く頷いて肯定する。アレイシアとは聖騎士団時代の友人として接しているようだ。


「つまりはその服装で学院に俺と一緒に行くと言うことだな?」

「そうなります。ご要望であれば別に服装に変えますが」

「それで大丈夫だ」


 俺はそう言うと、リーリアは軽く一礼した。


「じゃあ、玄関まで見送ろうかな」

「ダメですよ。お体に触ります」


 アレイシアは椅子から立ち上がろうとするが、それをユレイナが引き止める。

 あまり立ったり座ったりと繰り返すことは今のアレイシアにとっては負担でしかない。


「そっか……じゃ、気をつけて行ってきてね」


 ユレイナの忠告を素直に聞き入れたアレイシアは椅子に座ったままそう話した。


「大丈夫だ。リーリアもいることだしな」

「そうだけど、気をつけてね」

「ああ、行ってくる」


 アレイシアは手を小さく振る。本当は玄関先で見えなくなるまで見送りたいと思っているのだろうが、身体的に不自由である以上それはしない方がいい。

 俺はそのまま鞄を手に取り、玄関へ向かう。そしてリーリアもアレイシアに挨拶して俺と一緒に玄関に出る。


「エレイン様、私は学院で常に一緒に行動します。ですが、今日は入学式なのでしばらくは一緒には行動できません」

「そうだな。俺は儀式の間、学生の列にいるからな」

「はい」


 つまりは一時的に一緒に入れないと言うことの断りなのだろう。まぁその点に関しては別にどうと言うことはない。

 問題なのは俺が振り分けられる学級にどんな人がいるかの方が気になっている。

 学院ではパートナーを組み、その人と一緒に一年を行動を共にする。そして一年後にまたパートナーを組み直すと言うことだ。前回と同じ人とでも構わないが、順位に伸び悩むことがあるため、ほとんどの人は新しい人と組むそうだ。


 そのパートナーとは同じ学級の人と組むことが望ましいそうだ。別の学級とでは予定が合わなかったりとで色々と不便なところもあるからな。


 そんなことを思っていると、すぐに学院敷地内に着いた。

 学院敷地内は一つの町のようになっており、商店街や図書館、病院などもある。その商店街は学生に必要なものを学院周辺で揃えるように町として機能するよう設計されているのだろう。

 もちろん一般の人も学生と比べれば少ないが、多いのも確かだ。一般の人もここは暮らしやすい環境であるのは確かだろう。


 そうして歩いていると、学院の校舎が見えてきた。華やかに彩られた校門はこれからここに入る新入生を歓迎している。


「やはり人が多いですね」

「人が多いのは苦手か?」

「別に苦手ではありません。ですが、私の隠し持っている武器が見つからないか心配なだけです」


 リーリアは他人から見ると俺の使用人だ。武器を持っていると思わせてはいけない存在なのだ。ここで武器を持っているとなれば周囲から怪しまれるのは必然だろう。

 だが、俺がこうして見る限り大きく開いたスカート以外は別に不自然ではなく、むしろ好印象を与えているようだ。それは周囲の目を見ればわかることだ。皆は俺と横にいるリーリアと言う使用人に注目しているのだ。


「大丈夫だ。みんなリーリアの容姿に見惚れているだけだ」

「そ、そうですか」


 俺がそう言うとリーリアは少し顔を染めるが、すぐに表情を戻した。

 率直に言われるのは恥ずかしかったのだろうか。


「俺は受付を済ませてくる。ここで一旦は解散だな」

「はい。後ろの方でずっと見てますから」


 そう言って俺たちは解散する。リーリアは学生の保護者であろう人たちの方へ向かっていった。

 それを見た俺は受付の方へ向かう。


 受付に昨日ブラド団長から受け取った書類を提示する。すると、学生証と学級の紋章を受け取る。

 どうやら左胸の横にある空白の部分に取り付けるようだ。紋章は簡単に取り付けられるように金具で固定できるようになっており、すぐに取り付けることができた。

 それを取り付けると受付の人が示した方へ向かう。学級ごとに集まっているようだ。


 学級の集団に合流すると、皆はお互いの顔を見合ったりしていた。以前から知り合いであったのか、一部は話し合ったりしているが、ほとんどの人は初対面なのだろう。

 俺も例に漏れず、ただ見合うだけしかできない。


「新入生の皆さん、こちらへ」


 教師と思われる人が誘導を開始する。

 それと同時に皆が移動を始める。


 会場には綺麗に並べられた椅子があり、学生はそこに座る。後方にも保護者用の席があり、そこにリーリアが目の届く範囲にいることを確認した。


「それでは入学式を始めます」


 そのアナウンスが始まり、会場は静まる。

 そして、ある人が目の前にある壇上に登壇する。


「始めまして、エルラトラム聖騎士団団長のブラドだ。これから入学するであろう学生の中には聖騎士団として入団できる優れた人がいること期待している」


 この学院で上位になり、卒業することで聖騎士団への入団の資格が得られる。もちろん入団のための試験もあるが、ほとんどの場合は通過するようだ。

 そして、上位になれなかった人は議会が編成している討伐軍への入隊となっている。聖騎士団は世界中の国家を魔族などの脅威から保護するのに対して、この討伐軍はエルラトラム国の自衛のための軍隊である。主に魔族に対して行動するが、人間に対しても国に対して害をなすのであれば攻撃する対象となる。


 討伐軍は議会が指揮権を握っている。その議会が外交手段の手札として俺を利用しようとしている以上、その討伐軍への入隊だけは阻止しなくてはいけない。

 議会から半分独立している聖騎士団は議会が干渉することができないため、俺にとって安全な居場所となるのだ。

 その聖騎士団に入団するためにはまず上位に入る必要がある。そして議会に対しての注意もしなければいけない。


 入学初日から本当の実力を発揮することは、議会に俺の情報を得る手助けをすることにつながる。今はそのような派手な行動を控えなくてはいけない。


「皆の聖剣使いとしての精神と技術向上を祈っている。以上だ」


 そう言ってブラドは降壇した。

 もちろん、そのブラドは団長という地位も実力もある人がいると、周りの人も羨望の眼差しを向けるのは当然で、俺の横にいる学生もまた同じ目をしていた。

 それからは型式通りに入学式が進められ、皆もそれを粛々と見つめていた。


「これにて入学式を終わります。それぞれの学級で説明をしますので、そのまま教室の方へ移動してください」


 そうアナウンスが流れると、皆がそれぞれの学級の教室へ移動を開始した。

 俺もそれに続くように教室へ向かうことにした。

こんにちは、結坂有です。


かっこいい制服を手に入れ、入学式が始まりました。

一体エレインの学級にはどんな人が集まっているのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。



Twitterでも活動しています。フォローしてくれると嬉しいです。

Twitter→@YuisakaYu

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